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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章
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第83話 心の拠り所

「なぁ、お前がこれをやったんじゃないってんなら、その証拠にこの状況を説明してくれよ、ジーン」


 俺は未だ見えないこの状況の説明をおそらくこの中で唯一まともであるはずのジーンへ求める。


「拙者だってあんまり分かってないんよー。なんか戦ってたらそっちの嬢ちゃんが喚きだしたんだよ。んで、急にそっちの狐の子と喧嘩し始めたの」


 ジーンはミユ、サニアと順に指を指して大まかに説明し始める。


「喧嘩だと?ミユとサニアが?喧嘩でミユが刀を抜いたってのか?」

「ざっくり言うとそうなのかな。まぁ狐の子は特に何も言い返したりはしなかったけど、ある意味売り言葉に買い言葉って言うやつなのかね」

「サニア、そうなのか?今まではお前たちがそんなに仲悪いようには思わなかったんだが...。何か抱えてるなら話してくれないか?」


 俺は当事者というサニアに酷だとは思うが、事情を聞く。だが、またしてもミユがまるでサニアの言葉を遮るように叫び出した。


「やめてっ!言わないで!!もう殺してよっ!!」

「ミユ...」


(あんまりやりたくなかったけど、これじゃ話が進まない。ごめんな、ちょっと寝ててくれ)


 俺は何も告げず仲間の女の子に手をあげることに罪悪感を覚えたが、後でどうとでも殴られようと決めミユを力づくで昏倒させた。


「くっ!いやっ!い...や.....」

「おっと」


 ミユは最後まで何かから逃げるように喚きつつ気を失った。俺は倒れ込むミユを支えて壁にもたれかけさせ、“無限倉庫”が毛布を取り出して肩から掛ける。


「ごめんな、ミユ。それじゃすまないけどサニア、説明してくれないか?」

「うん......」


 それからゆっくりと話し始めた内容は予想だにしないものだった。


 発端はミユが唐突に叫び出したことから始まるらしい。だが、最初はジーンに向けての言葉だったそうだ。しかし、それがやがてサニアへと矛先が変わり、ついにはとんでもないことを言ったそうだ。


「わたしは死んだ方がいいのかな.......?キノとかテミスもミユもみんなわたしより強いもん.......。あの夜、主さまに受け入れて貰ったこと、すごく嬉しかった.......。でも、それはミユを傷つけたかったわけじゃない......。ミユも大切な仲間だから......」

「だからそんな思いをさせるならわたしはってことか」


 サニアは俺の言葉を聞いて小さくうなずく。見るとサニアも内心を吐露して気が抜けたのか涙が溢れていた。


「でも、わたしはミユとも仲良くしたいっ......。離れ離れなんてもう嫌だよっ.......。主さま、ごめんなさい.......。わたし死にたくないっ......」

「当たり前だろうが。誰がなんと言おうとお前らを死なせるか!」


 涙ながらのサニアの告白を聞いてあの夜以降もサニアが辛い思いを抱え続けていたこと、それにミユも色々抱えていたことがあったこと。もしかしたらもっと色々抱えている物があるのかもしれない。


 それはキノやテミスでさえも。


 俺はずっとなんだかんだ彼女たちは強いと思っていた。それはイントの町での彼女たちを見たからというのもあるかもしれない。俺の弱さを受け入れてくれたことで、俺は自分ばかりで彼女たちの内心に目を向けられていなかったのだ。


「主さま、苦しいよ.......」


 俺はついサニアを強く抱きしめる。きっとまだ彼女は抱えているものがあるのかもしれない。でもそれは催促して聞き出すものでもない。それにサニアだけじゃなくミユたちの抱えているものも俺が背負えるように強くならなければ。


「ごめんごめん、それじゃミユを起こすよ」


 俺はそう言ってサニアを離し、小さく寝息を立てるミユへと近づく。気を利かせているのかジーンはミユの反対側の角で腕を組んで壁に背を預けていた。


「ミユ、起きろ」


 先程ミユにかけた“賜与魔法”でゆっくりと起こす。なるべく彼女に負担を与えないように、慎重に。


「んぅ...。何、今何時...?だ..れ。カ、カイトくん?!」

「待ってくれ。俺の話を聞いてくれないか、ミユ」


 ミユは予想通り俺を視界に収めた途端逃げようともがく。俺は可哀想だとは思いつつも逃げようとしていたミユの腕を掴み、なるべく声のトーンを荒げないように諭した。


 だが、何も聞きたくないとミユは勢いよくかぶりを振る。もう先程のように急に叫ぶことはなくなったが、やはりサニアと喧嘩したことを後悔しているのかもしれない。


 正直、聞いてみないことにはミユが何を考えているかはわからない。俺も心を読めるわけではないからな。“領域選定”や“宣実強制”などを使えば無理やり聞き出すことも可能ではあるが、仲間にそんなことをしたくない。


「ミユ、悪いけどサニアから話は聞いた。でも、それでミユをどうこうしようなんて思ってないから心配するな」

「っ......」


 ミユは俺がサニアから話を聞いたと言った時点で動きを止めた。ミユから絶望の匂いが強く感じられる。これは“超嗅覚”が成長したことも理由ではあるが、おそらくはその感情が俺の最も強く感じられる感情でもあったからだろう。


「ミユ、一応頭ごなしにお前を責めることはできる。でも、俺にはそんな資格なんてない。何しろ俺こそお前たちに支えられてるんだからさ。だからってわけでもないが、俺で良かったら話してくれよ。その抱えてるもんをさ。力になれるかは分からないけど話せば楽になると思うぞ?」

「.........」


 ミユは答えない。だが、先ほどまでのように暴れたり喚いたりというのは無くなった。それでもここでミユを手放してしまえばきっとずっとミユに顔向けできなくなる気がした。


「なぁミユーー」

「うるさいっ!うちの気持ちなんて何にも知らないくせにっ!」

「...ここでごめん、とか言ってもダメなんだろうな。うん、ミユの言う通りそうだったのかもしれない」


 ミユの肩がびくっと跳ねる。ここで歯の浮く台詞でも吐ければ格好も付いたのだろうが、俺にはやはり難しそうだ。


「きっとミユたちに頼りすぎてたんだ。甘えてたんだと思う。だからさ、その恩返しってわけでも無いけど少しはミユたちの背負ってる物を俺にも背負わせてくれよ」


 これで少しはミユの気も楽になるだろうか。彼女は何を求めていたんだろうか。言い方は悪いかもしれないが、もしかしたら俺の断罪を求めていたのかもしれない。


 もしそうだとしたらきっと彼女にとっては辛いだろう。それでもただ彼女を悪者にしたくはなかった。


「ぅぅ...っ...」


 ーーそれからミユは静かに涙を流しながら、訥々と抱えていたものを話してくれた。


 それは見知らぬ土地であれよあれよという間に持ち上げられたなら、少し考えれば誰しもが抱えてもおかしくないだろう思いだった。


 きっと鉄の意思でその思いに蓋をし続けて来たのだろう。同じ日本から来たものとして俺も状況が状況なら同じ思いを抱えてもおかしくなかっただろう。


「辛かったよな、苦しかったよな。もう大丈夫だから、俺が側にいるからさ」

「ぅああぁぁぁぁ.......」


 俺はミユが落ち着くまでずっと抱きしめていた。







 ーーーーーーーーーーーーーーーー







 泣き疲れたのかミユは俺の肩の上でまた眠ってしまった。今はサニアがミユを見てくれている。考えればミユもサニアもまだ子供と言ってもいい年齢だ。


 ミユは高校生だし、サニアも15歳という。まぁ獣人は人間よりも成長が少し早いからもう少し大人なのかもしれないが、それでも大学生の俺よりかは若いだろう。


 本来なら俺がもっと見ていてあげたいのだが、いつまでも奴が放っておいてくれるとは思わない。


「待たせたな、ジーン」

「いいのよいいわよいいってことよん。それに拙者も戦う気は失せてたしねん」

「そうなのか、お前のことなら殺せるときに殺す、とか言っても何もおかしくない気がするがな」

「ひどいでやんす!拙者は武器を抜かず戦意を持たぬ者には銃を抜かないって決めてるだにゃん。だからあの時君が来てくれたから彼女を撃たずに住んだぜん」

「なるほどな、まぁ彼女たちに傷を負わせてたらお前は今頃この世に居なかっただろうから、賢明な判断だな」


 俺はいつやつと戦いが始まっても対応できるように体の重心を落として拳を握る。刀が無くなってしまった今、己の体以外武器は何もない。


「待ちーなさい。拙者は君とは戦う気ないでやんすよ。セキアルの兄貴に勝つやつに誰が挑むかっての」

「は?じゃあどうするんだよ」

「いやそれなー。ま、順当に考えればここを通すのが一番かね。拙者は見なかったことにするさー」

「【強欲】の臣下の癖に主人を守らないとはとんだ不忠義者だな」

「確かに旦那にはこの世界に召喚してくれた恩義を感じてるけどさ、命あっての物種でしょ。それに兄貴と拙者で連戦するのは流石の君でもキツくない?」


 その瞬間、まるでジーンの身長が伸びたのかと思うほど彼の威圧感が高まる。


「へぇ」


 それに対して俺も負けじと“威圧”を放つ。あのどこぞのカフェではしてやられたが、今はもう奴が強いことを知っている。いくらミユたちを見逃してくれていたとはいえ、そんなやつを前にして気を抜く方がおかしい。


「あーやめやめ、やっぱ勝てる気しねぇわ。俺は圧倒的勝利しか興味ないの。ギリギリのギリちょん辛勝なんて望んじゃいなーいの」

「あくまで俺には勝てるつもりか」

「あったりまえの前ちゃんじゃーん。でも、こっちもボロボロなんてそんなの面白くありまちぇーん。なので拙者はここからドロンいたす!さらば、友よ!盟友よ!」


 ボンッという音と共に煙を出す玉を地面に投げつけた。視界が一瞬で白く染まる。


「ちっ!古典的な!」


 俺は“雷嵐魔法”で煙を集めすぐに視界を確保する。しかし、そこにはすでにジーンの姿は無かった。


「逃げられたか...。まぁ邪魔しないならそれでいいか」


 それにあいつはまたどこかで会う気がする。その時に奴との決着はつければいいだろう。


 俺はようやく落ち着いたこの部屋でゆっくりすることにした。ミユと彼女を預けている間に疲れてしまったのか、姉妹のように寄り添い眠ってしまったサニアの2人を眺めながら。

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