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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第五章 ~風馬牛の祈り、社稷を檄する~

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第61話 際会

──みんな考え過ぎだ。どうかしてる・・

 追丘(ツイキュウ)は思う。



 粗目(ソモク)の指揮官(いわ)く。

「おそらく当百の魔女は董本(トウホン)様、並びに(キョウ)国の動きを察知している。また我々軍が、梟国からの圧力に対して、毅然(きぜん)とすべしと考えているのも承知であろう」

 そして、魔女の慰霊については。

「こちらの楽正(ガクセイ)伯は、古い遠戚が汐径で侯爵をしている。かの魔女は、その辺りも調べた上で、我々に答えを示しているのではないか」

 などと言い。

「つまり董本様を汐径に逃がせというメッセージだ。普通なら門前払いだろうが、魔女は自分が窓口にならんとしている。ここからなら話が通るぞ、糸口だぞ、と知らせている。我々はそう見ておる」

 そのように語った。



──いくら何でも、あり得ない・・

 あり得ないとは思うが。

──辛国よりは、安全かも知れない。

 とも思う。

 董本を狙う勢力がいるのは、追丘も(じか)に知るところである。


 追丘としては正直、梟国の後継にさして関心はなかったが、外圧に(おもね)るような貴族に腹が立ったし、なにより童子を狙うやり口は厭悪(えんお)を禁じ得なかった。

 粗目の指揮官たちの見立てが正しいとも思わないが、元から梟国と汐径は対立しており、辛国のように董彬(トウヒン)側に(くみ)する者がいるとは考えにくい。

 縁故の繋がりが、どれほど意味をなすかわからないが、董本の保護自体は難しい話とも思えなかった。


 ただ同時に、汐径に流れた董本を、梟国の者たちが後継と認めるかは(いささ)か疑問でもあり、国々を(また)いだ展開は、追丘の推考が及ぶ領域にはなかった。


──私はどうなるか。

 追丘の立場は一応、粗目からの使者という扱いで、流石に敵軍として討ち取られるとは思っていない。さりとて、散散(さんざん)殺し合った相手の元へ出向くというのは、当然ながら心中穏やかではいられなかった。また、葛藤という点では。

──花廉(カレン)を殺した者たち・・

 追丘の中では戦場での()り取りに恨みはない。それはお互い様だと考えているからだ。それなのに、花廉に関してだけは、やはり穏やかでいられず・・ 追丘は己の論理矛盾に戸惑いつつも、どこか嬉しさと寂しさが混ざった、名状しがたい情緒を持った。




 追丘が先導する形で、董本、高勉(コウベン)百栽(ヒャクサイ)、そして楽正微(ガクセイビ)が馬で移動している。

 楽正微は本調子であるはずがなく、姿勢など少々辛そうに見えたが、表情だけはしゃんとしていた。自身の役目にしっかりとした矜恃(きょうじ)を持っている、そんな気概を感じさせるものだった。



 以前は強行軍であったが、今回は休憩も野営も取る。

 追丘はそのときに。

「高勉さんは、どう捉えてますか?」

 一歩引いた風に思われる彼女に、話を振った。

 追丘としては、皆が、希望的観測に支配されているように感じていて、高勉なら自分と近い感覚を持っているのではないかと思い、彼女の意見を聞きたかった。

「さぁ──」

 高勉は息を吐くように言ってから。

「少なくとも汐径に董本様を殺す理由はないので、それは良いです」

 そう答えた。

「梟国が、どう捉え、どう動くとかは?」

「それは知りません。私が考える事じゃありません。私はただ董本様を守るだけです」

 割り切った感で言った。


 ()たせる(かな)、高勉は現実的解釈の人であった。

 追丘はそこに安堵を覚えると共に、高勉の、自分の任務を(こな)すだけというスタンスに、一種の(いさぎよ)さを感じた。





 一行が国境へと向かう道に入り、しばらく進んだ所だった。

「皆、止まれ!!」

 高勉が叫んだ。何事かと思う間もなく彼女は先頭に出て。

「楽正微殿。後ろからも来るぞ!」

 そう声を張った。


 ほどなくして前に五騎、後ろに四騎が立ちはだかった。


「なんと──。捕捉されていたか!?」

 百栽の言葉に。

「それなら野営のときを狙います。たぶん楽正伯がらみで、当たりを付けたのでしょう」

「よもや、辛の貴族がここまでするとは──」

 高勉の出す答えに、百栽も困惑を禁じ得ない。先回りしての待ち伏せなど、余程に執念を持たなければ実行しないと思ったのだ。

「辛では貴族の立場は弱いので、これを切っ掛けに影響力を強めようとしているのかと」

 楽正微も、その貴族の一人としての見解を示した。

「追丘さん。相手の狙いは私です。貴方はどうぞお逃げになって下さい」

 董本は、まっすぐに言った。

「ありがたいお言葉ですが、私とて軍人の(はし)くれです──」

 追丘は、ガラにもないことを言っているとの自覚を持ったが、少年を置いて逃げるほど落魄(らくはく)してなるものか、という意地もまた生じていた。

「これを──」

 高勉が背嚢(はいのう)から剣を一本、追丘に渡した。そして硬鞭(こうべん)と剣を両手に持って。

「お三方、何とか時間を稼いで下さい。そして死んでも董本様を守って下さい」

 言って馬腹を蹴り前方の敵へと向かっていった。



 相手も高勉にあわせて動いた。彼女を挟むように左右から攻撃を仕掛ける気だ。

 先行する二騎との間合いが詰まる。

 と、高勉は持っていた剣を投げやり、それ(かわ)そうとした一人は落馬した。そしてもう一方に対しては、突き出された槍を撥ね除け、続けて硬鞭を叩きつけて倒した。

 すぐに三騎目が来たが、それには硬鞭を投げて落とし、四が来る前に背嚢から剣を取り、()ち合うときには斬り伏せた。

 その隙にと槍を伸ばしてきた最後の一騎は、逆手で腰の剣を抜いて対処、すぐさま反撃に腕を切り落とそうとするが、相手は(うま)く避け、そのまま董本の方へ駆ける。

 急いで馬首を返した高勉は剣を投げやろうとしたが、思いのほか敵が速く、間合いが遠かった。

 そして視界には、後ろの四騎に迫られようとしている董本たちの姿が映った。

「董本様!!!」

 高勉が張り裂けんばかりの声を上げたとき──。


 パンッ──。


 四騎の一人が音と共に落ちた。続けて。


 ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ・・ と鳴ったと思ったら。


 パンッ──。


 また一騎が落ち、それで後方の敵は手綱を引いた。

 しかし、またしても音がし出して、二騎は慌てて撤退した。

 高勉が背後を取った形の一騎も逃げに転じたが。


 ヒュッ、パンッ──。


 横から石に撃たれて落馬し、馬だけが軽々と疾走していった。

 高勉はサッと下馬すると。

「楽正微殿、トドメだ!」

 声を張り、自身も眼前の敵を(ほふ)った。そして、他の者にも同じくトドメを刺しに走った。





 敵がいなくなったのを確認した後。

「御助力感謝する──」

 高勉は、女に向かって言った。

──何者か?

 そして。

──何をした?

 謝辞を言いつつも、高勉は女の正体をはからんとした。



 女は厩舎の者が穿くようなズボンに背負い籠を持っている。籠の中には野草やキノコ、黒くて丸い土の塊のような物も見受けられた。一見、地元の民のようにも見えるが、その足下は軍人の靴である。

 先程は石を投げて攻撃したと思われるが、ただのそれとも思えぬ勢いであったから、特に訓練を積んでいるのかも知れない。



「うん──。で、お宅らは何者かな?」

 先に向こうが問うてきた。

「我わ──」

 高勉が言い掛けたところへ。

「護衛される子供、手負いの従者、凄腕の戦士、老翁(ろうおう)、そして辛国の軍人・・」

 女は一人一人、指差しながら言葉にした。

「そっちも察してるとは思うけど、私は汐径の軍人なんだ、一応ね。助けたことに感謝をしてくれるなら、誠実に答えてもらえるとありがたい」

 女は、鷹揚(おうよう)たる発語とは裏腹に、隙がない動きに直截(ちょくせつ)な言葉を投げてきた。

 高勉たちは咄嗟の返答に迷った。

 しかるに、これに対して口を開いたのは追丘だった。

「私は辛軍の追丘。粗目の軍営の指揮官より、この先の砦の指揮官への使者として来ました。彼らは私の同伴者ですが、ここで詳細は明かせません。貴方が砦の人間ならば、是非に繋ぎを付けていただきたい」

 己が役儀とばかり、(りん)とした軍人の音で返していた。


 女は数秒考えると。

「いいよ──」

 と、言い。

「あと悪いけど、空馬だけ引いてきてくれるかな?」

 と、続け。董本たちの反応も待たず、籠を背負うと一人で歩き出した。



 董本一行は互いに目を合わせ、戸惑いを共有しつつも、女の言うとおりに空馬を集めて、それらを引いて彼女のあとに続いた。

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