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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章

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第168話 青天の霹靂

携帯変えたことによって「……」の仕様が変わったから、キャラ等の区別をどうするか悩み中です。

「ヤツは……、あっちへ、逃げた……仲間を、追って……、どうか、娘を…たす、け、て……」


 そう言って、目の前の男の体から力が抜けた。


「くっ!間に合わなかった……」

「……」


 私は生き絶えた男の目を手のひらですっと閉じる。ミユはただ口元を押さえて辺りの惨憺たる様子を目に焼き付けていた。


 私は男が指差した、獣道のように木々や草木が薙ぎ倒された森の奥を睨みつける。光が届く時間でありながら不自然に闇が覆うその森は、まるで大きな魔物の口腔を表しているようだった。







 私たちがそんな場面に遭遇したのは、扉を越えてから数時間後。


 ついに塔の門番を打ち倒し、光の差し込む扉を開いた私たちの前には、この塔の上にあるものと同じような森が生い茂っていた。


「うわぁ、また森があるよ……」


 見るからに嫌そうな顔でミユは嘆いていたが、私は森生まれということもあってそこまで嫌ではなかった。むしろ故郷に近い空気感に包まれて心地よかったくらいだ。それから扉とは逆方向へ向けてしばらく森の中を進んでいた。


「!?……ミユさん、警戒してください。血の匂いです」

「え?!」


 しかし、歩きながら胸いっぱいに吸い込んでいた森の新鮮な空気の中に、喉に張り付くような粘っこい血の匂いが混ざるのに気づいた。


 私たちはその匂いの方向へ慎重に近づく。既に戦闘音や悲鳴などは聞こえなかった。


「テミスさん、あれ!」

「はい!」


 ミユが指を刺しながら声を上げる。その時には私も確認できていた。森の草木を掻き分けながら進んで行くと、奥に少し開けた場所が出てきた。そこには見える範囲に既にいくつもの家が建っていた形跡がある。そしてその周りには血痕も。


 私たちは急いで村の中へ突入したが、村の中はまさしく大惨事だった。


 雄々しい木の幹で造られたはずの家々は、見る影もないほど崩されており、その中には巻き込まれたであろう人々の姿が。そして、通路や広場だと思われる場所には至る所に侵入者と戦闘した形跡が残っている。


「誰、か……だれかっ…」

「まだ生き残りが!今行きます!ミユさんっ!」

「分かった!」


 私は声が聞こえた方へ一目散に駆け寄る。辺りを警戒しながら私の少し後ろからミユがついてきてくれた。


「私の声が聞こえますか?!今回復しますね!」


 森に接するこの村の奥で倒れていたその男性に、私はすぐさま“神聖魔法”を使う。しかし、すでに多く血を流しているからなのか、一向に顔色が良くならない。


「あぁ、旅の、人……。すまな、い」

「大丈夫ですか?!今傷を塞ぎます!ミユさんっ、布と水をお願いします!」

「うん!」

「ヤツは、危険だ……。早く、知らせ、なく、ては」

「ここに誰かが来たんですね?!ってことはその人物がっ」


 私はミユから受け取った布を男の腹の傷口に当て傷を塞ぎ、“神聖魔法”で消毒しながら治療する。大きく開いた傷は、まずこうしてから魔法を使ったほうが効果があることを霧の猿人たちに学んだ。


 そして、喉を潤すため、男の口に少しずつ水を流し込んで行く。すると男はゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み込んでくれた。幾度か咳き込みながらも、体が欲していたのかしっかりと飲んでくれる。


「一応、大きな傷は塞ぎました。しゃべれますか?」

「あぁ。すま、ない。わたしは、フクセトと、申す」


 腹の傷を押さえながら上体を起こしたその男は自らをフクセトと名乗った。そして、何があったのかを聞いてみると、もともとは彼も救援要請の早鷹を受けて別の村からやって来たらしい。


 内容は、強力な魔物に村を襲われたが、村の者だけでは手に負えないため、増援が欲しい、というもの。


 もちろん、同族であるためフクセトたちはすぐに援軍を派遣した。それを率いたのが、フクセトで約30名の仲間を連れ、この村にやってきたそうだ。


 しかし、フクセトたちが着いた時にはすでに、半数以上の家が倒壊し、大部分の戦闘員が力尽き地に伏していた。そしてその多数の同胞の中央には、黒い瘴気を纏い、肉体の大部分を齧られたまま生きている二本角の魔物がいた。


「そして、その、周りには、同じく、黒い瘴気を、纏った、多数の魔物が、ひしめいていたのだ」


 それはこの森に生息する魔物から、恵み(ミユ曰くウミというらしい)に生息する、陸では生きられないはずの魔物まで黒い瘴気に操られるように襲ってきたそうだ。


 さすがに分が悪いと判断したフクセトは動けるもので、非戦闘員である子供や一部の女性を守りながら、フクセトの村へ一時撤退することとした。


 そして、フクセトは殿を努める形でこの村を最後にしようとしたところ謎のひび割れた仮面を佩いた人物に襲われ、倒れていたところを私たちに助けられたらしい。


「重ね重ね、すまない。救助してもらって、烏滸がましいと思うが、わたしたちの村まで、着いてきてくれんか?逃げた女子供は、わたしたちの村に向かっている、はずなのだっ」

「いいよ!」

「ミユさん!?」

「だってほっとけないじゃん!!」

「そうですけど…」

「かたじけない…」


 ミユは即答するなりフクセトを背負い始める。私は少し嫌な予感を覚えながら、フクセトに案内されるミユの後ろについていくことにした。






「あそこだっ」

「見えたっ!まだ戦ってる!!」

「行きましょう!!」


 フクセトに案内されるまま森を進んできた先には、先程の村と同じような造りをした場所にたどり着いた。そこでは未だ戦闘が行われているようで、そこかしこで戦う音や悲鳴が響き渡る。


「フクセト!帰ってきたのか!」

「ランディ!村嶺様は?!」

「あっちで一人で巨大な魔物を食い止めている!」

「くっ!すぐに援護に行かなければっ!」

「そんな体で戦闘なんか出来ません!」

「だがっ!」

「そうだっ、フクセト!!それに我らが村嶺様の戦いに割って入っても邪魔になるだけだ!村嶺様からは非戦闘員を大社へ逃がせ、との通達だ!こっちを手伝ってくれ!……ここまで同胞を連れてきてくれて感謝する。だが、ここはもう戦場だ。早くここから離れた方がいい」


 フクセトへ一方的に指示を与えるとランディと呼ばれた者はこちらに向き直り、頭を下げた。


「いや、うちたちも参戦する!戦力は一人でも多い方がいいでしょ?」

「そう言うと思いましたよ。ランディさん、もし邪魔でなければ私たちも力になります。それに確かめたいこともありますし」

「…本当か?それは非常に助かるが…。いや、今はやめておこう。すまない、助力感謝する。では、君たちは南の魔物たちを相手にしてくれ!…リンドウ!!彼女たちを南へ案内してくれ」

「はっ!お二方、こちらへ」

「うん!」


 私の最後の言葉はどうやらランディには聞こえなかったようだ。すぐに私たちの要請を受け入れてくれたランディは側に控えていたリンドウと呼ばれた男性を寄こし、私たちの戦場へ案内してくれることとなった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ランディ様よろしいのですか?南は我らが攻め込まれた場所。今一番戦闘が激化している場所ですが…」

「かまわん。どこの馬とも知れんやつをやすやす受け入れるわけには行かん。ましてや村嶺様や大社の方へ寄越すわけにもいかんだろう」

「それはそうですが……」

「なんだと?!ランディ!彼女たちはわたしの恩人だぞ?!…ジクサス!今すぐ彼女たちを連れ戻してこい!」

「ならん!!ジクサス!貴様は私の側付きだ!ここを離れることは許さん!」

「ランディ!!」


 わたしは震える体に鞭を打ち、ランディの胸ぐらを掴む。このままではみすみす彼女たちを死に追いやってしまう。それでは受けた恩を返すどころか仇を返してしまう。


 しかし、よろけて力の入らないわたしの体では、追いかけるどころか、呼び止める声すらあげられない。


「フクセト、ネィミヤが死んだ」

「……なっ?!」

「他にもリクルト、ライナン、ルゥシヤ、カサニャ、アビリャ、タクエフ、スミニィ、ゴドロフも魔物に殺された」

「そ、そんな……」



 ネィミヤが殺された?

 わたしのたった一人の妹であるネィミヤが?



「ぁ、ぁあ……」

「今、私たちに外の者を相手にする余裕など無いのだ。魔物を退けてくれれば上々、最悪共倒れしてくれればそれでいい。私たちはまず同胞と共に生きながらえなければならんのだ。ジクサス」

「はっ!」

「避難状況はどうなっている?」

「……現在、殆どの者が大社へ向かっています。ただ、道中も通常の魔物に襲われており、なかなか進めておりません」

「各戦闘区域は?」

「……南および南東方面は変わらず、一進一退です。また、東方面の村嶺様は未だ『瘴魔』を討伐に至っておりません。ただ、外の者が参戦した南方面は被害が大きく減少しております」

「そうか、分かった。それでは北東方面に向けていた防衛隊を三割を残し引き上げろ、彼らを避難民の守護に回せ」

「はっ!」


 指示を受けたジクサスは、空中に向けて何かを話し出す。彼は“空中対話”のスキルを持っている。これによって彼は半径10キロメルの仲間へ思念を伝達できる上、交信を行うことも可能である。


 だが、これは互いに仲間だと認識していない者では発動しないため、彼女たちには通じないだろう。


「ネィミヤは……?」

「村嶺様が彼女も含め、死者は全て『生みの祠』へ、と」

「そうか」


『生みの祠』は生まれた者が受けた生に感謝するため、そして安らかな死後を祈るため、天へと死者を送る場として設けられた、と言われている。


「ならば、ここで立たなければ彼女に合わせる顔がない」


 わたしは震える足に喝を入れ直し立ち上がる。ランディの奥には、ついに南東方面より村の内部まで侵攻してきた魔物たちの軍勢が見える。


 腰には唯一の肉親から贈られた、千年樹で造られている飾りが付いた剣が佩いてある。それをゆっくりと引き抜き天へと掲げた。


「ここがわたしの死地だ!!同胞を救うため、未来への礎となるため!!このフクセト!!貴様らの一切を葬り去らん!!」


『生みの祠』は強く誉れある生を歩んだ者にこそ、永劫の輝きを与える、とされていた。

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