第172話 星を象る精霊
遅れましたぁぁぁ!!ごめんなさい!!!
塔の形をした蜃気楼を目指して歩き始めてから、はや3時間が経過していた。しかし、塔の蜃気楼に向けてまっすぐ歩いているにもかかわらず、一向に距離が縮まっている気がしない。
「あつい〜。のどかわいた〜」
「精霊でも喉が渇くのか?…いや、肉をあれだけ食べるんだから喉も乾くか。ほら、これで…っておい」
「んぐ、んぐ……、ぷはぁ!このおみずおいしい!!」
シルフィは自分の体ほどもある水筒を傾けながらごくごくと喉を鳴らして飲んでいる。相変わらずどうやってか俺の“無限倉庫”に勝手にアクセスして、水筒を引っ張り出したようだ。
そういえば、こいつも知り合って契約を交わしてからステータスを見たことがなかった。というのも最初にシルフィから『風の魔法しか使えない』と聞いていたから、というのもある。
名前:シルフィ・エレメンタリィ
種族:星霊族
Lv:500
スキル:風霊法Lv.-
称号:風星霊
「へぇ…」
「どう?すごいでしょ!」
「気づいてたのか?」
「あたりまえだよ〜、かいとだからべつにいいけど、きゅうにのぞかれるのははずかしいから、こんどからはいってね?」
「あぁ、悪かったよ」
俺は改めてシルフィのステータスを見る。そこにはスキルが一つと称号が一つ。そして——。
「…星霊?」
異様に目立つシルフィの種族の名前。シルフィは精霊でも聖霊でもなく、星霊なのか。表記の違い、と言ってしまえばそれまでなのだろうが、少し気になる違いであることは確かだ。
「なぁ、シルフィ。精霊と星霊の違いってなんなんだ?」
「へ?おんなじじゃないの?」
「いや、知らねぇよ」
「うそうそ。なんかねぇついさいきんまではしぜんときょうせいしてるせいれいだったんだけど、かいととけいやくしたり、だいせいれいさまによびだされたあとくらいからほしをかたどるせいれいになったみたい!まえよりつよくなったよ!」
舌っ足らずなため、いまいち分かりにくかったが、要するに俺と契約を交わしたことや大精霊から何かしらの力を与えられたことにより、シルフィの位階的なものが上がったらしい。
そのため、自然を媒介として生きる『精霊』という種族から星を象り自然そのものを具現化できる『星霊』へと至ったらしい。
「それは……とんでもなくすごいじゃないか」
「でしょ!ふふん!あたしはすごいんだから!だいせいれいさまもほめてくれたし!!」
シルフィは無い胸を反らしいばる。いつもなら調子に乗るなと言うところだが、スキルや称号を見る限り本当にすごいことなのだろう。
風霊法 星霊となった者が操る風魔法。だが、「霊術」は「魔術」とは完全に別物。通常の魔術回路を持つものでは再現すら不可能であり、霊法とは、まさしく次元のことなる魔法。
風星霊 星に芽吹く自然と一体化し、風そのものとなった証。大気・雷などの風属性に系列する力の根源となる。
「でも、風と一体化してるんだったらこの辺りの生温い風とかも一掃できるんじゃ無いのか?」
「できるけど、そのあとたおれちゃうよ?いいの?」
「いや、それはダメだな」
精霊から星霊へと格上げされても容量は変わらないらしい。だがまぁ、出来る範囲が大きく広がっただけでも十分だろう。
ちなみに大精霊より位階を上げてもらったことで、俺だけじゃなくサニアにもシルフィが見えるようになった。そのおかげで連携が取りやすくなった上、シルフィの風の力の恩恵をより受けやすくなっている。
「シルフィはここからあそこまでの距離は分かるか?」
「う〜ん、なんとなく。でも、あとすこしだとおもう」
「そうか、気合入れるしか無いな。……二人とも!魔物だ!」
相変わらずゆらゆらと揺らめく塔を遮るように、巨大な背鰭を背負った魔物が砂漠から姿を現す。その姿はサメのようでありながら、地上でも生活できるように手や足が備わっている歪な魔物だった。
そして、俺たちをまとめて飲み込んでも余裕がありそうなほど大きな口には、所狭しと鋭い牙が並んでおり、背中には地中にいるときも見えた巨大な背鰭の後ろに何本もの鋭い棘が縦一列に生えている。
さらにサメのように長い体には水掻きを備えた人間の腕のようなものが2対4本生えており、足は鋭い爪と隆々とした筋肉を備え、その巨大な体を支えて地面を踏みしめていた。
「ガルァァァァ!!!」
「来るぞ!」
鬨の咆哮を上げた魔物は自身の両腕を使って、再度砂の海へ潜り込む。そして、砂の中を泳いでいるとは思えない速度で、俺たちの周りを囲むようにぐるぐると泳ぎ始めた。
「・・・な、何を……」
「まずい!!急いでこの円の中から逃げろ!!」
俺は戸惑うサニアとシルフィに指示を出す。俺の声を聞いた二人は疑うことなく、すぐにこの魔物の作り出す円の外へと飛び出た。俺もそれに続いて地を蹴り、サニアの後を追って円の外に出る。
その瞬間、俺たちの立っていた地面が崩れ、蟻地獄のように地面を飲み込む砂の渦が現れた。その渦の中心部には、大口を開けたまま獲物を逃して悔しがる魔物の姿があった。
「あっぶな〜!!あたしたちをのみこむきだったの?!」
「あぁ、そういうことだな。俺たちの周りの地盤を緩くして崩し、足を取られて動けなくなったところを喰らおうとしていた」
俺は“予知”で見えた光景をそのまま伝える。あのままあの場所に留まっていれば、今頃奴の腹の中だろう。
「グルァァァ!!!ガルァ!!!ガラァ!!」
獲物を逃した魔物はのっそりと渦の中から這い出てくる。己の常套手段を見破られたのが相当頭に来たのか、人間のように地団駄を踏んでいる。
「今度はこっちからだ!」
俺は未だ地団駄を踏んで隙を見せている魔物へと走り寄る。後ろからはサニアが氷の弾丸、シルフィは風で俺のスピードを後押ししてくれている。
「ガルァ……」
「まぁそう簡単じゃないよなぁ!」
あと少しで刀の攻撃範囲に入る、その間際、魔物はしっかりと冷静な視線を俺に向ける。その視線は俺の刀から手、腕の動きに至るまでを事細かに注視しているように見える。やはりここまでくると生半可な魔物はいない。
そこに弾幕にまで発展したサニアの放つ氷の弾丸が俺を避けて魔物の視界を埋める。どうやら魔物はここまで早く自身に向かって飛んでくるとは思っていなかったようで、なんとか回避の態勢を取っているものの半分近く被弾した。
「ガルル?!?!」
「はぁ!!」
しかもその氷はただの弾丸ではなく、被弾した場所から霜が走り、凍りついていくというおまけ付きだった。魔物は凍りついた足を動かすことができず、その場で無様に倒れ込む。俺はそのガラ空きになった首に向けて【久裟薙剣】を振り下ろした。




