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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章

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幕間〜吹雪に閉ざされた国と英雄〜

1日ずれてしまってごめんなさい!!


あと申し訳ないんですが、しばらく投稿をお休みします。


楽しみにしてくださっている方、本当にごめんなさい。


また、しばらくすれば再開しますので、待ってもらえればと思います!

「ふぅむ。……揃ってしもうたか。お主よ、すまぬな。もしかすると、ここを離れねばならぬかもしれん」


 人族と魔族の領地から遥か西に位置する、吹雪吹き荒れる霊峰の頂上では、1人の全裸の女が冷ややかに、そして愛おしそうにおよそ2メートルはある氷を撫でていた。


 全裸の女、いや正確には人間ではないだろう。何しろ女と分かる体つきをしているのに肝心の局部は無く、代わりにあるのはまばらに生え、冷たく光を反射する蒼い鱗。


 そして、その女が見つめる先の氷の中には眠ったように佇む1人の男性がいた。紅く神聖味を帯びた鎧を纏った男性はしかして、腕も足もない。


 おそらく切断されたであろう手足の付け根では氷の冷たさに抗うかのように暖かな炎が瞬いている。


「うん?——ほう、来客か。久々よな」


 そう言う女の肩にはいつのまにか紅い瞳以外毛並みも嘴も白いカラスが乗っていた。


 おそらくそのカラスから伝達を受けたのだろう。女は名残惜しそうに男性が埋められた氷から離れ、崖の下を睥睨する。


「集え!我が僕たちよ!我らが聖域に侵入した者どもを歓待してやるのだ!」


 そう叫んだ女の下には大量の多種多彩な魔物が蠢いており、姦しく雄叫びをあげている。


 そしてひとしきり叫んだ後、まるで隊列を組むように皆、麓を目指して進攻した。


 そうしてまた1人残った女は再度、傍らに佇む氷を見つめ、1人呟く。


「さぁ、これで2人きりだ。思う存分愛を語らおうではないか、勇者よ」








       〜〜〜5年前〜〜〜









 その国は周りの国々と同じように国と平地と背の低い山に囲まれた場所だった。


 しかし、違うところがひとつだけ。それは一年中止まぬ吹雪に見舞われていることだった。


 数メートル先までしか見通せない視界、家の外など半日しか出られず、それ以上出ていればたちまち凍死してしまう。


 だが、不思議なことに降る雪は完全に生活できないところまでは積もらない。絶えず吹き荒ぶ吹雪は過去の雪を押し流しており、道に深く積もることもなかった。


 さらに人は適応するものである。半日しか外に出られずとも国民が互いに協力し合い、かろうじて生活をしていた。


 それでも生活に不便なことには変わりない。何しろ店もそれを買う客も等しく半日しか行動できないのだ。


 現状の回復を求めた民は王に直訴するために城へ押しかける。しかし、代替わりしたばかりでまだ若い王は何もできず、側につく宰相やその他の大臣も保身のためか何もしないくせに金の話になると絡んでくる。



 ——その結果、国は余計に混乱した。



 やがて、ついには民も王や貴族に頼ることを諦め、ほとんどが国から出ることを決意した。自分たちが生きるために協力しようと、彼らは目の前の金と自身にしか興味がない、と悟ったのだ。


 それからしばらくして、数十のグループに分かれ国を出た民達。彼らの視界には数ヶ月間見ることが叶わなかった広大な緑が広がっていた。


「あぁ、森だ!緑だ!なんでもっと早く気づかなかったんだ!こんなに簡単なことだったのに!」


 白銀の世界に閉じ込められていた民達は一面の緑に喜びを感じていた。数ヶ月ぶりに吸う新鮮な空気、肌を刺すような冷たい風ではなく、優しく肌を撫でるような爽やかな風。ほとんど陽の光が差さないあの国とは違って、ここでは全身に陽の光を浴びることができる。


 皆、心から喜び、そのひと時を噛み締めていた。




 ——だが、それは本当に束の間の幸せだった。


 皆の顔が喜色へと塗り変えられた瞬間、辺りの景色が緑から徐々に見慣れた白銀へと変わっていく。


 そのうちの1人はわけもわからず辺りを見回す。だが、周りにはついさっきまでいた仲間達は居らず、目の前には意を決して捨てたはずの自らの家が建っていた。




 そう、白銀の檻に囚われた者たちは決してその外へ出ることが叶わないのだった。








 事の発端は、吹雪が吹き始める18年前に遡る。




 小国ながらも満たされた気候と土地、民に恵まれた国の名は『アウクベルド』。


 そして、現王の父にあたる前王の名はホマリー・レム・アウクベルド。


 彼はよく言えば野心家、悪く言えば夢見がちな理想家だった。


 だが、彼の敷く政治は歴史に名を刻むほどの善政とまでは言えずとも決して悪政ではなく、民からの評判も決して悪いものではなかった。



 ある日、そんな彼の元に1つの報告が上がってきた。


「王よ!東の村で伝説と言われた『星紋』を持った赤子が生まれました!」

「なんだと!?それは真か?!」

「はいっ!先日、私の部下が直接その村へ赴き確認したとのことです!城へ呼び寄せますか?」

「うむ、すぐに仕度をせよ!その一家を歓待するのじゃ!」

「はっ!」


 部下が出て行き、無人になった執務室で王は1人嗤う。


「ようやく見つかった……!これでわしも世の支配者側へと周ることができる。覚えておれ、ハバネスッ!!」




 部下が『星紋』と呼ばれる紋章を持った赤子とその一家を連こ——、歓迎しに行ってから4日が経ち、ついに彼の前に姿を見せた。


「おお!よく来たな!長旅ご苦労であった!早速で悪いが、赤子を見せてはもらえんかのう?」

「はい!」


 慎重に手渡された赤ん坊の左手の甲には確かに王家に伝わる伝説と言われた、逆三角形にそれぞれの面から剣が3本、交差するように突き刺さったような紋が刻まれていた。


 王家には代々ある伝承が語り継がれていた。その内容は簡単に言うと、世界に危機が訪れた時、『ある星』を象った紋章をもつ者が現れる、と。


 そしてその者は必ず世界を護り、救うことだろう、と。


 普通ならこれを聞いた誰しもが伝承で済ませることだろう。しかし、この国の王は違った。これを実在のものと信じたのだ。


 だが、何も無根拠に信じていたわけではない。現にこうして伝承でのみ語られていた人物が目の前にいるのだから。


 それは、どれほど昔だろうか、彼の何代もの前の王は実際にその人物と世界を練り歩いたというのだ。そしてその時の情景が事細かに記されている日記も見つかった。


 だが、この伝承を知るものは少ない。この国にも両手で数えられる程度だ。世界でなどもっと少ないだろう。


 だからその点に賭けた。


 王は誰もが知らぬ英雄をこの手に収めることを望んだのだ。



「うむ、凛々しく逞しい赤子じゃな。将来は気高くも民に愛される者に育ちそうじゃ。よし!今日はゆっくり休んでくれ、部屋も用意してある」

「あ、ありがとうございます、王よ。未だ我が子が伝承に記された御子などと、些か信じられませんが、王が仰られるのであれば本当なのでしょう。ただ、我々下々の民なれば、至らぬ点が多々あるかと存じますが、何卒よろしくお願いいたします」

「うむ、よいよ。そなたらはあの『英雄』の親なのじゃ。胸を張って歩けばよい」


 彼らを迎えに行かせる際には王の右腕である近衛隊長も同行させた。彼は王家に伝わる伝承を知る者の一人である。ここに来る道中でかの伝承を伝え聞かせたのだろう。


 王の口元には隠しきれぬ嗤(え)みが浮かんでいた。






 それから王やその近衛たちの元で修行をし、成長した赤子はいまや16歳となっていた。


「はっ!はぁっ!!」

「よし、この辺りでいいだろう。いよいよ明日からだ。己の体を休めることも修行のうちと思え」

「はぁ、はぁ。……はいっ!」


 近衛隊長の言葉に元気よく返事をする者の名前は、サミュエル・ネルト。


 ダンジョンや山の魔物、それから近衛達との修行の果て、ついに明日、王より勅命を受けた任務へと赴く。


 そんなスキル“英雄”という、シンプルながらも強力な能力を備え、勇気と希望に満ち、周りに愛されながら育った少年の物語は今始まる。



 名前:サミュエル・ネルト

 種族:人族

 Lv:146

 ステータス:体力1521

  魔力1496

  攻撃1642

  防御1432

  敏捷1543

  知力1467

 スキル:英雄Lv.- 剣聖術Lv.8 剛力Lv.5 体力特自動回復Lv.4 魔力特自動回復Lv.5 豪炎魔法Lv.7 覇気Lv.6

 称号:英雄 限界突破者


 スキル 英雄 『銘』を呼ぶことで保持者に見合った特別な鎧と剣を召喚できる。また、全ての能力が育ちやすく、この世に現存する全てのスキルを獲得できる素養を持つ。











 ——はずだった。








 今『英雄』と持て囃された少年は窮地に立たされていた。


 吹雪吹き荒れる氷山にて、王により悪と断じられた敵と決戦中、旅の途中で得た信頼できる仲間は皆殺され、自分ももはや打てる術はなく。


「う、うあぁあぁあああ!!!」


 魔力不足と寒さでチカチカと白光する視界を振り切り、目の前の敵へと斬りかかる。


 しかし、無情にもその剣は後1歩のところで、倒しても倒しても減らない魔物に邪魔される。


「く、くそ……。もう、少し、なの、に……」


 ついには絞り出した体力すら失い、絶えず吹き荒れる吹雪で積もった雪の中へと倒れこむ。


「……ふむ。無垢なる勇者よ、お主はなぜここへ来た?」

「なん、で……、そんな、こと、を……」

「うん?ただ気になっただけよ。ここまで相手してやったはよいものの、お主らが来た理由が分からぬでな」

「……それは、お前を、たお、せば、民が、みんな、が、幸せに、なる、からだ……っ」

「ふぅむ。それは誰に吹き込まれた?」

「……な、に?誰か、なん、て、関係ない、だろ」

「まぁ大方予想はつくがな。民というからにはお主の国のことよの?そしてお主の生まれは……、おぉ、そうか。アウクベルドと言ったか」

「……なんで、わか、るんだ!うぐっ……」

「我が僕たちに聞いたからよの。それで?お主にここを攻めるよう吹き込んだのは誰ぞ?王か?国王か?愚王か?」


 ニヤニヤと笑いながら問いかける女。もはや答えなど分かっているはずなのに、彼に答えさせようと返答を迫る。


 しかも、彼の装備する鎧の効果で絶えず全てが回復することも分かっていながら、なおも手を出さずひたすら見守る。


「お前は、何が、したいんだっ!」


 問いには答えず、少し回復した力で不意打ち気味に倒れた姿勢から剣を振り上げる。だが、悲しくも女はそれを悠々と躱し、逆に質問してきた彼の問いに律儀に答える。


「ふむ。何がしたいか、か。生憎と我に特段したいことなどないの。ただ無為に生きることに飽いたのだ。……うぅむ、そうよな。1つ理由をつけるとするならば、我はお主を気に入ったのよ」


 女はそう嗤いながら右手を前に伸ばす。


 その瞬間、その場に吹き荒れていた吹雪が唐突に止み、女に従うかのように意志を持って彼の周りを包み込む。


 そうして、女の意思通りに蠢く吹雪が晴れる頃には、まるで古代の遺物かのように溶けぬ氷に埋まった、英雄と呼ばれ仲間の信頼と王の期待を一身に受けた少年がいた。


 その姿は無情にも四肢が欠損していた。いつ切られたかも分からないほどの速さで女はその左手に握られた槍で、四肢を切り取ったのだ。


「さて、余興じゃ。手始めに誰がお主を唆したのかはっきりさせようかの」


 そう言って、女は側にいた白カラスを空へと飛ばす。そして女の周りにはいつのまにかリザードやフクロウ、厚い毛皮で覆われた雪男のようなものなど多彩な魔物が集まっていた。


「僕ども、たった今我が愛した者が不遜めにコケにされた。……ならばすることなぞひとつよのぉ?」


 グガァァーーーッと集まる魔物たちは雄叫びをあげる。


「であれば、往け!我の望む結果を持て!」


 ワラワラと山を駆け下りていく魔物の集団を眺めながら、真の姿へと変貌する女の名はリゼイン・エステランデ。


 正確に言えば、彼女は人間ではない。“人化”できる古の龍だ。



 体調50メートルもある体躯に長大な翼、その全てを覆う鎧のような蒼き鱗。


 その色鮮やかな鱗に光が反射して神々しく光る。





 名前:リゼイン・エステランデ

 種族:古龍族

 Lv:2831

 スキル:凍嵐Lv.- 畜生道Lv.- 蒼鱗鎧Lv.- 龍咆哮Lv.- 龍人一体Lv.- 槍神術Lv.- 魄氷魔法Lv.- 魄雷魔法Lv.- 熾天魔法Lv.- 識天Lv.- 完全耐性Lv.- 咒力特自動回復Lv.10 軀咒変換Lv.10 剛力Lv.10 猛進Lv.10 重突Lv.10 閃雷Lv.10 磊落Lv.10 流転Lv.10

 称号:限界突破者 超越者 凍てつく嵐 六道一者 龍人者 槍覚醒 魄なる氷覚醒 魄なる雷覚醒 識神に認められし者 咒の寵愛 咒変者 力の寵愛 槍技覚者





 彼女は龍から人へ、人から龍への変身に自力で至った超越者だ。そのため当然、人のスキルを扱うこともできる。


 そして、龍へと成ったリゼインの傍には、先ほど左手で持っていた、人間1人分ほどもある長い柄に1つ嵌められた碧色の宝石と三叉の穂先というシンプルな槍が浮かんでいる。


 しかし、その見た目にそぐわぬ力を持つその槍の名は【穿槍】トリシューラ。


 その槍で穿たれた跡には瓦礫の欠片すら残らないほどの破壊力を持つと言われる槍だった。





 その日、小国ながらも満たされたアウクベルドの民は突然氾濫した魔物に襲撃され、生き残ったのは全国民の約4割。


 それらの魔物は全て氷を纏っていたことから、王が英雄に侵攻させた氷山の魔物であることは自明の理であり、民の怒りの矛先は彼らが英雄と持て囃した少年と大々的に勅命を下した王へと向かった。


 それを受け王は民たちの怒りと帰ってこない英雄の責任を取らされ、まだ幼い我が子に王位を継承し、退位。


 だが、それでは氷山の龍の怒りは消えなかったのであろう。


 それからその国は二度と青空を見ること叶わず、永遠に途切れぬ吹雪に閉ざされるのだった。

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