第119話 八岐大蛇
「んまぁ〜〜!!ぼくこれずっと食べたかったんだぁ!あれがとねお嬢さんたち!」
「せめてお姉さんって呼んでよ、それか名前。なんか君からお嬢さんって言われると違和感しかないよ・・・」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はテミス、彼女はミユと言います。あなたは?」
「ふぉく?ふぉくはね、うわうふぉうふぁよ〜。ふぉおひくね〜!んむ」
「もう、口の中のものを全部食べてから喋ってください」
そう言いながらテミスは付近で顔中をクリームだらけにしたその少年の顔を拭く。側から見ていれば完全に姉弟だ。
うち達は彼に連れられるままこのお店に来た。どうやらお願いというのはこの店だけでやっている特大パフェが食べたかったらしい。だが、1人で来る勇気はなかったそうでうち達を連れてきたそうだ。
ローブを脱いだ彼は(男だった)少し浅黒い肌に頭の端にある尖った耳、そして何よりも目を引いたのが真っ黒な目だった。その目は瞳が無く、いや瞳しかないと言ったほうが正しいだろうか。とにかく虹彩らしき物もなかった。
彼曰く、目は見えない代わりに耳が良く発達しているらしく常にソナーのような物を発しているため普段の生活に支障はないらしい。というかそれが種族的な特徴だそうだ。
いわゆる蝙蝠族の獣人だそうで、黒いローブを着ていたのも日の光に当たるのが辛いからだそう。その話を聞いてふと気になったうちは質問をしてみる。
「コウモリってさ血とかを吸うんじゃないの?パフェとかの甘いもの食べて大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。別に好き嫌いとかないし、むしろ甘いもの好物だし。吸血も自分を守るための一つの手段だからね」
「へぇーそうなんだね。で、名前は?」
「ん?さっき言ったじゃん」
「口にいっぱい入ってて聞こえなかったよ!」
「仕方ないなぁ。僕の名前はフワルドアだよ。よろしくね!あーお腹いっぱい。それじゃあね、美味しかったよ!」
「待・ち・な・さ・い!帰すわけないでしょ!」
「ちぇ、ダメだったか。いいよ、なんでも聞いて。答えられるかは別だけど」
椅子に座り直したフワルドアは机に手を置いてうち達に話を促してくる。うちは意を決して質問することにした。
「『地下の祠』の情報、ダンジョンがあるって聞いたから、それが真実かどうかと本当ならそこの地図やギミックなんかを教えてほしい」
「えぇ、なんか増えてない?まぁパフェ奢ってもらったからいいけど。まず『地下の祠』についてだね。あそこはその名の通り地下に小さな祠がある。そこには一つの水晶玉が置いてあって、それに向けて願い事を言うと叶うって言われてるよ」
「それはここまでに何度も聞きました。私たちが欲しいのはその先の情報です。どうすれば地下のダンジョンに入れるのか、その方法などを詳しく知りたいのです」
「はぁ。ま、そうだよねー。仕方ない、教えてあげるよ。ダンジョンはちゃんとあるし、入り方は簡単。普通に地下に向けて伸びてる階段を降りるだけ。地図やギミックは持ってないから教えてあげられない。こんなところかな」
「じゃあ『地下の祠』までの行き方は?」
「これで最後ね。それは城役場に行って誓約書書けば誰でも入れるよ」
「それは知ってる。それ以外の方法は?」
「ないね」
「分かった、ありがと。でも、そんな風に簡単に祠に行けるんならなんで誰もダンジョンのこと知らないの?」
「ん」
うちがそう聞くと、フワルドアは無言で掌を見せる。これ以上は情報料を取ると言うことだろう。
「あんなにおっきいパフェ奢ったのに?!」
「情報は高価なんだよ?それにあそこに関する情報はなかなか集まらないんだ。これでも結構喋ってあげた方だよ?」
「分かりました。ここまでで大丈夫です。行き方が分かっただけでも御の字です。行きましょうミユさん」
「うん・・・」
「まいどあり〜」
うち達は支払いを済ませて店を出る。未だにこちらに向けて手を振るフワルドアの姿が妙に様になっているのがまた小憎らしかった。
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「【暴食】が行方不明らしいけど・・・まさかね」
ぼくは彼女たちが出て行った方向へと顔を向ける。だが、目は見えていない。種族柄なのかぼくの種族は皆目が見えなかった。代わりに耳が発達していた。
ぼくたちは常に微弱な音波を発している。それは心臓から呼吸と共に発せられており、その反発で物や人との距離などを把握している。耳が聞こえる距離も半径20ビョクリ(キロ)と広い。聞こえる物の取捨選択もできる。
「けど、あれは初めてだ」
そう、最初に彼女たちを感知したのは昨日の夜だった。あの時は他に男が4人と女が1人いた。そのうちの男3人は特に異変もなかったのだが、他4人が異常だった。
ぼくたちの発する音波はたとえどんな形状をしていようと必ず何かしらの波となって帰ってくる。しかし、彼らにぶつかった音波はその時点で掻き消えた。
まるで最初から無かったように彼ら4人に当たると消えるのだ。だからこそ彼らを見つけることは容易かったが。
そこからとっつきやすそうな彼女たちを追うことにした。他2人は勘が良さそうだし、何より見つかった時に逃してもらえなさそうだったから。
それにぼくはこの能力を生かして情報屋をしていたから彼女たちに近づく理由としてもちょうどよかったのが幸いだ。
彼女たちを追っていると何やら『地下の祠』について探っているようだ。それに一部の上流階級の人間やぼくのような情報屋しか知らない地下のダンジョン『八岐大蛇』について探っているのだとか。
あそこはとにかく危険ということ以外ぼくでさえ情報が探れないのだ。唯一、貴族から盗んだ八階層までの地図は持っているが、今、この場には持っていないため、嘘は言っていない。
噂によるとこの国の魔王様である【暴食】でさえ勝てなかったから封印したとかなんとか。
そう、そしてその【暴食】は城の者によると南西の方角で消息が途絶えたらしい。そして奴らは南西の方角から来た。
「勘に過ぎないけどね・・・」
ぼくはこれから起こり得るなにかに期待を寄せつつ店を出た。
名前:ヨルド・サミシェフ
種族:蝙人族
Lv:168
スキル:音振読Lv.- 完全偽装Lv.- 剣聖術Lv.4 暗黒魔法Lv.9 瞬動Lv.7 音波砲Lv.10
称号:『読取者』『音壊者』『偽欺者』
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「ただいま〜」
俺とサニアがホテルで装備の手入れなどを行っていると大量の紙袋と共にテミスとミユが帰ってきた。中には食材から服など様々なものが入っていた。
「おかえり、首尾はどうだった?」
俺はミユとテミスから紙袋を受け取り、順に“無限倉庫”へと閉まっていく。倉庫の中はそれぞれのものが判別できるように各自で部屋を持っている。そこにテミスから教えてもらいながら振り分けていく。
「まぁボチボチかなぁ。一応、ダンジョンの入り方とかの情報は少しゲットできたけど、微妙かも」
「そうか。入り方が分かればとりあえずは大丈夫だ。後は城への行き方だが、それは俺とサニアで良さそうな場所を見繕った」
「ほんと?!それなら後はダンジョンに挑むだけだね!」
「カイトさん、一つお耳に入れたいことが・・・」
「ん、なんだ?何かあったのか?」
「いえ、あったと言うわけではないのですが、今日私たちが情報をもらった相手が少し特殊でして。私たちの心の奥底まで覗かれているような感覚を覚えました」
「なるほど、テミスが危険と感じるなら念頭に置いておこう。どんな奴だった?」
俺はテミスとミユからその人物についての情報を聞く。聞く限りは特に何の変哲も無さそうだが、珍しくテミスがそう言うのだ。楽観視はしない方がいいだろう。
「よし、それじゃあ今日はどこへ行く?」
「うちここ行きたい!」
「ここも良さそうでしたよ?」
「......お肉があればなんでもいい」
それから俺たちは少し明日の予定を詰めた後、この後向かう食事処について話し始めた。
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