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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第五章 ~風馬牛の祈り、社稷を檄する~

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第65話 転禍為福

 巡回任務を終えて基地に戻ってくると、どうしてか雰囲気が普段とは異なった。

──事件でも起きたのか?

 そのように考えていると、自分たちの営所に人だかりができていて。

「まさか、うちの部隊か!」

 誰ぞ、やらかした者が出たかと冷や汗が出た。

 しかしながら、物々しいというわけでもなく、理解を超えた空気に。

「何か、ありましたか?」

 群衆の一人に聞いた。

「なんでも功一級と特級の二人が来てるってさ」

 そう返答が来た。


──特級といえば・・

 知ってはいるが、何用かは見当が付かない。また、北の砦にいるはずの人物が王都に来ている理由も、想像が付かなかった。


 営所に入ると。

「あっ、毛厳(モウゲン)少尉。待ってたんですよ。今、少尉にお客さんが来てまして──」

 同隊の者が言う。

「ああ、やはりか──。それで何処に?」

「少佐の部屋に。曹策(ソウサク)少佐が話をされているかと思います」

「わかった」

 言って、毛厳はスタスタと早歩きで向かう。


──本当に私に用だと? あの女が!?

 可能性の一つとして薄らあったが、現実を前にして戸惑いを禁じ得ない。

 道中、色々と考えてみるも、これといって思い当たるものがなく、得体の知れなさに、またしても冷たい汗を感じた。




 コンコン・・

「毛厳少尉です、ただいま戻りました」

「入りなさい」

 部屋に入ると、テーブルに向かい合うように曹策少佐と、(くだん)の客が座っていた。客の後ろには将校服を着たベテランな男が立っている。彼にも毛厳は見覚えがあった。

「巡回任務は無事終了しました。のちほど報告書を出しますが、特に問題はありません」

 毛厳は曹策に報告を行った。

「ご苦労──。それで君に客人だ」

 曹策は応答し、自分の隣に来るよう手で示した。



 相手は少佐である。それも功特級を賞された者。これにより、その臣階は一段上がり四臣位になっている。格でいえば中佐、侯爵と同等。また、立ち位置が准将直下であることから、実質的には独立した権限を持つに等しい。

 斯様な人物と相対(あいたい)するのだ。毛厳は自身の緊張を自覚した。

──どう挨拶するか・・

 彼が移動する僅かの間、頭はフルに回っている。

 かつては、あまり良い印象を与えなかったと思われ、謝罪の言葉を入れるべきかどうか、入れるとしたらどのタイミングでかなどと、けたたましく思考していた。



 ところが──。

「ああ──。挨拶はいいよ、座って」

 客はそう言い、毛厳はあっさり座ることとなった。

「私は席を外した方がいいかな?」

 曹策の問いに。

「えーと。成嬰少尉はどう思う?」

 客は従者に聞き。

「問題ないかと──。むしろ、事情をご理解いただいた方が良いと」

「うん。そうだね」

 成嬰の意見に賛同を示し、曹策も同席する形で話がなされることとなった。





「──という訳で、董本(トウホン)様に関して色々とやり取りしたいんだけど、私も貴族にコネとかないからね。唯一の知り合いってことで、毛厳少尉に協力してほしいなと・・」

 客はそのように語った。

 毛厳は即答は出来かねるとして、明日朝一で返答する約束で、一旦話を終わらせた。


 客たちは帰り際に、また注目を集めながら営所を後にした。



「保留した理由を聞いても?」

 曹策の言葉に。

「いや──。どうして自分なのだろうかと、理解が及ばなくて・・」

 毛厳も首を(かし)げるように答えた。

「それは鮑謖少佐も言っていたように、君が侯爵家の人間で、級友だからでは? それ以上の理由が必要とも思えないが」

 曹策は、逆に毛厳の答えに理解が及ばないといった感じで言った。

(もっと)もです。ですが、彼女にはもっと強力なコネがあります。現在、軍の主流派である徐厥(ジョケツ)准将、剛会(ゴウカイ)大佐、姜彧(キョウイク)中佐、そして最近では中立派といわれた阜漫(フマン)中佐も、彼女との関わりで立場を変えたといいます。その上、功章持ちの四臣位、自身の肩書きだけで十分、事は成るでしょう。それらを踏まえると、どうにも合点が行かなくて・・」

 毛厳の語りに曹策も何回か頷いた。

 そして一呼吸あけてから。

「では、何か裏の意味があるのだろう。かの御仁は人とは違う所を見るという。敵軍を前にして、自軍の背中を見つめていたというから」

「裏ですか・・ 裏どころか表も、今の私の家に価値があるようには思えません。父の醜態は皆も知るところでしょう。私が(から)めば、(かえ)って話が(こじ)れそうでもあります」

 毛厳は弱く首を振りながら言った。

 すると曹策は身を乗り出して。

「きっとそれだよ!」

 と、力を入れて言った。

 毛厳が、わからぬといった顔でいるので。

「侯爵が言っていたじゃないか、宝玉を磨いて千金を得た話を。少尉が、この案件に()いて中心的な役割を果たせば、それこそ傷ついた家名を磨き上げることに繋がる。鮑謖少佐は、その機会を設けようとしているのではないだろうか」

 曹策は己が推考に酔ったのか、更に続け。

「少尉の家だけではない。捲土重来(けんどちょうらい)とまではゆかずとも、不名誉を晴らさんと思う者もいるだろう。同じ立場の少尉が先導することで、彼らの協力を取り付け、事を為せば、昨今の貴族の立場も改善するのではないか」

 朗朗と語った。


 これに毛厳は少し圧倒された。

 曹策の言葉に勢いがあったのもあるが、共感するところも大きかった。

 確かに、董本の亡命に尽力したとなれば、売国の汚名を幾らか(そそ)ぐことが出来るだろう。その後の展開次第だが、例えば董本が(キョウ)国の王と認められれば、それは挽回して余りある名誉となるはずだ。



「いや──。なんだか、少佐の方が父の言葉を理解しているようで、複雑です」

 毛厳は頭を掻くように言った。

「ハハッ。私にとっては唯一だからね。どうしても考えてしまうだけさ」

「いえ。お陰で、道が見えた気がします」

 毛厳は曹策に感謝を示した。


「では明日──。いや、これから彼らの宿舎に向かいたいと思います」

「ああ。そうするといい」



 毛厳は、すぐさま遊撃隊の元へ行き、協力の受諾を告げた。その際、董本一行との顔合わせを済ませ、今後について軽く話をした。

 彼は董本のため、延いては自身と家のため、この話を成功させるという決意を持った。

 

──私がやるのだな。

 毛厳は、自分でも不思議なほど感奮(かんぷん)している己を見つけた。

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