第153話 竜骨の喜劇
あれからどれだけ時間が経っただろうか。石版取り外しの作業はなかなか思うようには進まない。
「頭パンクしそう・・・」
「これをこうすれば・・・、違いましたか。ほら、ミユさん。休んでいないで手伝って」
「うぇぇぇぇ・・・」
予想以上に手間取っていた。
遡らずとも数十分前、この台座からどこにあるのかも分からない石板を取り外すという作業を開始した。まずは唯一ヒントになるであろう台座の中腹あたりにある小さな扉を開く。
するとその中には拍子抜けするほどあっさりと石板が嵌め込まれていた。気負って挑んだ割にはあっさりと見つけてしまった時は、なんだか言いようもない気分になったものだが、ここからが長かった。
見るとどこを探っても石版を外すような取っ掛かりが見つからない。挙句の果てには台座のほか三方向すべてに扉があり、正面以外の扉の中にはパズル(と言うらしい)が埋まっていた。
一つは10 ×20に分けられた中で、左上に嵌め込まれた小さな鍵を埋め込んだピースを右下まで持ってくると言うもの。これはそこまで時間が掛からず解けた。
すると、正面の石板を嵌め込んだ部分が淡く光り、覗いてみると先ほど獲得した鍵にちょうど合うような鍵穴が生まれたのだ。
「なるほど・・・」
どういった原理なのかは不明だが、ダンジョンだ。そんなことを考えても仕方がない。それよりも何をすればいいかは判明した。まぁこの時点でミユは頭の上にハテナマークをたくさん浮かべていたが。
次が、壁画のようなものがあり、それには火のようなものを吐く竜の様子とそれに立ち向かう人間らしきものが描かれていた。
これに関してはその壁画を見ると台座の下の方から鍵が転がり落ちてきた。特に謎解き要素はないらしい。
そして最後だが、これが現在も悩んでいるものだった。
やるべきことは単純で、先程のパズルと同じように左上から右下までを一つの線で繋ぐ、というもの。それぞれのピースには多種多様な形で線が描かれており、中には何も書かれていないものや途中で切れているものもある。
しかもその数が全体の半数近くあり、どうつなげても必ずどこかでそれが邪魔をして最後まで繋げられないのだ。
しかも一度取り外してから嵌められるわけではなく、一つだけ空いた枠を活用してピースを動かしていかなくてはならないため、時間がかかりフラストレーションも溜まっていた。
「もどかしい・・・。これがなければ解く道はあるのに・・・」
「ねぇテミスさ〜ん、これもう鍵二つ外れてるから無理やり外せないかなぁ?」
「うーん、でも破壊不能みたいですし・・・」
「一回試してみよ?ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」
「まぁそれなら・・・」
「よしっ!」
ミユもいい加減地味な作業に飽きてきていたのだろう。嬉しそうな表情で意気揚々と刀を抜き、大上段に構えると、まるで八つ当たりでもするかのように魔力をぐんぐんと溜めていく。
「ちょ、ミユさん?!そんなことしたら流石の台座も・・・」
「おらぁぁぁぁぁ!!!!!!」
完全に八つ当たりだった。
ドゴォォォォッという轟音と共に眩く光が弾ける。やがて光は収まったが、それと入れ替わるように粉塵が辺りを満たした。
「ゴホ、ゴホ。これで、どうだ・・・」
「ミユさん、やりすぎですよ・・・。完全に八つ当たりじゃないですか・・・」
私はそう言いながら“颶眼”の能力で粉塵をひと処に纏める。そうして晴れた視界の中には傷一つない台座が鎮座していた。
「これは・・・」
「うそっ?!結構本気で斬ったのに!!」
ミユは台座を見て驚愕の声を上げる。私もミユほどではなかったが、衝撃を隠せなかった。
ミユの刀は神創武具であり、能力は『絶対切断』。つまり斬れないものはないということになる。だが、目の前には傷一つない台座。それが意味するところは、この台座は神の創りし武具より上位の存在だということだ。
さらにいえばダンジョンの一部として機能していると思われるこの台座だが、ダンジョンの壁と同様の破壊不能の能力を宿している。しかし、それを破壊していた者がいた。
「まさか・・・」
私は自分の信じられない推測と揃ってしまった状況証拠に思わず身震いをする。本当にあの時、あの者が私たちの前から自ら去っていってくれてよかったと思った。
『ガガガガガガガッッッ!!ピー!!・・・テ、テ、テキ、テキテキタイコウドウカンチニヨリ、タイボウエイコウドウ、オヨビテキタイセイリョクのトウメツヲカイシシマス』
「な、何?!」
「ミユさん!何か出てきます!」
すると次の瞬間、部屋中に響き渡る甲高い音と共に機械音声らしきものが流れ始める。そして、奥の壁がひとりでに開いたかと思うと、そこから全身が骨でできた人型の魔物が大量に現れた。
「な、スケルトン?!」
私は思わず声を上げてしまう。何しろ目の前に現れたのは御伽噺の中にしか存在しない魔物だったからだ。全身が骨で構成されており、武器や道具でさえ骨。しかし、その見た目とは相反して強力な力を誇る敵だった。
「なーんだ、単なる骨じゃん」
「ミユさん!気をつけてください!彼らは言い伝えのみ伝わる強力な魔物です!その一体だけでも村をいくつも滅ぼしたと言われているのに、それがこんなに・・・!」
「え、??そんなに強いの?」
「強いですよ!!知らないんですか?!」
「いや、知ってはいるけど・・・、うちの世界だと雑魚として知れ渡ってるからなぁ・・・」
「そ、そんな?!」
ミユが言うには、これだけ強力な存在が彼女の世界ではスライムに並ぶ雑魚として描かれていると言う。私にはにわかに信じることが出来なかった。なにしろ・・・。
「斬撃が効かない、打撃も体のどこにあるかわからないコアを叩かない限り効かない。それでいて衰えることなく倒されるまで動き続けるというこのスケルトンが雑魚?!」
「え・・・、そんな能力あるの?」
ミユは未だにピンと来ていないようだった。私は波のように迫ってくるスケルトンから目を離さず、出来る限りミユに彼らの脅威を説明する。
「とにかく!倒せばいいんでしょ?」
「いえ!ここは逃げましょう。これだけのスケルトン相手に勝てるとは思いません。そこの扉から外へ出れば・・・」
そう言って私は入ってきた扉に駆け寄り開こうとする。しかし、扉は鍵がかかったようにびくともしなかった。
「そ、そんなことって・・・」
私の体に再度の絶望が迫りくる。彼の魔物に出会った時には感じなかった、現実的な死の予感だ。思わず振り返るとそこには、およそ数十体のスケルトンが思い思いの武器を抱えて私たちを睥睨している。
「ミユさん・・・」
「はぁ!!・・・くそ!斬撃が効かないってそういうことなの?!はぁぁ!!」
その中では、嵐のようにミユが刀を振りながら暴れている。だが、スケルトンは痛痒にも感じていないようだった。
ーーそれもそのはず。
何しろ、その骨の体は斬撃を受けても即座に修復する。それはどこを斬ろうと、幾重に斬ろうと、粉微塵に斬ろうと結果は同じだった。
体の中を絶えず移動する極小のコアがその大きさに見合わぬ力を流して、即座に体を修復するという。
伝承は本当だった。
スケルトンたちはミユの攻撃が進攻を阻むのに値しないと判るや否や、その身に刺さる刀を無視して踊るようにミユへと攻撃を開始する。それを受けてミユも防御体制を取らざるを得なくなり次第に攻撃の手は止まった。
「くっ!こんなのってあり?!サアラさえいればこんな奴ら!」
「戦うしかないですか・・・っ!」
私は一欠片の勇気を振り絞って槍を構える。それを感知したのかミユへと意識を向けていたはずの一体がこちらを振り向く。
「あなたの敵は彼女だけではありませんよ!」
私は片眼鏡に魔力を流し、スケルトンの体を視る。すると小さな粒のような光が凄まじい速度で、スケルトンの体の中を躍り狂っているのが見えた。
「あれが、コア・・・!」
絶えず体の中を躍り狂うその粒から全身へと白い光が流れ込んでいる。さらにミユが傷をつけた場所にはさらに眩い光が流れ込んでいるのだ。あれがコアで間違い無いだろう。
しかし、その粒の大きさはわずか指の先ほど。槍で突くにしても、的が小さすぎて当たる気がしない。たとえ滞留していたとしても当てるのは至難の技だろうに、それが凄まじい速度で移動しているのだ。
だが、本来打撃武器であれば、それなりに弱点を突くことができるという。というのも点や線での攻撃である斬撃武器に比べて、打撃武器は面での攻撃となる。そのため攻撃範囲が広いのが特徴だ。
そしてスケルトンのコアもその大きさに比例して耐久性は低いらしい。そのため、面での攻撃を行う打撃武器であれば、当たらずともその衝撃だけでそれなりにダメージを波及させることができるというのだ。
けれども悲しいことに今私たちの中で打撃武器を扱える者はいない。いや、正確に言えばミユが扱うことはできるが、そのための得物が・・・。
「・・・そっか、ないなら作れば良いんだ」
私は思いの外鈍重だったスケルトンの攻撃を躱しながら思わず呟く。
なぜ、こんなにも簡単なことに気づかなかったのだろう。私は彼の最も得意な風と森と共に成長した樹の魔法を扱える。魔法の中でも『大地』と『自然』は明確に質量を持った魔法だ。
ならば『大地』のように、『彼女』のように、武器を造ることも不可能ではないはず。
「これを・・・ここはこうか。それで・・・・・・出来た!」
私はスケルトンを槍の柄で弾き飛ばし、頭に浮かんだ構図を“自然魔法”にて一気に組み上げる。そうしてできた槌は緑と茶が入り混じった頑強な代物だった。
全てを支える柄は予想される衝撃を流せるよう螺旋に組まれた。そしてその先には大木を思わせるような、何者にも負けない大きな槌が備わっていた。
「ミユさん!これを!」
「へっ?!・・・わかった!!」
私は自分で持ち上げるだけでも精一杯のハンマーをスケルトンの渦中にいるミユに投げ渡す。それを見て一瞬で思惑を掴んだミユは軽々とその大きなハンマーを片手で握り込み、威嚇するように地面を叩きつける。それだけで、スケルトンたちは面白いように怯んだ。
「さぁ、あんたたちの喜劇もここまでよ。ここからはあんたたちの悲劇の始まりだからっ!!!」
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