第154話 新たな境地
「はぁっ!!」
ドガァァァァッ!と鈍い音が辺りに響き渡る。それと共に粉塵のように細かく砕かれた数体のスケルトンが宙を舞う。
それらは時間をかけて少しずつ体を修復していくが、その速度は先ほどまでと比べて著しく遅い。やはり私が物語で聞いていたように打撃攻撃が弱点か。
「ギギギガギ!!!」
しかし、スケルトンは骨同士を擦れさせ、耳障りな音を立てながら本格的にミユから私へとターゲットを変えた。対処の難しい相手より与し易いと判断したのか。
「賢いですね。でもーー」
ふっと短く呼気を吐き、両手に構えた槍を向かってくるスケルトンへと向ける。左目の片眼鏡では、踊るようなコアが危機を感じてか、その速度を上げて回り続ける。
「はぁっ!!」
より硬く、より鋭く圧縮した魔力を込めた“重突”。ここまでの戦いで知らぬ間にスキルはいくつも進化していた。
その先端は狙い違わず、スケルトンの体の中を躍り狂っていたコアを貫いた。しかもそこで勢いは止まらず、衝撃波がその後ろに群がるスケルトンの体を破砕していく。
「・・・できた」
目の前ではコアを貫かれたスケルトンがサラサラした粉へと姿を変じさせていく。私はそれすら尻目に自身の掌へ視線を落とす。
未だ槍を持つ手が熱い。摩擦のせいか皮がほとんど擦り切れて血が滲んでいた。それでも、感覚を掴んだ達成感は尋常ではなかった。
それは不意に掴んだ感覚。胸の中にすとんと落ちるように力を使いこなせた。その結果、物造りに決して向いているとは言えない“自然魔法”であれほどの破壊力を生み出すハンマーを作ることができた。
ミユはそのハンマーで今もなお、群がるスケルトンを破壊していく。
そしてその力への理解は魔法だけに留まらなかった。魔力の流れ、向き、集め方から放つところまで。全てがデジャブのように降りてきた。
そう、まさに降りてきたとしか言いようがない。
これまでずっとカイトが口癖のように言っていた『魔法はイメージ』と言う言葉が初めて理解できた。そしてさらにイメージは魔法に留まらず、世界は思い描く様に幾らでも描いていけるのだと理解した。
「テミスさん、何してんの?!前!!」
「うん、分かってる」
私は左足を半歩後ろへずらして大きく振り下ろしてきたスケルトンの剣を躱す。今、私はこの部屋すべての状況を把握できていた。この部屋に漂う空気が全てを教えてくれるのだ。
それは全て右目の“颶眼”のおかげだった。なんだか、一足飛びに階段を何段も駆け上った気分だ。
今まで、“颶眼”を片目だけ用いるなど出来ると思っていなかったし、何なら考えたことも無かった。しかし、今は呼吸をするかの如く扱える。
そして私は目の前のスケルトンに向けて、もう一度流れるように魔力を編み、後ろへ下げた左足で地面を軽く踏み締めて攻撃してきたスケルトンのコアを貫いた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「すご・・・」
うちはさっきまでとは違う雰囲気を醸し出すテミスを見て、空いた口が塞がらない。雰囲気が変わったのはこの巨大なのに軽いハンマーを作った辺りからだった。
「ギギギ!!!」
「わっ、とと!・・・てりゃーー!!!」
っと、今はよそ見をしている暇は無かった。うちはスケルトンには不釣り合いなほど凶悪な牙を携えた噛みつきを躱しつつ、振りかぶったハンマーを叩きつける。それだけで奴らは体を爆砕させた。
にしても不思議なのは、テミスがあれだけ強力な突きを何発も放っているのに、魔力がほとんど感じられないことだった。
それにさっきは、寸前まで襲われそうだったのにまるでわかっていたかのようにスケルトンの攻撃を避けたこと。視線は完全に下を向いていた。スケルトンが来ていることなど気づいてもいなかったはずなのにだ。
「ギギギギギギギギギッッッッッ」
そんなことを頭の片隅で考えながら、脳死気味にスケルトンを破砕していると、数で押せなくなったことを悟ったのか一斉にスケルトンが骨を擦らせながら一塊りになっていく。
「うぇぇぇ、何してんの?」
「おそらく合体しようとしているのでしょう。それぞれにあったはずのコアが猛烈な速さで固まろうとしています」
スケルトンたちは自らの体をバラバラにさせながら組み合わさっていく。そうして出来上がった代物は、とてもではないが生物の姿をしていなかった。
「まださっきまでの方が良かったよ・・・」
「そうですね・・・」
顔と思われるところには沢山のドクロとつなぎ合わせるための足や手、体は砕かれたスケルトンと残骸をつなぎ合わせ、そこからスケルトンの体を使った手足が伸びている。爪にはまたドクロがこれでもかと散りばめられており、見ているこっちが痛々しかった。
「ギギギギガガガガァァァァ!!!」
「うるっさ!」
「くっ!」
大きさは人間の三倍はあろうかという化け物が誕生を祝うように吠える。その声は広いとは言えないこの部屋で劈くように反響し、一種の音響攻撃となっていた。
「グギギギ・・・」
「ま、まずい、なんかしようとしてる・・・!」
「ミユさんーー」
「へーー?」
「ガァァ!!!!」
大スケルトンは攻撃の予兆のように首を大きく後ろに下げた。それをみたうちはすぐさまこの場を離れようとするが、それをテミスが呼び止める。しかし、テミスの声は大スケルトンのブレスに掻き消された。
「テミスさん!あぶな・・・?!?!」
「大丈夫ですよ」
うちは咄嗟に青黒いブレスからテミスを守るために前へ出る。しかし、我が身にそのブレスは届かなかった。
なぜなら、目の前には薄いナニカが障壁のように広がり大スケルトンの青黒く悍しいブレスを防いでいたのだ。
「これ、もしかしてテミスさん?!」
「はい、空気も使いようですね。ミユさんの前、僅か十数ミラ(ミリ)を完全に空気のない状態にしました。そしてそこから、ミユさんの鼻先数ミラまでは魔力で圧縮した空気の壁があります」
「へぇ・・・」
言われて目の前の空間を突く。すると確かに指に当たる固い感触があった。
「それではミユさん、あと8秒で奴のブレスが途切れるのでその一瞬の硬直を狙って、最大の一撃を放ってください」
「え、あ、わ、わかった!・・えーっとあと8秒だから・・・」
「今です!」
「はいっ!!」
うちは言われるがままハンマーに魔力を込めて放つ。大スケルトンはテミスの読み通り、ブレスをやめて体を一瞬硬らせた。
その瞬間を狙ってうちは叩きつけるようにハンマーを振り下ろした。そしてそれは狙い違わず大スケルトンの頭を大きく捉えて粉々にする。
「え?!テミスさん!どうしよ!これじゃ・・・」
だが、粉々になった顔はみるみるうちに修復していく。うちの込めた魔力が足りなかっただろうか。確かに咄嗟の出来事すぎて、全力を込めることは出来なかった。
「いえ、充分ですよ」
しかし、テミスには一切の焦りの色はない。まるで最初から全て知っていたかのように体をうちの前に踊らせる。
「蒼塵・・・重突!!!」
テミスは両手に蒼く光る槍を携えて、修復されていく頭へと突き込む。その瞬間、槍から蒼く輝く極大のエネルギーが噴き出し、それはやがて光る槍の形を持って突き進み、大スケルトンを片端から砕いていく。
「ギギガガガガァァァァ・・・・」
耳障りな雄叫びはやがて断末魔へと姿を変えて、粉の彼方へと消えた。
「す、すごい!すごいよ!テミスさん!!いつの間にあんなすごい技覚えたの?!」
うちは喜びと驚きのあまり、はしゃぎながらテミスへと飛びつく。だが、こちらを振り向いたテミスの顔は真っ青を通り越して白かった。
「ごめん・・・なさ・・」
「テミスさん?!」
そう言って、テミスは倒れた。
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