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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第四章 ~無知の軍神、識者を動ず~

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第33話 支度

──また仕掛けか・・

 熱弁する臧勤(ゾウキン)を視界に入れながら、雁去病(ガンキョヘイ)は思った。


 汐径(セキケイ)国は(シン)国に侵攻する。報復戦争である。一応、辛国と共闘関係にある後翼(ゴヨク)としては、あまり楽しい話ではなかった。

 しかしながら、元々の大綱(たいこう)から捉えてみると、汐径が東北に力を入れている現状は、むしろ願ったり叶ったりの状況であった。

 後翼、辛、これまでの二国の動きは、東錬(トウレン)国との連携を前提としている。

 二国が汐径の北を侵し、汐径軍がそれに対処する間に、東錬が東から侵攻する。汐径国を北と東の二正面作戦にもっていく。それが計画されていた展開だ。

 今、汐径は自ら軍を北に向けた。

 この機に東錬が東から攻めれば、はからずも当初の二正面の構図となり、後翼が追加で南進すれば実質的に三正面状態で、汐径は辛国から撤退せざるを得ない。


 これだけでも十分に思えるが、臧勤はどうやったか、汐径軍の辛国行軍ルートを入手したのだという。彼はその情報を辛軍に伝え、汐径軍を撤退させぬよう足止めをしてもらう計画だとか。それにより、汐径攻略は盤石になると、臧勤は語っている。


──気に入らんな。

 全体の流れ自体は良いと思う。今が攻めどきとも考える。

 だがそれでも雁去病が感じるのは。

──楽に勝とうとし過ぎだ。

 という感覚。


 相手の隙を突いて攻撃、(もっと)もなことだ。連携して動く、共闘なのだから当然だ。足止めするのは結構だし、やってもらえれば助かるだろう。

 さりとて。

──行軍ルートを知る必要はあるか?

 雁去病が疑問に思うのはそこだ。

 知った上で()されるもの、それは待ち伏せの類いであろう。想定通り敵が動くなら、戦果は大いに期待できる。できてしまうのだ。だからこそ思う。

──辛軍は足止めなどするか?

 二度、奇襲急襲を失敗した辛国は、大いに勝利を欲しているはずだ。三ヵ国の連携の前に、自分だけが()けたような状態も不満であろう。その上で、敵の動きを知ってしまった。

──十中八九、殲滅(せんめつ)に動く。

 雁去病は、こう結論付けた。


 臧勤の思惑と、辛軍の切望、そこには確実に齟齬(そご)がある。それがどうのような結果を生むのかは、雁去病にも想像が付かない。

──まぁ、うまくハマればよい。

 歯車がイイ感じで噛み合えば、それは大きな力となるはずだ。

──噛み合わなければ・・

 雁去病は、その先を考えるのを控えた。最早、(さい)は投げられている。



 次なる作戦では、雁去病も正面切っての戦いとなる。辛国のことを気にしている暇はない。

 仮に、状況、前提が変化したとしても、臨機応変に対処するだけだ。それこそが、雁去病の戦いの哲学なのだから──。





 楊休(ヨウキュウ)は、途中から加わった部隊の下に付くことになった。

「なんでですか!」

「小隊から一人出すことになってる」

「だから、何で私なのかって聞いてるんですよ!」

「お前が、もめごとばかり起こすからだ」

「それは相手がいる話でしょう。私一人が悪いみたいに言わないでください!」

「いいから行け」

「何がいいんですか!」

「だぁ──、そういうとこだ。うるさい、しつこい、面倒臭い、三拍子揃ってるんだよ。上官が命令してんだから、さっさと行けよ」

「納得できません!」

「納得しろ!」

 およそ軍人のやり取りとも思えぬが、楊休相手だと毎度のことすぎて、上官もいちいち体裁(ていさい)を整えるのがアホくさいのだ。


禿()げろ──」

 楊休は悪態をついた。無論、聞こえるようには言わないが、それでも不平たらたらだと誰もが気付く態度で荷物をまとめ、彼女は一人、隊を離れた。





「大尉。支給された兵糧なのですが、どう見積もっても少ないようです」

 崔弱(サイジャク)が来て言う。

「えーと。足りないってこと?」

 鮑謖(ホウショク)は確認する。

「足りるは足りるんです。ただ、五十人という勘定ではなく、おそらく四十ぐらいで計算されたものかと。一回あたりの量を少し減らせば、一応まわせます」

 きっと崔弱は、それら消費と日数の計算を済ませた上で、報告に来たのであろう。

「ちなみに、その兵糧って乾燥タイプだよね」

「はい。湯で戻すときに量の調節は容易かと思われます」

 崔弱は淀みなく答える。



 ここで鮑謖は思った。

──さっそく案件が来たみたい・・

 支給される兵糧が微妙に少ない。全然足りないとかではなく、やりくりすれば何とかなる程度に足りない。不満が出そうで出ないぐらいに(たしな)い。兵糧は長期保存の利くタイプ。

 ここから鮑謖が出した答えは。


──横領だな。


 この別働隊に()いて、軍事物資の横流しが起きているのではないか?

 そしてこれこそが、鮑謖に与えられた真の任務、軍監としての役目なのではないか?

「なるほど──」

 鮑謖はつぶやく。

──では、証拠がいるな。

 今日の鮑謖は無駄に冴えている。



「伍長。兵糧の量に間違いがないか、規定量を指摘した上で、もう一度、係に確認を取って。たぶん、それで正しいとの返答だろうけどね」

「はい。わかりました」

 崔弱の返事に鮑謖は頷くと。

「で、食事の際は、通常の量を、きっちり量をはかって、誰の目にも過不足無いことを示して配るようにして」

 強い眼差しを向けて言った。

「は──、はい!」

 崔弱は一瞬、圧倒された感じになったが、すぐに返事をした。


 鮑謖の考えはこうだ。

 まず、崔弱が確認を取る形で、量が正しいとする言質(げんち)を取る。次に、規定量を正確に分配し、それを砦の兵と追加の兵たちに(しか)と認識させる。すると必然、兵糧は足りなくなる。そこで、係を追求すれば、何らかのリアクションが起きる。

 それら全てを記録すれば、報告に値するに十分なものとなるとの見立てだ。


 砦のカリキュレーター崔弱ならば、その辺りの数字に関する事はそつなく(こな)してくれるだろう。加えて交渉事も得意のようだから、そっちもお任せできる。

──伍長を連れてきて正解だった。

 危険な戦地まで来てもらった甲斐があると、鮑謖は思った。



 鮑謖自身はイイ感じで頭を回したつもりだが、お陰で誤解の糸は、更に複雑に(から)まり合うこととなった。

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