第115話 享楽と愚者の国『リエイス』
いつも読んでくださりありがとうございます!
いきなりですが物語の都合上、勝手ながら112話の前半部分に加筆をさせて頂きました。一文だけですが、読んで頂けると幸いです。
では、続きをお楽しみください!
「これ何なんだろうな?」
俺たちは村を出た後、また【暴食】の治める国『リエイス』に向けて歩いていた。その道すがら俺は村長にもらった麻袋の中身を取り出す。
「さぁ?“鑑定”してみたら?」
「いや、それがただの黒い鉱石としか出ないんだよな」
物質名:黒い鉱石 光を飲み込むほど黒い鉱石。一部の岩山でしか採掘出来ない。用途は不明。
麻袋の中から出てきた物は説明にもあるように太陽の光すら反射しないほど黒い鉱石だった。大きさはおれの掌にちょうど収まるくらいの大きさ、そして形は少し歪な台形という感じだ。
だが、“鑑定”しても大した情報は得られず、希少な素材であることを窺わせる以外は、いよいよなぜ俺たちに渡したのか不明な代物だった。
「まぁわからない以上、置いておくしかないな。せっかく渡してくれたんだし、無駄にはならないだろう」
俺はそう言い聞かせ“無限倉庫”に麻袋ごと仕舞った。
村を出てから数時間、日も沈み始め辺りが暗くなってきた時間、ようやく舗装された道が顔を出し始めた。
今までは獣道とは行かぬまでも俺の膝くらいまである雑草地帯だったり、登り降りするのに1時間くらいはかかりそうな丘など、結構な自然の道を通ってきたため、久しぶりに見る綺麗な石畳の道は新鮮だった。
「ようやくリエイスが近くなってきましたね。ここからは人通りも多くなるはずです。もう日も完全に沈みそうですし少し急ぎましょう」
「ん?もう日が沈むなら少し外れた場所で野宿でもいいんじゃないか?」
「いえ、この辺りだと夜の衛兵に見つかってしまいます。そうなると色々厄介なので...。それにリエイスは夜も門が開いてますので問題ないですよ」
「そうなのか」
これはまた珍しい。普通、夜は警備の問題や魔物の侵入を考えて門を閉めると思うのだが、そうではないらしい。
テミス曰く、どうやらこの国はいわゆる夜も眠らない街...ではなく国らしい。一晩中昼のように明るく活気も冷めない。だが、それゆえに観光客や商人は多いものの普通の旅人はあまり長く滞在しないようだ。
と、言ってるそばから商人らしき荷馬車を曳いた馬が俺たちの横を通り過ぎる。そうしてそのまま先にある下り坂に消えるように進んでいった。
俺たちもそれに続いて下り坂へと向かう。そうして見えた視界の先には本当に昼の如く明るい街頭が至るところに備えられた街が眼下にあった。
そこは少し離れたここからでも賑やかな声が聞こえてきそうな程で、まだ遠くはっきりとはしないが沢山の人がひしめき合っているのが見える。
「あそこか。確かに想像以上に賑やかなところなんだな」
「そうですね。あそこはお披露目の時も派手でしたし、今は亡き【暴食】も楽しければいいという人物だったため、享楽に類するものならば糸目をつけなかったようです」
その結果、普通に暮らしたい人々はほとんど国を出てしまったようですけれど、と一言付け加える。それから俺たちは一歩進むごとに喧騒が大きくなる街へ進んでいると横合から数人の鎧を着たグループが現れた。
「おう、にいちゃんら。かわい子ちゃん引き連れてこんなところまで遠足たぁいいご身分だねぇ」
「こっからは通行料が必要なんすわぁ、悪りぃけど金貨一枚ほど恵んでくれや。どうせ金ならたらふく持ってんだろ?」
そう言いながらゾロゾロと横の茂みから6人ほどが顔を出しつつ俺たちを囲む。全員が同じような装備を着込み、腰に短剣、手には長剣や弓、杖などを持っている。
というか、俺たちのどこをどう見て金持ちと判断したのか分からないが、これは完全に俺のミスだった。さすがにこいつらが顔を出す直前には気づいたが、それまではこれだけの人数がいることに気づかなかった。
それは単純に俺が油断していたのもあるが、こいつらから人の匂いがしなかったのだ。目の前にしたから分かるが、こいつらの体には草木の樹液が塗られており、体臭を誤魔化していたのだ。
「おやおやぁ?ブルっちまって声も出せねぇか?女の子の前なのにかっこ悪いねぇ!」
『カイトくん、どうする?やっつけることは簡単だけど....』
奴らが出てくるまで気付かなかった己の不甲斐なさに悲しくなっているとミユから“異種伝心”で話しかけられた。
ミユの言いたいことはわかる。ここで奴らを倒すことは簡単だが、ここは国の門が近い場所でもある。騒ぎになるとまずいのではないか、と考えたのだろう。
しかし、俺には“夜目”と“千里眼”があるから見えるが、遠く先にいる門を守る衛兵がこちらを凝視しているのだ。
その目はいざとなれば俺たちを助けようとする目ではなく、この国に入る資格があるのか試されているような目だった。
(さて、ここではどう対処するのが正解か...)
ここでこいつらを倒して力を見せつけるのが正解なのか、それともこいつらのいう通りに金を渡して見逃してもらうことが正解なのか、いまいち判別ができなかった。
(ただまぁ、俺たちの答えは決まってるけどな)
「手加減するな。再起不能にしろ」
俺が一言呟くと待っていたとばかりに3人と一匹が即座に動く。ミユは俺の正面のリーダーと思しき男の横に立つ者へ、サニアは右の2人、そしてテミスは左の2人へそれぞれの武器を携えて攻撃を仕掛ける。
そして俺の背に張り付いていたテロルは俺の足元から自身の体を伸ばして、未だ茂みに隠れていた弓使いを刺し貫いた。
「な、な、なぁ?!」
声を上げる間も無く一方的に嬲られた6人の部下たち。リーダーと思しき男は驚いたせいか、無意識に尻餅をついて後ろへ後ずさる。
金を渡さなかった理由は単純だ。今、そんなにお金はないのである。
1人銀貨5枚程度であればことを荒立てないためにも払うことは吝かではなかったが、少々ボリすぎだ。
一応、売れば金になるものは沢山あるのでいざとなれば通りがかった商人と交渉すれば余裕で生きてはいける。しかし、今手持ちの金はほとんどなかったのだ。
まぁ、俺の財布事情は今はいいだろう。俺は未だ尻餅をついたまま逃げようとする男へと近づいて、掌を踏みつける。
「あがっ?!」
「よう、にいちゃん。単刀直入に聞くが、俺たちを襲おうとした理由はなんだ?単なる金目当てか?」
「あぐっ。い、いやそれは、だな....」
「おいそこ!何をしている?!」
尻餅をついた男が俺の質問に言い淀んでいると、奥からライトを持った衛兵が走りよって来た。その男はあからさまに今見つけたような顔をして俺たちへと疑いの目を向ける。
「こんな往来で人を襲うとは見上げた根性だな。抵抗は無駄だ。詰所まで来てもらおう」
「その言葉そのまま返してやるよ。こんな往来で人を襲うところを見過ごしておきながら、今更駆けつけて襲われてた俺たちが反撃したら悪者扱いか?」
「......何のことだ?わたしは叫び声が聞こえたから音を頼りに来ただけだ。そして着いてみれば貴様が我が国の冒険者を組み伏せているではないか。どう考えてもお前たちに非があるだろうが!」
「俺は目がいいんでな。ずっとてめぇがこっちを見ながら俺たちを品定めよろしくガン見してたことは知ってんだよ。ふん、それにしても冒険者だと?」
「そうだ、こちらの方は我が国のB級冒険者パーティのリーダー、トニック・ベーカー殿だ。さらにそのお仲間を殺しおって!貴様がどれだけ素晴らしい方々を足蹴にしているか分かるかっ?!」
これじゃ埒があかない。向こうは腰に下げた剣を完全に抜いてしまった。本当はこいつらが共謀していた理由などを探ろうかと思ったが、頑なに繋がりを拒否したせいもありうまく行かない。
「殺しては無いさ。ま、意識はしばらく戻らないだろうが」
俺はテロルに指示を出して腹を貫いたままの弓使いを男の前に放り投げる。だが、すでに剣を引き抜いているからか、そちらへ一瞬視線を向けるだけで俺から注意は逸さなかった。
「どちらにしろ暴行罪だっ!現行犯はその場で処罰が許されているからな、ここで貴様らを処刑してくれる!抵抗するなよ?!」
ここでようやくこいつらの目的が判明した。周りにはぞろぞろといつのまに呼びつけたのかトニックと呼ばれた男と同じような鎧を着た男たちが衛兵の後ろに集まる。
「なるほど。こうやって外から来た人間をいたぶるのがお前らの目的か。なんというか想像してた中で一番低俗だったな」
俺がぼそっと呟いた言葉が聞こえたのか、下卑た笑みを浮かべる衛兵の顔にシワが出来る。
「はっ!気づいたところでおせぇよ!ここは、この国はそういう場所だ!強い奴が得をする!知ってる奴が得をする!!こいつらが雇ってくれと泣きつくから渋々買い叩いてやったが、クソの役にも立たなかったなぁ!」
本性を現した衛兵の男がそばに転がるテロルの放り投げた男の体を蹴り飛ばし、尻餅をついて怯えるように頭を抱えていた男の首を撥ねた。
「さっきは不意打ちでなんとかやれただろうが、これだけの数と真正面から戦って勝てるわけが無いだろう?!さぁこうやって殺されたくなけりゃ、大人しく有り金と後ろの女置いてとっとと帰んな!」
俺は衛兵の言葉には反応せず、集まった男たちをざっと確認する。人数で大体2〜30人といったところか。集まるまでに衛兵が連絡したような素振りは見えなかったので、おそらく相当慣れているのだろう。
名前:ランドーレン・ハピァ
種族:土寓魔族
Lv:194
スキル:監視眼Lv.- 剣聖術Lv.7 大地魔法Lv.7 体力特自動回復Lv.7 剛力Lv.4
衛兵の男のステータスはこんなところだ。確かに珍しいスキルは持っているが、俺たちの相手ではない。
スキル 監視眼 監視すると決めた対象であれば、どんな障害物があろうと見つけることが可能。しかし、監視している間は常に目を開けていなければならない。設定可能人数1人。
本当に見るだけの力だな。おそらくこの力で俺たちを見張っていたのだろう。もしくはこの男が倒されるか俺たちを倒すかで出るタイミングを見計らっていた可能性がある。
「たいしたことないな。これなら俺1人で充分だ。一応こいつの使い勝手も見てみたいし」
俺はちらと右腕に視線を落とす。
「わかった!でも、危なそうなら割って入るからね?」
「あぁ、分かったよ」
「舐め腐りやがってぇ!!お前ら!死なない程度なら女も痛めつけて構わん!いけぇ!」
少し先に未だ犇めく『リエイス』の喧騒に抗うように男たちが雄叫びを上げて俺たちへと向かってくる。俺はそれを受けて“無限倉庫”から自前の刀を取り出し両手で構えた。
「はぁっ!」
俺は突進してくる男の胴を斬り払いながら前に抜け、さらにその後ろから斧を振りかざす男の首へ刀を突き刺す。そのまま横に薙ぐ要領で隣から襲いかかる槍の一撃を払い、返す刀で腕を落として首の骨を蹴り壊す。
さまざまな武器が振るわれる中、俺は踊るように切っては躱しを続ける。こちらの世界に来て初めて刀を両手で使うが、片手で使うより力が入る。ただ、慣れていないせいか、いまいち思うように動かせない。
だが、30人近くいた衛兵の部下はもはや数人を除いて全て地に伏せ、物言わぬ死体となって転がっていた。
「そんな、馬鹿な....」
思う通りの結果ではなかったようで、後ろに控えていた衛兵の男は顔を真っ青にしていた。それを俺は一息で詰め寄り、大上段から衛兵に向けて打ち下ろす。
「舐めるなぁっ!!」
そのまま斬られてくれるほど馬鹿ではないようで、しっかり俺の刀と体の間に衛兵の剣を滑り込ませ、防いでくる。しかし、ステータスが圧倒的に違うこともあってか、数秒と持たずに膝から崩れ落ちた。
「こんな...、片手でここまで力があるはずがっ?!」
「なに?」
こいつは今片手と言ったか。いや、そんなはずはない。俺は今現在も両腕で刀を押し込んでいる。ギリギリで防がれているが、軋みを上げるその剣もあまり長くはないだろう。
とすれば、この黒い右腕は何なのか。だが、テミス達には見えていたはずだ。なら、まさか他の人間には見えていないのか?
そういえば、あの村の連中も俺の右腕に関しては何も言ってこなかった。あの時は、単に肌の色が黒いことに違和感などないのだろう、と勝手に納得していたが、そもそも見えていなかったのだろうか。
そんな俺の考え事に水を差すようにバキンッと音が鳴り、衛兵の剣が折れそのまま衛兵を真っ二つにしてしまった。
「うあっと、やっちまった。まぁいいか。おい、お前らまだやるか?」
俺は残っていた数人に声をかける。すると流石にリーダーも死んだからか、これ以上歯向かう様子は無く、大人しく経緯を説明し出した。
簡単に纏めるとこの国『リエイス』には治安維持らしい治安維持はないに等しい。暴力が支配する国で、衛兵も言っていたように強い者、知識がある者がのしあがれる世界なのだとか。
流石にテミスもそれは初耳だったようで驚いていた。そして強い者であればこういった遊び半分の人殺しも罷り通るような世界だとのこと。
また、冒険者という制度はまるっきり人族の物と同じものらしく、真似て作ったらしい。だが、そのランクの基準は人族よりも圧倒的に高かった。
まず、先ほどの衛兵は人族で言えば、俺が唯一知っているS級冒険者であるサテュラのギルドマスターより強い。しかし、そのランクはB+だった。
しかもB+と言うように魔族側はより細かく指定されているようだ。
「お、俺たちで良ければ街を案内します!だから、どうか殺さないで下さいっ!」
そう言って残った3人の男は土下座しながら俺に懇願してきた。考えてみれば、この街、そしてこの国の案内役はいた方がいいだろう。こいつらがどれだけ顔が効くのか知らないが、国に入る前からこんな騒ぎに巻き込まれたとあっては、事情を知っている者がいた方が動きやすいかもしれない。
そうして俺の考えに了承してくれたテミスたちと生き残った男3人を率いて、俺たちは享楽と愚者の蔓延る不夜の国『リエイス』へと入国した。
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