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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第四章 ~無知の軍神、識者を動ず~

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第27話 怨情の開花

 最終的に四十六名が戻らなかった。その中には、花廉(カレン)も含まれていた。


 追丘(ツイキュウ)は帰還後、花廉のことを調べた。

 最初、新兵の中から攻略軍に参加した者たちを洗ったが、該当する人物はなかった。そこで、中佐の直属という言葉から探したところ、武官学校の学徒が一人、参戦していた。

──まだ、十代じゃない・・

 若いと思ったが、若いはずだ──。花廉は十九歳だった。

 (せん)だって行われた奇襲作戦を指揮していた、花質(カシツ)少佐の一人娘で、父のカタキを討つために、叔父である花文(カブン)中尉に頼んで参加したらしい。

──あなたまで死んでどうするの。

 追丘は思ったが、それでも花廉について話を聞くのをやめなかった。


「突然あらわれて、敵の騎馬を二三、立て続けに落としたんだ。傷を負わせた者なら、もっといたと思う」

 追撃を足止めしていた騎馬隊の者は、彼女の事を、しっかりと覚えていた。

「それで敵が萎縮したのはよくわかったよ。あー、ビビってるなって思ったし。逆に味方は意気が上がった感じがした。それから砦側の騎兵と正面からぶつかる格好になって、味方の騎馬も彼女の後ろに付く形で()ち合ったんだけど。敵の騎兵が強すぎたかな。一瞬、勝ったかと思ったけど、槍を跳ね上げられてから斬られてしまったよ──。その強兵は、他の奴も三人ぐらい斬ってたし。やっぱり強すぎたな」

 花廉は強敵に挑み、そして散った。

 彼女は、その直前に、僅かの間だけ英雄の輝きを放ったが。

「意味ないじゃない──」

 言ってみたが、その言葉は、現在の追丘自身にも返ってきて、何でこんな事をしているのだろうと、己がわからなくなった。



 しばらく経って、花廉の葬式があると知った。

──遺体もないのに。

 追丘は思ったが、何か区切りが必要なのは理解している。残された者は、望むと望まざる関わらず先に進まなくてはならない。

──私にとってもか・・

 今にして思うと、追丘は、自分が花廉に魅せられていたのだとわかる。

 ごく短い関係。会話も数えるほどしかしてない。事実、名前以外のことは何も知らなかった。それなのに、こうも気にしてしまう。

 花廉の持つ直線的な(たたず)まいが、自分にはないものとして憧れの対象だったのだと、追丘は自得に至った。


 追丘は、葬式に参加することにした。




 軍服は着てこなかった。

 あれは便利な服で、およそ何処にでも着ていける感があったが、追丘はあえてそれを避けた。それは軍関係者として、儀礼的に参列していると思われたくはなかったからだ。

──私が私として、自分が自分として。

 誰に言われた訳でもない、己の意思でここにいるのだと、自身に誇りたかった。あるいはそれは、独り()がりかも知れなかったが、構わなかった。

──元より我がため。

 追丘はどこか、意地のようにそれを為した。


 もしかしたら、花廉の生き様を、無意識になぞっていたのかも知れない。



 父親が少佐だったというのもあってか、軍関係の人間が何人かいた。あとは武官学校の学友と、縁者であろう。

「友人です」

 追丘はそうした。事実ではないが、偽ったとは思わない。

 花廉の母親は、想像したのと違って柔和な印象を与える人物だった。花廉は父親似だったのだろうか?

──いや、花廉は花廉だ。

 われながら下らない事を考えたと、追丘が自省していると、一人の軍人が花廉の母に話しかけている姿が映った。


──!?


 追丘はその人物に覚えがあった。

 忘れもしない。花廉のことを止めてくれと追丘が頼んだ、あの将校だ。

──わかっているの? 自分が誰の葬儀に来ているか!?

 何も知らぬのだろう。きっと攻略軍に参加していた者に対して、軍務の一つとして香典を運んで来たにすぎない。

 そうは思ったが、追丘にとっては頭にくる話でもあった。だから、その将校のことが知りたくなり、隣にいた人に。

「すみません──。あの、今、母堂様とお話になっている将校の方は、どなた様なのか、ご存じでしょうか?」

 尋ねると。

「あぁ・・ あれは、花文中尉です。亡き花質少佐の弟で、花廉の叔父にあたる人ですよ」


──は!?


「中尉も今回の戦いに参加してらしたそうで、その責任を感じて、随分と心を痛めたとか」

「そ、そうですか──。ありがとうございます」

 追丘は、なんとか礼を言い頭を下げた。


 追丘は体の向きを正面に直したが、それから背筋を伸ばすことはなかった。周囲は彼女の姿を見て、沈痛に同情すると共に、斯様な友を持った花廉は幸せ者であったと、素敵な風に解釈していた。

 確かに、追丘の心は痛みを(ともな)って震えていたが、それは悲しみによるものではない。罪業(ざいごう)に報いを与えんとする、潔癖なる激しい怒りによってだ。


「おぞましい──」


 追丘はつぶやいたが、それを聞き取った者はいなかった。

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