表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第四章 ~無知の軍神、識者を動ず~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/85

第28話 六臣会(前半)

 案内の係は戸惑った。

 馬車が止まり、後ろに掴まっていた者がストッと降りて、馬車の扉の所まで行った。その女は将校服を着ていたから、車内の人物は更に格上、佐官であっても不思議でないと思えた。

 ところが、中から出てきたのは下士官の軍服を来た者で、降りた後は将校服の女に従う格好で、係の所までやってきた。

──どういうことだ?

 わけがわからぬまま応対することになったが、階級章を見るに、女は大尉、下士官の男は曹長であった。

 曹長が渡してきた案内状を確認する。

「えー。恂門(ジュンモン)、守備隊所属の鮑謖(ホウショク)大尉ですね。はい──、確かに、同伴者はお一人ですね」

 女は黙って頷いた。

「はい。では、ご案内いたします。どうぞ、こちらに──」

 係は二人を先導する。

──なんで、六臣の方が立ち乗りなんだよ・・

 係は首を傾げたい衝動を抑えながら案内した。



 汐径(セキケイ)国は九臣階という制度を取っている。

 これは旧来の貴族制度から移行した際に、それまであった爵位と、新しい軍制での階級とのすり合わせで生まれたものだ。

 具体的には一臣位から九臣位まであり、軍人の場合、将軍は一臣位、准将は二臣位となり、順に下がっていき、九臣位は曹長になる。

 また、貴族階級からだと、公爵は二臣位、侯爵は四臣位、伯爵は六臣位、子爵は八臣位、男爵は九臣位となる。

 軍事的な力は中央集権化されたが、政治的には幾らか貴族にも力がある。それが現在の汐径国の社会構造であった。


 話を件の二人組に戻すと──。

 鮑謖は大尉に昇任した。それにより、臣階は六臣位となり、これは伯爵に相当する。

 昔から高位の貴族達は何かに付け催し物をやっており、その一つが、現在では六臣会という形で残っている。文字通り六臣以上の集まりで、宴会の一種だ。

 軍人は数が多く、選抜となるが、鮑謖は軍才の魔女として名が売れてしまったため、この六臣会に招待された。また、従者も臣階を持つ者に限られたため、成嬰(セイエイ)が同伴となった。

 ちなみに、今回の会場は孚門(フモン)にある離宮だ。



 会は立食形式とのことだったが、係が言うには、料理が出てくるのは開会の挨拶が終わってからで、それまでは飲み物のみらしい。

 他の参加者たちは、知り合いどうしか、誰かの紹介か、個個に歓談を楽しんでる風だった。

 鮑謖は、恂門管轄では彼女一人しか来ておらず、特にこれといったコネもないので、大人しくジュースでも飲んで時間を潰すつもりだった。


 王道の柑橘系か、独特の酸味のベリー系か、食前を考慮すると甘みの強いものは避けたいから、野菜系もアリか──。なとど鮑謖が考えていると。

「よっ、出世頭」

 と、声を掛けられた。

「あら。顔見知りがいるとは思わなかった」

「フフッ──。アタシは、絶対アンタがいると思ったけどね。新任の六臣だし。それで少佐の従者争いを制して来たわけよ」

「それでって。単に来たいのが最初にあって、私のことは後付けでしょ」

「まっそうだけど。細かい事はいいじゃない──。それより、アタシのことをちゃんと紹介しなさいな」

 鮑謖は言われて気付き。

「えーと。彼女は熊任(ユウジン)、武官学校の同級。で、こちらはウチの副隊長の成嬰曹長」

 互いを紹介した。

「成嬰曹長です。よろしくお願いします」

 短く簡素、音の響きもまさしくで、軍人の手本の返しだった。成嬰本人にその意識はないだろうが、それはまこと静かに、叩き上げた実力と凄みを体現しており。

「熊任少尉だ。こちらこそよろしく」

 熊任も、無意識に若干の緊張を以て応じていた。


 一方鮑謖は、斯様な情緒など知りもせず、役目を終えた感で。

「ベリーのを」

 係からジュースを受け取っていた。一口飲んで。

──ほうほう。こっち系か。

 こっちがどっちか知らんが、物珍しさを優先したチョイスに、鮑謖はわれながら満足した。


 その様に、熊任もあきれた顔で。

「アンタは相変わらずだね。彼女、食い物のことばっかりでしょ?」

 と、言い。問われた形の成嬰は返答に困り、鮑謖を見た。彼女はジュースを飲みながら、うんうんと頷き、発言を許可する。

(こだわ)りの強さは感じます。先日も、猟師から直接イノシシを仕入れていましたから──」

 成嬰は言葉を選んで答えた。

「なにそれ? 守備隊の隊長ってそんなことできんの?」

「できる──。糧食の独自調達権がある。まぁ、そっちの予算は使ってないけどね。臨時収入があったから、私の大尉と、曹長、あと戦闘勝利を祝って奮発した」

 熊任の疑問に、鮑謖は当然だと言わんばかりの顔で返した。

「はぁ──。地方の砦って聞いたから、ちょっと心配したけど・・ 思いのほか充実してるようで、なによりだわ」

 呆れと感嘆とあわせたような音で、熊任は言った。


 と、そこへ。

「熊任、お前も人の心配できるほど立派でもないだろ?」

 割り込んでくる者。

 その声に、振り向きつつも、顔を歪める熊任。

「これはこれは──、侯爵子息様。アタクシメにお声がけ下さり、まことに恐悦です」

「相変わらず、むかつく奴だな」

 わかり易く慇懃無礼(いんぎんぶれい)な熊任に、相手も(にら)んで返す。

「そっちも人の話に聞き耳立てるぐらい、相変わらず暇なようで」

「お前が、場をわきまえずデカい声を出してるからだろ。少しは周りに気を使ったらどうだ」

「こっちは級友との再会を堪能してるの。アンタも気を使って引っ込めよ」

 熊任たちは言い合う。


 にわかに起こった険悪な空気──。

 いくら鮑謖の頭の中がポリフェノールで満たされているとしても、眼前で喧嘩が始まろうとしてる事ぐらいは認識できる。

「まぁまぁ──」

 鮑謖は一応、止めた。

 止めたが、それはあくまで一応で、あとで「私は止めましたよ」と言い訳が立つ程度の熱量であった。その辺りを見透かされたのだろう。

「関わりたくないなら、どっか行ってろ」

 男に言われてしまうが、これに熊任は、ずいっと前に出て。

毛厳(モウゲン)。アンタ言葉に気を付けなさい。こちらは六臣位、大尉殿よ。いくら級友相手でも配慮は必要でしょ。侯爵の息子だからって、アンタ自身は少尉。失敬な話ね」

 ここぞとばかり、毛厳の失儀を責めた。

「た、大尉!?」

 毛厳はここまでの調子を大きく崩し、慌てた。鮑謖の現状を知らなかったようだ。

「し、失礼しました──」

「うん。大丈夫」

 頭を下げる毛厳に、変わらず返す鮑謖。

 それで気まずくなったのだろう。毛厳は一度熊任を見ると、サッと(きびす)を返して立ち去った。

「すみません少尉。俺の役目だったのに・・」

 成嬰が熊任に言うが。

「いや。アタシが利用しただけだから」

 そう返して。

「なんか、ごめんね。そろそろ少佐んとこ戻るわ」

 熊任も、そそくさとこの場を去り、なにやら変な空気だけが残った。


 さはさりながら、鮑謖は相変わらない。

「曹長は飲まないの? 美味しいよ」

 二杯目のベリーに手を出し、部下にも勧める。

「あー、では。野菜のを──」

 成嬰としては酒でも飲みたい気分だったが、鮑謖にあわせることにした。





(後半へつづく──)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ