第126話 次なる階層
心許ない灯りを手に暗い階段を降りると見覚えのあるマジックミラーが見えてきた。相変わらず階段の先の景色は見えず、暗いのか明るいのか、敵がいるのかいないのかも判別できない。
「長かったな・・・」
「降りるだけでも疲れちゃうんだね」
というのもここまで階段を下りるといってもせいぜいが十数段ほどだったのだが、今回のこの暗闇の階段は百数十段はあったと思う。夜目があっても暗く感じたので、他の3人は相当神経を使っただろう。その上で階段も長いのだから疲れて当たり前だ。
「少し休むか?」
「いえ、せめてエリアだけでも確認したいです。またお二人に行かせてしまうことになりますが・・・」
「それは構わないさ、適材適所だ。サニアは大丈夫か?」
「........こくっ」
確かにここまでで少し休み気味なのかもしれない。俺はサニアを連れて水面のようなマジックミラーを潜り抜けた。
目の前に広がったのは一言で言って『無骨』。様式は上のボス部屋への道と同じような鉄製の洞窟だった。だが、道の幅は4人が大きく手を広げてまだ少し余裕がある程度で、道は所々で曲がり角がある。
「敵はいないみたいだ。それに厄介な雪みたいな自然現象もないよ!」
「分かりました!すぐにそっちに行きます!」
テミスの返事とともに2人が顔を出す。反応も想像した通りで少しげんなりした顔をしていた。
「またここなんだ・・・。まぁ階段よりは明るいけど」
洞窟の材質は上のものと同じなのか、冷たい鉄で作られている。けれど上よりは明るく、これまでずっと暗闇を歩いて来たからか少し安心した。
「体に光を入れないとキツイらしいからな」
それが人工の光でもいいのか、それとも太陽のような自然のものでないといけないのかは分からないが。
ちなみに今この場にシルフィはいない。キノの村を出てしばらくしてから、どうやらシルフィがもともと住んでいた世界の方で何かあったらしく一時的にそっちに帰ってしまった。それもあって上の階層の雪を効率的に防げなかったのもある。
「とりあえず進むか。進んでみないとどうにもわからないしな」
「そうですね」
俺たちは灯りをしまい、目の前の一本道を進んでいく。どうやら分かれ道などはないようで進んでも代わり映えしない道を進んでいく。
「何にもないね〜」
「そうだ・・・ミユ止まれ!」
「え?」
俺の声に振り向いたミユの足元でガコッという何かを踏み抜いた音がする。しばらくするとゴゴゴゴッというこの洞窟全体を揺るがすような重低音が響き、その音は次第に大きくなっていく。
「一歩遅かったか・・・!」
「え?何?!何の音?!」
「今ミユは罠を踏んだんだ!俺もあと一歩気付くのに遅れたっ!何か来るぞ!」
俺の声を聞いて3人ともが戦闘態勢を取るが、すでに耳が痛いほど大きな音が流れている。その音が流れてくる方向をじっと見ていると先にある曲がり角から道を埋め尽くす大きさの岩が転がって来ていた。
「典型的なやつかよ!」
「うわぁー!!」
俺たちは本能的な恐怖に晒され、一目散に元来た道を戻る。だが岩は、ここまで来るのにだいぶ速度をつけて来たのか徐々にその距離を縮めてくる。それにスタート地点からそれほど進んでいないこともあってすぐに階段の元へと来てしまった。
「こうなりゃ・・・」
俺は転がってくる岩を止めるため、“大地魔法”で壁を作る。勢いがあるためそれに打ち抜かれないように出来るだけ硬く柔軟性があるものをイメージして分厚く作り出す。
「あと少し・・・!」
俺が造り出す壁にちょうど転がってくる岩がぶつかるタイミングに備えて俺はぐっと力を込めようとした。だが、壁が完成した瞬間風船が弾けるように俺の造り出した壁が霧散した。
「はぁ?!」
これ幸いと邪魔者が無くなった岩はその勢いを一切落とさず、俺たちへと突っ込んでくる。仕方なくなんとかその岩を受け止めようと刀を取り出してみんなの前に立つ。すると俺の横にミユが並んだ。
「踏んだ責任もあるし、うちも手伝うよ!」
「分かった!行くぞ!」
なぜ俺の魔法が霧散したかは不明だが、今はそれよりも目の前の危機だ。俺はぶつかるインパクトの瞬間に備えて刀に力を込める。視界の端ではミユも同じように気合を込めている。
目の前には今も俺たちを押しつぶそうと岩が猛スピードで迫って来ていた。俺たちはそれを今か今かと待ち望み、ついに目の前に来た。そして俺が刀を叩きつけようとした瞬間、岩がまるで意思を持っているかのように急停止する。
「なっ?!」
岩にはまるで慣性の法則が働いていないようにここまでの猛スピードを掻き消して急停止した。その突然の出来事に俺もミユもついていけず、刀を振るうことが出来なかった。
「な、何なの?」
ミユの問いかけに誰も答えることが出来ないまま、しばらくの間、不自然な沈黙が訪れる。その沈黙に耐えきれなくなったミユが口を開こうとするとーー。
「キョエエエエエエ!!!!」
「きゃあああ!!??」
「うわ!!??」
「いやぁ!???」
「........?!?!?!」
岩の中から突き出るように白と赤の縞々模様の上半身が奇怪な叫び声を上げながら生えた。まるで日本にいた時のピエロのような格好をしたその人物?は大きく広げた両手を叩きながら嬉しそうに叫び声を上げる。
「キョキョエ!!キョキョエ!キョキョエ・・・」
そうしてそのまま拍手をしながら岩を転がして元来た道を戻って行ってしまった。
「な、なんだったんだ?」
「びっくりしたー・・・」
ドキドキと未だ心臓の鼓動が落ち着かないが、とりあえず起こったことを整理しないといけない。俺は胸に手を当てつつみんなに振り向く。
「一旦・・落ち着こう。まずは・・状況を・・整理しないと・・」
「いや、カイトくんが1番落ち着いて」
ミユも無意識なのか心臓に手を置いているが、幾分か俺より冷静なようで即座にツッコミが入る。女性はこういうことに慣れているのだろうか?と、ふと詮無いことを考えてしまう。
それからある程度息を整えてから話し出す。まずはミユの踏んだスイッチのようなもの。一瞬気づくのが遅れたが、あの瞬間俺の“罠看破”がとんでもない数の罠を感知した。
それはあの岩が転がるスイッチだけでなく、壁から発射される弓や槍、底が開き下の槍衾に落ちる罠、天井に溜まったなにやら怪しい液体などあらゆる罠があの通路の奥にひたすら続いていたのだ。
「・・・え、ほんとに?うち“直感”に何も反応しなかったんだけど・・・」
「とりあえず本当だ。他の人がどうかは知らないが、俺の“罠看破”は自分にとって危機だと察知した罠がどんなものか、頭の中で作った地図に白く浮かぶんだ。だから、矢や槍が飛んでくるのが分かったし、底に槍衾があるのも分かった。でも、白く写るだけだから天井にある液体がどんなものかまでは分からなかったんだ。で、それを伝える前に岩の転がる音が聞こえたってわけだ」
これで罠に関しては納得してもらえただろう。そして次は霧散した魔法だ。これに関しては突然だったため理由の推測も出来なかった。なので、今のうちに検証しておく。
「・・・なるほどな」
それからサニアやテミスの手伝いもあり、いろんな種類の魔法を放つことで見えてきたことがあった。まず、基本的に魔法を発動させたからといって霧散させられるわけではない。
どうやら空中に浮かぶもの、例えば火や風などは消えない。だが、土や水、樹などは発動させ、魔法が完成した瞬間霧散した。この二グループの違いは壁、あるいは床や天井に接触しているかだった。
ただ、接触はしていても魔法が完全に完成するまでは霧散することがないため、これを知らなければ相当パニックになっただろう。ちなみに火や風も単体として発動させた上で壁にぶつけると消えるが、発動させたままにしておくと消えなかった。
そうして気になった俺は壁に向けて“鑑定”をぶつけてみた。すると案の定、というか当然のような鑑定結果が表れた。
名前:反魔鋼 魔力を打ち消す効果を持った鉄材。超高温で熱さなければ融解せず、扱いがとても難しい。
これで2つめの疑問であった魔法の霧散については解消できた。あとは最後の疑問だが・・・。
「あれは結局なんだったの?驚かすだけ驚かせて襲ってくる気配はなかったし・・・」
「それにこっちが驚いているところを見て喜んでいた節もありますしね・・・」
「今のところさっぱりだな。そもそも魔物なのかどうかも怪しいし」
見たのは上半身だけだったが、あの姿は確実に人間の形だった。だが、この世界には人間だけじゃなく獣人や魔族など人の形を持ったさまざまな種族がいる。あれもその類なのだろうか。
そうしてやつに関して何も答えは出ず、ただ無為に時は過ぎていった。
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