第164話 原初の竜
「でも、最後のアレ。テミスさんどうやったの?」
2人して興奮と緊張も収まり、ある程度落ち着いたところでミユが尋ねて来た。私は力の入らない右腕を隠しながら、さっくりと私の放った技を教えた。
中身としてはそんなに難しいものでもない。キノが【強欲】の魔王戦で放っていた杭を使った技を真似ただけだ。しかし、私は“闘術”は所持していない上、ただでさえ破壊不可能と呼ばれる床を破壊しようというのだ。生半可な技では通用しない。
そこで、私は槍を拳で殴るときにその拳と槍の間に、指向性を持った風を含んだ球を挟んだ。その風の球を殴ることによって中に詰まった風が突風となり、槍を高速で飛ばす。
これはキノだけでなく、風を扱うカイトの技も一部取り入れていた。しかし、ぶっつけ本番だったからか槍とは逆方向にも弾けた風が私の腕を傷つけた。しかもそれを数回行っているのだから、今私の右腕の骨はボロボロになっているだろう。
「ほえーー。とんでもないこと思いつくね!でも、少し休もっか。テミスさんも疲れたでしょ?」
「いえ、先を急がないと————」
「だーめ。・・・その腕じゃしばらく槍を握れないでしょ?」
「・・・ミユさん」
私は二の句を告げなくなってしまった。
それもそうだ。これまでも周りを見て気遣いのできる彼女なのだ、気づかないはずがない。それに確かにここまでの道程で魔力も相当量使っているし、たまには休息も必要だろう。
それにゴーレムの立っていた後ろの壁から少し光が縦に垣間見える。おそらくあそこがこの塔のような場所から出るための扉になっているのだろう。
「それにここまで集めたこの石盤も気になるしね!」
「そうでした。えっと、最後の一枚は・・・」
『其は万物の頂点にして、終焉の番人と称えられた原の罪冠する神の僕、原初の竜』
「えっと・・・つまり?」
「うーん、これだけではなんとも言えませんね。一度全て並べてみましょうか」
私は懐にしまっていた他四つの石盤を取り出して、取得した順番から並べて行く。
『其は地を削り、空を闢く天上の獣。古来より連綿と続く全にして一の系譜』
『其は全てを有し、全てを放棄した強欲なりし傲慢なる魔』
『其は饗なる暴食を尊び、淫なる色欲を導き、懶なる怠惰を弄ぶ』
『其は天空を満ちる憤怒で覆い、大地を枯れぬ嫉妬で燒いた』
1番上から順に読み上げていくとおよそこのような内容になった。
所々の言葉は聞き覚えのある言葉だ。それこそ、これまで戦ってきた魔王たちの冠するスキル名。しかし、それの意味するものはてんで分からなかった。しかし、全てを聞いたミユは少し反応が違った。
「これなんかで聞いたことあるよ。あんまり詳しくはないけど、そもそも今までの魔王たちが持ってたスキルの名前って、私たちの世界にある言葉なんだよね。なんでこっちにあるのかはわかんないけど・・・」
「そうなんですか?意味は分かりますか?」
「ちょっとだけなら・・・」
そう言ってミユが語ってくれた内容はそれぞれのスキルの名前が意味するもの、とそれを象徴する魔物。ミユたちの世界では他にもさまざまな解釈があるそうだが、一旦、ミユが知っているものを教えてもらった。
「これらは私たちの世界では七大罪って言われてて、その欲求を追求しすぎると罪を犯しちゃうってやつなんだけど——」
【傲慢】これは自分以外の全てを見下し、自分に比肩するものはいないとするもの。
【怠惰】これは何も為さず、ただひたすら堕落を貪ろうとするもの。
【憤怒】これは強烈な怒りを覚えること。
【強欲】これは何から何まで全てを自身のものにしたいとするもの。
【暴食】これは荒ぶる食欲のまま、モノを食い漁ること。
【色欲】これは必要以上の性を堪能すること。
【嫉妬】これは他者を羨み、妬むこと。
そして、ミユ曰くそれぞれを象徴する魔物の名は、
【傲慢】ルシフェル
【怠惰】ベルフェゴール
【憤怒】サタン
【強欲】マモン
【暴食】ベルゼブブ
【色欲】アスモデウス
【嫉妬】リヴァイアサン
と呼ばれているらしい。ただ、ミユの世界では、これらは悪魔と称されているらしく、それにあくまで伝承として語り継がれている程度のものらしい。
「うちもこれ以上は詳しく知らないんだけどね。それにこれが合ってるかどうかも知らないし。アサヒがなんかそういうの詳しかったから、聞いてるうちに覚えちゃった」
ミユは少し遠い目をして過去を振り返る。しかし、それもほんの数瞬。すぐにいつもの快活な笑顔に戻った。
「ありがとうございます。けれど、どれも聞いたことのない魔物ですね・・・。それに、この『原初の竜』に該当するものも無いみたいですが・・・」
「そうなんだよねぇ。いったいどういうことなんだろ?」
この石盤の文章にそれぞれの魔王たちのスキル名があるなら、それらが関係することは間違いないだろう。問題は最初と最後の文。
これらはおそらく何かしらの生物を著しており、それが『原初の竜』なのだろうと言うことは分かる。しかし、その先が全く見えてこないのだ。
そもそも、私たちが他の文をある程度読み解けたことも僥倖でしかない。なぜなら魔王たちと戦っていなければ、こんなスキルが世に存在していたことも知らなかったのだから。
それからしばらく2人で頭を悩ませるが、相変わらずヒントが少ないためか、一向に答えは出ない。しばらく考えた私は、顔を赤くして知恵熱が出そうなミユに一声掛けて、そろそろここを発つよう促した。
「そうだねっ!だいぶ休憩できたし行こっか!テミスさんは腕大丈夫?」
「えぇ、ミユさんのおかげで」
私は添木を当てられた腕を持ち上げる。流石に骨までは治癒できなかったが、“自然魔法”で添木を作り、とりあえずは動かせる程度には回復させた。
「よし!それじゃあ次なる土地へ行きますか!」
私たちは改めて自分の状態を確認し、光の漏れている扉を押し込んで、その光の先へと歩を進めた。




