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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第五章 ~風馬牛の祈り、社稷を檄する~

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第59話 声価

 鮑謖は自由にしていた。

 それは最初からという話でもあるが、成嬰が守備隊の隊長となったことで、(わず)かにあった判子を押すような仕事もなくなった。

 一応、定期的に報告書を提出する仕事はある。まぁそれも、彼女が主催する食事会のこととかを書くだけで、現在まで特にお(とが)めはなかった。

 まさしく、鮑謖が望みに望んだスローライフが実現しているのだ。



 で、鮑謖はこのところ森をさ迷っていた。

 彼女の狙いは、地面に埋まるように生えるキノコ、()まっ(たけ)。今がラストシーズンであり、最も成長した時期でもあるのだ。

 将校服も着ずに、馬屋の係が身に付ける肩紐で止めるズボンを穿き、小さな背嚢(はいのう)に弁当を入れて、あっちの森から、こっちの森へとウロウロしている。


 その過程で見つけた、抱えるほどの大きな石を一人で運び、幾つか重ねて塚のようなものを作った。

 鮑謖自身は、あまりスピリチュアルに興味はなかったが、どこか健気な地域の風習に配慮して慰霊碑のつもりで(こしら)えた。

「イイね。なんか御利益ありそうだな」

 思った鮑謖は。

「埋まっ茸が採れますように」

 雰囲気で手を合わせた。


 若干一名、趣旨がおかしな事になっているが──。

 このあと大工仕事が得意な兵が囲いを作り、字の上手い者が看板を書き、石垣のような慰霊碑は完成した。


 そして鮑謖は、益々自由に動き、行動範囲はどんどん砦から離れていった。





「回答は?」

「正式なものは、まだです。ただ、詳細は不明ですが、董本(トウホン)を保護したとされる貴族に対して、こちらに協力的な貴族が動いたとの話です」

「軍の方はどうか?」

「今のところ動きはありません。先の南進計画の失敗と大敗から、彼らの発言力は大きく低下しています。なにより立て直しで忙しく、それどころではないのかと」

「董本が辛国にいることに気付いた者は?」

「まだいないかと──。向こうが隠しているのもあって、辛国ですら極々一部です」

 (キョウ)国が辛国に掛けた圧力。董彬(トウヒン)はその反応を確認している。

「それは時間の問題でしょう。公式に引き渡しを要求したのですから、いずれ、さほど関係のない者にも情報が降りてくる。そこから此方へ伝わるのではないですか」

 董計(トウケイ)が、配下の報告に指摘を入れた。

「はっ。董計殿の(おっしゃ)る通りかと──」

 報告の者も同意を示す。

「それだと、またぞろ議員があれこれ言い出すな。その前に体制を整えたいが、そちらはどうなっているか?」

 董彬は視線を移して問うた。

「地方を中心に、軍の大半は父上を支持しています。ですが中央はまだ中立が多いです。兵力を多く握っており、押さえたいところですが、難航しています」

 答える董猪(トウチョ)は渋い顔をしながら答えた。



 現在の梟国は、乱を鎮めた董彬以下討伐軍が臨時政府として頂点に立っている状態だ。

 国内に関しては、それで事はなったが、董彬たちが考える辛国への侵攻ともなれば、そうもゆかない。軍権の一部は今、宙に浮いたような形になっており、それらを掌握しなければ、他国に攻め入るなど、どだい無理な話であった。



「ならば兄上。先の政変を阻止できなかった責任があるとして、特に(かたく)なな者を更迭(こうてつ)してはどうか。一人二人でも、心変わりを(うなが)すのに十分かと」

 董計が言う。

「ああ──」

 董猪は特に表情を変えずに応じた。



 董猪も、そんなことはわかっている。

 わかっているが印象が悪すぎるため、そこに躊躇(とまど)いがあったのだ。それを横から(もっと)もらしく言われ、董猪は腹立たしい気分で、いっそ怒鳴りつけたい程であった。

 さりとて、わたくしの感情のみで怒りをぶつけても、ただの癇癪(かんしゃく)と取られかねず、父の手前それは避けたかった。


 表情を変えなかったのは、怒りを我慢するための仕草であった。



 斯様な機微を知ってか知らずか、董彬は。

董捷(トウショウ)、何かあるか?」

 末の子に聞いた。

「責任をこじつけるようだと、感じが悪いです。更迭をちらつかせて脅す訳ですから、処分するのは本当に責任のあった者でも構いません。それで変わるなら良し、変わらぬ頑固者なら、あらためて考えることもできます。しかし、既に何人かは辞任しており、今残っているのは父上を支持する者たちでもあります。責任を取らせれば、支持者を切り捨てることにもなります」

 彼は、そのように語った。

 これに董彬は首を(かし)げ──。

「つまり、どうすれば良いというのか?」

 重ねて問うと。

「父上が悪評を許容するかどうかという話です。董猪兄上が気にされているのはそれです」

 董捷は言った。


 董彬は、しばし黙考し。

「董猪、強引でもよい。()く掌握せよ」

 長子にそう言い、この場の話は終わった。



 詰まるところ三兄弟の結論は同じであったが、流れとして、董捷のみが正答を提示したような形になってしまった。

 彼に期待を掛ける董彬はそれに満足したが、二人の兄は、あまり面白くはなかった。

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