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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第六章 ~魔女の睥睨、百里を翔る~

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第100話 ポジション

 斥候から報告と、脱走した(ユウ)国兵の証言から団匪(だんぴ)の位置と、予測される進行ルートが明らかになった。それに基づき、有利な地形で迎え撃つ方針となり、連合軍は移動を始めた。


 彼らが早早(はやばや)と行動を決断したのは、脱走兵より敵の内情を知り得たからだ。


──まこと賊の集団だったか!?


 建て前、方便の(たぐ)いでなく、真実の姿として酉軍は賊によって乗っ取られている。

 正規の軍人たちは組織を形作るためのパーツとして生かされていたが、それも既に置き換えが進んでおり、十割の賊徒となるのも時間の問題であった。そしてそのような事態になれば、敵の行動はエスカレートし、街ばかりでなく村々まで襲われることになると思われ、営みの火は消え、賊を討伐したとしても不毛の大地が残ることになる。


 断案、悠長に敵が来るのを待っている暇はないとなった。




 全軍が動くわけだから、当然、兵糧を積んだ輜重(しちょう)隊も動く。

 鮑謖も彼らと共に、ゆっくりと移動を開始した。


 途中の休憩時──。

「鮑謖少佐。貴方は今、輜重隊を護衛してる訳ですが──。この後、敵とぶつかる段階に()いて、自分自身でどうすべきだと考えますか?」

 徐厥(ジョケツ)から問われた。

 無論それは、当百と()われる鮑謖の戦力を期待すると同時に、彼女の先読みの結果を言外に聞いたものでもあった。

──どうもこうも。

 鮑謖としては、現状がベストポジションである。よって・・

「えー、私としては、このまま輜重隊の護衛を続けたいと思います」

 ほとんど考えることなく、きっぱりと言った。


 これに徐厥は小さく頷き。

「わかりました──。では、輜重隊の事はよろしくお願いします」

 それで話は終わった。





「高台は取らないでいただきたい」

 山單(サンタン)の言葉に。

「それでは不利になるだろうが。高低の差が勢いの差になり、結果、勝敗の差になる事ぐらい俺たちでもわかるぞ!」

 義勇軍の幹部が怒気を帯びた声で言った。

「はい──。そのまま戦いになれば不利です」

 山單はそれに落ち着いて応える。

 その様に何かを察したのか。

「まぁ、ひとまず最後までは話を聞こうではないか」

 別の幹部が、怒った者をなだめる。

「中佐殿。続けてくれ」

「はい──。我らにとって焦眉(しょうび)の問題は糧食の確保です。このままでは、とても次の街まで持ちません。そこで先日お伝えした連合軍を利用します。彼らが運んでくる輜重を、そのまま我々がいただくという寸法です」

「それと高台がどう関係する?」

 最後まで聞くという話は履行されなかったが、山單としては渡りに船の問いだった。

「敵は此方(こちら)に高台を取られまいと行軍速度を上げます。すると必然、足の遅い輜重隊は取り残されたような状態になるはずです。そこを別働隊で急襲し兵糧を奪取するのです。本隊の方は高台の敵を釘付けにしたのち、ゆっくりと後退します。兵糧を失った敵は追うこと叶わず、首都まで撤退するでしょう」

 山單は朗朗と語った。


 幹部たちは、しばしの間それぞれ考えるようにした。


「話はわかった。しかし、なぜ今になって言う。連合軍のことがわかった時点で、この作戦はできていたのではないか?」

「はい、考えはまとまっていました。ですが、作戦とはこういうものです。皆さんも、高台を取るつもりであったから、迅速な行軍を為し得たと思っております。指揮者の意思は兵に伝播(でんぱ)するものでもあります。(はな)から誘いのための行軍では、兵もどこかそれを感じ取り、それは軍勢全体としての気配にも表れます。敵に勘のいい者がおれば、看破されることもあり得ます」

 また山單は淀みなく言った。

 これに幹部たちは一応の納得を持ったようだった。


 しかしながら、山單の狙いは別のところにある。

 彼としては自分の存在価値を保つ必要があった──。



 既に、正規の軍人たちの半数が逃げ出していた。

 義勇軍の横暴な振る舞いに耐えかねてというのは勿論、指揮に関するもめ事の果てに殺害される事件などが起き、単純に生きるために脱走した者も多かった。

 これは山單にも、邪魔だとなれば、いつ起きるとも知れぬ話であった。

 では逃げ出せば良いかといえば、彼と彼の部下たちには監視が付けられており、その選択は極めて難しい状況だ。


 畢竟(ひっきょう)、山單は己がため、作戦指揮の実践に於いて、全体を把握する有能な指揮官を演じることにした。


 (もっと)もらしく語ったが、軍の気配云々(うんぬん)など、山單とてよくわからぬ。

 彼の経験で測れるのは数百の兵のそれであり、数千となれば別の感覚であろう。ましてや現状の一万の軍勢など、知るよしもない・・

 しかしそれがあるという前提で話を進めてしまえば、山單はそれを知り、気を配れる者として自身を演出できるという訳だ。



「それでは別働隊として千を迂回させます。それでよろしいですか?」

「わかった──」

「では、俺が行こう」

「狙い目としては汐径軍の輜重隊です。報告によると必要以上の蓄えがあるようです」

「全部奪ってもいいんだろう?」

「可能であれば、ただ時間を掛けすぎると本隊が動くやも知れません」

「わかってる」


 幹部たちと山單との作戦のやり取りは続いた──。





──この国はどうなってしまうのか?

 何度となく考える日々を過ごしたのは章友(ショウユウ)一人ではない。

 現在もこの反芻(はんすう)は変わらぬが、以前と今とでは、その(おもむき)は異なった・・



 兄、章昆(ショウコン)から使いが来て、手紙を読んだときは混乱した。

──兄さんは、汐径国を動かしたのか!?


 新天地にて兄は小さな店を開き、それなりに順調だと聞いていた。

 それもあって章友は章昆の事を特に心配しておらず、むしろ自分の軫憂(しんゆう)を共有してもらう相手として、兄の事を利用しているところがあった。

 章友のそれが影響したかどうかわからぬが、思いのほか兄は、弟と祖国を気に懸けていたようで。その商魂により上手く機会をとらえ、汐径の重要人物に郷里の混沌を伝えた。

 結果、汐径国は酉国に対して外交特使の派遣を検討するに至った。


 章友は、官吏(かんり)の立場を大いに活用し、そのネマワシに奔走する事になった。

──これは救いの糸口だ。

 聞くところによれば、梟国董公の乱を鎮めたのは汐径だという。かの国の力を借りれば、おかしくなった酉国を正常に戻せるかも知れない。

 章友は兄の作った切っ掛けに、一縷(いちる)の望みを持った。



 そうして海を越え、汐径国から特使がやって来たが、彼らの出してきた提案は酉国の中枢にとって衝撃だった。

『八角に侵攻している軍を全て賊として切り捨てよ』

 という内容で、端的に言えば。

『一万近くの同胞を見殺せ』

 という話なのだ。


 章友は、その内容を伝え聞き。

──このような話を酉国が決断できると思えん。

 商人たちが襲撃されたときも、批判を恐れ、厳しく取り締まることが出来なかった国である。どっち付かずで曖昧、中途半端な対応の果てに、自ら経済を壊した。

 出来物を切除するようにするやり方は、頭で理があるとわかっていても、酉人の気質として割り切れないのだ。

 尤も、捨てきれないという性情(せいじょう)だからこそ、章昆のように国を離れても尚、故郷を思い、行動に移す者がいるのも確かである。


 なんにせよ、返答を先延ばしにする祖国の姿を、章友は予測した。


 ところが事態は存外あっさりと動き、早々に汐径からの提案を受け入れる事に決まった。

 決まってみれば何のことはなく。早く決まって良かったと思うのは章友ばかりではなかった。皆も一様に、国の先行きに不安を(いだ)き、答えを求めていたのだと気付かされた。



 章友は、義勇軍を組織した団体や、その指導的立場の者たちを捕縛する手続きをしている。彼らも捕らえられ次第、厳しい処置が為されることになるだろう。


 章友の国に対する(うれ)いは消えていない──。

 されど今は、仕事に邁進(まいしん)することで、それをしばし忘れようとしていた。

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