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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第五章 ~風馬牛の祈り、社稷を檄する~

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第51話 追想奇人録(前半)

 姜彧(キョウイク)は、武官学校の学長から相談を受けた。

 なんでも、膂力(りょりょく)に優れた者を入学させたが、不器用極まりなく、馬にも乗れん。その内に出来るようになるだろうと楽観していたが、改善はなく、このままだと落第になるという。

──それの何が問題か?

 姜彧は思ったが。

「一度見ればわかる──」

 そう言われて、実際に学校へ見に行った。




「他の者とは比較にならんので、実技は一部、別メニューにしているのです」

 そう説明を受けた。

 姜彧の視線の先には、(こん)を持った女。(くだん)の学徒であろう。

 棍の相手を打つ側に、枕だか座布団だかが巻いて縛ってある。怪我をせぬようにという配慮に思えるが、少々大げさで、あまり見ない物であった。


「始まります」

 学長の言葉があり、姜彧は、どんなものかという気分で眺めていた。


 すると、棒を持った教官たち四人が学徒を取り囲んだ。前後左右、逃げ場のない配置につき、サッと棒を構えた。

 おそらく、それが合図だったのだろう。


 スッと学徒が先に動いた──、そう姜彧が認識したときには前方の一人は打ち倒されていて、そこに同時に迫った左右にも、一人は足を払い、もう一人は振り返りながらの打ち上げで棒を飛ばした。この隙に最後の一人が、死角から鋭い突き出しを放つが、事も無く(かわ)され、ポンッと手抜きに打たれた。


「な──!?」

 姜彧は言葉を失った。

 まるで演武でも見せられたかのような光景だった。学徒の動きは、まさしく達人で、あたかも教官たちの方が稽古を付けてもらっているようにさえ見えた。

 姜彧の胸裏が推察できたのだろう。

「ご覧の通りです」

 学長は静かに言った。

「既に恐ろしく強く、誰も相手になりません。一対一は言わずもがな、相手が複数でも意味をなさない程の動きです。まぁ、体力に限りはあるので、百人だかで、休まず攻め続ければ倒せるやも知れませんが──」

「その前に、兵の心が折れる」

 学長の結論を、姜彧は先に出した。



──なるほど。

 姜彧は状況を理解した。

 兵としての価値は疑う()くもないが、学徒である以上、成績は付けなければならない。不器用で馬も乗れんなら、弓なども当たったことは無いだろう。必然、それらの成績は及第点には届くまい。



「座学はどうか?」

 姜彧は聞いた。

 武官学校を出れば将校になる。いくら強くとも馬鹿では人の上には立てない。

「そこは十人並みです。そっちが優れているなら、それで良かったのですが──」

 学長は言う。

 極論、指揮者に戦闘力は要らない。その考えで、実技が多少不得手でも座学で十二分の成績なら、あとは品行などを加味して進級させる事ができた。

「では、素行は問題ないというわけか」

「問題は──、ないですね。少々、風変わりな者かとは思いますが・・」

 訓練用の備品など壊していたが、話がややこしくなるので、学長もそこは沈黙を選んだ。



「ふむ──」

 姜彧はしばし考えた。


 これほどの猛者(もさ)が軍人になるなら心強い。将校となっても不都合ないだろう。

 さはさりながら、現行の武官学校の制度では成績不十分で落第の(おそれ)がある。そうなった場合、それでも軍人をやろうと思う人間は少ない。

 変な話、少し前まで級友だった者が、自分の上官になってしまうのだ。余程の剛胆か、朴念仁(ぼくねんじん)か、執念めいた理由でもなければ、あり得ない話だった。



「軍属召集に()ける課外活動として評価はどうなるか?」

 ふと思いついた姜彧は、学長に尋ねる。

「通常、該当する日程のカリキュラムは免除となります。また単位に関しては、軍からの報告に基づき修正がなされます」

「つまり、加点もあり得るということか」

「はい──」

 学長は答えつつも困惑の色であった。彼にも姜彧の考えはわかる。わかるが──。



──今は無理だろう。

 現在、汐径国は戦時下ではない。召集がなされたとしても活躍の機会がないのだ。

──戦えば、その評価は間違いない。

 さりとて、相手がいなくては話にならない。むしろ馬に乗れないことで低い評価を受け、更に下方修正せざるを得なくなる可能性もある。

 武官学校の学長ともなれば、各国の軍事に関する情報も入ってくる。彼の知る限り、何らかの戦いが起きる気配はなかった。



 カーン、カーン・・

 授業終わりの鐘が鳴った。午前の課程は終わり、昼休憩となる。

「昼か・・ ちょうど良い。話をしてみようではないか」

 姜彧はそう言うと、スタスタと学徒のもとへ向かった。


「君──。昼は誰かと約束などしてるかね?」

「え? えーと、約束は、ないです。食堂で会えば一緒に食べる感じですが・・」

「ふむ。正門、通り向こうに店があるのは知ってるか?」

「えー、はい」

「これからそこへ行く。少々付き合いたまえ。無論、代金は私が持つ」

「え、あ、はい。わかりました」

 学徒は姜彧のことをわからぬようだが、とりあえず従う判断らしい。

(よろ)しい。では行こう」

 言って姜彧は歩き出し、学徒はトコトコとそれを追い、後に続いた。




「ときに君は、どうして武官学校に入ったのかな?」

 あらかた食事も済んだというところで、姜彧は学徒にそう問うた。

「昔から力はあったんで、そうしたらみたいな話はありました。あと学費が掛からないというのと。私が王都に行ってみたいというのですかね」

 けろりと言う。

──そこは志を語るところだ。

 姜彧は、心の中で突っ込みを入れた。

「それで、軍人になったら、何か目指すところなどあるか?」

「特にはありません。地方の守備隊とかがイイかな~とは思ったりしますが」

「守備隊? なぜ?」

「隊長の部屋には風呂があるみたいなんで」

──何を言ってるんだコイツは・・

 姜彧の理解を超えていたが、眼前の学徒が普通とは違った価値観で生きている、奇人の(たぐ)いだということは察した。


「君は、幾つかの単位に関して、かなり厳しいと聞いたが、どうするつもりかね?」

 姜彧は本題を切り出した。

「あー。そうですね。駄目なら、まぁ、仕方ないですね」

「なるほど──。では、単位に加点が付く課外活動があった場合、君は参加するか」

 これに学徒は少し考えたが。

「はい。参加します」

 そう答えた。

「ふむ。よくわかった──」




 武官学校へと戻った姜彧は。

「近々、あの者を召集する」

 学長に対してそう言った。

「それは──、構いませんが、やれることがありますでしょうか?」

「これは極秘事項だが、王都北、恂門(ジュンモン)進門(シンモン)の管轄地域の境あたりで賊が巣くっている。今それを討伐する計画を立てている。その作戦に参加させるつもりだ。実際の戦闘となれば、彼女の力は大いに評価されるだろう」

 姜彧は自らの考えを説示した。





(後半へ続く──)

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