第113話 訪れる過去の村
「あれか.....?」
そこまで高くない丘を超えるとそこには緑色と赤の斑点模様を背負った牛が多く飼われている村が見えてきた。だが、テミスの言っていたようにその村は丘のそこそこ上から見ても全体を見渡せないほど大きかった。
「ようやく村を見つけましたね。あそこで一度話を聞いてみましょう」
「そうだな。というか確かにテミスの言ってたように広いな。今まで見てきた中で一番じゃないか?」
「そうですね、ここまでの村は確かに珍しいです。ただあのカウゲーターをたくさん飼っていることも要因の一つなんでしょう」
「あの緑色のやつか?」
「そうですよ。人に無害な魔物で、カウゲーターから取れるお肉はとても高価に扱われています。私も実際に飼われているところを見るのは初めてです」
「へぇ、見た感じ放牧してるからどこでも飼えそうなものだけどな」
「それが、人には無害と言っても特定の種族にしか従わないらしいんですよ。ですが、野良のカウゲーターを狩ろうとしても一度警戒心を持たれてしまった瞬間、その魔物の肉は一瞬で毒に侵され食べられなくなるらしいのです」
「それがその魔物の防衛本能ってわけか。だったら俺たちが行くのはまずいか?」
「かも知れませんね。一応、カウゲーターのいないところから行きましょうか」
「そうだな」
眼下に見下ろす放牧地帯は俺から見て右側、つまり南東側に偏っている。それにもし、奴らの視力がとんでもなく良い場合を考慮してだいぶ離れた位置から周ることにした。
「こうしてみるとどこも同じような家の作りしてるんだな。木で作った柱に藁葺きの屋根、エルフも確かこんなだったか」
「そこまで難しくもなく、その上森で物資を取れますからね。この場所も広く放牧に向いていながら森からそこまで離れているわけでもないですから」
俺たちは家がギッチリと敷き詰められているように並ぶ南東側に着いた。家の中からは大小様々な声が聞こえ、子供のはしゃぐ声も聞こえる。
家は日本史にも出てきそうな感じで少し懐かしくも感じる。今いる場所は家の裏手に来ているからか村の人々からは見つかっていなかった。そのため変に怪しまれず、この村の人達を“鑑定”できる。
名前:レズモンド・ラスノス
種族:藍魔族
Lv:39
スキル:農業Lv.6 運搬Lv.5 絵描Lv.9
名前:バイセノ・ヒルディア
種族:藍魔族
Lv:21
スキル: 料理Lv.4 交渉Lv.6
「こいつらは....」
確かキノの種族は『藍魔王』だったはず。どういった基準で種族名が変化していくのかは推測の域を出ないが、同じ文字が入っているのなら無関係ではないだろう。それに何より決定的なのはキノと同じ名を持つ魔族がいた。
一発目からとは運がいい。もしくはテミスの言っていたようにここから【暴食】の国までの間にはこの村しかないのだろうか。
「今はそんなこといい。それよりも...」
俺はかぶりを振って余計な考えを振り払う。一応このまま彼らの前に姿を現すことも考えたが、知らない者、それも人間が現れたとなれば騒ぎになってもおかしくない。
「どうしたものか」
「でしたら私が行きましょうか?私ならこの中での唯一の魔族ですし、警戒はされるでしょうが門前払いはされないかと思いますが」
「そうだな、それが一番丸い方法か」
「わかりました」
俺はテミスとどういった体でここに来たのかなどの口裏合わせをして送り出す。最初は警戒されていたもののテミスの物腰の低さからかすぐに警戒は解いてくれた。
また、耳のいいサニア曰く俺たち人間や獣人もいることも話しているようだ。結果、人の気配に敏感なカウゲーターに出来るだけ近づかないようにすること、それからテミスの指定した人物と村長のみと面会し、それ以外とは顔を合わせないことを条件に俺たちも村へと入る了承を得た。
「お待たせしました、カイトさん。こちらがこの村の村長さんのところまで案内してくれるレズモンドさんです。で、こちらが私たちのパーティのリーダーであるカイトさんです。それからーー」
テミスが順々に俺たちをレズモンドと言われる人物に紹介していく。見た目は藍色の肌に厳つい目と屈強な筋肉をしているからおっかなそうだと思ったが、反して物腰は柔らかくとても気さくな人物だった。
「よろしくな!おれぁ人間を見るのは初めてだが、本当に肌が白いんだなぁ。んで、そっちの嬢ちゃんは...狐の獣人か!ま、ゆっくりは出来ねぇかもしんねぇが満喫してくれや。あぁ、俺たちがいりゃぁあのカウゲーターたちも大人しいからよ、心配すんなぁ」
「それならよかった。警戒心が強いと聞いていたからな。それで肉が毒になってあなたたちの商売道具を失うわけにはいかないからな、どうしたものかと思っていたんだ」
「よぅ知っとるな、にいちゃん。ま、それは奴と長いこと目を合わせた時だけさぁ。だから安心しなぁ、横目で見るくらいなら大丈夫だぁ。んじゃこっちだ」
そう言ってレズモンドは手に持つ鍬のような農具を担ぎ、村長の家へと案内してくれる。道すがら彼の言うように横目でカウゲーターを見てみると、色は確かに毒々しいが、温厚そうな顔立ちをしている。
そして何故名前がカウゲーターなのかわかった。まさに牛とワニを足して2で割ったような体をしているのだ。
頭はワニのように首が長いが牙はない。体は牛のように大きいが、足はワニのように短く太い。尻尾は牛のように先が毛玉のようになっており細いが、長さが普通の牛の二倍ほどもあるのだ。
また村の中にはあまり人の気配はなく、ほとんどが農地へ出ているか、家の中で仕事をしているかのどちらかなのだそうだ。ちなみにレズモンドはたまたま休みがてら歩いていたところテミスに声をかけられたようだ。
それから十数分ほど歩いていると目の前に赤い染料で色づけされた藁葺きの屋根がかけてある家が出てきた。一際目立つあの家が目的地らしい。
「ここだぁ。俺が話を通してきてやるからちょい待っとれ。...おーい、じーさん!客だぞぅ」
レズモンドは暖簾を潜るように藁の扉を潜って中へと入っていった。さっきの人のステータスを見る限りこの村がキノの出身地であることは確かだ。あとはそれを覚えているかどうか。
「おぅい、お待たせ。それじゃ中に入って待っててくれやぁ。おれぁお嬢ちゃんの言ってたやつを連れてくるからよぅ」
独特な語尾で話すレズモンドは俺たちを村長宅へ入れたあと、また外へ出て来た道を戻っていった。その姿を背に俺たちは案内された藁暖簾を潜る。
「お主らか、ワシに用があるのは...ゴフッ!!」
「だ、大丈夫ですか?!」
村長と呼ばれた人物はよろよろと自分のござに座り話し始めたかと思うと唐突に血を吐いた。その姿を見た俺たちは体が傾ぐ村長を咄嗟に支える。
「おぉすまぬ。大丈夫じゃよ、いつものことじゃから。して、お主らはゴホゴホヒルディアに会いたいとな?」
「え、えぇ。少しお話を伺いたくてこちらの村にお邪魔させていただきました」
「ふぅむ。どういったことかゴフッ想像もつかんが、まぁいいじゃろう。それにはワシもゲフォ同席してよいか?」
大丈夫か?この爺さん、なんか顔も白髪で覆われて目が見えてるのか分からないし、その白髪もさっきから会話の途中に挟んでくる吐血のせいで赤く染まっていっているが。
「あの、それ大丈夫ですか?何か拭くものは...」
「気にせんでええよ、この香りが好きなんじゃぁ.........クッサ」
「えぇ.....」
「じーさん、連れてきたぞぅ」
そんな時、レズモンドが2人の男女を連れてきた。1人は先ほども俺が視た女性だが、もう1人の男性は初めてみた。彼女の旦那だろうか。
「なんかあたいたちが呼ばれたって聞いたけど、呼んだのはあんたらかい?あたいらに何のようだ?」
先手を仕掛けるように前に立つ女性が断りもなく座りながら話しかけてくる。その後ろをまるで世にあるもの全てに恐れるようにビクビクしながら旦那と思われる男が座った。
「はい。今回はあなた方にお聞きしたいことがあってお伺いさせていただきました」
話を進めるテミス。今回、相手が魔族であるため同じ魔族であるテミスからの方が話を聞いてくれるだろうということで全て彼女に任せることにした。
「早速本題に入りますが、あなたたちはキノイル・ヒルディア、という女性を覚えていますか?」
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