第112話 決意を新たに
我は決行を早めることを決めた。
我は自らの安住の地から降り、盟友の治める国の付近まで領土を広げた。そのため我を恐れた臆病者どもはその地を離れ盟友の守る人間どもを襲い始めたが、我には関係ない。
だが、中には果敢に我に挑んだ者もいた。それは永く我の安住の地の麓を根城にしていた魔物であった。過去にはこやつも我の同胞であった気がしたが今となっては関係ない。
また、腕っ節ばかりで真の力を持たぬ軟弱者も多く我を倒そうと訪れた。当然ながら奴らの軟弱な攻撃をいくら繰り返されようと痛痒も感じない。そこには我が盟友も居た気がするが我には関係ない。
それからその麓を完全に我のものとするために我は大地へと自らの力を流し続けた。それによっていつしかこの場所はどこも心地いいマグマが煮え滾っている。
「随分時間がかかってしまった」
我が麓に降りてきて時たま来る雑魚を蹴散らしながら地中に力を流し続けること約2年。ようやく我の安住の地のみならず、盟友の治める国のすぐ近くまでマグマを進めることができた。
流し続けた力はすでに急速に戻りつつある。反して足は重たい気がするが、それは力を使ったからだろう。数十年ぶりに明確な目的ができた我には関係ない。
「今往くぞ、盟友よ」
我は緋煬竜サントニア・レルゲス。太陽すらをも焦がす竜。我が盟友を迫り来る脅威から守るため不戦の契りを捨てこの場所へ降りてきた。
さぁ、我は彼の者の盟友。なればこそ、我は彼を守り抜き、燒き貫こう。そして彼の守る国を護り抜き、燒き払おう。
決意を固める我の前には愚かな3人の男女が立ち塞がっていた。
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俺たちはあれからヴァイスに言われた通り、森を抜けここから北東に位置する【暴食】の国『リエイス』への道を進んでいた。
「そういや、キノの村の名前とか分からないな。見つけられるか?これ」
「うーん、そういえばそうですね。ただ道なりにあるとしか伝えられていませんから。でも、もしかしたらリエイスまての間に一つしか村がないのではないですか?」
「まぁ、その可能性もあるだろうけど....、国までの間に村がひとつだけなんて普通あるか?」
そもそも俺やミユの感覚では、地続きの国のイメージがしにくいのもあるし、俺の無い頭を振り絞って思い出してみると、よーろっはの方の国は国境を挟んで国が存在していた筈だ。その間に外れの村なんてのは無かった....はず。
だから、俺もミユもいまいち想像がし辛く、俺に至っては日本にいた頃に読んでいた小説から推測するしか出来ない。ただそれでも国と国の間にいくつか村はあっても一つしかない、というのはあまり見なかった気がする。
「そんなに珍しくもないと思いますけど...。私の村基準にはなってしまいますが、私の村は村といってもそこそこ大きかったので、その他に村と呼べるものは周りにはありませんでしたよ」
「なるほどな、確かにここまで来るのにも村自体はあまりなかったか。よし、それじゃあ着いた村でそれとなく確認してみるか」
目的地となる村が何という村なのか分からない以上、手当たり次第探すしかない。それに最悪の場合、そこがキノの生まれた村であったとしてもその村民がキノを覚えていなければ意味がない。
となれば、キノの遺体をどこか別の場所に持って行かなければ...と考えたところで俺は自分の考えに愕然とした。
「俺は.....」
それは自分が当たり前のように遺体という言葉を引き出してしまったこと、そして自分でも信じたくない感情を抱いてしまっているのではないか、という疑念が出てきた。
つまり、『慣れ』だった。
俺はそんな自分に虫唾が走った。仲間が死ぬことに慣れるだと?そんなわけないだろうが、と喚き散らしたい感情に襲われた。
しかし、一方でキノが重傷を負った時、最悪の可能性が頭を過ったことも確かだった。それも一瞬ではなく、頭の片隅にずっと。
「どうしたの?カイトくん」
俺は思わず3人の顔を見渡す。そして浮かんだ最悪の可能性を振り払うようにかぶりを振る。そうさせないために今より強くなるのだ、と。そのための力を得るために最高ランクのダンジョンに潜ることを決めたのだから。
「いや、何でもないよ。先に進もう」
俺の言葉にうなづく3人を尻目に、何故か復活した真っ黒の腕が密かに鳴動した気がした。
あれから3日が経過した。野宿も慣れたもので日が落ちれば手っ取り早く支度を済ませる。一応、近くで魔物などに出会すことが出来ればその肉を使って食事を作るが、それがない場合は“無限倉庫”にある食材を使っていた。
だいぶ余裕を持って買っていたはずだったが、いつのまにか結構減っていた。そのため今晩のメシは具のないスープと干し肉のみだった。
「こんなに減ってるとは思わなかった...。済まないな」
「いえ、大丈夫ですよ。なんとなく減ってる理由は想像がつくので...」
テミスが苦笑いするが、咎めてる様子はない。だが、俺は違った。俺は視線を右下に向ける。そこには体の大きさと同じくらいの干し肉に食らいつく妖精がいた。
「ほえ?」
「食い過ぎだ。お前、どれだけ食ったんだよ!」
「たべてないよー。いちじかんにいっこくらいしか」
「はぁ?おま、そんなに食ってたのか!もうダメだ!その干し肉以降は時間になるまでやらん!倉庫も勝手に開けるな!」
「えぇっ?!なんで!!いいじゃん!そんなにへってないでしょ?!」
「めっちゃ減ってるわ!お肉大好きのサニアでさえちゃんと時間は守るんだぞ?!ほら、お肉食べられなくて手が止まってるじゃないか!」
「きっとおなかすいてないんだよ!あたしがたべてあげる!」
シルフィがサニアに向かって飛んでいく。当のサニアは片手に干し肉を持ったまま、本当に固まっていた。
「.......食欲なんてあるわけ...」
「サニア...」
ぼそっと呟いたサニアの声が騒がしかった俺とシルフィの口を閉じさせる。俺は続く言葉を告げられなかった。
「サニア。キノはね、お空に帰ったんだよ。そして星になってうちたちを見守ってくれてるんだよ」
「......星?」
「そう。うちのいた国ではね、亡くなった人は空に帰って星になるって言われてるんだ。まぁカイトくんとか他の人がそう言われてたかは分かんないけど」
あはは、ミユが照れ隠ししながら笑う。
「いや、俺も母親から聞いたことあるよ。小さい頃はよくそう言い聞かされてた」
「そうだよね!...だからサニア、確かにキノさんが死んじゃった事は辛いけど、きっとうちたちを空から見守ってくれてるよ。それに...」
ミユは俺の方へと向く。その眼には俺を責める視線も嘆く視線もなかった。ただひたすら過去を忘れず、前へと進む意志を乗せた眼をしていた。
「キノさんはカイトくんの中にもいる。いえ、もしかしたら空よりこっちの方がいいってずっとカイトくんの中にいるかも。っていうか絶対いるね!」
「......うん。そうだね、ミユ。いつまでも落ち込んでちゃキノに怒られるよね、主さま」
「....そうだな。今すぐ前を向けなんて言わないし、言えない。それに過去を過去として忘れるなんて以ての他だ。でも、サニアの言う通りいつまでもこんな調子じゃキノに蹴られちまうな」
そうだ、いつまでも落ち込んでるわけにはいかない。すぐは無理でも前を向く努力はしなければ。
俺は、俺たちは前を向くために、手に持つ干し肉へとかぶりついた。
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