第135話 荒廃した天空都市
「ここはどこ?」
うちは目を覚ましてからひたすら壁沿いに歩いてきたが、いまだ終着には程遠い。視界の先に微かな光は見えるのにそこまでが果てしなく遠いのだ。
「うっ、頭が痛い・・・」
あのピエロに飛ばされてからここに辿り着くまでの間の記憶はないが、その間にどこかで頭をぶつけてしまったのだろうか。時折、内側から殴られるような痛みが走る。
幸い、どこも折れている様子はないし、周りを探ってみても敵の気配はしない。だが、ここがどこなのか見当すらつけられないため、敵の気配がしないのは不安を煽る要因にもなっていた。
「でも、まずはみんなと合流しないと・・・」
うちは悲鳴を上げる体に鞭打ちながら光に向けて進む。合流するためにはまず自分がどこにいるかを確認しなければならない。
「そのためにもまず、あそこまで行かないと」
カイトくんの“無限倉庫”に甘えていたせいで食料などが一つもない。洞窟の中には野草など生えておらず、当然ながら食料もない。さっきからお腹は鳴り続けているし喉も渇いてきた。
うちはあの光の先に少なくとも食べられるものがあることを信じて進み続けた。
「ようやく着いた・・・」
それから約1時間ほどで小さな光に辿り着いた。そこは岩の隙間から微かに光が漏れ出ており、そこから空気も入ってきていた。うちはその光の隙間から外を覗き見る。
「なにこれ?」
見える範囲が狭く、広さや状況はしっかりと読めないが、ちらりとボロボロになった家屋などが見える。そのせいか生き物の気配は全くと言っていいほどしなかった。
だが、人が住んでいた形跡がありそうなものを見つけたのだ。探索しない手はないだろう。ここがダンジョンであるため人がいるかは不明だが、ここをねぐらにしている魔物くらいはいるかもしれない。
「よし、これならいけるかな」
うちはこんこんと眼前を塞いでいる壁をノックする。叩いた感じそこまで分厚くはなさそうだ。これなら殴って壊せるだろう。
「ハッ!!」
うちは気合をこめて正拳突きで壁を破壊する。ドガァァン!!という音とともに破壊された壁は細かな粉塵を撒き散らして道を開いた。
そうして開けた視界に映ったのは広大な瓦礫の山とわずかに残った家屋。そしてそれを覆うように大量に生えた苔、ふと空を見上げると空には一点の曇りもない。しかし、空はこちらの予想とは違いまっさらなキャンバスのように白かった。
「ここはいったい・・・」
何事もまずは状況の把握から。そう考えたうちはこの広いエリアを探索することにした。そうして30分ほど空腹に耐えながら歩いているとようやく道の果てにたどり着いた。
どうやらここは一つの街のようなものを形成していたようで、所々瓦礫の下には舗装された道のようなものを見ることができた。
「・・・ここってもしかして、空の上?」
だが、道の果てにたどり着いたことでようやくこの場所の検討がつけられた。道の端には柵がなく、一歩足を踏み外してしまえば、真下へ真っ逆さま。そして視線を下に下げるとそこにはいくつもの雲が浮かんでおり、ここが雲よりも高い位置にあることがわかる。
にしては呼吸が苦しくないが、それはダンジョンの仕様なのだろう。
「!?」
その時、近くでガサっとナニカが動く音がした。うちはすぐさまそちらの気配を探る。するとここから少し離れたところに四足歩行のナニカがいることが確認できた。
四足歩行なら人間ではないだろう。屈んでいるだけなら知らない。うちは慎重に気配を消しながら、標的のいる方へ近づく。
ここまで一切食事を取っていない上、うちは魔法が使えないため水を得ることもできない。そろそろ本格的に視界がふらつくほどだ。前回食事を取ってからそこまで時間は経っていないはずなのだが、ピエロ戦で思った以上にエネルギーを消耗したのだろう。
そうして標的まであと10メートルほどのところで標的の姿を視界に収めた。姿はイノシシのような体をしており、大きさは人間の半分ほど。全身は黒い毛で覆われており、頭には二本の牙が生えている。
すると向こうもこちらに気づいたようで、振り向きうちの姿を見た途端、脱兎の如く体を翻して逆方向へ走っていく。うちはそれを逃がさないように先ほど拾った石ころをイノシシにぶつけた。
「よしヒット!」
バランスを崩したイノシシはよろめきながら瓦礫に突っ込む。うちはそれを追い、ようやく今晩の食材を獲得することができた。
「うぁ寒」
すっかり日が落ち、陽が間近にあったことで肌が焼けるように照らされていた日差しはとうに消え、今は体が震えるほどの冷気が辺りを埋め尽くす。
うちは焚いた焚火により体を近づけることで体を暖める。よほどお腹が空いていたのか、それなりに体の大きかったイノシシは骨を残して綺麗になくなっていた。
「これからどうしよ」
イノシシを見つけたことでここに一切の生き物がいないわけではないことはわかった。それも先ほどのイノシシのようにあまり魔力を感じない魔物がいる。比べると最初のエリアで遭遇した狼はレベルこそ低かったが魔物と呼べるだけの魔力を有していた。
だが、うちの平らげたイノシシにはその半分以下ほどの魔力しか感じなかったのだ。この違いが何を意味するのかは不明だが、何か良からぬことが起きているのではないか、と思うのはうちの気のせいだと思いたい。
「でも、それよりもカイトくんたちだよね・・・」
ピエロに負けて攻撃を受けたうちが生きているのならば、最初に消されたサニアも生きている可能性が高い。それに自分より強いテミスやカイトなら尚更のことだろう。
ならば彼らへと合流することが先決だ。
「よし、それじゃ今日はもう寝よう!」
うちは焚き火で乾かしたイノシシの毛皮の渇き具合を触って確かめる。数時間ほど焚き火に当てたからか、毛皮についていた血はすっかり乾いていた。
「うわぁくさい・・・」
だが、水がないためどうしても洗い流すことは出来ず、毛皮についた血臭は如何ともし難い。うちは内心でまずは水場を見つけることを目的とし目を瞑った。
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