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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第四章 ~無知の軍神、識者を動ず~

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第46話 暁闇

 夜明け前の深夜。戦場の兵にとっては別段、早い時間ではない。払暁(ふつぎょう)と共に作戦開始など、ごく普通にある話だからだ。

 軍を率いる大佐の剛会(ゴウカイ)も目を覚まし、手早く準備を済ませた。


「大佐──」

 部下から声が掛かり、彼は自身のテントから出た。


「今し方、鮑謖(ホウショク)隊の者が数名、戦闘で鹵獲(ろかく)した馬を運んで来ました」

「戦闘? 夜襲でも受けたのか」

「それが二百ほどの軍と戦ったと言うのです」

「なにッ──。それだと敵の狙いはこっちだったという事か」

「おそらくは──。隊の者を待たせてあります。詳しい話を聞きますか?」

「ああ。そうしよう」

 剛会は言って、主立った者を集めるように指示し、軍議用の幕舎に向かった。





「大尉は松明(たいまつ)を使い、敵の夜目を奪うことで有利な状況を作り上げました。指揮者と(おぼ)しき騎兵をはじめ、半数近くを討ち取り、こちらの損害はありません。負傷者も先程、治療を受け、問題ないとのことです」

 鮑謖隊で、砦の守備隊員でもある崔弱(サイジャク)伍長が、敵の発見から戦闘に至るまでの出来事を説明し、最後に勝利の要因と、結果について話したところだ。


「四倍と戦い、倍の兵を討ち取るか──」

 剛会をして感嘆せずにはいられない。


 単に衆寡(しゅうか)があるだけではない。夜襲を仕掛けるからには、敵も精兵を選抜したはずである。辛国軍の主力となる者たちを倒したのは大きい。

 また、ここまで汐径(セキケイ)軍、(シン)軍、双方共に大きな犠牲が出る展開にはなっていなかった。実質的に鮑謖隊の一戦が、この戦場に()いての最初の激突とも言える。それで勝ちを得たというのも価値あることであった。

 この認識は剛会だけではない。幕舎に集まった一同も、唸るような声を洩らしていた。



「ところで、鮑謖大尉は、こちらに合流する気はないのですか?」

 一人の者がそう聞いた。

「今のところ、そのような指示も、動きもありません」

「そもそも、なぜ単独行動しておるんだ」

「わたくし程度では大尉の考えを計り知ることは叶いません。ただ、別働隊が合流する直前までは、何やら心焉(こころここ)にあらずといった感じでしたが、単独行動をすると決めた後は普段の調子を取り戻していました。隊の者は、大尉が思惟(しゆい)の果てに答えを出したのだろうと見ております」

 崔弱の返答に、阜漫(フマン)中佐は。

「その答えが、夜襲の可能性だった──」

 つぶやくように静かに言った。

「馬鹿な──」

 元より本隊にいた者が、やや憤ったように口ずさむ。

 阜漫はその者の方へ向きを直すと。

(わし)らが待ち伏せにあったとき、鮑謖大尉はあえて別の道を進み、別働隊の前方より救援に駆け付けた。儂は最初、なぜ後ろからではと思ったが、後から振り返ってみると、地形的に前からの方が全体の状況を把握し易いのに気付いた。この事から、大尉は別路を選択したときには既に、別働隊が待ち伏せにあう可能性を感じていた。儂は、そう見ている」

 まるで己の心と対話しているかのように、静かに語った。


「大尉のことはいい──」

 妙に神妙となった場の空気を、剛会の言葉が入れ替える。

「伍長。御苦労だった。以上だが──、最後に何か言うことなど、あるか?」

 剛会の問いに。

「鮑謖隊の今後の動向について、ご指示はありますでしょうか」

 崔弱は尋ねる。

 剛会はそれにニヤリとすると。

「タマ子には、好きに動け、と言っておけ!」

 と、力を込めて言葉を放った。


──!!


「はっ。了解しました──。失礼いたします」

 崔弱は敬礼し、早歩きで幕舎を出た。



「さて──。敵は夜中に不意を打つつもりが、逆に思いがけない痛撃を喰らったことになる。意図せずして連中の出端(でばな)(くじ)いた形だ。儂はこれに流れを感じるが、皆はどうか?」

「私も大佐に同意するところです。待ち伏せの失敗に続き、夜襲も失敗、敵の士気は大いに下がったものと考えられます」

「たしかに、今が攻め時、勝負時かもな」

「幸い、距離は敵が詰めてくれています。夜明けとともに攻め掛かることも可能かと」


 剛会はしばし皆の言葉を聞いたのち。

「異論はないようだな──。では、払暁より決戦を仕掛ける!」

「はっ!」

 進撃の下知を出し、一同は気合いの声で返した。





 敵の一頭、足を折って動けなくなった馬がいた。

 それをしばらく見ていた鮑謖は。

「これ、絞めて食べられないかな?」

 と、言い出した。

「いや──。基本、鹿と同じようにやればいいと思うんだけど、デカいからね。血抜きが上手いこと出来るかわかんないんだよ」

 そんなことを語っていた。

 すると、配属されていた本営の兵の一人が「できる」と言い。その彼の指示のもと、作業が進められることとなった。


 鮑謖が気にした血抜きは、数人掛かりで馬の足を動かしたり、体を押したりしながらやって、硬直が始まる前に絞り出すつもりらしい。


 遠目に見ても血が凄く、楊休(ヨウキュウ)としてはあまり近付きたくなかったが、鮑謖は楽しげに潰しの工程を見守っていた。

「ねぇ? 隊長さんって食いしん坊なの?」

 楊休は仞操(ジンソウ)に聞く。

「そうだな、前に一度──」

 仞操は言い掛けたが。

「いや──、なんというか、食い物に関わる情緒を気にしてる人だ」

 と、言い直した。

「なにそれ?」

「食うのが好きという意味では、食いしん坊で間違いない」

 よくわからないが、楊休の言葉を肯定したようだ。


「なんにせよ。また肉にありつけるってことね」

「そうだな」

 楊休には、仞操のリアクションが物足りなかったが、悪くはなかった──。





「お帰り伍長。手当の方は問題なかったかな」

 鮑謖が帰任した崔弱に尋ねる。

「はい。負傷者も、鹵獲品の受け渡しも問題ありません」

「うん。ご苦労様。もうすぐ肉が焼けるから、いいタイミングだったね」

 鮑謖は、ここが戦場だと忘れさせるような、のんびりした口調で言った。


 その姿に、崔弱は若干の気後れを感じたが。

「実は──。大佐より指示を頂きました」

 と、切り出した。

「うん。何て言ってた?」

「えー。大佐はタマ子と(おっしゃ)っていたのですが、これは大尉のことでしょうか」

 崔弱が確認を取る。


──タマ子?

──たまたま女とか呼んでたから、それかな?

──いや、変な渾名(あだな)やめてほしいな・・


 鮑謖としては若干、不本意ではあったが。

「たぶんね・・」

 相手は大佐だと、諦念もって答えた。

 崔弱は。

「大佐は鮑謖隊に対して『隙に動け!』と言われました」

 真剣な眼差しで言葉を発した。


──ん? 伍長の目力がすごいな。

──大佐とのやり取りで疲れたのかな?

──まぁ『好きに動いて』いいなら、問題ないね。


「うん。よくわかった──。伍長も往復で大変だったね。しっかり食べて精を付けるように」

 鮑謖はわかってるという表情で応じた。



 例によって、崔弱の行き過ぎた勘違いであった。

 ところが、鮑謖も聞き間違えたため、結果としては修正されたようになった。

 さりとて、誤解そのものは消えていない。


 鮑謖隊は、隊長と隊員の認識に、またしても齟齬が生じることとなる──。

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『好きに動け』→『隙に動け』→『好きに動け』 一周回ってww 元に戻ったが!意思ゎ疎通せずw 珈琲( `ж´)=3 ブッ! 吹いたやん!腹筋強化物語か!
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