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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第六章 ~魔女の睥睨、百里を翔る~

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第106話 恂門の戦い(後半)

 後翼(ゴヨク)軍が大きく崩れ、そこに()かさず味方が食らい付いた。

 このまま圧殺の展開になると思われたが、敵は上手く横槍を入れたと思ったら、そのまま味方の一部を分断した。


 そこに襲いかかろうと疾駆する騎馬の集団が見えた。


──まずい!

 熊任(ユウジン)の見るところ、切り取られた三百ほどの味方は司令塔の一つで、体勢が整わぬ今、騎馬の突撃を受ければ崩壊を免れない。そうなれば各個撃破という形で三百の兵を失い、(あまつさ)え、指揮系統にも混乱が生じることになるだろう。

「させるかぁ!」

 敵騎馬の数は五十もいない。熊任は、自身の中隊で対処出来ると判断した。

「二小隊で仕掛ける。一隊は側面を取りに行き、トドメを刺せ!」

 熊任は指示を出す。


 自分を含む二隊で正面から敵と()ち合い、勢いを殺したところに、横を取ったもう一隊で痛撃を与える算段だ。


 熊任たち騎兵二小隊は敵騎馬と正対し、加速した。そのとき──。


索冥(さくめい)の法、皓剛力(コウゴウリキ)


 敵騎馬は白く淡い光に包まれた。

「これは──、身体強化か・・」

 言いながら熊任は己が判断を誤ったことを悟った。

 三百の味方を守るだけなら、いくらでも妨害の仕様があったはずだ。しかし熊任は敵が少ないと見て、妨げるだけでは飽き足らず、討ち取りに行ってしまった。

 魔法で強化されたなら、敵は超精鋭の五十と化している。これと()り合うには中隊全てで挑むべきだった。

「手強いぞ! 集中しろ!!」

 熊任は部下に声を張る。

「ハァァァア!!」

 そして気合いのままに敵とぶつかった。


 敵の鋭い突き出しが来る。

「くッ・・」

 熊任はそれを何とか()なすが、反撃には(つな)げられない。続けてもう一騎、また一騎と相手をすることになるが、どんどん押し込まれる格好になり、仕舞いには槍を落とすはめになった。

 以降は相手の攻撃を剣で(しの)ぐのがやっとであった。

 劣勢なのは熊任ばかりでなく、二小隊の兵は討たれるか負傷するか、全くの無傷は数えるほどという状況に(おちい)った。


「くそったれ!」

──これでは返り討ちだ。

 熊任は悔恨で奥歯が砕けそうなほどに食い縛った。

 敵の速度は落ちず、側面を取りに行った一隊もタイミングがあわない。


──ならば味方の逃げ道を・・

 熊任は思考を切り替えた。

 味方が崩されて(なお)、生き残るための方策を考える。夜通し戦って、(ようや)く勝ちの流れになったのだ。

──こんな形で失ってたまるか!

 素早く馬首を返し、味方の救援に向かおうとする熊任の目に、日の光が入った。

──!

 思わず目を細めた熊任だが、それにより陽光に埋もれる影を捉えた。

「あれは!?」

──まさか、そんな事ってある?

 彼女は、影の先頭に見覚えがあった──。

「中隊は(まと)まれ! 今度こそ側面を突く!」

 勝機を認識し、熊任は気合いを再燃させた。





──勘のいい者だ。

 雁去病(ガンキョヘイ)は正面から向かってくる敵騎兵の指揮官に、そう思った。

──だが、そう上手くはゆかん。

臧超(ゾウチョウ)!」

「おうっ」


〈索冥の法、皓剛力〉


 馬を疾駆させながらの魔法は、臧超が確かに、並の者でない証左であった。

──ズルをしてる気になるな。

 身体強化で力が(みなぎ)るのを感じながら、ふと雁去病は思った。

「あまり(こだわ)るな。本命は孤立した三百の方だ!」

 部下に向かって言う。

──十中八九、首将級がいる。



 雁去病は敵の動きから幾つか当たりを付け、虎視眈眈(こしたんたん)と機会を(うかが)っていた。彼の意図を汲んだ裴植(ハイショク)がワザと崩れ、敵を釣り出したところを分断したのだ。

 最後は麾下の精鋭を臧超の魔法で強化して討ち取る──。


 その前に騎兵が立ちはだかったが、歯牙にかけるつもりはない。



 敵の指揮者は若い女だ。

 才気溢れる者の勇み足を感じ、雁去病はやや神妙な気持ちになった。

 両勢がぶつかり──。雁去病は繰り出される槍を退けるにとどめたが、臧超や麾下(きか)の者たちは、それなりに敵を討ったようだ。



──障害は消えた。

 思ったのは雁去病だけではなかった。

 丁度良く朝日を浴びる格好になって、日の出のそれに、気力の高まりを連想した。

 あとは三百と、そこにいるであろう指揮官を倒す。それで勝負の行方は、五分に戻してから幾らか此方(こちら)に傾くことになるだろう。


「大佐! 騎馬が向かって来ます!」

 部下の声に。

──!? どこか?

 雁去病は咄嗟に判断できなかった。

「太陽を背にしています!」

 言われて気付いた。

「問題ない。蹴散らせ」

 魔法による身体強化は継続している。今なら鎧袖一触(がいしゅういっしょく)とまでゆかずとも、先程の再現で終わる話だった。


 新手の騎兵と麾下が搗ち合う。

──!?

 隊の先頭の者が腕を斬られた。敵の先頭にだ。そして後続の敵によって突き落とされる。

──強兵か。

()なすだけでいい!」

 先頭の敵兵は手強いと判断。下手に攻めて反撃を食らうぐらいなら、守りに徹した方がいい。標的はこの騎馬ではないのだ。

 だがしかし──。敵の剣技が凄まじい。味方は防御と同時に体勢を崩され、後続の槍で(ほふ)られている。それは雁去病にも襲いかかる。


 カッ──!


 受けるまでもなくわかる剛剣に、雁去病は槍をあわせた瞬間、槍を捨て、その力を逃がして身を守った。

 すぐに剣を抜き、続く騎兵の攻撃を往なすが。

──これも手強い。

 次の敵も、また次の敵も、並の兵ではなかった。

──向こうも魔法を使っているか?

 三十ほどの数からも、そう考えずにはいられない。恐るべき精兵である。


 この会敵で麾下の何人かが犠牲となった。手傷を負った者ならもっとであろう。

──だが、まだ勢いはある。

 手痛いが、これでも標的に対して、騎馬の突撃は成立するはずだ。


 そう思ったのも束の間──。孤立した三百が分断していた兵を退けた。


 よく見ると、これも三十ほどの歩兵が味方を蹴散らすように暴れていて、彼らが味方を攻撃し、三百を助けたようだ。

「何だよ、あの動き・・」

 臧超が(いきどお)った声をあげる。

 それは異質に映った。何も、豪傑たちが無双してるわけではない。それなのに味方の兵は彼らを止められない。

「完全な新手だ──」

 雁去病が重苦しく言う。

 その意味は文字通りで、夜通し戦闘した疲れた兵ではなく、心身ともに充実した、今戦場に着いたばかりの兵といった姿だった。


──援軍が来たか!?

 普通に考えればそうなる──。しかし、それにしては数が少なく、且つピンポイントに要所を衝く真似(まね)など、果たして出来るだろうか?

「大佐。側面から来ます」

 雁去病の思考を中断する部下の声。

──最初の騎兵が立て直して来たか・・

 一瞥(いちべつ)して状況を理解した彼は。

「撤収する!」

 言って、麾下の一隊は方向を変えた。


 遺憾ではあったが、首将級を討つという勝ち筋が消えた以上、戦闘は避け、帰還を優先するべきと判断した。


「大佐。後尾が敵の騎兵にやられています」

──馬鹿な。

 雁去病が振り返ると、あの強兵たちが後ろから順に麾下に攻撃を仕掛けている。

──馬の体力か・・

 おそらく彼らもまた完全な新手だったのだろう。疲れてないのは馬も同じで、駆ける速さにそれがあらわれた形だ。


「・・・・・・」

 どうすべきかはわかる。しかるに、雁去病の矜恃がそれを認めない。

 この状況で。

「私が足止めします」

 部下の一人が言って、返答を待たず、数人と隊列を離れ後方に向かった。

「・・・・・・」



 このあと敵を振り切るまで、雁去病は口を開かなかった。





「おう。無事だったか」

「すまない──。私としたことが敵に釣られてしまった」

 剛会(ゴウカイ)と合流した鵡望(ムボウ)は、反省の弁を述べた。

「して──、あの兵は恂門(ジュンモン)の予備兵か何かか?」

 自分たちの窮地(きゅうち)を救った兵の正体を鵡望は問うた。

「ハハッ。聞いて驚け、あれは鮑謖少佐が残した砦の兵だ」

「なんと!? いったい何処にいたのだ」

「さぁな──。あとで呼び付けて聞いてやるさ」

 剛会は続けて。

「無理に討ち取る必要はないが、楽に帰らせる訳にもいかん。せいぜいビビらせて、二度と汐径の地を踏みたくないと思わせてくれる!」

 そう言うと、全軍に体勢を維持したままでの北上を命じた。

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