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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第五章 ~風馬牛の祈り、社稷を檄する~

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第75話 宣戦(後半)

「これは一体、如何(いか)様な趣向なのでしょうか?」

 孫能(ソンノウ)董計(トウケイ)に問うた。

「いや──、私にも・・」

 董計は返答に(きゅう)した。


 およそ千五百の(キョウ)軍が、汐径軍に合わせるように二つに分かれた。その意味するところは戦闘であると、容易に推測できる。

 しかもだ──。梟軍の本隊には董公爵家の旗が掲げられている。あれが上がっている場所には、父、董彬(トウヒン)がいるはずだ。


 孫能はまだ穏やかな雰囲気を壊していないが、彼の側近たちは、今にも董計を捕らえんといった気配を漂わせている。

──どうなっているのだ!?

 董計は訳のわからぬまま、ただただ混乱した。


 とそこへ──。

「中佐。鮑謖隊より軍曹と、客人なる者たちが参っております」

 兵が報告する。

「客人? 少佐の客ということか?」

 孫能の側近の一人が確認する。

「それが、軍曹が申しますには、国王陛下の客人ということです」

「なんだと!?」

 (かえ)って話がわからなくなり当惑したが。

「とりあえず、ここに通しなさい」

 孫能は落ち着いた声で言った。




「なッ──!?」

 董計は思わず声を上げた。

 孫能たちはそれに一瞥(いちべつ)したが、特に声は掛けなかった。最早、問う必要もないと判断したからだ。

 董計が、鮑謖隊の軍曹と共に来た少年を見て、声を発したのは明らかであった。そのような反応を為し得て、且つ、汐径国王の客人になれる人物といえば──。

「失礼ですが、董本(トウホン)様であらせられますでしょうか?」

 孫能は(うやうや)しく少年に尋ねた。

「はい。私が董本です」

「おおっ! 私奴(わたくしめ)は、この軍を指揮しております孫能と申します。ご尊顔を拝することができ、恐悦至極にございます」

 言って孫能は深々と頭を下げた。

 しかし董本は。

「私はただの子供です。一軍の首将たる孫能殿に頭を下げられるような資格はありません」

 少年の声が(りん)として言った。



 その董本の姿は、尊王に愉悦を感じる孫能のみならず、彼の側近たちにも静かな感動を与えていた。

 彼らは董計の大きな態度に白眼を向けていたから、王の客人などと聞き、またぞろ偉そうなのが来たかと警戒心を持っていた。ところが、あらわれたのは十歳ほどの子供で、今度は侮りの目で董本をみた。

 だが少年は、しっかりとした人格と品位を感じさせる言葉を放ち、孫能の側近たちは己が浅慮を恥じた。



「ど、どういう事ですか、孫能中佐!?」

 董計は狼狽(うろた)えながら問う。

「さぁ──。私にもわかりかねます」

 孫能の声からは、これまでと違い、丁重な音が消えていた。

──!?

 これに董計は動揺を禁じ得ない。何か局面が動いたか、大きな計略に自分が掛かったのかも知れないと考え出した。


 (もっと)も、それは誤解である。

 孫能は、暫定国王の息子という人物から、王位継承権を持つ本物の王子に、恭謙(きょうけん)の対象を変えたに過ぎないのだ。


 さはさりながら。孫能の特殊な性情を理解できるはずもなく、董計は豹変を恐れ、この場から逃げだそうとした。

 が、すぐに孫能の側近たちが動き、董計と彼の従者は捕らえられた。無論そこには、対峙している梟軍のこともあり、董計からは事情を聞きたいという理由もあった。

 孫能以下、誰もが彼らを逃がすまいと思っていたとき──。


僭越(せんえつ)ながら申し上げます。鮑謖少佐は、董計は帰すべきと判断されております」

 朗朗と言う者がいた。

 これには、孫能や董本たちばかりでなく、当の董計たちも驚きの表情をした。


「軍曹、説明せよ」

 孫能が言った。

「はっ。まず最初に、私たちには董本様を助け、董彬を排除するという密命があります」

 軍曹の女の言葉に孫能たちは驚いた。彼女は続ける。

「前方の梟軍。おそらくは董本様の存在を知って、これを討たんと動かされたものと推測いたします。聞けば、本隊に見える旗は公爵家の物で、董彬自身がいることを示しているとか。ならば、この後は董本様と董彬、両者の雌雄を決する戦いとなる訳です」

 軍曹はここで、一度、董計の方を向いて。

「董彬一派は政変を画策し、王族を殺し、(あまつさ)え生き残った董本様まで暗殺しようとしました。これは言わば邪道です。そこまでして玉座を望むのが董彬なのでしょう」

 言って向きを直し、彼女は続ける。

「今、決戦を前に、董計を捕らえておくことに戦略的な利は少なく。その上で、彼を拘束するのは人質に近く、これも邪道の(そし)りを受けかねません。鮑謖少佐は、董本様に正道を以て玉座に就かれること、文字通りの王道を進まれることが正解だとお考えです」

 滔々(とうとう)と語った。



 話を聞いた孫能は、しばしの黙考のあと。

「離してやりなさい──」

 そう命じた。そして。

「董計殿。父君に、私たち汐径軍は董本様に味方して戦うとお伝えください」

 とうに卑屈さなど消えた声で言った。

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