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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第四章 ~無知の軍神、識者を動ず~

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第29話 六臣会(後半)

 孚門(フモン)の街の行政首長に続き、王族の挨拶があった。その後、この場に於いて最高臣階の一人である、公爵が乾杯の音頭を取った。それで六臣会の開会式は完了した。

 式が始まる前からある程度並んでいたが、終わったタイミングで次々に料理が運ばれ、いよいよ食事会と相成(あいな)った。


「さてと──。大尉、どうされますか?」

「うん。私としては魚介を狙いたい」

「なるほど──」

 汐径(セキケイ)の南部は全て海に面しているので、魚介類自体は珍しくない。むしろ特産品ですらある。

 さりとて。鮑謖(ホウショク)たちが普段いる北部では手に入りにくいのも事実。この機会だからこそ、それらの食材をと思うのは当然でもある。

 また逆に、貴族や本営所属の軍人など、普段南部にいる者は、この機会にあえて魚介を求めたりしないであろう。という推測も成り立ち、混雑を避けられるとの見込みもあった。


 が──。考える事は同じなのか、それなりに混み合っていた。



「飲むのはいいとしても、食べるのは落ち着きませんな・・」

「うん。まぁ、社交が目的だから、しょうがないけどね・・」

 鮑謖は(はな)から交流する気などなく、ご馳走だけ食べて過ごそうと考えていた。だが、いざ始まってみると、それも思ったより面倒臭く、別の意味でお腹いっぱいであった。

「鮑謖──」

 食傷気味の二人の所へ熊任(ユウジン)が来て。

「どうせ暇してるんでしょ。少佐に紹介するから来なよ」

 そう言うので、鮑謖たちは誘われるままに付いていった。




 挨拶もそこそこに。

「その歳で大尉になるとは恐れ入るよ。(シン)国が侵攻してきたのは知ってるが、その辺のいきさつを聞かせてくれないか?」

 少佐から話を振られた鮑謖だが。

──最初のは、たまたまだし・・

──二回目は、そもそもいなかったし・・

 何と説明していいかわからず、ましてや昇任の切っ掛けなど知るよしもなく、どう答えたものかと思案していると。


「昇進に関する話をしているのか──。それは興味深い。ウチの愚息のためにも、是非とも参考にさせてもらいたいな」

「こ、これは──、毛埋(モウマイ)侯爵」

 突然の横入りに少佐は慌てた。その横では、熊任が、侯爵の後ろに控える毛厳(モウゲン)に対して射貫くような視線を送った。

──親父を使っての御礼参り。

 その認識は、熊任だけでなく、成嬰(セイエイ)や、話を聞いていた少佐も同じく持った。

 鮑謖はというと、只でさえ頭を悩ませているのに、追加で偉そうな人が来てしまい、ますます困惑した。

「ときに──。大尉はどちらの所属なのかな?」

 毛埋は問うた。

恂門(ジュンモン)の北、砦の守備隊です」

「それはそれは──。大層な任務だ」

──!

 毛埋の声は、言葉とは裏腹に、侮蔑の音を含んでいる。それは本人を含め、この場に相対(あいたい)したもの皆の解釈だっただろう。


 ところが──。


「はい。想像以上に大変な仕事で、少し甘く見ていたと、反省しているところです」

 鮑謖は、にこやかに言った。

──!?

 周囲は緊張した。

 それはそうだ。鮑謖の言は、我が事としながらも毛埋を蒙昧(もうまい)と断じ、(あまつさ)え、自省を促すようなニュアンスさえあった。

「ほう──。例えば何が大変かな?」

 毛埋は調子を変えずに聞く。

「後処理が大変ですね。先日、戦闘で重傷者が出たのですが、幸い魔法使いの治療で無事でした。ですが何人かは退役することになり、その関連と、補充に関する色々。あと私個人も別途、賊を討伐して、その関係の報告書とかです」

 鮑謖は、しみじみと答えた。



 鮑謖は毛埋の言を、言葉どおりに受け取っていた。なぜなら、まさしく彼女が感じていた事そのものであったからだ。

 ゆる~く、のんびりを夢想して来てみれば、赴任早々に敵襲。なんか知らん匪賊(ひぞく)が出たと思ったら、留守中にまた敵襲。

──なにこの最前線?

 現在進行形で『こんなハズじゃなかった』と思ってるところへ、毛埋の言葉である。

 鮑謖からしたら。

──ホント、その通り。

 と、いう。共感者があらわれたかのような感慨があった。



 無論。皆は彼女のズレた感覚など理解できるわけもなく、鮑謖は一体どうやって、この場を収めるつもりだろうと、固唾(かたず)()んだ。

「まるで、戦闘や討伐が大した話ではないように聞こえるが」

「砦の戦闘は大変だと思います。私はいなかったんですけど、ウチの副隊長が四倍の敵を退けましたから。賊の方は大したことないですね。三十人ぐらいでしたし」

 毛埋のやや叱責の音もどこ吹く風。

 鮑謖は、成嬰を自慢するように身振り手振りで言って、自分のことは思い起こすようにして語った。


 若干一名を除き、非常に気まずい雰囲気が生じていたが──。


「先日の戦いの話か? なら(わし)らも混ぜてもらいたいな」

 と、また別の二人組があらわれた。

剛会(ゴウカイ)大佐、姜彧(キョウイク)中佐、話の流れでそうなったまでです。私には縁遠い話ゆえ、ここいらで失礼させてもらいますよ」

 それだけ言って、毛埋、毛厳の親子は余所へ行った。


「ふん──。いつまで軍権を持ってるつもりだ。世が世ならとでも考えているのか?」

 剛会は毛埋の後ろ姿に毒を吐く。と思ったら今度は。

「お前らも、あんなのに良いようにさせるな」

 少佐以下、一同に対して言う。

「おい。コイツか?」

「そうだ──」

 剛会の確認に、姜彧が応じる。

「おい。この、たまたま女! 毎回毎回たまたま書きやがって、お前それ書いとけば通じるとか思ってんだろ。いい加減にせえよ」

 剛会の言に鮑謖が戸惑っていると。

「報告書のことだ──。これからは、読む者のことを考え、常人でもわかるように記す努力をせよ。という事だ」

 姜彧が剛会の言葉を補完する。

「は、はい──。以後、注意します」

 鮑謖は軽く頭を下げた。

「ふん。まぁいい──。それよりも聞きたいことがあったんだ。後翼(ゴヨク)行って、直に軍を見てきた感想を聞かせろ」

 剛会が言う。



 これには、さしもの鮑謖も考えた。

──季酬(キシュウ)の軍営は妙に緊張感があった。

──なのに、軍を装う賊が出てた。

──(ガン)なんとか大佐の軍も、賊を捕まえたあとは戸惑ってた。

 これらを踏まえ鮑謖は。



「気合いが空回りしてると感じました」

 と、答えた。

 これに剛会、姜彧の二人は数回頷くと。

「うむ。よくわかった。邪魔したな──」

 言って剛会は立ち去り。

「あちらに生牡蠣が出ていたが、皆、当たるのを恐れてかなり残っていた。ここだけの話、あれは魔法で解毒してあるゆえ、食っても腹を壊すことはない。嫌いでなければ食してみるといい」

 姜彧はマル秘情報を教えて、剛会の後を追った。




「ハァ──」

 少佐は大きく溜息をついた。

「なんか急に大物が出てきて疲れたよ──。なんだ、もしかして大尉は、大佐たちと知り合いなのかい?」

「いえ。大佐は知りません。ですが中佐は、何回か会った事がありますし、学校時代に食事をご馳走になったこともあります」

 鮑謖は泰然と答えた。

「はぁ!? そんな話、初めて聞いたけど」

 熊任も驚く。

「いや──。当時は中佐って知らなかったから。あの『地方勤務はいいぞおじさん』とかと同じようなもんだと思ってた」

 鮑謖の言に、一同は唖然とした。同時に。

──只者じゃない。

 鮑謖の鷹揚(おうよう)さは、さることながら、学徒の頃から中佐に目を掛けられていた事実に、大いに関心を寄せたのだった。



 さりはさりとて──。

 鮑謖の頭は今、完全にオイスターモードになっており、周りの情動など気にも留めていなかった。

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