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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第4章

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第53話 〜1年前〜

「お父様、イラミス・リースヴェルト。ただ今戻りました」

「うむ、よく戻った娘よ。して、どうであった?あの小僧は」

「無事、宿敵を倒し、『超越』も果たしました。しかし、彼が救おうとしていた少女は...」

「...そうか。小僧もあの娘も息災ならひとまずそれでいい。...ふむ、ラミーよ。顔に書いてあるぞ?惚れたか」

「お、お父様?!何を...?!」

「ふんっ、お前はオレの娘だ。考えていることくらいわかる。となれば、あやつを殺さねばならんな」

「お、お父様!!ダメですわよ?!!」

「冗談だ。...さて、前置きはこのくらいにしておこう。ラミーよ、内容は魔法具『テレット』で伝えた通りだ。帝国周辺の小国が手を組み始めている」

「はい、お聞きしております。ただ、直接的な攻撃はまだ受けていないのでは?」

「うむ。だが、少々経緯が不穏でな」


 あたしも皇族の端くれだ。皇城に帰ってくるまでに色々調べていた。


 そもそも帝国は王国、宗主国に並ぶ大国だ。流石にこの世界はこの3国で成り立っているわけではないため、いくつもの小国が存在するが、いくら小国同士が集まろうと大国の敵ではない。



 その理由は国のトップにある。それは単なる戦力、軍事力の差だ。大国のトップは『超越』している上に、経験と歳を重ねている。


 それに反して小国のトップは『超越』していないただの人間だ。


 この世界において『超越』とはそれほど彼我の差がある。『超越』していない者が幾百集まろうと『超越』した個には永遠に敵わないのだ。


 この世界の住人はそれを言われずとも理解している。たとえ『超越』の存在そのものを知らずとも。


 ましてや小いさくとも国のトップであれば存在は確実に知っている。にもかかわらず手を組み、帝国に攻め入ろうとしているという。


「おそらく、裏で手を引いている者がいる。それもオレたちのような存在を恐れんやつだ」

「あたしもその可能性は考えておりました」


 そう、考えられる限りそれしかありえないのだ。


 超越者には超越者しか相手ができない。ならば、バックにいる者は超越者。そう考えるのが妥当であろう。


「今のところ動きはないが、周辺の警備は厚くしている。ラミー、お前もすぐに動けるようにしておけ。なんならライドに訓練でもつけてもらえ」

「えぇ〜、ライド...」

「お嬢、なんでそんな嫌そうな顔するんですか...」


 嫌そうな声を上げるけれど、あたしはカイトの力になれなかったことをとても後悔していた。なので、言われなければあたしから修行を願い出るつもりであった。






 それから半年ほど小国とのにらみ合いが続いた。争いは各地の小さな村などで起きるものの、基本的にはそこに常駐している兵士が諌める。


 そんな小競り合いとも言えないほど小さな争いが続いていたこともあり、段々とあたしたちは小国に対する警戒がおろそかになっていった。


 また、当のあたしは戦争のため、国のためというよりもカイトのために修行により一層力を加えていた。





 そんなこんなで帝国に帰ってきてから、もうすぐ1年が経とうとしていた。

 未だに小競り合いが続くものの大きな動乱は起きていない。


 かといって大国が小国を攻めるのも悪手。圧倒的に蹂躙できるがいわゆる弱いものいじめになるからだ。それに何より他の国、特に王国に付け入る隙を与えてしまう。


 そういったこともあって完全に小競り合いを消すことが出来ず、それにしては帝国側の被害は無いに等しいので、最初の頃に抱いていた危機感は皇やあたし含め皆次第に薄れていった。


 ーーこれが奴らに取って望んでいた結果だと知らずに。


 ーーあたしたちが大国であることにあぐらをかいていたが故に。






 あたしたちの国、帝国ヴェルトは王国イングラスの東側に位置している。そして、この一年を経て獣人国となったアライアは王国の西側である。


 今回、帝国に対して攻勢を取った小国は、今判明している範囲でヴェルトの北東側から南東側までの約五ヶ国である。


 またこの五ヶ国いずれもが、ここ数年で小国ながら力をつけ始めた国だった。しかし、彼らは小国、やはり大国には敵わない。その油断が今回の事件を招いた。


 なんと先日、大々的に五ヶ国が同盟を結び帝国に対して宣戦布告した。


 それと同時刻、五ヶ国に面する帝国領の町が一斉に占拠され、その土地にあるものは人を含め、ほぼ全てが蹂躙された。


 その中には超越した大隊長が駐屯していた大きな駐屯地があったにもかかわらず、5つの町は一晩で異国の地へと変えられたのだった。


 この情報は大隊長の隊員が死に物狂いで馬を走らせ持ってきてくれたおかげでなんとか完全に対処が遅れたわけではなかった。


 しかし、痛々しい先手を取られてしまい、この情報を持ち帰った隊員は皇に知らせた後、傷もひどかったためすぐに医務室へと運ばれた。





 今回の世界の常識を揺るがせた事件は後の対帝国戦争へと続いたこともあり、『界乱の一手』と呼ばれることとなる。







 ーーーーーーーーーーーーーーーー







「お父様!町が!国がっ!」

「慌てるなっ!ライド、今一度状況を説明しろ」

「はっ!現在、隣国に一番近かったセルバ領、ナヤメカ領、ヒトス領、デンメリ領、そして、大隊長ゴメスの駐屯していたラリノ領全てが占拠されました。奴らは依然、ラリノ領を拠点とし他4領から奪われた物資で軍備を整えた後、奴らはそのまま合流すると共に、ここ帝都リンヴェルトに向かっております。また、奴らが通った町は1つ残らず何かが落ちてきたかのように巨大な穴が見受けられます」

「ふむ、奴らがリンヴェルトに来るまでどのくらいだ?」

「はっ!解析班によると、このままのスピードでいけば3日以内にはリンヴェルトにさしかかると」

「なるほど。ライド、すぐに部隊を編成しろ!部隊ナンバーは分かっているな?.....危険度Sだ。当然、オレも出る」

「はっ!了解しました」





 彼らの判断は非常に迅速で正しかった。


 ...これが普通の戦争であれば。


 この世界は国のトップの戦闘力がそのまま国家の軍事力につながる。それはこういった戦争の先陣を切るのが全てトップだからだ。


 でなければ、他国からまともに戦う気がなく正々堂々から逃げた卑怯者の国という誹りを受ける。


 だからといって、国の守りを疎かにしてはいけない。そのためトップの周りもトップに準ずる強さを秘めている。


 結果、これらをどれだけ揃えられるかで国の大きさが変わってくるのだ。



 次の日、早急に部隊を組んだゼルギスはライド率いる近衛部隊とイラミス、第7〜10部隊を城とその周辺の守りに充て、帝都を出発した。


 また、攻勢部隊はゼルギスのいる第1部隊を主力として第2、5部隊、第3、6部隊を左右から進ませ挟撃する進路を取った。


「お父様、今回は何か従来の戦争と違う感じがします。くれぐれもお気をつけ下さい」

「お前がそういうならそうなのだろうな。相分かった。聞いたか、者共!我が国の天使がお前ら程度の奴らも心配してくれているぞ!」

「「「オオーーー!!!!」」」

「もうっ!お父様も皆さんもやめてっ!」

「ふふっ、愛いやつよな。...気を引き締めていくぞ、我らが同胞よ。たかだか底辺国が偉大なる帝国に刃を向けたことを後悔させてやれっ!!!」

「「「ウォォォォォーーーーー!!!!」」」





「行っちゃったね、ライド」

「はっ、皇なら必ず勝利するでしょう」

「うん、そうだと良いんだけど。でも、あたしたちも休んでられないわ!ちゃんと城を守りきらないと!」

「そうですね。ーー全員!配置につけ!ネズミ1匹見逃すなよ!」






 遠くで火柱が上がる。


 やはり今回の戦いは何か違う。本来なら明日の昼ごろ敵軍との衝突だったはずだ。


 しかし、軍が出発してから半日ほどで接敵してしまっている。

 不慮の事態に備えて斥候も送っていたのだが、殺されていたのだろう。また、解析の内容を信用していたことで接敵場所にズレが生じた。


 開戦場所は帝都からそう遠く離れていない街で、避難民が帝都に溢れかえっている。


 あたしは言いようのない悪寒に体を震わせ、自身を抱く。


「...大丈夫、お父様は強い、ライドも。それにあたしだってカイトに追いつくために、カイトの力になるためにたくさん訓練したんだから...」


 遠くの戦いは日が沈むまで続いた。








 その夜、医務室では不穏な影が1つ蠢いていた。

 その形はとてもじゃないが人間とは言い難い。


 二本足で歩いているが、上半身は弾け飛んでおり、その場所からは幾本もの触手のようなものが突き出て暴れて、どこから出しているのかわからない叫び声をあげていた。

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