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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章

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第144話 多頭の怪物

「ふっ!」

「キシュァァァァーー・・・」


 俺はもう何度吐いたか分からないため息を吐きながら俺に襲いかかってきたヘビの頭から刀を引き抜く。


 もうここまで何体このヘビを倒してきたことだろう。50を超えてから数えていないが、すでに三桁に達してしまっただろうか。


「図体だけは厳ついのにな」


 さっきから襲いかかってくるヘビは体長5メートルはあるだろう大きさで、それに比例して体も大きい。頭も三角でマムシのような形をしており、俺の三倍はあろうかと言う大きさをしていた。


 だが、その攻撃方法は噛みつきと毒吐き、それから締め付けという、なんともSランクダンジョンというにはいささか物足りないものだった。


「「「キシャァァーーー!!!」」」


 また、通路の奥から三体のヘビが襲いかかってくる。狭い通路では三体のヘビが横並びで動いてギリギリだった。


 俺は左右から噛み付いてくるヘビの頭を落とし、毒を吐いてくる真ん中のヘビには屈んで毒を躱し、下から振り上げる刀でヘビの頭を縦に割る。


「シュァァァァ・・・」


 弱々しい鳴き声を上げながら最後の一体が息を引き取った。


「やっぱり得られるのは“顎壊”と“毒耐性”だけか。しかし、いったいここは何階層なんだ?」


 いい加減飽きてきたこの作業のような討伐を嘆くように、一際声を荒げて喚いてみる。そうでもしなければ気が狂いそうだった。


 ここまでもう10回ほど階段を降りている。それなりに時間は経っているため、ピエロにやられた傷や魔力はすでに完全に回復しているが、ボス部屋があってもおかしくないほど降りてきているのに、未だにあの『反魔材』の洞窟から抜け出せないのだ。


 道は相変わらず一本道。ただ、ピエロがいた場所のような罠の類は一切なく、代わりに数歩進めば現れるヘビに変わっていた。




「また、階段か・・・。ここもボス部屋へと続く階層じゃないのか。まさかこのダンジョンは規則的な変化ではないのか?」


 今更かと言われればそれまでだが、何分Sランクダンジョンに挑戦するのはこれが初めてなのだ。ダンジョンというからには何かしらの規則性があるだろう、という固定概念に加えて、これまでのダンジョンがその通りだったのだから仕方ない。


「はぁ、もうヘビは勘弁してくれよ・・・」


 俺は届かぬ思いと分かっていながら悪態を吐かざるを得なかった。





「また真っ暗だな」


 ここだけは規則的な階段を降りてすぐにあるマジックミラーを通ると、光の一切ない暗闇へと躍り出た。一応、スキルに“夜目”があるから問題なく見えるが、道の幅などはこれまでのなんら変わりはない。


 ただ、一点違う点を挙げるとすれば、曲がり角が見当たらないことくらいか。俺はスキル“夜目”に加えて“千里眼”も有しているため、それなりに遠くまで見ることができるが、それを以ってしても曲がり角が見えない。


「・・・いや、もう一つあったな。ようやくか・・・!」


 ずぅっと目を凝らして奥を覗いてみると、薄ぼんやりとここまでに何度か見たあの長大な扉が見えた。あの無駄に装飾の凝らされた扉は間違いない。


「ボス部屋だ・・・!」


 半ば確信を持って道を進む。すると俺の来訪を待っていたかのように、左右の壁に備えられている蝋燭に火が灯り始めた。もはやボスに挑む前の神聖な儀式のようにも見えて来る。


 それからまっすぐと長い廊下を歩いて大きな扉の前に辿り着いた。それはこれまでみたボスへの部屋へと通じるものとなんら変わらない。


「やっとか・・・!」


 これまで代わり映えしなかった状況に変化が訪れたことと、仲間を見つけるためへと進む道に光が見えたことに思わず握り拳を作ってしまう。


「さぁ、何が出てくる?」


 知らず声は弾んでしまうが、きっと俺の顔は過去に類を見ないほど強張っているだろう。心なしか扉を押し開く手に力が入っているようにも感じる。


 考えてみればそれも当たり前か。何しろこのダンジョンに入ってからまだボス戦はたったの戦。しかもそのどちらもまともな戦闘ではなかった。一つはみんなが協力して得た勝利。そしてもう一つは勝利ですらなく、敗北という言葉すら生温い絶望だった。


 俺は人1人分が入れる程度に扉を開いて中へと入る。すると俺が中に入ったことを検知したのか、俺が開いた扉は自動で閉まっていった。そしてドスン!という腹の奥に響くような音を立てて閉まった瞬間、ボッボッ!と辺りを沢山の蝋燭の火が埋め尽くす。


「眩しい・・・な」


 暗い世界に慣れた目には些か辛いほど、大量の蝋燭が広い広い部屋を照らす。もはや蝋燭で照らせるのはおかしいのではないか、というほどの明るさで、まるでここにだけ太陽が降りてきたかと錯覚するほどだった。


「な、あれは・・・」


 目が光に慣れてきて、徐々に目の前に佇む威容が認識できるようになってきた。そしてその姿を見た瞬間、“鑑定”などせずとも敵の正体、いやどんな生物が言い当てることができた。


「ヒュドラ・・・!」


 他にも八岐大蛇などさまざまな呼び名で知られる怪物は矮小な俺を見定めるように見下ろしていた。その姿は多頭の大蛇。その首の数は8とも9とも100とも言われているが、どうやら目の前の大蛇の首は8本。すなわち八岐大蛇といったところだろうか。


 倒すためには同時に全ての首を落とさなければならないと聞く。なるほど、ここまであれほど大量にヘビがいた理由も今なら納得がいく。


 そしてその8本の首をもたげさせながらゆらゆらと揺れる怪物は、やはりそれだけの首を支えるためか、体も大きかった。


 とぐろを巻くその高さは約7メートルほど、全長にすればいくつになるか想像もつかない。特徴的な8本の首はその一つ一つで俺を数人ほど纏めても一気に飲み込めるほど大きく、そしてその8本の太い首を支える胴体に位置する場所は、やはりそれに比例して太く大きかった。


 そんな各一本ずつの首の直径だけでも数メートルは優にあるだろうというのに、それを8本も支える体にはどれだけ強靭な筋肉があるのだろうか。


 そんな多頭の怪物は自らの体色を茶色、緑、黒、青、紫、と様々な色に変化させながら、俺を見計らうようにチロチロと舌を出す。聞きかじりの知識だが、あのヘビの下を出す行動は周りの温度などを測るサーモグラフィーのような性質をしているらしい。


 今それを行うことで一体何を探っているのかは不明だが、徐々に怪物の体が波打ち、筋肉に力が入っていくのがわかる。少なくとも臨戦態勢に入ろうとしていることは確実だろう。


「「「「ギィュシャァァァァァァ!!!!」」」」


 俺もそれに合わせて刀を抜き、相手の出方を図ろうとした瞬間、いくつかの首が戦いの火蓋を切る雄叫びを上げた。

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