第54話 動き出す惨戦
な、なんかあんまりラミー編受け良くない...?
「なに?医務室で騒ぎだと?隊員を3人ほど派遣しろ。今あまり些事に人は割けん」
「いえ、すでに数人派遣しましたが、誰一人帰ってきていないのです。1人目を送ってからもう1時間は経っているのですが...」
「...なに?それは確かに異常だな。わかった、中隊を派遣しよう。報告ご苦労」
「はっ!ありがとうございます」
その時、突然作戦室の扉が勢いよく開かれた。
「ライド隊長っ!!大変です!医務室から魔物が多数現れました!」
「なんだとっ!!総数はどれくらいだっ!」
「数え切れませんっ!奴ら、医師や偵察に行った隊員たちを食いながらこっちに来てます!」
「ちっ!ワント!俺たちもすぐに出るぞ!」
「はっ!」
俺はすぐに武器を背負い部下のワントと部屋を出る。そのまま医務室へ向かおうとしたが、その道は魔物や生気を失った隊員で埋め尽くされていた。
「リッポっ!!何してんだよっ!早くこっちに来い!!」
「アアァァッッ」
「ワントっ!離れろ!」
「がぁぁぁぁっっ!クソッタレがぁぁ!」
まるでゾンビのようだった。かつて隊員だった彼らは生気を失った顔で近づいてくるなり噛み付いてくる。
「くっ!今は一旦退くぞ!目に入る怪我人を連れて謁見の間まで撤退しろ!ここじゃ狭すぎる!」
(お嬢はどうなった?!お嬢の護衛につけていたやつから連絡が入っていない...!)
『ラ...ド...隊長...城...が、魔物で...』
「ダリラかっ?!状況は分かっている!すぐにお嬢と部隊員全て謁見の間に向かわせろ!」
タイミングよくお嬢の護衛を任せていたダリラから入った報告に、俺は通信が悪いのも気にせず要件を伝え負傷したワントを肩に担ぎ謁見の間を目指す。
しかし、やっとの事で謁見の間にたどり着いた俺たちは、さらなる絶望を目撃した。
詰めれば300人以上入れるはずの謁見の間は、余すところがないと思えるほど真っ赤に染まっていた。
そして唯一、皇だけが座ることを許される玉座には1人の女が座っており、その後ろにはうず高く死体の山が積まれている。
「おぉ〜、ようやくきたのぉ。待っておったぞ、ライドとやら。こやつらバカみたいにお主が来れば勝てる!などとほざいておったからのぉ。楽しみにしておったんじゃ」
そう、能天気に話す女は一見して分かるほど人間には見えない。
頭からは左右に二本の青いツノが生えており、肌はまるで死人と言われても納得できるほど真っ白。対照的に、背中には黒い翼が生えており、そのアンバランスさにいっそ吐き気を催す。
「...貴様、誰だ?すぐにそこから降りろ!その玉座に座すは天上天下、我らが皇のみだ!」
「...ふーむ、もっと他に言い方はないのか?どいつもこいつも同じようなことを...まっことつまらぬ」
すると、そこにお嬢を抱えたダリラとその部隊員が入ってきた。
「ライド!無事だったのね!」
「お嬢!よくぞご無事で!」
「状況は最悪よ。あたしに付いてくれてた人はここにいるだけになっちゃっ...な、にこれ」
「ええ、最悪です。こちらの部隊も今残っているのは我ら近衛部隊の数十人のみです。そして、私もここにきた時にはこうなっていました」
女は玉座に肘をついてこちらを睥睨しながら笑っていた。妙に様になっているのが腹立たしい。
「おお!!めいんでぃっしゅがきたのぉ!!そうじゃよ、お主を待っておったんじゃ!なんだったかのぉ...あぁ、そうじゃイラミス・リースヴェルトじゃ」
「なっ貴様っ!よりにもよってお嬢が狙いかぁぁぁぁぁ!!」
ライドは怒りのまま女に対し剣を抜き、いつでも最速で最高の攻撃ができる態勢をつくる。
「まぁまぁそう頭に血を上らせるな。まだわらわのことを何も知らんじゃろ?知ってからでも遅くはないと思うがのぉ」
「...ならさっさと言え。貴様は誰だ?」
「冷たい男よの。まぁいいじゃろ、震えて聞くが良い。わらわは【色欲】の魔王、セレスティアル・ドゥイ・ヴィンガー。故あって今はある魔王と共闘しておる」
「なに?貴様が【色欲】だと?男ではなかったのか?」
「古い、古いのぉ。あんな出来損ないなどとうに殺してしもうたわ」
もともと魔王について存在が知られていたのは4人、その中でもどういった人物かの情報があったのは【色欲】と【暴食】だけだった。そこでは【色欲】は男のインキュバスだったはずだ。
「わらわのことについて事細かに話してやりたいところなのじゃが、今は忙しくての」
「あぁ、ちょうどいいな、俺も忙しい。国のためにも皇のためにも、そして死んでいった部下のためにも!貴様は生きて返さん!」
ライドは残った部下にラミーを守ることとホールに向かってきている魔物を倒すことを指示し、セレスティアルに剣を向けた。
「ライド!気をつけて!あの女相当強いわ!」
「ありがとうございます。お嬢は彼らを援護してやって下さい!...お嬢まで戦わせてしまって誠に申し訳ありません...」
「いいのよ。あたしもみんなを守りたくてこの一年いっぱい訓練したんだから!」
「ありがたきお言葉っ!」
ライドは部下たちと今一度覚悟を確かめ合い、互いの敵へ視線を戻す。
ラミーと部隊員は階下から聞こえる大量の足音と呻き声に向けて。そして、ライドは未だ余裕の笑みを崩さないセレスティアルに向けて。
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『カイ....ト...ご、めん...ね?....たす...け......』
「え...?...ラミー?ラミーッ?!おいっ!返事してくれっ!ラミーっ!!」
「主さまっ?!どうしたのっ...?!」
「わからない...でも、ラミーがまずいことだけはわかる!」
俺は着の身着のまま部屋を出て、カイニスに少しの間外出するとだけ伝えて城を飛び出る。
俺はこの一年、“転移”の修行を後回しにしていたことを心底後悔した。
「こんなことなら修行しとくんだった...」
「今嘆いても仕方ないわ...。急ぎましょう、主さま...」
「あぁ、行くぞ!」
俺は馬も使わずキュケの森に向けて走り出す。この辺りはこの一年で散々歩き回ったので地理もわかる。
さらに俺のこのわがままにサニアだけでなくキノやテミスまでついていくと言ってくれた。だが、『超越者』は馬より速く走ることができる。
だからテミスの気持ちはありがたいが、城で待っていてくれと伝えるとなんとテミスも超越していると言うのだ。
「みんな、ありがとう」
「何言ってんの!いつも助けてもらってばかりなんだから、たまには人に甘えな?」
「助けたくとも助けられない人を見るのはもう嫌ですから」
みんなには感謝しても仕切れない。俺はみんなならついてきてくれると信じて、魔物も全て無視して全速力で森を抜けた。
それから、ほぼ丸一日休みなく走ったことで、俺たちは帝国のンヌビタス領に着いていた。
ンヌビタス領は街も人も傷ついているものは1つもない。だが、人は減り明らかに閑散としていた。俺はその内のたまたま見かけた住人の1人に話を聞いた。
「今って、帝国の様子はどうなってるんですか?まずいことになってるとだけ聞いたんですけど...」
「お、おう。あんたら傭兵かなんかか?そうは見えんが...。ま、まぁいい。今な、帝都の方が魔物の軍団に襲われてるってんで急いで逃げる準備してんだよ」
「魔物の?!どうやって帝都まで...」
「そりゃあ知らねぇが、なんとか戦争の前線にいる皇様は善戦してるって聞いたぜ?ってことはなんかあったんじゃねぇか?」
「は?皇様が前線に?!なんで?!」
「は?そりゃ当たり前だがよ。戦争っちゅうもんは皇様が引っ張って行くんだよ。あんたそんなことも知らねぇで傭兵なったんか?...これだから、若ぇもんは。とりあえずオラは逃げるからあんたらもやべぇと思ったら逃げろよ」
それだけ言い残して男性は重そうな荷物を背に西へと降っていった。
そもそもまずいことが起きていると分かった時点で、1年前懸念されていた帝国の戦争の線は考えていた。しかし信じられないのは、その戦争の前線には皇が自ら先陣切って出ているという。
これは俺が知っている戦争の形態ではない。本来、皇は城で待ち構え、兵が戦うのが定石のはずだ。
そりゃ攻められるに決まっている。ライドくらい強い人が城に残れば別なのだが。
休んだ方がいいのは分かっていたが、ラミーの安否が気になって仕方なかったので、サニアたちに申し訳ないと思いながらもそのまま帝都に向けて走った。
以前に来た時の俺とはもう違う。
前回は寄り道していたのもあるがンヌビタス領から迷宮街まで1週間かかっていたのが、数時間もしないうちに着いた。
だが、迷宮街バナムはンヌビタス領よりもっと酷かった。
帝都から離れていて、戦場も離れているため、建物の倒壊などはほとんど見られないが、まるで狙いすましたかのように人が全くいない。全てがもぬけの殻となっていた。
「ここでは情報を集めることは難しそうだな。ほんとは帝都に行くまでにもう少し情報を集めたかったんだけどな...」
「それじゃあもうすぐに出発する...?」
「いや、流石に少し休もう。汗とか流したいし、急ぎすぎて戦えなくなっても意味がないしね」
「分かったわ...」
それから俺たちは数時間ほど休んで、風呂に入ったり軽い食事を取ったりした。
「それじゃあまた走るか。みんな付き合わせてすまない」
「いいんですよ。大切な方なんですよね?」
「あぁ、俺が辛い時、側で支えてくれた大切な、守りたい人だ」
「それなら、早く急ぎましょう。助けに行かないと」
「あぁ!」
迷宮街バナムを出て、しばらく走っていると嗅ぎ覚えのある匂いを複数見つけた。
「この匂いは...勇者たちか!」
匂いを辿って行くと、前方に馬車が見えてきた。そして、向こうも俺たちに気づいたのか馬車の中から一人女性が出てきた。
「誰?!止まって!...ってカイト君?!」
「やっぱり君だったか、ミユ」
約一年ぶりに再開した俺たちは、ミユの厚意に甘えて馬車に同乗させてもらった。彼らも帝国の戦争について、逃げて来る人たちから話を聞き戦地に向かおうとしていたようだ。
「積もる話もあるが、今は帝国の状況のすり合わせをしたい」
「私たちもよ。といっても私たちが持っている情報も多いものではないけれど」
「いや、充分だ。必要な情報がわかるだけでも随分と違う」
ミユが俺とずっと話していることにアサヒが嫉妬しているのかずっと睨みつけて来るが、状況を分かっているのか何もいってこない。
俺たちは初めて会った人もいるということでそれぞれ自己紹介をしながら情報交換をしていた。
「...なるほどね。帝国の方が劣勢なのか。それにしても俺たちの知っている戦争の仕方ではないみたいなんだが?」
「えぇ、それは私も気になっていたわ。イングラス王国にいた時も気になって調べてみたら、王位継承は基本的に一番強い人がなるらしいの。...まぁ、市民とかから選ばれることはないし、普通は王族から選出されるんだけどね」
「その関係で、トップが先陣を切って出陣するのか。守りはどうするんだろうか?」
「そのために王様の周りにはより強い人を集めてきて、王族独自の訓練とかで強くするみたいよ。...詳細は分からないけど」
どうやら戦争の先陣を切るのが国の長というのはこの世界の共通認識のようだ。また、長の周りに国を任せられるほどの力を持つ者たちをどれだけ囲えるかで国の規模なども変わるらしい。
「そういえばあの引っ込み思案な女の子がいないみたいだけどどうしたの?」
「...っ。そうか、ミユはミアを知ってるんだったな。すまない、この話は後にして欲しい...」
「え、えぇ。分かったわ」
それからしばらくすると帝都を囲む壁が見えてきた。そして、それと同時に戦火や戦いの音も聞こえて来る。
「まだ戦いの真っ最中みたいね。御者さん!ここまででいいわ!後は自分たちで行くから!」
「そうですか!わかりました!ご武運を!」
御者はとても嬉しそうな顔で俺たちを下ろすとそのまま勢いよく来た道を戻っていった。
俺たちはそれを見届けた後、再度帝都に向かって走り出した。




