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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章

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第130話 光を照らす闇『前編』

「ようやくここまで来れたのか・・・」


 現在、俺たちは最後の階層である10階層へと続く階段の前にいた。ここまで来るのに約3日、随分と時間がかかってしまった。


 どの階層も罠がぎっしり詰められており、そして一体のピエロが待ち構えていることは変わりなかったのだが、ピエロの能力や時折顔を見せる凶悪な罠が俺たちの進行を阻んだのだ。


「次でようやく最後ですね・・・。ただ、上と同じであればその先にボスがいるわけですが・・・」

「そうだな、最後で気を抜くと痛い目を見そうだ」


 ピエロは最初の岩ピエロのようにほぼ無害のようなものもいれば、攻撃するとその威力に応じた量の酸を吐き出すものや今度は人間にのみ聞くような催眠ガスを噴くものもいた。


 俺は数ある耐性のおかげでまともに立てなくなる程度で済んだのだが、ミユはもろに被ってしまったせいで錯乱し、全員に斬りかかるという危険な状態になった。


 ただ、サニアたちを襲ったような時間経過と共に命を奪う類のものではなく、純粋に近くのものへと攻撃を仕掛ける無差別的なものだったため、なんとか暴れるミユの意識を絶つことで事なきは得た。


 他にも毒沼へと落とすような罠や、方向感覚を狂わせるものなど一歩処理の仕方を失敗すると取り返しがつかなくなるものなど、時間と神経を潰す罠がたくさんあった。


「ご迷惑おかけしました・・・」

「だ、大丈夫ですよ!幸い皆さんに怪我はなかったわけですし・・・」


 ミユ曰く催眠ガスを吸ってからの記憶がないようだが、それでも目が覚めた後の様子を聞いてからずっと萎縮してしまっていた。


 だが、それも次で最後だ。ここまで常識からズレたダンジョンの作りではあったものの上の雪階層ともまったく作りが違うということはないだろう。


 であるなら次が最後の罠階層であり、その次がいよいよボス戦のはずだ。


 俺たちは気を引き締めて闇に続く階段を降った。






「何もないな・・・。いっそ不気味すぎるほどに」


 階段を降り、通常通り続く道に従って30分ほど歩いてきたが、ここまで罠という罠がなくピエロさえも出てこない。簡単な罠だけでもあればまだ分かるのだが、それさえないためより一層警戒心が高まっていた。


「あ、あれ?あそこ分かれ道になってない?」

「本当だ。行ってみようか」


 そうして分岐路まで来てみるとミユの言うようにここまでにはなかった分かれ道が3方向に続いていた。どの道も見える限りに曲がり角はなく、まるで大口を開いた獣の口のように一寸先には闇が広がっていた。


 俺は念のため、と三方向へ“罠看破”を使う。すると見事に真ん中以外には罠が一切なく、逆に怪しげな雰囲気を醸し出していた。


「カイトさん、こっちに何か書いてありますよ?」

「ん?」


 テミスに連れられ壁を見てみると何か文字が書いていた。おそらく俺は初めてみる文字だが、何故かなんと書いてあるのかが読めた。それによると『真実の道を進め』と書いてあった。


「真実の道を進め?どういう意味だ?」


 どう考えてもこの目の前の3つに分かれた道のことを言っているのだろうが、他にヒントらしきものは一切なかった。


「うーん、カイトくんが言うにはこの道だけ罠がないんだよね?そしたらここなんじゃない?スキル使わないと罠があるかどうかなんて見ただけじゃ分かんないんだし」


 ミユは正面の道を指差す。確かにスキルを使わなければ3つの道は一見同じだ。しかし、どんな謎にも答えがあるようにこのダンジョン特有の錯覚を利用して、他左右の道にはきちんと罠解除のヒントは出してくれているのだ。


 だが、正面の道にはそういった『ギミック』というものが一切存在していない。そのことにとても違和感を感じているのだ。


「かといってそれだけを理由に危険な道を進むわけにもいかないしな・・・」

「では、手分けしてみては?もし間違った道であればその先に道が続くとは限りませんし、ここまで来るのにすでに皆が“罠解除”のスキルを獲得できています。なのでまたここを待ち合わせにしてまた戻って来ればいいでしょう」

「確かにな。ここで考え込んでいても仕方ないか」


 テミスの言うようにここまでの6階層ほどで全員が無事“罠解除”のスキルを獲得した。スキルを獲得しやすいサニアが1番最後に獲得したのは驚いたが、構造を理解するのは少し苦手らしく、何でもポンポンと覚えられる訳ではないらしい。


 そうして俺とサニアが右の道、テミスとミユが左の道に進むこととなった。最初は俺がこの場で待ち、3人がそれぞれの道を進むことをテミスが提案したのだが、正面の道は何か不気味なことと、珍しくサニアが自信なさげだったため、このようなチーム分けになった。


「それでは制限なしというのも限りがなくなってしまうので、約二刻で戻ってくるようにしましょう。それでもまだ先に続きそうでしたらまたその際に」

「分かった、そうしよう。くれぐれも気をつけるんだぞ?」

「分かってるよ!」


 そう言って4人は互いに背を向け、それぞれの担当する道を進んで行った。




「ライト。これで少しはマシになるか?」

「........うん。ありがと、主さま」


 狐の獣人であるサニアもある程度の夜目はあるはずだが、罠を解くとなると集中するため光による灯りがあった方がいいとのこと。


 そのため、俺は“熾天魔法”で簡易的な灯りを精製する。手のひらの上で浮かぶような小さな光の玉だ。それをサニアの顔の近くに持っていく。サニアはとても真剣な表情でピアノ線のような細い糸の罠を解除していた。


「それにしてもこっちはハズレか?あそこほど不気味な雰囲気はしないが・・・」

「.......まだ進んでそんなに経ってないわ。この先に何かあるんじゃない?こんなものあったし」


 そう言ってサニアが見せてきたものは小さな黒い石ころだった。光を吸い込むような黒をしていながら時折光沢を見せるという相反するような感想を抱く鉱石だった。


「へぇ、綺麗じゃないか」

「........これがまだまだ先にも」


 と、サニアは闇の先を指差す。その先に俺も視線を移すと、確かに同じような光沢をした石ころが列を成すように整然と転がっている。いや、並んでいるといった方が正しいだろう。


「なるほどな、この鉱石は?」

「........はい」


 言わずとも差し出してくれるその石を俺は鑑定する。



 名称:反魔鉱石 触れた魔を弾き消滅させる効果のある鉱石。摂氏6000度でようやく沸点に達するが、溶かせば雑多な鉄に1グラム混ぜても十全に効果を発揮する。そのためある国では1グラムに数千の金貨が支払われるほど。



 これとそこらの鉄を同量ずつ溶かして混ぜ合わせると壁にあるような反魔鋼となるらしい。というか、こんな希少なものが取り扱われている国が今もあることに驚いた。


「サニア、どうやらこの鉱石は希少みたいだから拾っとけ。自分たちでも使えるかも知らんしな」

「........分かった。それで、あっちはいくの?」

「あぁ行くさ。呼ばれているんだがなんだか知らんが、行ってみないとどうにもならないしな」


 俺は促されるままに整然と並べられる鉱石を伝って奥へと進んでいく。そうしてしばらく歩いていると一つの部屋に繋がった。


「ここは・・・」


 見覚えのある部屋だ。というかつい数日前に見たあの女神像がある部屋と同じ作りだった。だが、部屋の中心にある女神像はまたしても姿が違い、今度は琴のようなものを弾き我が子を見守るような顔をした姿だった。


「ん?これはなんだ?」


 ふと何かが光った気がして女神像の足元を見るとそこには女神の足に挟まるように円盤型の鉱石があった。大きさはちょうど手のひらに収まる程度。そこには分かりやすく『ハズレ』の文字が。


「は?なんーーっ?!」


 神経を尖らせて罠を抜けた先で、意味ありげに挟まっていた円盤にはここまできた者たちを嘲笑うような一言。さすがの俺も悪態を吐こうかという瞬間、“予知”で一瞬先の俺とサニアが壁から突き出す黒鉄の槍に貫かれる映像が見えた。


「ーーっ!!」

「........あるっ!」


 俺は声をかけるより早くサニアの体を抱えて女神像の部屋から出る。俺の足が部屋から出るギリギリのタイミングでジャコンッ!と最後の黒鉄の槍が側を通り抜けた。


「あぶなかーーっ?!」


 すんでのところで突如突き出した黒鉄の槍を躱した俺たちは一息つこうとした瞬間、俺たちを追い立てるように部屋の外の壁からも槍が四方八方から突き出してくる。


「サニア!走れ!!」


 後ろから迫り来る耳障りなジャコジャコッッ!!という音がより一層恐怖を掻き立てる。俺たちは後ろを振り返らず一心不乱に走り抜けた。



「カイトさん?!サニアちゃん!」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 それから気づけばもとの集合場所に戻ってきていた。すでにテミスとミユは戻ってきており、2人で談笑していたところに俺たちが走って来たのだ。驚くのも無理はないだろう。


「そんなに息を切らしてどうしたんですか?2人とも」


 振り返ると槍はすでに追ってきておらず、テミス達もなぜ俺たちがこんなに焦っているのかわからない様子だった。



 それから経緯を話すと槍については驚かれたが、テミス達の方にも小さな部屋があったらしく、中を覗くと真ん中に同じく琴を持った女の像があったらしい。そのため、一度俺たちにどうするかを確認するため触れずに帰ってきたらしい。




「それが正解だ。おそらくそっちにも同じ部屋があったってことはそこもハズレの可能性は高い。だとすると・・・」


 最後に残っているのはこの一切の罠がない不気味な道のみになるのだが、俺のスキルではない直感が警鐘を鳴らしているのだ。


「けど、もう進むしかないか・・・」


 ただ、ほかに道がない以上進むしかないため、俺たちはこれまで以上に神経を尖らせつつ最後に残った正面の道を進むことにした。

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