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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第四章 ~無知の軍神、識者を動ず~

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第34話 内部観察

 鮑謖(ホウショク)隊の様子を聞いて、阜漫(フマン)(ほぞ)を噛んだ。

「あてつけおって──」

 完全に裏目に出たというのが彼の認識だ。


 阜漫は、鮑謖への兵の配置を減らしたばかりでなく、その兵糧の量も通常より少なくした。彼女に対する警戒と、背後にいるであろう剛会(ゴウカイ)大佐への意趣返しが、そこにはあった。

 しかし鮑謖は、再三にわたって量を確認したのち、いざ食事となったら、規定量であることを喧伝するように、きっちりはかりながら支給した。

 これはおそらく、阜漫が意図的に少なくしたことを理解した上で、兵糧が足りなくなった際に、その責任を糾弾するつもりであろう。


 兵糧の量に気付く注意力。ちょっかいだと看破し、(あまつさ)え、逆用して攻撃材料に仕立てる手際。

「ぼけっとした(つら)だが、存外知恵が回るらしい」

 鮑謖の何も考えてなさそうな雰囲気に()まれ、無意識に油断していたと、阜漫は自身を(かえり)みた。

「流石に、剛会が送り込んできた者だけある」

 阜漫は鮑謖に対する警戒心をますます強めた。

「ひとまずは、兵糧は手違いであったとして収めるか」

 阜漫は早々にこの話を終わらせ、鮑謖のことは、より直接的にその影響力を排しなければならないと考えた。


 敵地に()いて、指揮官阜漫の目は、外ではなく内に向けられていた──。





 兵糧に間違いがあったとして、係の者が謝罪に来ていた。

「あー。それでか」

 楊休(ヨウキュウ)は納得を持った。

 食事のとき、量を正確に分配していたので。

──きっちりしてんな。

 ぐらいに思っていた楊休だったが、ここに来て、その見方は大きく変わった。

 鮑謖大尉は兵糧の不足を、抗議や上申といった形ではなく、分量をはかって周知させることで、至って自然に、何処に問題があるかを示そうとした。

「間違ってんのは、お前だ──、ってことね」

 楊休はこのやり方に、なんとも言えない小気味よさを感じた。



 命令で仕方なく来た楊休は、ややふて腐れていた。本営所属の自分が、どうして守備隊の指揮下に入らなければならないのかと(いきどお)り。地方の大尉が、なんぼの者かと侮っていたのだ。

 今、あらためて観察するに、ここが極めて特殊な部隊であるとの認識を持った。



 まず、隊長の鮑謖大尉。これが若い。その辺の使えねー少尉より若い。余程若作りじゃなきゃ、短期間で二階級昇任したことになる。兵糧の事も踏まえると。

──只者じゃない!

 次に、実質的に部隊を取り仕切っている成嬰(セイエイ)曹長。一目で実力者とわかる。騎乗でも槍は(つか)わないようだから、剣に相当自信があるのだろう。それも叩き上げだから、経験に裏打ちされた強さだ。あと、割とイイ男だ。ただ、楊休的に年上すぎて、その点は残念であった。

──おしい!

 それから守備隊の兵たち。(たたず)まいが何か違う。前に仕掛けてきた辛軍を撃退したというから、その実戦、勝利の経験がそうさせるのかと、楊休は考えた。

 他に、気になるのが崔弱(サイジャク)伍長。見た感じ内勤組っぽいのに敵地まで赴いている。細細(こまごま)したことは彼女が差配し、それで全て上手く回っている。あと小さいから、動いていると目が違和感を覚えて、ついつい見てしまう。

──ラブリー!


 そしてこの一隊の一体感。ひょっとしたら守備隊とは、こういうものなのかも知れないが、皆の意識が、鮑謖大尉を中心に──。いや、彼女を起点として、強靱なベクトルで結びついている。そんな感慨を楊休は持った。





「うん。今後は気を付けてほしい」

「はっ! 重ね重ね、申し訳ございませんでした」

 鮑謖の言葉に、係の男は深々と頭を下げ、恐縮を崩さぬまま静かに退いた。

──横領じゃないの?

 鮑謖は、早早(はやばや)と修正された兵糧に戸惑った。


 横領があるという前提で考えると──。

 五十人のところに四十人分支給ってことは二割。全軍なら百名分。それだけの量が余れば、流石に誰か異常に気付くと思われるから、横流しは既に行われた後と考えるのが妥当だ。(すなわ)ち、別働隊の保有兵糧は四百人分しかない──、ハズなのだ。

 しかしあっさりと兵糧を渡してきたのを見るに、規定量はちゃんとあるっぽい。

 仮に、兵糧が無いのにも関わらず、鮑謖隊のみ規定値にすれば、他の部隊は更に量が減ることになって、これも誰かが見抜くだろう。


──う~ん。普通に間違えたっぽいな・・

──だと、不正的なことはないのかな?

 鮑謖は「影の軍監が横領を看破し、追求する」という、カッコイイ筋書きを妄想しちゃってたので、不謹慎だが、ちょっと残念であった。

 (もっと)も、軍監という設定自体が、鮑謖の想像力の産物でしかないわけだが──。


──まぁ、これでネタはできたから良しとしよう。

 報告書を書く上で最も厄介なのが、書くことがない事だ。

 何かが起こって、それをまとめるのも大変だが、何もなく、天気ぐらいしか内容がないのに、それらしく体裁(ていさい)を整えなければならないのは、鮑謖には苦行だった。

 兵糧についてミスがありトラブルが起きかけた、というのは十分に書ける題材だった。


「うん。これはいい仕事をしてしまったな」

 鮑謖は、任務をやり終えたという達成感をしみじみと感じた。そして、これまであった別働隊への注意を解き、完全にリラックスした。

 しかしながら。

 現状、敵地を進軍中で、今後は戦闘が起こるはずだ。一部隊とはいえ、隊長が斯様(かよう)な緊張感のなさでは、先行きに懸念が生じてもおかしくない。


 さりはさりとて。

 鮑謖の()()()()()()は勢いを失わない。


 兵糧の誤りという事態を受け、部隊の兵たちも少なからず困惑と腹立ちを持った。しかし、係の謝罪を受け入れ、剰え、ニコニコと微笑む鮑謖の鷹揚(おうよう)な態度に。

──大尉は手本になろうとしてる。

 鮑謖は率先して許すことで、味方に不要な軋轢(あつれき)が生じることを抑えようとしている。それは、辛国軍との戦いを見据えているからだ──。と、イイ感じに解釈した。


 結果。脳みそエンプティーの鮑謖を見て、兵たちは、戦いの意気を強く持つに至っていた。

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