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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章

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幕間〜『帝国焼華作戦』〜

「イングラス王よ!考え直してはいただけないか?!私も『帝国焼華作戦』の概要を拝見させていただいたが、これはあまりに非人道的すぎる!経過観察としての期間、懸念されていたリビングデッドの増加もほとんど確認されていない!そんな中、この作戦を強行するのはあまりに愚策過ぎやしないだろうか?!」

「アライア王よ、お主の言い分も理解できる。しかし、この先どうなるかは不明であろう?ならば今のうちに禍根の芽を断つのが正しいとは思わぬか?」

「しかし、それなら国一つを消さずとも冒険者協力の下、リビングデッド一体につき謝礼金を出すなどいくらでもやりようはあるではないか!」

「だが、リビングデッドの姿形は普通の人間と大差ない。せいぜい肌が浅黒い、目が虚、言葉を喋れないくらいだ。その上でアライア王が考案した作戦で進めた時に発生する最悪の事態はなんだと思う?」

「くっ……、謝礼金目当てによる虐殺……!」

「そうだ、他にも何の罪もない村人たちが凶刃に倒れ伏すかもしれない。そしてその被害は最悪、余やお主の国にまで波及することも考えられる。ならば多少の犠牲は払いつつも最小限で抑えるべきではないかね?」

「ですがっ……!」

「…………黙れ、亜人が」

「なに?」


 アライア国王とイングラス国王の2人のみの声が響くこの静かな会議室では、小さな声であれどその部屋にいるもの全てに聞こえるのは必至であった。


「ふむ、今余の耳に何か聞こえた気がしたが気のせいだろうか?」


 先ほどまでは穏やかでどこか楽しげな雰囲気もあったイングラス王の声音が重く冷たいものへと変貌した。そしてそれは気のせいではなく、実際に部屋が水に沈んでしまったかのように息苦しくなる。


「我々は、今は無き宗主国の悪しき慣習、『亜人差別』を憎み、このアライア王統べる獣人の国を一つの国として認めた同志だと思っていたのだがな。それは余の思い上がりであった、ということであるか?」

「い、いえ!そのようなことは決して!」


 イングラス王城の一室であるこの会議室には、最近国として名を連ねたアライア国のほかに各中小国や連合国などの代表、約10名が集まっていた。集まった名目はもちろん帝国の残滓によるリビングデッド感染の拡大を防止するための会議。


 しかし、ここに集まっているのは先ほどイングラス王も言った通り、獣人国『アライア』の立ち上げを支持したもののみである。それ故にイングラス王は聞こえた呟きに怒りを表明したのだ。


 これに対して表れた反応は綺麗に2つに分かれた。一つは成り行きを静観して黙する者、もう一つはこの場を打開せんと弁明する者。


 だが、構図は圧倒的に弁明する者が多かった。それもそのはず。何しろここに集まっているほとんどが実際にイングラスとアライアを敵に回した瞬間に踏み潰されるような小さな国ばかりだからだ。


 もし敵となるのがアライアだけであり、イングラスが参戦せず傍観するのみであれば中小国や連合国もここまであからさまに態度を改めなかっただろう。


 だが、イングラスは明確にアライアを擁する態度を示した。これまで宗主国ほどではなくとも獣人を蔑ろにしてきた者たちとしては面白くないだろうし、なんならイングラスも自分たちと同じ穴のムジナだったはずなのだ。


 けれどそれをこの場でイングラスに問い詰められる者などいようはずもない。誰も【世界の覇者】とまで言われるイングラス王が統べる国を敵になど回したくない。


 そんな誰もが互いに責任の擦りつけを行っていたとき、不意に会議室の扉がノックされた。それにイングラス王が反応したことによりこの場が有耶無耶となり、予想外の展開に中小国は内心ガッツポーズをあげる。


「会議中失礼いたします。先程——」

「そうか、分かった。余も行こう、外で待っておれ」


 会議室に入ってきた1人の部下がイングラス王に何か耳打ちをする。どうやら急を要する内容だったようで一通りの報告を聞き終わったイングラス王は徐に席を立ち上がった。


「それでは此度の会議はこの辺りで閉じるとしよう。皆よ、我が城でゆるりと休まれるといい。旅や会議の疲れもあるだろう。夕食にはパーティも催す予定である。そちらにも顔を出してみてくれたまえ」

「イングラス王よ!私はまだ——」

「アライア王よ、『多数決』という言葉は聞いたことがあるか?」

「い、いえ。それがいったい?」

「余も異なる世界から来た勇者たちから教わったものなのだがな。なんでも半数以上の賛否でその事柄に対する最終決断が出来るそうなのだ」

「な、まさか……」

「では聞こう、皆のものよ。此度の作戦『帝国焼華作戦』に賛成の者は手を上げよ」

「イングラス王!!」


 イングラス王の声を聞いた約10名の代表は、アライア王を除いて全員が手をあげる。その結果に満足したイングラス王は快活な笑みを浮かべながらゆっくりと拍手をする。


「これが皆の決断だ、アライア王よ。ではこれにて会議は終了とする!!」


 そうしてイングラス王をはじめ、各国の代表がざわざわと話しながら会議室を後にする。気づけばアライア王は広い会議室に1人取り残されていた。


「こんな一方的な決定が許されていいはずが……!」


 知らず、アライア王の拳は強く握られていた。








 ーーーーーーーーーーーーーーー








「亜人如きが身の程を弁えるべきです。本来であればこの場に集うことすら烏滸がましいというのに……」

「ステイよ、今の言葉は聞かなかったことにしてやる、今は飲み込め。いくらお前でも場合によっては裁かなければならん」

「はっ、失礼いたしました。しかし、良いのですか?」

「かまわん。全てがオレに追従するだけなどつまらんからな。1人くらいああやって歯向かってくれた方が楽しみが増えるというものだ」


 メイドでさえいない廊下を歩きながらこの国最強の魔法師であるステイ・ランドが勇者の元へと案内する。報告の内容とは緋陽竜との戦いから帰ってきた勇者が目を覚ました、というものだった。


「それで、勇者たちの体調はどうだ?」

「はい、勇者アサヒに関しては非常に安定しています。暴走の気配はありません。ただ、戦いの影響なのか右腕が炭化しているくらいですが、こちらは治る見込みがあります。

 ひどいのは勇者サアラと勇者ユキですね。彼女たちは勇者アサヒほど火に対する耐性がなかったためか、緋陽竜の十八番であるマグマ化の影響を多分に受けたようです。両足ともに炭化しており、足の形を保っているのが不思議なくらいです。一歩間違えれば二度と歩けなかったでしょう」

「歩けなかった?てことは今は歩けるのか?」

「はい。一番最初に目を覚ましたのは勇者ユキでした。彼女は自身の足を見ると医者の制止も無視して能力を使い、見た目だけは元に戻しました。ただ、彼女曰く時間をかければ可能ではあるものの、すぐには中身の肉や骨まで修復が不可能なのだそうで、しばらくは座っての移動となる、とのことです」

「なるほどな。ま、生きて帰ってきただけでも成長したか。で、本命は?」

「勇者アサヒ曰く、完了した、と」

「ならいい。どれくらいで出(・)せ(・)そ(・)う(・)だ(・)?(・)」

「そこまでは……」

「そうか、わかった」


 一通りの報告を聞いたオレは治療室への足を早める。今回の『帝国焼華作戦』には勇者アサヒの、いや彼女の協力が必要だ。だが、あの状態では話が出来なかった。


 まぁ調べれば調べるほどヤ(・)ツ(・)が関わっている可能性が高くなったため、まずは様子見と使い勝手の確認がてら勇者を向かわせたわけだが、予想以上の戦果を上げてくれた。


「入るぞ」


 長い廊下を抜け、閉め切られた白い治療室の扉をノックする。中からの返事待たず扉を開くとそこには目は覚ましているものの寝たきりの勇者サアラとユキ、そして右半分の髪だけ緋色に染まった勇者アサヒが座っていた。


「王様、ここまで来ていただいてありがとうございます。本当は僕が赴くべきなのに」

「かまわん。して、調子はどうだ?戦果は聞いた。成(・)功(・)し(・)た(・)の(・)か(・)?(・)」

「はい。僕の中に確かに新たな力を感じます」

「そうか、ならばよい。では、近日中に例の作戦を執り行う。いつまでなら可能だ?」

「一週間……、いえ、5日以内には」

「良かろう。オレを失望させるなよ?」


 オレはそう言い残して治療室を後にする。聞きたいことは聞けた。そして作戦の決行も見えてきた。後は勇者アサヒをバックアップするためにいくつか詰めるだけだ。


「これで邪魔がまた一つ消えた。地盤は着々と出来ているな。さて、次は何で遊ぼうか」




 その五日後、リビングデッドの巣窟であった帝国は突如空から襲った太陽の如き火球により一切合切が焼き払われた。帝国が焦土と化すまで時間は10分とかからなかったという。


 ——その日、地図から一つの国が消えた。








 ーーーーーーーーーーーーーー








 ——時は少し遡る。



 〜一週間前〜



「むっ?これは破られたのか?……いや、奪われたな」

「主?どうしたの?」

「いや、なんでもないよ。どうやら駒が奪われてしまったようだ。なかなかままならないものだね」

「まさかあの?」

「うん、どうやったのかな?流石に殺せはしないと踏んでの手だったんだけど」

「あの男も意外と冷たいってことかしら?」

「いや、殺されたわけではないね。主導権を奪われた感じだったから。でも、どうやったんだろう?直接意識に働きかけるようなやり方はしてないから、乗っ取ることは不可能だと思うんだけどね」


 玉座に座る少年のような男はこてんと可愛げに首を傾げながら呟く。そんな男の姿を見て体をくねくねさせながら、とても真面目な声音で白く美しい毛並みを持つゴリラは質問を投げかける。


「でも、奪われたのでしょう?思い当たる節はあるの?」

「うーん、ヤツにそんな力はないはずだし、部下にもいなかったはず。新しい近衛を育て上げたっていう話も……、待てよ?」


 少年のような男は何か思い当たる節があったのか、神妙な表情で考え込む。どうやらゴリラにはその姿が琴線に触れたようでくねくね速度が上がった。


「あ〜ん、可愛くて素敵だわ。でも、そろそろ集会が始まるし、いつものような精悍さでいないと」

「……もうそんな時間か。まぁあれはうまく決まればいいという程度のものだったからな。これも一興であろう」


 ここまで少年のような背丈に声音と喋り方だった男に白い煙が纏わり付く。そしてそれが晴れるとその姿は高さ2メートルはある玉座が、この男のために作られたのではないか、と思わせるほど似合う精悍な姿に変貌する。


「あ〜ん、やっぱりそっちも好き!それじゃあワタシは彼らを呼んでくるわね!」


 白いゴリラは主の姿を確認すると嬉しそうに跳ねながら部屋を出て行った。


「ふむ、我はこの姿があまり落ち着かんのだがな」


 1人呟く【怠惰】の声は外の吹雪に流されていった。

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