第123話 辿り着いた先には
「テミスさん、左前の方調べてみてくれる?」
「分かりました!・・・ありますね!カイトさん、左前約20メル先に下向きの風の流れがあります!」
「分かった!サニア!敵はそっちの方向にいるか?」
「.......今はいないよ!大丈夫!」
「よし、今のうちに行くぞ!」
俺たちは少し早足でテミスの示した方向へと進む。するとこれまで何度も通った、この真っ白のエリアに不釣り合いな鈍色の階段に辿り着いた。
「ふぅ、これでまた一息つけるな。いい加減早くこのエリアから抜けたいもんだ」
「もしかしてずっとこの環境になってるのかな?」
「流石にそれはないと思いたいが・・・」
この種火雪のエリアを『土の家』で進み始めて、早一週間が経過した。ここまでで階段を降りた回数は最初の1回を除いて9回。そして今俺たちが着いたここは10回目の階段だ。要するにこの下は11階層ということになる。
ということは下の階はまだ見えないためどんなエリアか分からないが、今までのダンジョンの常識であった5階層ごとの環境変化、そしてボス戦の法則は崩れた、ということだ。
「ただ、キリのいい階層が終わったんだ。一旦休もう」
「そうだね、テミスさんもサニアもお疲れさま。うちはあんまり力になれなかったけど・・・」
「そんなことないですよ。ミユさんの耳がなければどこを読めばいいかも分かりませんでしたから」
「そうかな?ありがと!」
サニアも隣でうんうんとうなづいている。それを傍目に俺は“無限倉庫”からサニアの狩って来てくれたアイスウルフの解体した肉を取り出して料理を作る準備をする。
ここまで来るのにだいぶ時間がかかってしまったが、ここに生息する魔物は数が多く、さらに食べられる肉を持っていたことが幸運だった。
また調理に関しても魔法で補えるためそこに関しては問題はないが、一つ懸念されるのは香辛料だ。Sランクダンジョンは何階層まであるか不明なため、使う量は絞っているが、何せ獣肉なため臭みが強い。
ある程度は沸騰した水に入れることでアク抜きができるが、それは豚や牛など食用で作られた肉向けだ。こういう狼のような筋肉質な肉は香辛料を擦り込んで、しばらくしてからアク抜きをしないと獣臭さが完全には抜けない。
あまり贅沢が言えないのは百も承知しているし、今はもう慣れたが、皆も慣れるまでは相当キツかっただろう。
「カイトさん、私はダンジョンに潜るのは初めてなのですが、本来はもっと早くに環境が変わるものなんですか?」
「そうだな、俺が今まで潜ったダンジョンは最高がCだからもっと上になると分からないが、あそこは5層ごとに環境変化していた。それにその環境変化との境目には必ずボスと呼ばれる強力な魔物が守っていたんだ」
「うちは一応Aランクに潜ったこともあるけど、そこも特にカイトくんの言う感じと変わらなかったよ」
「そうなんですね。では、まだこのエリアは続くのでしょうか・・・?」
「可能性はあるな。出来ればこんなエリア早く抜けたいんだがな」
「この次がボスの可能性は?」
「どうだろう。行ってみないと結局は分からないが、今までは5階層ごとの一番端に、次への階段を守るようにボス鎮座していたからな。ただ、これまでですでに俺たちが知っているダンジョンの常識は崩れてるんだ。気を抜かずに行くぞ」
俺はアク抜きの終わった狼肉を薄くスライスして塩を塗り、それをレツァーに野菜と一緒に挟んだものを3人へと手渡す。
薄くスライスしてしまうと肉肉しさが無くなるためサニアは若干不満そうだが、後で焼いた肉を渡せば機嫌は治る。けれど俺はともかく2人は獣臭さが少し苦手なため腹持ちのいいレツァーで誤魔化している感じだな。
それから雑談をしつつ体を休めること3時間。サニアの体力も俺の魔力もほぼ回復した。テミスやミユも充分に休息が取れたところで次に進むことにした。
これまでも試してみたが最初の階段以降、一度階段のエリアに入ると元のエリアへは戻れず、階段の中から次のエリアを覗くことができない。そのため、次のエリアを確認するためには階段から出なければならないのだ。
ただ、声は通じるので俺やサニアが先に出て環境を確認し、雪であれば家を作ってから合流する、という方法で進んできた。
今回もその方法で俺とサニアだけが階段の外へと出る。マジックミラーが水面のように揺らめいているような不思議な壁を通り抜けると、そこは代わり映えしない銀世界、ではなく無骨な鉄で建てられた洞窟のような場所だった。
「テミス、ミユ。出てきていいぞ。どうやら雪じゃないみたいだ」
「ほんと?よかったぁ。ようやく思いっきり体を伸ばせる!」
んん〜っとミユがマジックミラーを抜けて大きく伸びをする。その後ろからテミスがおっかなびっくり体を出した。
「本当に大丈夫ですかね?いきなりどっさりあの雪が落ちてきたりしません?」
「さすがにそんなことはないだろう。さすがに・・・」
テミスの言葉に俺も少し不安になりながら手を貸す。普通に考えれば環境が変わった、と喜ぶところなのだが、ダンジョンという未知の世界では何が起こるか分からない。
「特に変な環境もなさそうだね」
それからしばらく手分けして壁を触ったり、地面を調べたりなどこのエリアの状況を調べてみたが、どこも何の変哲のない鉄骨でできた建物だった。まぁ建物と言っても縦ではなく横に伸びているため建物と言っていいのかは不明だが。
「とりあえず進んでみるか。もしかしたら魔物がたくさんいるだけのエリアって可能性もあるからな」
「・・・それはそれで大変そうだね」
「まぁな。だが、この様子だと、ミユもテミスも戦えるエリアだろうから、ここからは力を貸してもらうぞ?」
「もちろんです。今までお役に立てなかった分、ここからは精一杯動きます」
「まっかせて!サニアもカイトくんも休んでていいからね!」
「頼もしいな」
俺は建物に入ったことで少し暖かくなり必要の無くなった毛布とコートを3人から受け取る。それをしまいつつ、前衛はミユとテミス、後衛というよりは危なくなった時のセーフティとして俺とサニアが後ろに回る。
この建物内に明かりは無いため自前の明かりを灯してゆっくり進む。しかし、進めど進めど魔物の足音はおろか痕跡さえ見つからなかった。
「もしかしてこのエリアには魔物いない?」
「まだ警戒を特には早い。何かしらはあるはずだ、しっかりと注意しながら進もう」
そうしてしばらく進んでいくと、今まで横一列に10人が並んでも余裕があった道が次第に細くなり、今では俺たち4人でようやく一列になれる程度の幅になった。
そしてそれくらいの幅の道になった途端、左右に突然蝋燭が灯り始め、それは手前から順に奥へと一つずつ灯っていく。
「これはまさか?!」
「どうしたんですか?!」
「おそらくこの先はボス戦だ。なるほど、ここではボス用に一つの階層が設定されているのか!」
俺たちは蝋燭の火に導かれるように先へと進む。火は俺たちの歩みを待つようにゆっくりと灯り続けた。そうしてしばらく歩き続けると今まで一定のタイミングで灯っていた蝋燭の火が一斉に駆けるように点いていく。
走るように灯る蝋燭の火はやがて先ほどまでの横幅とと同じくらいの大きな場所を照らす。そしてその先には高さ10メートル以上はあるであろう無骨な鉄の扉が冷たく鎮座していた。
「いよいよか、ここが最初の難関だ。Sランクダンジョンというくらいだ。生半可なボスではないだろう」
「そうだね、ここまでの魔物は正直弱かったけどそれと同じくらいだと思ったら危険だよね」
「でも、こんなに大きな扉を私たちで開けられるんですか?」
「確かにここまで大きいのは初めて見たけど、まぁなんとかなるんじゃない?」
「適当か・・・。ま、試してみるまでは分からないが、おそらく勝手に開くんだろう。こんなところまで常識外れだとそもそもクリアすらできそうにないからな」
まぁ過去に俺が読んだ小説とかにはそもそもクリアさせる気のないダンジョンとかもあったはずだから、楽観視は出来ないが、それならわざわざヴァイスがここに行け、とも言わないだろう。と、思う。
俺たちは扉の前に広がる大広間でボス戦に向けての作戦会議を行う。と言ってもどんな敵が出てくるか分からないため、フォーメーション確認だったりが主だが。
「それじゃあ俺は敵を“鑑定”する以外、本当に危なくなるまで何もしない。回復に関してもだ。それでいいんだな?」
「はい。私たちの力がどれくらい通じるのか確認させてください」
テミスの力強い声に他の2人も強くうなづく。その姿はとても頼もしいが、同時にまだ少し焦りによる危なっかしさも備えていた。ただ、それをここで口にしても意味はないだろうし、何より彼女たちのやる気を削いでしまう。
俺はどういった並びや、攻撃方法で敵を追い詰めるかを話し合いながら組んでいる。それを傍目に俺は念のため、最悪の時に対処できるように頭で組んでおいた。
「よし、それじゃあ行くか!」
休憩も兼ねてここに辿り着いてから1時間。俺たちは扉の前で戦い方の最終確認を行う。それを終え、俺は灯りすら届かない扉に手を添える。すると、扉の表面が幾何学的な紋様の光を放ち、腹に響く重厚な音を立てながら1人でに開いていく。
「いよいよ決戦だ」
俺たちは光の灯らない真っ暗な空間へと歩を進めた。
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