第161話 授けられしモノ
「.......待てぇ!!!」
わたしに蹴り飛ばされた仮面の人物は、着地の瞬間に受け身を取り、そのまま身を翻して森の中へと逃げていった。
わたしは足裏に力を込めて地面を蹴る。すると周りの景色が恐ろしい速度で進んでいく。これまでとは一線を画すほどのスピードに自分でも驚くが、今はありがたい。
「ぬっ!!」
後ろから迫るわたしを見て驚いた声を上げる仮面の人物だが、顔が見えないのがつまらない。
すると画面の人物は森の中でも少し開けた場所で止まった。わたしから逃げきれないと悟ったのだろうか。
「ホホホ、この辺ならいいじゃろ」
「.......何?諦めたの?」
「いぃやぁ?お主は持っていそうじゃからの。わしが直々に鍛えてやろうと思ってな」
「........何様?というかあなた誰?」
「ホホ、それを知るにはまだ早いのぉ。わしが居るのはお嬢ちゃんが知らない世界じゃ」
「.........」
ホホホ、と腕を後ろに組んで陽気に笑う。しかし、その一見無防備に見えるその姿からは1分の付け入る隙もなかった。
「ホホ、偉いのぉ。これが分かるだけでも充分じゃよ。さて、もっとわしにさっきの力を見せとくれ」
「.......言われなくても!」
「.......くはっ・・・」
「全く。最初だけじゃったなぁ、あの刺々しい力は。一度気を抜けば引き出せなくなるなんぞ、まだまだじゃぞ?」
わたしは地面の上に転がされ、呆れたようなため息を吐かれる。もう指一本さえ動かせない。あれから最初に感じた黒いナニカを引き出そうとしたが、てんで上手くいかなかった。
それどころか、武技を使っても『技』なっていないと散々投げ飛ばされ、挙げ句の果てにはため息まで吐かれる始末。
昼前から戦っていたはずなのに、気づけば空は赤みがかっており、青々とした木々が陽に照らされ頬を染めていた。
「ふむ、立ち上がることすらできんか。まぁそれでもここまで天性のみで戦ってきたにしては持ったほうじゃろう」
「........?」
仮面の男は何かをぶつぶつ言いながらこちらへ歩み寄る。わたしは訝しげにそちらを眺めるが、生憎、逃げようにも体が動かない。
「そう恐れるでない。別にとって食おうなどとは思っとらんよ。・・・殺そうともな」
それはそうだろう。なぜなら仮面の男からすれば、この数時間の攻防の中にわたしを殺せるタイミングなど腐るほどあっただろう。それなのに、仮面の男からは一切手を出してこなかった。あくまでわたしの攻撃を利用しての反撃のみだ。
ーーならなぜ。
もはや声すら出せぬほどに体力を使い切ったわたしの口はケフッと喉に詰まった空気を吐き出して終わる。しかし、仮面の男にはなぜか伝わったようだった。
「なに、年寄りのちょっとした暇つぶしじゃ。これでもわしは拳法を嗜んだ身。才ある者に己が技を授けたくなるのもまた一興じゃて」
仮面の男はそう宣いながらわたしの側まで来ると、まるでわたしを介抱するように寄り添い、わたしのお腹の上に手のひらを広げる。
ーー何する気?!
声無き声で叫びながら必死に身を捩る。なんとかしてこの変態男から逃れなくては。
「ホホ、何もせん・・・というと嘘にはなるがお主の思っとるようなことはせんよ。言ったじゃろ?わしはもっとふくよかな方が好みなんじゃ」
「.........?!」
そう言い終えると同時に、仮面の男はわたしのお腹の中へと手のひらを突っ込んだ。
「.......あっぐ?!」
枯れたはずの声が思わず出るほどの衝撃が体中を走り回る。けれども不思議と痛みは無く、ただ自分の体の中を闇雲に弄られている不快な感触だけが延々と続く。
それからどれほど経過しただろうか。たまに息が出来なくなるほどの圧迫感と嘔吐感に耐えながら、体を弄られ続けたわたしは気づけば気を失っていた。
そうして目を覚ました今、周りには誰もいない。そして側には丁寧に並べられた武具と整備されたテント、そして心地よい音色を振りまきながら流れる小川があった。
「.......ここは・・・」
わたしは状況のついて行けなさに思わず、辺りをキョロキョロと見回す。空はすっかり闇へと変わり、その中を歩くように星が瞬く。さらに何かあったであろうお腹を触っても何も変わりはない。強いて言えば、驚くぐらいすっきりと体力が戻っているくらいだ。
念のため、周りの気配を探す。幸い、こんな立地のいい場所にもかかわらず、魔物はいないようだ。だが、仮面の男のような気配が極端に薄い奴もいる可能性があるので、極力気配だけに頼らないようにする。
「.......でも、今日はもう暗いから寝よ」
不思議とお腹も空かなかったわたしは夜の寒さで少し冷えた体を温めるため腕を擦りながら、テントの中へと入り寝袋に入ると、体は疲れていたのか急に眠気が襲ってきた。わたしはその眠気に逆らわず目を閉じた。
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「この先、お主の歩む未来は順風満帆か、それとも艱難辛苦か。じゃが、たとえ何がお主の身を苛もうとソレに抗えるだけの力は授けたつもりじゃぞ。後はお主の力次第。見事その『技』と『力』と『才』をもって、再び、俺の前に姿を現してくれ、サニアよ」
仮面の男は満点の星が輝く宙をを眺めながら仮面を外す。その顔は声に似合わず若く、左目には縦に大きく深い傷跡が刻まれていた。
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