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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章

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幕間〜白銀煌く妖狐〜

 ソレは凄まじい速度で荒野を駆けていた。


 その速度は尋常のものではなく、ともすれば横を通ったことさえ気づかないほどの速度である。


 そんな音速にも達しようかという速度にもかかわらず、空気を裂き、割れるような音はしない。足音もしない全くの無音であった。


「キュワァァーー!!」


 ソレは特徴的な高い声を上げながらどこかに向けて直走る。休む間も無く入り続けているのだろう。その姿は痛々しく全身を覆う煌々とした白銀の毛並みには所々に血が滲んでいた。


 障害物の一切存在しない見渡す限りの荒野を抜けた先には目を疑うほど、生命力にあふれた森が広がっていた。そしてソレはその森目掛けて一目散に向かっていく。


 綺麗に整えられていた爪は割れて剥がれ、血が滲んでいる。そこにさらに森に多く生茂る、棘を生やした木の側を駆け抜けたため、その棘がソレの体を引き裂いた。


「キュゥゥ!!」


 弱々しい声を上げながらも速度は緩めない。ただ一直線に目的地へと駆け抜けていく。その姿はとても悲壮なものだった。


 細身で流麗な白銀の体躯と扇状に広がる6本の尾の先にそれぞれアクセサリーのように回転する歯車を揺らめかせながら。





「キュウ!!キュアウ!!」


 森を駆け抜ける銀狐が空に向けて吠える。それはどこかに向けて抗議をしているようにも聞こえる。そんな銀狐はその速度でもってすでに森を抜けかけていた。


 左には広大な海が広がっており、彼方には陽に照らされた水平線が続く。そしてその側には人間に似たナニカが住まう村が存在していたはずだ。


「はぁ!!」


 そんな銀狐の視界には1人の獣人の娘が映っていた。緑、赤、青色の光と踊りながら三体の魔物と戦闘を繰り広げている。どうやらその三体の魔物の連携を崩せず、てこずっているようだった。


「フキュウッ!」


 彼女には見覚えがある。敵ではないことは確実だ。正直味方をしたい相手でもないが、死なれては寝覚が悪い。ということで少し手助けをすることにした。具体的には三体のうちの司令塔。それを自身の能力で殺す。


「なっ?!」

「ギャグァ?!」


 目の前で一瞬にして挽肉になった彼らの司令塔。さしもの驚いたことだろう。誤算としては助けたはずの彼女も驚いてしまったせいで、作り出した隙を活用してもらえなかったことだろうか。


 銀狐は結果を見届けてすぐ、その場を離れた。少し項垂れながら。







「キュフゥン・・・」


 森を抜け、海の側を駆け抜けて少し息の上がった銀狐の前には、煉瓦でできた遥か空へと続く大きな塔があった。その下には教会のような作りをした入り口。だが、実際に中に入ってみると、そんなことはなくただ天へと続く大きな螺旋階段があった。


 そしてその前には門番のように佇む一体のゴーレム。ソレは侵入者を感知したのか、のっそりと立ち上がり側に置いてあった大剣とハンマーが合体したような武器を持ち上げる。


「グゴァァァァァァァ!!!!????」


 侵入者を威嚇するため起動と同時に雄叫びを上げたゴーレム。だが、その声は後半には叫び声へと変化していた。


「キュイ!!」


 なぜならそのゴーレムはすでに三分割されていたのだから。顔、上半身、下半身に綺麗に断裂されていた。だが、お世辞にも断面は綺麗とは言えず、何か鈍器のようなもので削り切られたような痕が残っていた。


「フキュァ!!」


 銀狐はソレに目もくれず、ゴーレムの守っていたはずの螺旋階段を登り始める。だが、途中から目が回ってきたのか、銀狐は階段ではなく、壁を走り始めそのまま遥か天へと姿を消した。




「キュガウ!!」


 それからどれだけ登っただろうか、敵らしい敵もいなかった螺旋階段を登り詰め、天を埋める壁を体当たりで突き破る。するとこれまで同じ景色しか続かなかった視界が広がり、視線の下には雲が広がっている。


「なっ?!」

「くっ?!」


 そしてその視界の端には2人の女性がいた。片方は人間、もう片方は人間には見えるものの肌の色が違う。銀狐も見たことのない浅黒い肌をしていた。


 彼女たちは銀狐の姿を見て咄嗟に武器を構える。戦う気のなかった銀狐としては心外な対応だが、姿は狐なのだから致し方ない。


 それに彼女たちのことも見覚えがあった。彼女たちも今は敵対したい相手ではない。メラッと心のどこかに黒い炎が燃え上がるが、今はそれを飲み込もう。


「キュップイッ!」


 だが、何もしないのは悔しいので、最大限に『あなたたちには興味ありません』という意思を込めて余裕の表情でその場を去る。後ろでは彼女たちが呆けた顔をしているのが容易に想像できた。


「キュフゥ・・・キュア?!」


 そして目の前にまたも広がる森を見てため息をつく。だが、その視界のずっと先にちょうどいい八つ当たりできそうな魔物を見つけた銀狐は一目散に走りだした。





「キュガフ・・・ガフ!キュフル」


 思いの外抵抗した八つ当たり先のイノシシの肉にがっつく。お腹も空いていたしちょうどいい。肉は火を完全に通す派だったが、生も意外に悪くない。脂っこいのがたまに瑕か。


「キュゥアアア!!」


 ちょっと物足りないもののそれなりにお腹を膨らませた銀狐は大きく伸びをして、また自身の目指す目的地へと走りだした。

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