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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第四章 ~無知の軍神、識者を動ず~

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第45話 東部の苦闘

 熊任(ユウジン)たち遊撃隊に比べ、懿門(イモン)の兵の士気は(いちじる)しく低下していた。

 彼ら地方の軍営は、外敵に対しての盾となる存在だ。一方、本営は矛となり、敵を撃滅するのが役割となる。

 東錬(トウレン)が侵攻してきて、懿門の兵はその波を必死に食い止めている。にもかかわらず、本営からの援軍は遊撃隊の二百のみ。寡兵(かへい)で猛攻に耐えても、反撃してくれる友軍がいない。

 先の見えない、希望が持てない、そんな状況で、ひたすら守りを固める。


 本営は何をやっているのか?

 なぜ味方は助けに来ないのか?

 いつまで耐えればいいのか?


 無論これには、北から侵攻してきている後翼(ゴヨク)軍への対応があるからだが、そこまでの情報は兵たちの知るところではない。また、これを周知させる事が正解なのかも、わからない。却って状況に絶望する(おそれ)もあった。


 いずれにしても、懿門の兵たちのメンタルは、肉体以上に困憊(こんぱい)していた。




 遊撃隊は当初より敵の攻撃を妨害するので忙しい。

 加えて、懿門の軍の守りが、所々崩されるようになって、そのフォローにも奔走することとなった。

 遊撃隊の存在が、辛うじて防御を成立させている。そんな状態──。


 東錬軍も、それがわかったのだろう。

 彼らは、妨害をする遊撃隊を、妨害するようになった。


 味方を攻撃する東錬軍を突こうとすると、逆に遊撃隊が側面を取られて危険な形に持って行かれる。そんなことが幾度も続いた。

 これは熊任たちの精神すらも削った。


──このままじゃ・・

 兵が足りず、手が足りず、後手に回って翻弄される。そのせいで、心まで折られそうになってきている。行き先を危ぶむのは熊任ひとりではない。

 この東の地で、汐径(セキケイ)軍は薄氷の上に立っているような際疾(きわど)い状況にあった。


 東錬軍の総大将は、戦場の空気を読み取り、ここが勝負所だと判断。汐径軍を支える薄い氷を叩き割るため、全軍をあげての総攻撃を仕掛けた。

──敵も()る者か・・

 熊任は思う。

 東錬にとってこれ以上なく、汐径にとって最悪なタイミングでの攻勢だった。

 圧力はすさまじい。

 懿門の軍は、その一撃に早早(はやばや)と崩れた──。が、不意に敵の勢いが弱まった。


──どうした?

 疑問が浮かぶが。

「北に回り込んで前線を横から突く!」

 すぐに少佐からの下知が来る。

 熊任も隊を動かし、遊撃隊は東錬軍の北側に向かった。


「そういうことか!」

 熊任は納得を持った。

 北側から三百程の友軍が、東錬軍側面中央を穿つように攻め掛かっていたのだ。

 だが同時にわからぬ事もある。

──何処の兵?

 熊任の見るところ、彼らは本営の兵ではない。どこぞの軍営からの兵に思えるが、だからこそ(いぶか)しむ点があった。

 彼らは基本的に地域を(また)いで行動することはない。広域活動は本営の仕事であり、元より地方軍営の指揮官には、それを為すだけの権限がないからだ。

「騎馬隊、先行して突入する!」

 中隊長の指示のもと、熊任も他の隊に動きをあわせて敵兵の原野に突っ込んだ。


「ハアァァァ!!」

 熊任は気合いと共に槍を振るう。

──ここまで違うか。

 騎馬隊は熊任たちの予想を超えてスムーズに突き進む。これまでの敵との衝突は栗の皮を剥くようだったが、今は卵の殻程度の手応えだ。それだけ友軍の側面からの攻撃に、相手は動揺しているのだろう。

 騎馬に続いて歩兵も突入し、東錬軍の前線は崩れた。その間に懿門の軍は距離をとり、構えを修復した。

 片や、東錬軍も側面の攻撃を嫌い全体的に引き、両勢は間合いを取る形となった。

「仕切り直しか」

 熊任はつぶやいたが──。


 ワァー!!


 これまでになく大きな喊声(かんせい)が前方から聞こえてきた。

──!? 敵ではない?

 声の出所は、前方の東錬軍ではなく、その後方からだった。

「援軍だ! 徐厥(ジョケツ)准将が千の兵を率いて来て下さったぞ!」

 少佐はそのように大喝する。

──准将!? 千の兵??

「懿門の兵にも知らせよ。このまま挟み撃ちにする!」

 少佐は言って、次々に下知を出した。


 どうして准将だとわかったのか? 千の兵はどこから来たのか?

 熊任にはわからぬが、一つだけわかったのは。

──准将なら動かせる。

 先の三百の友軍。地方の軍営の兵であっても、将軍と准将ならば動員可能だ。


「騎馬は波状で攻める。熊任少尉。第二波のタイミングは少尉に任せる。いけるな!」

「はい!!」

 中隊長からの指示に熊任は熱く返した。


 遊撃隊の騎馬。その第一波が敵の防御を切り崩す。しかし、その傷のようになった箇所を修復せんと、敵兵もすぐに動いた。

──ここだ!

 思った熊任は馬腹を蹴った。彼女の後には三隊が続く。

 第一波が崩した所ではない。敵が、それを補おうとした結果、却って防御が薄くなってしまった、自ら作った弱点に飛び込んだ。

 それはまさしく肯綮(こうけい)(あた)る攻撃で、骨肉を分けるように敵を分断した。

 切り取られた東錬軍に、懿門の兵が襲い掛かり(ことごと)くを(ほふ)った。


 時を同じくして、徐厥率いる千の軍が東錬軍の後方の守りを突破。

 汐径軍の前後からの圧力を受け、東錬軍は瓦解、四分五裂となって遁走に転じた。


 しかしながら、東錬軍が逃げるべき東には徐厥の千の兵がおり、その軍は気力、体力十分で、ここまでの疲労と、混乱状態に(おちい)っている東錬兵には振り切ること叶わず、多くが再び故郷の土を踏むことはなかった。



 先程までの苦戦、苦闘がなんだったのかと思えるほどの快勝であった。




 ひと段落つき、皆が勝利を分かち合うなか、熊任は千の兵について考えていた。

──少佐は知っていたみたいだけど・・


 いつから知っていたのか?

 なぜ隠していたのか?

 そして千軍は、いつの間に東錬の背後に回り込んだのか?


 彼女の得ている情報だけでは整理が付かなく、頭を悩ませた。


 熊任が独り思考の渦の中にいると、ふいに周囲がざわめき出した。

──どうした?

 そう思って顔を上げると、すぐ近くに少佐と中隊長が来ていた。いや──、二人だけではない、もう一人の女性とその従者を伴っていた。

 遠目でしか知らないが、女性は確かに徐厥准将であるとわかった。


「熊任少尉」

「はい」

 少佐の言葉で、熊任は直立し応答した。

「少尉の敵を分断した突撃は見事でした。偶然かも知れませんが、騎馬の要諦を理解する者の動きだったでしょう。今日の感覚を忘れぬように──」

 准将の言葉に一瞬、頭がまっ白になった熊任だったが。

「はっ! 精進いたします!」

 まっすぐな背筋を、更にまっすぐにするようにして声を発した。

 徐厥はそれに頷くと、少佐の方を向き、そのままこの場を立ち去った。



 彼らの姿が遠くなった頃、周りの僚友が色々と声を掛けてきたが、熊任の脳は、それを言葉として拾うことが殆ど出来なかった──。

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