第84話 カイトVSセキアル『前編』
俺とセキアルは同時に動き出す。凄まじい連撃の嵐に火花が飛び散る。
セキアルは真っ直ぐ俺の腹に向けて槍を突き出した。俺はそれを刀の腹で払い、流れるようにセキアルの槍に沿って逆袈裟斬りを放つ。
セキアルはそれを体を後ろに逸らすことで回避し、その勢いで反転して顔目掛けて回し蹴りを放ってきた。俺はそれを同じように体を逸らして躱す。
だが、セキアルはさらに槍を思い切り引き下げ、突きの前動作に入っていた。躱すことは不可能だと判断した俺は全て弾くつもりで槍の穂先へ神経を尖らせる。
その瞬間、俺に向けて起こった台風のように無限かと思えるほどの突きが降ってきた。突いて引く、そしてまた突いて引く。この動作がどれほど筋肉に負担をかけるのか分からないほど初心者ではない。
雨のように降り注ぐ突きを弾き、躱し、見極める。そして数発、いや、十数発掠ったあたりで一瞬筋肉の弛緩が見えた。
(ここだっ...!)
俺は槍雨の中を一歩進み、斜め上から叩きつける。流石のセキアルをこれを無視して“磊落”を続けるわけにも行かず、俺の刀を受ける。
「クッ!?」
だが、俺は筋肉の力が一瞬緩むタイミングで振り下ろしを放った。そんな状態では受けることはできても衝撃を完全に流し切ることなど出来はしまい。
たたらを踏むように二歩三歩と後ろに下がるセキアルを追って、俺はクルッと一回転する要領で横薙ぎの振るいに遠心力を乗せて再度叩きつけを放った。
今度は先ほどより強く、完全に力を乗せた一撃だ。
「はぁぁぁ!!」
「ガッ!?」
これも受けられてしまったが、耐えることは出来なかったようで、セキアルの体が一瞬浮く。そのせいで踏ん張ることが出来ずに数十センチほどセキアルが飛んだ。
「槍一本で対処できるとは随分と俺も舐められたもんだな」
「ふふ、腕一本の膂力とは思えませんね。少し様子見をしようと思いましたが、確かに失礼だ。では、ここからは私も全力で行きましょう」
そう言って背中に手を回し取り出したのはイントの町でも見たあのハルバードだ。右手に持つ穂先の細い槍より短く、長さは2/3ほどしかない。穂先も右手の槍より短いが1番の違いはやはりそのすぐ下に剣呑と座る斧刃だろう。
だが、やはり斧のみの武器ではないためか、俺の知っている斧刃より少し小さい。男にしては小さめな顔立ちのセキアルとほぼ同じくらいだ。
それでもその刃から光る銀色の煌めきは他の戦斧などと比べても武器としてのグレードが劣ることはないだろう。
名前:細銀槍
Gr:達人級
純銀製の穂先の細い槍。槍としての切れ味は凄まじいが、銀製なため脆く壊れやすい。だが、真の使用者が持てば無類の武器と化すだろう。斧銀槍と夫婦武器。
名前:斧銀槍
Gr:達人級
純銀製の斧と槍を併せ持つ武器。柄が短く取り回しやすいが、銀製なため脆く壊れやすい。だが、真の使用者が持てば無類の武器と化すだろう。細銀槍と夫婦武器。
「夫婦武器ねぇ。おそらく銀で出来ている割にえらく硬いと思ったらそういうわけか」
「おや、もうバレてしまったのですか。でしたらいいでしょう、これは我々銀族、あぁ、銀抄族に伝わる古い武器でしてね。グレードとしては達人級とそこまでレアなものではないのですが、少し特殊なものでして」
セキアルは右手の槍を持ち上げながら説明する。
「結論から言ってしまうと我々銀抄族以外が振るうとすぐに折れて壊れてしまうのですよ。しかし、我々が持つとそれは不壊の武器へと変貌する。効果の程は...先程身を以て知っていただいたので割愛いたしましょうか」
「うるせぇよ。おら、他の仲間も待ってんだ。さっさとケリつけてやる」
「せっかちですね、私はまだ手が少し震えているというのに」
「はっ!そりゃ好都合だ!」
俺は震える左手を意志で押さえ込み、刀を握り直す。そしてセキアルへと攻撃を放とうとした瞬間、俺の視界の中に一つ、銀の点が浮かび上がった。
ギャリィィィィィン!!!!という音を響かせて俺の目のちょうど横を銀の槍が通り過ぎて行く。あと少し俺が刀で逸らすのが遅れていたら左目から脳味噌まで綺麗な通り道が出来るところだった。
今のは“予知”がギリギリ働いたから咄嗟に躱すことが出来たが、次もうまく行くとは限らない。というよりも行かないだろう。
なぜならセキアルの攻撃と“予知”が同じタイミングだったからだ。
本来の“予知”スキルであれば、未来視のように事象が見えて、その後、デジャブのように実際の出来事が“予知”通りに起きるというスキルだ。
だが、今セキアルは俺の“予知”スキルに追いついたのだ。尋常ではない攻撃スピードである。
そしてセキアルはその突きだけでは止まらず、今度は左手に持ったハルバードで下から掬い上げるように振るってくる。
俺はそれを一歩踏み出すことで間合いを殺して斧刃のすぐ下の柄を踏みつける。そして槍を払った勢いもそのままにセキアルの左脇腹から斬り裂くように刀を振るった。
その一振りはセキアルの服を攫って間一髪で避けられてしまった。さらにセキアルは踏みつけているハルバードを引っ張り上げることで俺のバランスを崩しにかかる。
俺はすぐさま力を抜き、来たる衝撃に備える。だが、いつまで経っても俺をハルバードの上から退かせるような衝撃は来なかった。
だが、その代わりとでもいうかのようにいつの間にか引き戻した槍で俺を狙っていた。
「こういう使い方も有るのですよ」
側でセキアルが何か呟いていたが、耳に入ってこない。なぜならいつの間にか槍を回転させ始めた。
「“流転”」
本来、敵からの攻撃から身を守るために使うその武技が今は俺専用の回転ギロチンのようになっている。
「くっ!」
俺は咄嗟に後ろへ下がる。俺を退かせようとした勢いを利用してカウンターを行おうと画策していたが、そうも言ってられない。
「逃がしませんよ」
どこかニヤついたような声と共に俺の体が一瞬止まる。背中からチクリとした痛みを感じて振り向くと、そこにはセキアルのハルバードがあった。それは俺の体を斧刃の内側で留めている。
「あっけないものですね」
目の前の刃は今も俺を切り裂こうと迫って来ていた。俺はそれを弾こうと刀で受け止め...ようとした。
(まずいっ!!)
これはおそらくなんのスキルでも無いかも知れない。“皇之眼”に内包された“予知”でもおそらくないだろう。これは純粋な戦闘感だ。
俺はとりも直さず回転刃から逃れる。だが、セキアルは好きだらけの俺を追撃することは無かった。
「さすがにそう簡単には受けてくれませんか」
「あれ受けてたらまずいのだけは分かった。刀で受けることさえ」
「まぁそうでしょうね、受けてくれていればあなたの刀はどこか遠くへ飛んでいっていたでしょうから」
なるほどな、原理が見えた。見えてみれば単純だ。回転する槍に受けた刀が巻き込まれてそのまま武器折りをする攻撃だったんだろう。
だが、それにしては隙が大きいし、かと言って逃げられないほどガチガチに固められていたわけでもない。
一体何がしたかったんだ?
「お前は何がしたい?俺が言うのもおかしいが今のは仕留められただろ」
「単純ですよ、そんなに簡単に終わられてはつまらないでは無いですか」
ちっ。俺で遊びやがって。全力なんてどの口が言ってやがんだ。
「後悔させてやる」
俺は魔法を解禁する。“獄炎魔法”でセキアルの左右に直径30センチほどの黒いサークルを作り出す。そしてそこから同時にセキアルに向けて黒い炎を吹き出す。
「ぬっ?!」
セキアルは咄嗟に腕を交差させて両手に持つそれぞれの槍で“流転”を発動させ、黒き炎を防ぐ。しかし、俺はそこで攻撃を止めることなどせず、さらなる魔法を放つ。
「弾けろ」
俺は“雷嵐魔法”で圧縮した風の球をセキアルの後ろに発生させる。それを黒き炎を防ぐので精一杯なセキアルを弾き飛ばすために爆発させた。
「カァァァァ!!!」
ボフンッ!!という音と共に風の球が弾け、セキアルの上半身の服が弾け飛ぶ。しかし、セキアルは気合で耐えたのか、その場から一歩も動かなかった。それと同時に俺の魔力も尽きたのか、黒炎サークルも消えてしまった。
俺はその後の展開のために備えていた魔法を解き、反撃に備えてセキアルの一挙手一投足に目を向ける。すると炎を防ぐために使っていた2本の槍を下ろし、上半身から薄く血を流したセキアルが口を開いた。
「ちっ、あれを気合いで耐えるとかバケモンかよテメー」
「流石に痛かったですよ。ふふ、ここからはもうお遊びは効きませんね」
俺は徐に動き出す構えを見せたセキアルに対抗するため俺も刀を構え、頭の中で次に発動する魔法をイメージしておく。
「それでは本番。行きますよ!」
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