第117話 地下の祠
俺たちが向かった高級ホテルに併設されているレストランは、入るのに一瞬躊躇してしまいそうな高貴さがありありと出ていた。
そこにさらにみすぼらしい格好をしたバカ3人組。どうやらずっと入りたかったものの金銭的に入れなかったようで、はしゃぎまくっている。早くもこいつらを連れてきたことを後悔し始めていた。
「おい、あんまりうろうろすんなキョロキョロするな騒ぐな!お前らガキか!」
「だってこんなとこ滅多に来れやせんぜ?!」
「今この一瞬をこれでもかと味わい尽くさないと!!」
「・・・叩き出すぞ?」
「「「すいやせん!」」」
俺のドスを聞かせた声を聞いた三馬鹿はビシッと俺に向けて敬礼する。何故もっとまともな奴が残らなかったのか、いや残さなかったのか。俺は頭を抱えたくなった。
それから店員の指示に従い、席へ案内してもらう。もう既にアウェイな視線を受けているが、甘んじて受け入れるしかない。こうなることは予想できたはずなのだから。それより彼女たちに申し訳なかった。
『すまないな。面倒なことになっちまって』
『まぁ、こうなるとは思いましたけど・・・。4人でここにまた来られればそれで良いですよ』
テミスの言葉に他2人が肯く。俺はここから出る時の最後の晩餐を決めた。
席に座ってメニューを渡される。ここは単品で頼むのではなく、全てコースだ。いくつかあり、それが値段別で書かれている。
「どれがいい?」
「えーとね・・・」
「はいはい!おいらはこれがいいっす!」
「・・・これなんかうまそうだぞ?」
三馬鹿の1人レドロが一番高いやつを指し示す。俺はそれを一瞬見た後、すぐに視線を外し再度ミユたちに問いかけた。
「ご主人?!」
「お前ら喋んな。一番安いコースに決まってんだろ、食わせてもらえるだけありがたいと思え」
「えぇ〜」
最初はこいつらは別の席にしてもらおうと思ったのだが、テミスから目を離すとそれはそれで危ない、と忠告を受けたため同じ席にしたが、正解だった。
きっと別の席にしたら高いものを食いたいだけ食って全部俺に擦りつけることもあっただろうからな。
そうしてテミスとミユは川魚がメインのコース、サニアはあのカウゲーターを使ったコース、俺はグラタンに似たものがあったのでそれにした。ちなみに三馬鹿の安いものには贅沢にもオーク肉が入っていた。くそ。
「そういや、ご主人はこの国には何が目的で?」
「・・・そうだった、お前らに案内してもらおうと思ってたんだった。けどな・・・」
一応、地下ダンジョンへの入り方などを教えてもらおうと思っていたのだが、正直もうあまり一緒に居たくなかった。ただヴァイスからは『地下の祠』としか聞いていないため、どこにあるのか全く分からないのだ。
なので俺はだめ元で行先だけ聞くことにした。
「『地下の祠』に行きたいんだよ。行き方を教えてくれ」
「なっ・・・」
俺は単刀直入に三馬鹿へ尋ねた。すると先ほどまでおちゃらけていたこいつらが今は石のように固まっている。
「なんだ?お前らじゃ知らないか?ならまぁいい、気長に探すさ」
「・・・い、いやそうじゃないでやす!そうじゃなくて・・・ご主人、本気ですかい?」
「何がだ?」
「だってあそこは・・・」
「場所知ってんなら教えてくれ。別に案内しろとは言わん。場所さえ分かればあとは俺たちで行くから」
「いや、場所なら分かるでやす。多分この国の人なら・・・。ただ、あそこは・・・」
「なんだよ、煮え切らないな。言いたいことがあるならはっきり言え」
「じゃあ言わせていただきやす。あそこはダメでやす。ご主人には行けねぇですし、何より行っちゃいけねぇとこでやす」
「はぁ?んなこと聞いてねぇよ。場所を言え」
「いいんすか?聞いたらもう戻れないっすよ?」
・・・妙に溜めるな。めんどくさくなってきた。そりゃ祠とか言われているくらいだから開けっ広げではないだろうとは思ったが、こいつらが口に出すことをここまで渋るとも思っていなかった。
「いいから」
「分かりやした。ご主人の言う『地下の祠』はあの城の地下にありやす。けど、そこから帰ってきたものはいないんすよ」
「はぁ?」
何かと思えば予想以上によくある話だった。まぁこいつらが知っているかは知らないが、あそこは地下に続くダンジョンらしいからな。中で死んだとかもあるんだろう。
「その祠に願いを言えば、なんでも叶えてくれるって言い伝えがありやす。でも、そのためには釣り合う対価を支払わないといけないっす。支払わないと死ぬっす。それでも運良くその対価を払わずに死ななかったとしても、そいつにはこの国を治めるあのお方!【暴食】の魔王様が直々に処罰を下しに来るとも言われてるんすよ」
そこでデドロが声を潜めて俺に近寄る。
「わいは見たことありやせんが、ある人物が言うには【暴食】の魔王様はその名の通り、人間を頭から食うらしいんでやすよ!それはもうバリバリとっ!あぁ、恐ろしい!」
デドロは小声で叫んで小さく暴れるという何気に珍しい特技を発揮する。なるほど、【暴食】の能力はあまり明かされてないのか。それとも単に知らないだけなのか。
おそらく後者だな。そういやテミスが言うには【暴食】はわりと大々的にお披露目したらしいし、その時にある程度自分の能力を喋ったらしいからな。
まぁこいつらが知っていようといなかろうとどちらでもいい。場所は分かったんだ、後は行き方だな。
「【暴食】はどうでもいい。何かその祠に入るのに必要な物とかはあるのか?例えば特定の日にしか入れないとか」
「いえ、そんなことはありやせん。ですが、入るには手続きが必要になりやす」
「手続きだぁ?」
「そうでやんす。まずは城役場ってところに行って、この国での滞在証明書がいるっす、そのあと組合に行って冒険者登録をして、そこで晴れてB+ランクになれればようやく地下への入場許可が手に入るっす。そうすれば後は行きたい日にちを組合の窓口に申請すればいいでやんすよ!」
「まじかよ・・・。ちなみにそれをせずに入ろうとしたら?」
「・・・生きては帰ってこれないでやんす」
「【暴食】が来るってことか?」
「さぁ?魔王様は怖いお方でやすからね」
要するにどうなるかは知らないってことだ。さすがに冒険者登録してまでここに長く居たいとは思わない。どうせ【暴食】はもういないんだし、明日の夜にでも強行突破するか?
「てか、ご主人!あんまり魔王様を呼び捨てにしてたらーー」
「お待たせしました」
「おほぉーー!!」
何かデドロが喋ろうとしていたが、コース料理を持ってきた店員に気づいたヘドロが騒いだせいで聞こえなかった。
だが、せっかく料理が来たのだ。うるさいのは放っておいて今は目の前の食事を楽しもう。まず、最初に運ばれてきたのは定番の前菜。それは透明で光が反射しているゼリー状のものが振りかけられたサラダだ。
さすが、高級と銘打つだけあって見た目も高級感がある。それに味も上品で一品目から期待ができる料理だった。
それから順に運ばれてくる料理に舌鼓を打つ。横の三馬鹿さえいなければ本当に良かった。俺の人生の中で1、2を争うほど美味しい料理だった。
俺の選んだグラタンもどきもとても美味しかった。だが、見た目はグラタンでも中身は全く違った。入っていたのは聞いたこともない魚(店員が説明してくれたが、何一つ分からなかった)を赤い果物の果汁で作ったソースを塗って焼き、その上からこちらの世界で言うチーズ、名前はトルソーというものがかかっていた。
やはりグラタンを想像してしまっていたからか、味は全く違ったが、魚に合うチーズがあるのは驚きだった。魚は白身の淡白な味で、それを補うように赤いソースがちょうどよく塗られている。チーズも想像より深みと少しの苦味があるものでミルクっぽさはあまりないものだったためか、濃い味のソースと淡白な白身の足りない部分を綺麗に纏めていた。
一言で言うなら最高のひと時だった。
食事を終え、店を出た俺たちは三馬鹿を店の外まで送る。
「お前らの役目はここで終わりだ。助かったよ、もう来なくていいからな」
「えぇ?!なんででやんすか?!城役場の場所わかりやす?!お教えしやすよ?!」
「いい、自分で探す。お前らといると気が休まらん」
「えぇ〜」
「それじゃあな、気をつけて帰れよ」
俺は手を振りつつホテルへと戻る。これから明日以降の段取りを決めないといけない。いつまでも付き合っている暇はなかった。まだ、後ろでブーブー言っている声が聞こえるが、俺はそれを無視して部屋へと向かう昇降機へと乗った。
「どうします?カイトさん」
「忍び込む。それしかないだろう。さすがにちんたらと手続きを踏む時間はない。どうせ【暴食】はいないんだ。夜に紛れて乗り込めばいいだろ」
「それじゃあ明日のお昼は祠の場所探しと侵入ルートの作り込みだね!バラバラにやる?」
「それがいいだろうな。ルート作成は隠密のできる俺とサニアでやる。だから祠の場所はテミスとミユで頼めるか?」
「分かりました」
「.......こくっ」
「分かったよ!」
俺たちはそれから軽く雑談をしながら同じ布団に入る。日は眠ろうと俺たちの夜はまだ終わらない。
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「なぁ兄貴、このままでいいのか?」
「いいわきゃねぇだろ。ボスの恨み、絶対に晴らさせてもらうぜ」
「てことは、やっぱりあいつを動かすんすか?」
「あぁ、これならあの人だって動かさざるを得ないだろうよ。確かに奴は強いが、あいつほどではねぇ」
「でも、信用できるのか?最近ふらっと入ったばかりだろう?」
「お前はあいつを直接見てねぇから言えんだ!!いいから行くぞ!」
そうして何かを囁き合いながら3人の男は夜の喧騒の中に消えていった。
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