第180話 オリジン
「サニ……ァァァアア!!」
「・・・っ?!
俯いたままだったネィミヤは、鬼のような形相でわたしに襲いかかってきた。ネィミヤは顔の半分を黒衣で覆い、半分見える目からは血の涙を流していた。
「・・・なんでっ!どういうこと!?」
「うるさいうるさいうるさい!!私に指図するなぁぁぁ!!!」
「・・・ぐっ!」
わたしは咄嗟にネィミヤの短刀を氷で造った籠手で受け止める。しかし、思った以上にその力は凄まじく、すぐにその籠手は破壊された。だが、ネィミヤの攻撃は止まらず、体勢を崩したわたしの頭を狙う。
「くっ!」
わたしの頭を正確に狙ってきたその短刀はわたしの前に現れた大太刀を前に止められた。そしてどんどんその短刀は押し返されていく。
ついにはカイトの力に抗えきれず、その小さな体を飛ばされた。危なげなく受け身を取ったネィミヤだったが、その表情は唖然としており、驚いていることがはっきりと分かる。
「・・・ネィミヤ、なんでこんなこと……」
わたしは未だ頭が混乱していた。怒りよりも戸惑いの方が大きかった。もう会うことはない、と思っていた人物。そんな彼女が同胞を殺し回り、わたしの仲間にさえ手を上げた。
けれど、彼女が意味もなくそんなことをする人ではないことも知っている。……つもりではないと思っている。それが故、怒りよりも戸惑いの方が大きいのだ。
「いやぁっ!近寄らないでっ……。サニア、ごめんなさい、ごめんなさいっ!私が私じゃなくなっちゃう!!うるさいっ!……もう、どうしたらいいの……?頭が割れそう……。ぁぁぁァァアぁあアァしねぇ!!!」
「・・・ネィミヤ!!」
「うわぁぁ!!」
ネィミヤは髪を振り乱し、体を掻きむしりながら暴れ回る。そのたびネィミヤの体を覆う黒い衣は胎動するように蠢いてその面積を肥大化させていく。テミスとミユたちと一緒に逃げてきたエルフたちは蜘蛛の子を散らすように通路の奥へと逃げていく。
辺りは数分もしないうちにわたし達とネィミヤだけになった。ネィミヤは今もまだ体を傷つけてはその端から修復していく。しかし、その濁った目から流れる血の涙は止まらない。
「……頭の中で誰かが囁くの。全てを殺せって、総てを壊せって。血に塗れ、黒に染まり、我の元へ集えって囁くのっ!体が言うことを聞かないの!!」
「・・・ネィミヤ!!」
「ダメです!サニアさん!……彼女は……」
「・・・え?」
テミスが信じられないことを告げる。彼女が、ネィミヤがすでに死んでる?
だって彼女はここにいるのに?
「もうダメなの、サニア。ごめんなさい、こんな私でごめんなさいっ。あなたに会っても恥ずかしくないようにお化粧も練習したのに。下手くそでごめんなさい……。もっともっとサニアと遊んで、もっともっとサニアと話した————ア、アー……コココンナモノカネ」
「?!」
わたしの混乱も冷めやらず、ネィミヤの独白を遮るようにナニカがネィミヤの体を乗っ取って、ネィミヤの声で喋り出した。
わたしたちは背筋に走る悪寒と言い知れぬ恐怖に身を固める。しかし、目の前のネィミヤに似たナニカはわたしたちを濁った目で睥睨しながら、わたしたちを無視して機械的な言葉を紡ぐ。
「ナルホド、キミタチガガガワレノフフフウインヲトトトイテクレタノダナ。カカカンシャスル。コレデワワワレハセカイヘトソソソノハネヲヒロゲ、スススベテヲテニデキル」
「・・・お前は、何者だ?」
「ワワワレノナハオオオリジン。ゲンショノリュウニシテスススベテノイキツクハテである」




