第178話 食い荒らす蒼の嵐
「はぁ、はぁ……。つ、強い」
「……」
私はビリビリと痺れる右腕を押さえ、目の前の敵を見据える。その人物は二本角を携え、悪魔のような風貌をした仮面を付け、こちらに剣先を向けていた。
ここまで徐々に転移陣のあるフロアまで押されながら、幾度も刃をぶつけて来たが、これまで戦って来たどのボスよりも強く、そして戦い辛かった。何せ認めたくない、信じたくない事実を否応にも見せつけられているのだから。
「その瘴気はあなた方が『神竜』と呼ぶ者から与えられたもの。そしてそれを与えられるのは『死者』のみ。フクセトさん、あなたは……」
ミユにはまだはっきりと伝えていなかった条件、ただ気づいてはいるだろうが、伝えられなかった条件。
それは瘴気を纏う者は既に死している者であること。
おそらく死んだ者を『神竜』の僕とすることで操り人形にしているのだろう。だが、それが生前と同じ力で操り人形にできるのか、そうでないのかは不明だ。
「フクセト様はいったいどうされたのだ……。それにランディ様たちもいったい何が……」
「俺たちはどうすれば……」
「あなたたちは敵なの?味方なの?」
私の後ろで固まっている非戦闘員たち。私も頭の中で整理しきれないことがいくつもあるが、それよりも混乱しているのは、彼らだろう。
つい先日まで、戦場の士気の象徴として君臨していたはずの隊長たちが、反旗を翻して自分たちを殺しに来ているのだ。そして、それを守っているのが、顔も名前も知らない私たち。
あの様子では、どちらの味方につけばいいのかも理解していないのだろう。いや、理解していても体が動かないのかもしれない。私としては下手に動かれない今の状況がありがたかった。
「兄さまっ!」
「……っ?!」
「くっ!あなたは!」
私とフクセトの戦いが拮抗していた時、通路の奥から1人の少女が壁を蹴り、瘴気を蹴り、割り入って来た。彼女はミユと戦っていた筈だ。しかし、片腕を半分割られた状態でフクセトの元に走って来た。
だが、その傷も瘴気が纏わりつき、徐々に元の形へ修復されていく。血の一滴も流れぬ不完全な身体を持った『神竜』の死徒。彼女もまた一度命を失い、彼らの敬愛する『神竜』によって新たな命を与えられた僕だった。
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種族:表示できません
Lv:0
ステータス: 軀力80000
咒力80000
剛撃80000
堅禦80000
閃煌80000
スキル:表示できません
称号:『剣の死徒』『神竜の僕』
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種族:表示できません
Lv:0
ステータス: 軀力60000
咒力60000
剛撃60000
堅禦60000
閃煌60000
スキル:表示できません
称号:『刃の死徒』『神竜の僕』
「ネィミヤ……。鍵は?」
「あの女が強くて……。村嶺様のところへ行けない……」
「そうか……。ランディがうまくやってくれるといいが…。女、そこをどけ。……でなければ、貴女を殺してしまう」
「フクセトさん……」
一瞬、私たちの知るフクセトが姿を見せたが、すぐに黒い瘴気に包まれナリを潜める。そしてフクセトの側には腕を完全に修復させたネィミヤが、新たな刃を携えて戦闘態勢を取った。
私の後ろには非戦闘員、そして転移陣の中心部がある。どうやら、その転移陣の中心部に用があるらしい。非戦闘員を殺し回っていたのは、あくまで陽動のためであったようだ。
「テミスさん!!」
「ミユさん!!」
その時、フクセトとネィミヤのさらに後ろからナニカを抱えたミユが走って来た。そして、それに続けるようにミユからの念話が届いた。
『ドルトンさんから転移陣起動のための鍵をもらって来た!!うちがこのまま転移陣のところまで行くから、テミスさんはその2人を転移陣の外へ押し出せる?!』
『転移陣の鍵?!……いえ、聞きたいことはいくつもありますが、分かりました!!ミユさんが通り過ぎた瞬間に放ちます!タイミング合わせてください!』
『おっけー!!』
コンマ数秒で行われた作戦ともいえない作戦会議。私はそれを実行するため、槍に魔力を込めていく。それは仄かに蒼色を帯びていく。そして、やがて周囲の空間を歪ませるほど濃密な魔力が槍を包んでいく。
「ネィミヤ!!アレを止めるぞ!」
「はいっ!兄さま!」
「頼んだ!!テミスさん!!!」
「はぁっ!!!」
——『蒼塵旋嵐!!!』
蒼の嵐が荒れ狂う。それは触れるだけで、皮膚を裂き、肉を蝕む破滅の嵐。肉眼では捉えられないほど小さく圧縮した風の刃。その風の刃はもはや億という数でさえ数えきれないほどの数が嵐の中に渦巻いている。
「ぐっ!!ネィミヤ!これは受けるな!!私らでもマズイ!!」
「っ!!」
すぐにこの蒼の嵐の危険性に気づいたフクセトは素早くネィミヤに忠告をする。そのフクセトの体はすでに片腕が粉々に崩れていた。
「おりゃぁ!!!」
不自然なくらいに響くミユの声とベチッという肉を叩きつける音が聞こえた。その瞬間、フロアが碧色に染め上がる。その光は足元の魔法陣から放たれていた。そして、その光は瞬く間にその光度を高めていく。
「テミスさん!こっち!!」
「はい!!」
蒼の嵐はフクセトとネィミヤの2人をフロアの外へと追いやる。私はその隙に非戦闘員とともに転移陣の中心へと向かっていく。すると徐々にその景色が移り変わっていく。
大きく変わっていくものではないが、目の前の蒼の嵐が薄くなり、味気のない傷だらけの通路の壁が薄くなり、そして色気のないまっさらな通路の壁が見え始めた。
「ぉぉぉぉぉあああああ!!!!!」
今にも転移が完了する、その瞬間。
喉を割る、大気を裂くほどの雄叫び。
碧色の光に紛れ込むように、飛び込むように現れた黒衣の少女。
そうして視界は色気のない通路の壁へと完全に切り替わった。
「お前たちは……逃がさない。兄さまの……遺志に誓って……!」




