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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章

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第116話 サロモン通り

 我の進軍を阻む黒髪の人族との戦いは熾烈を極めていた。


 我の全てを灰燼に帰す炎の息吹は暴風を纏う槍の一撃で散らされる。


 我の全てを燒き裂く炎の爪は雷霆迸る槌に防がれる。


 我の全てを吹き飛ばす炎纏う翼で距離を取ろうとすれば、聖なる枝の一矢が我を掠る。


「ぬぅ....」


 だが、ただ黙ってやられる我ではない。人族もあらゆる攻撃を多彩な方向から放ってくるが、傷のせいか最初よりも速度は落ちていた。


 しかし、奴らは痛みなど感じていないかのように、いや実際に感じていないのだろう。もはや血に染まっていない箇所がないほど傷を負っている3人だが、一言も言葉を発さず我へと攻撃を続ける。


 何故か3人のうちの男には我の領域である象徴のマグマが効いていないが、他2人の足はもはや回復すら追いついていないようで、黒炭のように黒く焼け焦げていた。


「貴様ら、何が目的だ?我の侵攻を堰き止めるためだけに命を削るか?貴様らはこの国の者ではないのだろう?」


 三日三晩戦い続け、彼らの感情の無さに空恐ろしいものを感じた我は思わず、彼らに向けて語りかける。


 我はもう数百年とこの国を見てきた。人間の殆どがその一生を容易く終わらせるが、たまに盟友やその部下のように永く生きるものもいる。


 そのどれもが例に漏れず、それなりに強いのだ。そしてこの目の前の3人はその強者に類する者だろう。ならば、ここ数十年の人間ではあるまい。


 ここまで強いのなら永く生きているだろうが、我の記憶を探っても彼らはいなかった。そういったこともあっての問いだった。


「.................」


 しかし、3人ともが感情のない目で我を見るだけで返答する気配はない。代わりに彼らは再度武器を構え、徹底抗戦の意を示した。


「答えぬのなら良かろう。この一撃を以て我をここまで食い止めた褒美をくれてやろう。骨の一片に至るまで燃やし尽くしてくれる!」


 我は全身に力を込め体内の一箇所に咒力を込める。その塊はやがてマグマをも超す灼熱となる。それを臨界より手前で止め喉元までせり上げる。


 臨界まで咒力を込めすぎるとイングラスまでも焦土にしてしまうため、今回は込める量を減らした。だが、これだけでも奴らを消すには充分だろう。


 我の大技の気配を悟ったのか、あるいは言葉は通じるのか自らの武器を携え我に攻撃を仕掛ける。だが、この技は一度魔力を込め始めたら発射するまで止まらない。


 もはやこやつらに生の道はないのだ。


 我は自分の体に突き刺さる矢や槍を無視して発動の最終準備に入る。もう灼熱の塊は口の中にある。後はこれを目の前の人族へとむけて発射するだけ。


 そして我が人族へ向け口を開こうとした瞬間、我の視界で光が爆ぜた。思わず、我は目を瞑ってしまう。しかし、発射はもはや止まらない。




 .......だが、いつまで経っても我を撫でる心地よい熱風は来なかった。


「何が起きている?」


 怪訝に思った我は徐々に回復しつつある視界にイラつきながら目蓋を開く。白く染まった視界が晴れる頃には目の前は一切の緑がない荒れ果てた土地となっているだろう。


 そう思って開いた視界の景色は想像と真逆だった。


 発射する前と何一つ変わらない世界。ただ、目の前に大きく右掌を広げて我に刺さる槍の上に立っている男と視界の端に映る立ったままの女たち以外は。


 そして、能面の様な男の顔を最後に我の意識は途絶えた。









 ーーーーーーーーーーーーーーーーー









 衛兵のいない門をくぐるとそこは今までの街とは別世界だった。そこかしこから聞こえる喧騒とそれに負けじと鳴る音楽、そして目に痛いほど明るいネオンの光。


 至る所で客引きのためか美人やイケメンが道行く人に声をかけている。また、食事処や宿屋も負けじと看板娘を外へ出し、飲み明かしたグループやいい雰囲気のカップルへ向けて営業をしていた。


「これはまた....、すごいな」

「魔族領唯一の歓楽街ですからね!ご主人たちは今回どちらが目的で?」


 俺たちをご主人と呼ぶ三馬鹿のうちの一人、レドロは俺たちにお手本のような揉み手をしながら夜の予定を尋ねる。


 一応、この国に入る前にあの死体の山はこいつらに片付けさせた。これまた、三馬鹿のうちの一人であるデドロは清掃のスキルレベルが最大だったおかげで、楽に片付けられた。


 また一応、奴らを殺したことでスキルは手に入れたが、どれも俺が既に持っているスキルばかりだったし、あの“監視眼”も取得してすぐに“皇之眼”に統合された。


 どうやら俺たちの目的である“スキル統合”が無くとも、同系統であれば統合されるらしい。それがこのスキルだけなのか、他のスキルも同様なのかはわからないが。


 後疑問に思ったことといえば、今までは気にしてこなかったが、これまで俺が獲得したすでにレベルが最大になっているスキル。これはこの先取得しても【魂界】とやらを圧迫はしないのだろうか?


 今はどうやらアナウンスとやらのおかげかその【魂界】が広がっているらしいが、それもいつまでもつか分からない。あまり道草を食っている余裕はないだろう。


「ひとまずは換金だな。あまり金に余裕がない」

「それでしたらあちらの冒険者組合がいいですな!あそこならそこまでぼったくりませんし!まぁ足元は見られますが.....」

「俺はこの国で冒険者登録していないが大丈夫なのか?」

「あ、そうでした。それじゃ僭越ながらわいが交換してきやすよ?」


 レドロが相変わらず揉み手をしながら俺に近寄ってくる。その顔には俺の金を少し掠め取ろうという欲がありありと浮かんでいる。


 俺は“異種伝心”でサニアに呼びかける。サニアは意を得たりと音もなくレドロの背後に忍び寄り、氷で伸ばした爪をレドロの首に押し当てる。


「ひっ....?!」

「お前が早く体とお別れしたいってんなら望み通りにしてやるぞ?」

「す、すいやせん!何もしやせん!誓います!ですから!!」

「サニア、そいつについて行って換金してきてくれ。少しでも怪しい動きを見せたらやっていいから」

「.......分かったわ」

「ひぃぃぃ」


 俺はサニアに金になりそうな魔物の皮や牙などの素材、さらに残りわずかではあるが【憤怒】の城から持ち出していた金目の物を持たせて組合に向かわせた。


「お、俺たちゃどういたしやしょう?」

「そうだな、サニアが帰ってきたらすぐ飯に行けるように食事処付きの宿でも探すか」

「ならわいに任せてくれやすか?飯の旨いところを見つけることならわいの右に出る者はいやせんぜ!」


 そう言って胸を叩く男はヘドロ。3人の中で一番低身長で小太りなため見た目で言えば一番知ってそうなんだが...。


「名前がなぁ」

「なんか、紹介される店全部まずく感じそうだよね...」


 俺はミユと顔を見合わせる。確かにこの辺りには店がたくさん並んでいるため、適当に入るよりは知っている者を連れて入った方が確実な気がするが、名前のせいで全て台無しだ。


「な、なんででやんすか?!いっぱい知ってますよ!絶対ハズレはないですって!」

「まぁそういうなら連れて行ってもらおうか」


 俺たちはあまり期待せずにヘドロの後をついていくことにした。



 それから俺たちはサロモン通りというこの国の特徴とでも言うべき場所の喧騒から少し離れたところまで連れてこられた。そこはいわゆる宿屋街で、ラブホらしきネオンの建物から質素な民宿のような建物まで雑多に並んでいる。


「ここでやす!」


 そうしてヘドロが指し示した建物はそれなりに外観の綺麗な建物だが、目に痛いネオンは無く、普通のホテルのような感じだ。入ってみても趣味の悪い調度品もなく、とても過ごしやすそうな雰囲気をしていた。


「いらっしゃいませ〜」


 入ってきた俺たちを見つけた店員が俺たちに向けて挨拶をする。フロントと思われる場所でいつまで泊まるか何人泊まるかをさらっと説明する。するとーー。


「あれ?おいらたちは一緒じゃないんすか?」

「は?当たり前だろうが。てめぇらは勝手に別の宿取ってろ。あ、間違ってもこのホテルで部屋取るなよ」

「えぇー?!せっかく泊まれると思ってこんな高いところ選んだの.....あ、やべ」

「お、おい、バカかお前は?!」

「......へぇ。お前らまだ懲りてなかったのか。あれだけの惨劇を見ておいて、まだここまで俺をおちょくれるとは呆れを通り越して感激するよ」


 三歩歩けば記憶が消滅する鳥頭なのか。いや、もはやそれは鳥にすら迷惑だな。全く、こいつらのバカさ加減には呆れ返る。


 とりあえず俺たちは4人分の宿泊費を前払いし、部屋の鍵を借りる。宿泊日数は前後するとは思うが大体一週間ほどに設定した。


 金額はその日にちで1人金貨一枚。奇しくも先ほど絡まれた時に要求されたものと同じだった。だが、価値はまるっきり違う。


 一応、今換金しに行っていることを説明したところ前払いで保険のようなものをいくらか払っていただければ大丈夫とのことだったので、今ある分を全て支払った。


 ここは冒険者などの一獲千金を夢見た者も多くくる国のためか、ツケ払いができる制度があるらしい。ただ基準は高く、保証金として請求される金額は本来払う金額の半分が必要とのこと。


 俺たちはギリギリ持っていたため払うことができたが、そもそも俺たちにあやかるつもりだったバカ2人は支払えないということで、店員に追い出されていった。




『.......主さま、どこ?』


 それから部屋で一息付いていた俺たちのところに俺の匂いを辿ってホテルの入り口まで来たサニアから“異種伝心”が来た。


『そのホテルの1403号室にいる。話は通してあるから店員に聞いてみてくれ』

『......分かったわ』


 そうして10分もしないうちに俺たちの今晩泊まる1403号室の扉が叩かれた。テミスが開けるとそこにはサニアと一緒に殴られて膨れ上がった顔の三馬鹿がいた。


「......なんかついてきた。どうしたらいい?」

「はぁ....」


 俺は思わず頭を抱える。これで確実にこのホテルにとって俺たちは厄介な客になっちまったわけだ。とりあえず、俺は部屋に入れることは嫌だったので、監視のためについてきた店員に一言詫びを入れチップを握らせる。機嫌を良くした店員は俺に一言釘を刺して離れていった。


「お前ら、この国で生きてきたんだったら別にそこまで貧乏ってわけじゃないだろ。なんなんだよ」

「だっでぇ、俺だぢが根城にしていたギルドはご主人にづぶざれぢまったんでずよー」

「だから金がないってか?はぁ....。サニア、どれくらい換金できた?」

「.......結構できたわ。金貨20枚くらい。でも、手数料を金貨3枚くらい取られたわ」

「まぁそれは仕方ないか。変なところで買い叩かれるよりはマシだ」


 にしても10%以上取られるのは少々痛手だった。まぁ勉強料と思っておこう。さてサニア曰く、あれからこのバカも怪しい動きはしなかったみたいだし、礼というのもあれだが、飯を奢るくらいならいいだろう。


「飯だけなら出してやる。だが、部屋は取らん。寝る場所は勝手に探せ」

「「「ご主人っ!!」」」

「来んな」


 俺に飛びつこうとした三馬鹿を蹴り飛ばす。ま、テミスたちにも許可は取ったし、俺たちは早速このホテルに備え付けてある飯屋に行くことにした。

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