第52話 現実はいつも...
「主さま、目を覚ましたみたいよ...」
俺たちはあれからすぐに自室に帰ってきていた。それにカイニスにも許可は取ってある。まぁまた女性が増えたことに呆れていたが。
「んぅ、えっと...ここは...?...えっ!?あなたたちは誰?!ですか...?」
目を覚ました彼女は周りを見渡し、俺たちに気づくと想像通りの反応を示した。
「安心してくれ、怪しいものじゃない。君があの悪魔に眠らされていたところを俺たちが連れてきたんだ」
「その言い方は怪しい人がするのよ、主さま...」
「そ、そうかな。とりあえず、君の名前を教えてくれるかな?俺はカイトって言うんだ、こっちの子はサニアだ。それに今は見えないかもしれないけれどキノっていう女性もいる」
俺は彼女を安心させようとちゃんと女性がいることを教えた。しかし、彼女は俺の言葉を聞いてからも自らの体を抱き、震えたままだった。
「な、なんてことをっ!!このままじゃ村が襲われちゃう!勝手なことしないでください!」
「大丈夫だ!その心配は無い!その悪魔はもう俺たちが倒したから!」
「そんなの嘘です!あいつは強い!村で一番強い人でも倒せなかったんですから!あぁ...!ギムス...」
彼女は掠れていく声とともに手で顔を覆ってしまった。
「主さま、今はそっとしておきましょう...。キノ、この人を見といてもらっていい...?」
「わかったよ!キノに任せて!」
俺たちは後のことをキノに任せて部屋を出た。
「やっぱりずっとあの悪魔の恐怖にさらされ続けてたんだな...」
「今は少し混乱してるだけ...。少しすれば落ち着くと思うわ...」
「そうだよな、確かにあの悪魔は倒したんだし。そういやラミーと別れてからもう1年以上経っているのか...。元気にしているかな?怪我とかしてなければ良いけど」
「そうね、彼女は強いからきっと大丈夫よ...。それに皇様も強かったし...」
「そうだな、また元気なラミーに会いたいな」
それから1時間ほど経過して、キノから『女性が落ち着いた』と念話が届いた。
「サニア、彼女が落ち着いたみたいだから様子を見に行こう」
「わかったわ...」
「先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした。それにしてもタイミングが良かったですね。見張ってたんですか?」
彼女は少し俺たちを警戒しつつ、お礼を述べる。
「あぁ、君の様子が心配だったからね。気を悪くさせてしまったのなら申し訳なかった。それよりもう一度状況を説明した方がいいかな?できれば名前も教えて欲しいんだけど...」
「そうでしたね。カイトさん...でしたっけ?私の名前はテミス、テミス・レギドと言います。状況は先程もお聞きしましたが、本当なんですか?あの悪魔を倒したって...」
「あぁ、本当だ。あの悪魔の名前はファニタル、研究大好きなマッドサイエンティストだった。よく近隣の村などから人を攫っては人体実験をしていて、君の村からそういった被害がこれ以上出ないように君が生贄となった。違うか?」
「...えぇ、合ってます。まさか、本当に...。あ、あの!あの洞窟に男性はいませんでしたか?!あなたと同じくらいの身長の!」
「...いや、見なかった。あそこには君しかいなかった...」
「そう、ですか...。今更ですが、助けていただいてありがとうございます。ただ、申し訳ないんですが、今度こそ1人にしていただけますか?」
「あぁ、わかった。ただ、一応外にメイドを1人つけておくから、落ち着いたらまた呼んでくれ。聞きたいこともあるしな」
「わかりました。お手数をおかけします」
今度はキノも連れて部屋を出る。飯を食べていなかったことを思い出した俺たちは、食堂へと向かった。
...廊下にはテミスのすすり泣く声が静かに反響していた。
食事を取り、一段落した俺たちのもとにメイコが来た。
「カイト様、テミス様がお待たせしましたと」
「そうか、わかった。すぐに向かうよ」
その知らせを聞いた俺たちは食堂を出て部屋に戻ると、わずかに目を赤くしたテミスが相変わらず姿勢良くベッドの上に座っていた。
「何度もすみません、ご迷惑おかけしました。...それで、ここはいったいどこなんでしょう?できれば早くここから出て村に戻りたいんですが...」
「ここは【怠惰】の魔王の城だ。俺はここに今居候させてもらっているんだ。だから安全だよ。それにしても村に戻るのか?君を囮にしたのに?」
「【怠惰】の...?!お、恐れ多い...。でも、あなたの強さはわかりました。魔王様に認められていればお強いのは当たり前でしたね。...村のことですが、確かに辛い気持ちはあります。でも、私が生まれ育った村なので...」
「そうか...。わかった、そこまで言うなら止めはしない。せめて村まで送るよ」
彼女が村に戻りたいというのは予想していた。そのため、カイニスにもその旨は話してある。
というかここに来てからカイニスにはお世話になりっぱなしだな...。
「もう少し休んで行ってもいいんだが、すぐに出るのか?」
「はい...。村の様子も気になりますので」
「わかった、それなら道案内だけお願いできるかな?」
「わかりました、何から何までありがとうございます」
俺たちはテミスを連れて城の外にやってきた。
どうやらテミスの村はここからそう遠くないところにあるらしい。
「歩いてもそこまで時間がかかるわけではないんですけど、道が少し険しいので気をつけてくださいね。と言ってもカイトさんたちは強いので大丈夫でしょうけど」
そう言いながら軽くテミスは微笑んだ。
よかった、少しは元気になってくれたみたいだ。
城下町から少し離れた山道を30分ほど通っていくと開けた場所に出た。
「この先をまっすぐ行けば私たちの村があります」
そう言うなりテミスの歩く速度が早まり、木で作られた門が見えてきた。やはり自分の村を前にすれば逸る気持ちもあるのだろう。
俺たちはテミスの後ろについて村の門をくぐると突然テミスが立ち止まった。
「どうした?テミ...ス...、なんだ...これ...」
テミスに追いついた俺は彼女の見る視線の先に目を移すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
「なんで...どうして...」
目に写る景色はまさしく悲惨という他無い。
村を成していたと思われる家屋や牛舎、畑は何かが狂って暴れたかのようにボロボロ。
そして、その周りには倒壊した家の破片とそれらを彩る黒みがかった赤色。
周りに吸い付くように張り付いているピンク色の物体も散乱していた。
「ひどい...、誰がこんなこと...」
「おそらく、いえ、ほぼ確実にあの悪魔です!きっと私を連れて行った後にやったんだ!許せないっ!ギムスだけじゃなく、村の人までっ!」
「やっぱりあいつは正真正銘のクズだったんだな。交わした取り決めすら守らないとは...。テミス、...気持ちは察するがここにいてもどうしようもない。...1度城に戻ろう」
「くっ!.....わかり...ました。あ...、すみません。少し私の家に寄っていただけますか?」
「あぁ、わかった」
テミスは崩れそうになる体を支えつつ、自らの家へと向かい瓦礫の中へ潜る。
しばらくするとテミスはその瓦礫の中から自分の身長ほどもある槍を担いで出てきた。
「え...と、その槍は?」
「これはもともと父が使っていたものです。私も少しは槍の心得があるので、護身用にと」
「そうか、確かに必要かもな」
それじゃあ戻りましょう、とテミスは俺たちに心配かけまいとしているのか精一杯の笑顔で言った。
「そうか、そんなことが...。これは我の監督不行き届きだ。謝って済むことではないが、申し訳なかった」
「い、いえ!魔王様が頭を下げないでください!大丈夫です。辛いことに変わりはないですけど、幸い私はカイトさんたちに助けていただいたので」
「そうか、それなら良いのだ。何か入り用があればカイトくんやメイドに言うといい」
「はい、ありがとうございます。お世話になります」
テミスは帰る場所が無くなったこともあってしばらくの間、俺たちといることになった。
「こちらがテミス様のお部屋になります。何かご要望がありましたら、わたくしメイコにお申し付けください」
「そんな!様だなんて!呼び捨てで構いませんよ!?」
「いえ、大切なお客様ですので」
「えぇ...」
「諦めな、テミス。俺も最初は慣れなかったけど案外良いものだぞ?」
未だに戸惑っているテミスを横目に俺たちは自分の部屋へと向かっていた。
そんな時、レベルが上がって通知機能らしきものが付いた“無限倉庫”から通知が来た。
「ん?なんだ?」
何かと思い、“無限倉庫”を探るとなんとラミーからもらった魔法具に当の本人から連絡が来ていた。
「ラミー!久しぶりだな!なかなか連絡取れなかったから心配だったんだよ!元気にしてたか?」
『カイ....ト...ご、めん...ね、....たす...け......』
「え...?...ラミー?ラミーッ?!おいっ!返事してくれっ!ラミーっ!!」
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