第167話 望外の再会
早速やってしまったぁぁ!!!ごめんなさいぃぃ!!
「あついぃ〜・・・」
「ほんとだな・・・。あれは、砂漠か?」
海上をゆらゆらとシルフィに運ばれているとどんどん気温が高くなってきた。相変わらず、どこにあるか分からない太陽に照らされながら、シルフィと俺は蒸し暑い空気を顔に受けながら陸地へと近づく。
そうして向かっている先を“千里眼”で覗いてみると、一切の緑がない茶色の大地が見えてきた。そこには大きな二本角を持った魔物や毛の無い体を持ち空を飛ぶ魔物が跋扈しているのが見える。
そしてその視界の端にはまるで境界線で区切られているかのように、緑がその奥へと続いていく。そこは徐々に緑が薄くなっているのではなく、綺麗にバッサリと緑が描き消え、茶色の大地へと移り変わっている。
「うがぁ〜、やだぁ!あつい〜!かえりたい〜!!」
「言うな、俺まで暑くなるだろうが。どうせならあそこまで運んでくれりゃいいのに」
「やだ!しんどいもん!それにあついし!はたらきたくないよぉ」
ニートみたいなことを言うシルフィを横目に、砂漠の陸地へと降り立った俺たちは、ひとまず日陰を求めて緑の方へ足を進める。
「はぁ〜ごくらくごくらく」
「どこで覚えてくるんだそんな言葉。にしても日陰ってこんなに涼しいんだな」
砂漠のすぐそばにある木々の下で休息を取る。日陰が涼しいとはよく聞いたが、ここまで違うものか。
俺は苔の洞窟で汲んできた水を飲みながら広大な地平線の先、さまざまな魔物が跋扈している砂漠を眺める。
「これどっちに向かえばいいと思う?」
「うーん、わかんない・・・。かぜはあっちにむかってながれてるけど・・・」
そう言ってシルフィは肉を持つ手とは逆の指で砂漠の奥を指差す。しかし、方位磁針や地図などが無いこのダンジョンで道を間違えるのは、非常にまずい。しかも俺たちはただ純粋にダンジョンを攻略しに来たわけではなく、目的はあくまで【色欲】なのだ。ここに時間をかけるわけにはいかない。
「下の階層に続く道はあるか?」
「このあたりにはないよ。ずぅーともりかすながあるだけ」
「そうか・・・。これは参ったな、何か指標があればいいんだが・・・?!」
そう言って何か先に先に進む判断をするのに良いものがないか探そうと立ち上がった瞬間、背後の森の奥から何やら懐かしい気配を感じた。
俺は一瞬感じた懐かしい気配を逃さないよう感覚をより一層鋭くする。すると森の匂いや砂の匂い、僅かに感じる潮の匂いの中に嗅ぎ覚えのある匂いを感じた。
「ねぇ!だれかがこっちにむかってはしってくるよ!」
「あぁ!」
おそらくシルフィはシルフィで何かを感じたのだろう。俺はシルフィの指差す森の中をじっと見つめながら、ゆっくりと背中の刀に指をかける。
「・・・いや、これは!」
感じた気配と匂いに喜びと若干の不安を混じえながら、刀から指を外し、気配のする方へ走る。すると徐々に近づいているのか、森の中をガサガサと走る音も聞こえてくる。そしてその気配の主は姿を現した。
「……..主さま!!」
「サニア!!」
茂みの中から少しボロボロだが、ヒョコンと元気に狐耳を立てる獣人が飛び出てくる。と同時に俺の胸に飛び込んできた。
「あぁ!よかった!!無事だったんだな!」
「…….うん、大丈夫だよ。主さまこそ無事でよかった」
俺は胸に収まる小さな体をこれでもかと抱きしめる。ここ数日、出来るだけ考えないようにはしていたが、今までが今までだけに最悪の想像がずっと脳裏を過ぎっていた。
それが、払拭されたのだ。もはや言葉に表せないほどの安心と愛おしさが胸を埋める。
「…….主さま、ちょっと痛いよ」
「すまん」
そう言うが、俺は腕の力を緩めない。サニアも身を捩りながらも嬉しそうにしていた。
「———……..で、ここまで来たの」
「なるほどな。じゃあ向かう方向としては砂漠の方か」
俺たちは体を離し、木陰に座りながらこれまでの近況を伝え合った。決してシルフィが呆れ顔をしていたからでは無い。
俺はサニアがあのピエロに飛ばされた後、ミユやテミスとも逸れたことやここまでの経緯を話すと、サニアも飛ばされた後何があったかを話してくれた。
サニアの語った話の中で出てきたグリーンエルフの住む村や変態男など、気になるところはいくつかあったが、まずは進むべき道の先がわかっただけでも重畳だ。
「てことはあの砂漠の奥にキザハシがあるってことなのか?」
「…….たぶんそういうことだと思う。それにそろそろ階層も低くなってきてる」
「階層というよりはエリアと言ったほうがいいのか。それで、ここから先の砂漠地帯が80階層に位置する、と」
「…….こくっ」
全部で100階層からなるダンジョン。S級というくらいだから、階層は比較にならないほど多いとは思ったが、まさか100の大台に乗るとは思わなかった。
しかし、それもあと20階層。それまでの間に今回の目的である“スキル統合”というスキルを持つモノを見つける。未だに出来すぎていると思わなくも無いが、【色欲】への対抗手段として、そして俺の今後の目的のためにも必要なのだ。取りに行く以外に方法はあるまい。
「…….ミユとテミスは大丈夫かな?」
「あぁ、きっと出会えるさ。もしかしたら既に砂漠を抜けてる可能性もあるしな。先を急ごう」
「…….うん」
「ほら、シルフィも行くぞ。あんまり肉ばっか食ってるとまたサニアと喧嘩するぞ?」
「ほぇ?はんへいっはほ?(なんていったの?)」
「…….あ!!それは食べちゃダメって言った!」
「はっへ、もうはふはっはんはもん!!(だって、もうなくなったんだもん!!)」
「ほら、言わんこっちゃない」
サニアの持ってきた肉でサニアとシルフィが追いかけっこをし始める。俺はその横で砂漠を眺める。ここから見る限りでは、“千里眼”で見てもやはり砂と魔物しかいない。どこかにはオアシスがあればと思うが、希望的観測はしない方がいいだろう。
それに右側には海があるため、出来るだけそこから遠く離れないように進んでいきたい。ふと、自分たちが来た方向を眺めていると、何やら大きな水飛沫が上がっていた。
「海にもやっぱり魔物がいるのか?」
「…….うん、いるみたい。わたしも襲われて溺れそうになった」
「よく助かったな」
「…….それをネィミヤたちが助けてくれたの」
「なるほど、そういうことか」
海に落ちたあとグリーンエルフに助けられた、と聞いた話がようやく繋がった。ならば、俺も海に落ちる前にシルフィに助けられたのは幸運だったのだろう。まぁその前にあの高さから落ちたら、海面に叩きつけられた衝撃で破裂していただろうが。
そう考えると、あっさりと俺の体を風で受け止めたシルフィに感謝しかない。おそらくとてつもない衝撃だったはずなのに、一切の痛みなどが無かったのだから。改めて精霊の凄さを思い知った気分だ。
ただ、こんなことを言うと絶対にシルフィは調子に乗るだろうから言わないが。
「ほら、いつまでも遊んでないで行くぞ。肉は俺も持ってるから後で分けな」
「…….こくっ」
「はぁーい!」
俺はサニアから受け取った荷物を“無限倉庫”にしまって、熱気立ち込める砂漠へと向かうのだった。




