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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章

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幕間〜極東に降り立つ1人の異端児〜

 カイト達のいる大陸【ユニティース】の遥か東、小さな海を挟んだそこには大陸人が【極東】と呼ぶ小さな島があった。



 そこは魑魅魍魎が跋扈する土地でありながら、あらゆる金銀財宝が存在すると言われていた。そのためユーバニス大陸の近隣諸国はその島を我が物にしようと何度か調査隊を送ったが全滅。あるいはそもそも帰還しないなど成果が芳しくなく、どの国も攻略を諦めた場所だった。


 そんな場所だが、やはり住む者はいる。


 これはこの小さな島の、ある小さな村でのお話。





 ある日、その小さな村にひとりの男児が誕生した。


「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

「生まれた!生まれたぞ!元気な男の子だ!」

「あぁ、よかった。少し小さいけれど元気そうに泣いてるわ」


 父から手渡された赤ん坊は母の腕の中で元気に泣いている。母の顔を見ては泣き、父の顔を見ては泣く。それはまるで彼らのこの先の歩みを嘆くかのように。




 この村、いやこの島では魑魅魍魎が跋扈する。しかし、生計を立てるためには奴らを倒して生きていかねばならない。

 そのため彼らは勝つために、少なくとも戦える相手かどうか見極められるようにならなければならなかった。


 そうしたこともあってこの土地に住むものの多くが“鑑定”スキルを持っている。


 そして、いち早く戦いに備えるために生まれた子供は村の長に見てもらう決まりになっていた。当然、その者も鑑定を持っている。


「それじゃあ明日にでもこいつの力を見てもらおう!」

「うふふ、気が早いわねぇ。まだ名前も付けていないし、私はまだしばらく療養してないといけないのに」

「す、すまん。確かに気が急いていたようだ。お前が立てるようになってからにするよ...」

「うふふ、そんなに悲しそうな顔をしなくても行ってきて良いですよ。そのかわりその子の力、一番最初に教えて下さいね?」

「あ、あぁ!もちろんだ!」



 この村1番の魔法使いである母と村一番の戦士である父との間に生まれた赤ん坊の名は『リヴェント』。この村に伝わる英雄の名であるリヴェンから取り、さらに優しく他人を守る強さを持つ『エント』という言葉の意味も込められた。





 翌日、父親はリヴェントを抱え、村一番の正確さの“鑑定”を持つナハラという長老を訪ねた。


「ナハラ爺さん、ようやくうちの子も生まれたよ!早速で悪いんだが、うちのリヴェントを鑑定してくれないか?」

「おお!ようやくか、待っておったよ。お前さんの息子だ。さぞ立派に成長するじゃろう」


 そう言って父親からリヴェントを受け取るとナハラは彼に視線を合わせ、奥の奥まで読み取ろうとする。


 それから数分後、まるで一日中走り回ったかの如く疲れ切ったナハラが、声を絞り出すように父親にステータスを告げた。




 名前:リヴェント・フルウ

 種族:聖人族

 Lv:1

 ステータス:体力100

  魔力100

  攻撃100

  防御100

  俊敏100

  知力100

 スキル:修羅道Lv.-

 称号:六道一者




「ふぅ、少し手間取ってしまったが、うむ。この子も我らの神から賜りし種族を継いでおる!さらにはこの子の持つスキルはワシも見たことがない。これは将来大物になるぞ!」







 それから彼が生まれてからおよそ7年が経った。この村は魑魅魍魎に抗うため、5歳の頃から戦闘訓練を施される。それは時に対人であり、時に魔物との戦いを行い力を身につけ、昇華させる。



 その中でも彼は天才を通り越して、まさに異質であった。



 名前:リヴェント・フルウ

 種族:聖人族

 Lv:1

 ステータス:体力100

  魔力100

  攻撃100

  防御100

  俊敏100

  知力100

 スキル:修羅道Lv.- 棒聖術Lv.2 瞬破Lv.1 衝打Lv.4 怪力Lv.3

 称号:六道一者



 彼は約10人いる同年代の中でも負けなしであった。


 それもそのはずで、本来長い年月をかけ修練をし、その中でも壁を超えた者のみがたどり着けると言われる武聖術を齢7歳で成し遂げ昇華させたのだ。


 これはあまりにも異常である。そしてこの他者を全く寄せ付けぬ異常さは、次第に周りの者の心の澱となって行く。



 そもそもこの地で生まれ出ずる者はなぜか皆普通の人間では無く、聖人族として生まれてくる。それには諸説あるが、一説にはこの地が神の住まう土地に1番近く、太古はその守護を任されていたからだと言われている。


 そう言ったこともあるのか彼らには知る由も無いことだが、この地に蔓延る魔物はユーバニス大陸に棲息する魔物よりも数段強い。


 そのため、彼らも生まれた時から通常の人間よりも高次元の存在として生まれてくるのだ。



 だが、そのような経緯があったとしても彼は異質であった。そのもう1つの理由はステータスだ。


 ナハラは彼の成長を事細かに見るため、半年に一度彼を調べていた。だが、ステータスに一切の変化がないのだ。レベルさえ上がらず、このステータスは生まれた時のままなのだ。しかし、スキルはそれに反してスポンジが水を吸うように習得していく。


 この状況を“修羅道”。このスキルのせいだと判断したナハラは彼を初めて調べた時と同じように今度はスキルを調べようとしたのだが、何者かが邪魔するかのように詳細が見えなかった。






 そうしてそれから3年後の冬。彼、リヴェントがちょうど10歳になった日悲劇は起きた。


 村1番の戦闘師であるリヴェントの父でさえも歯が立たない魔物が現れたのだ。


「グルォォァァァァ!!!!」


 その体は陽光煌めき、細くしなやかでいながら鋼のような硬さを備えた白銀の体毛で覆われており、口には触れれば何者も裂いてしまうほど鋭い牙がずらりと並んでいる。


 さらにその狼は体長4メートルほどもあり、その巨体を支える6本の細い足には、どうやってそんな力を扱っているのかというほど力強く素早く動き、相手を翻弄する。



 その狼の名は『フェンリル』。地を揺らすものという意味を持つ、悪神が産んだ災厄の獣だった。


 村の人間たちはそんな魔物に最強の村人が敗れ帰ってきた時点で村の放棄を決定した。



 勝てる戦いしかしない。



 それは武人であれば、軟弱者と切って捨てられる弱者の戯言と思われるだろうが、生き残ることを大前提とする彼らにとっては何ら恥では無い。命あっての物種である。



 しかし、それに異を唱える者が現れた。

 そう、リヴェントだ。



 彼は村一番の強者である父が敵わなかった魔物に挑もうとしていた。だが、あまりにも無謀すぎる。


 大の大人が敵わないのだ、たかだか生まれて10年の子供が敵うわけなどない。


 彼は異質なほど天才であったが、それは同年代の少年少女と比べての話である。村の大人たちには逆立ちしても勝てないだろう。


 本来であればそれは大人たちや実の親が止めなければならなかった。しかし、運命は時に非情だ。


 彼は天才ではあったが、異質である故に最悪の事態が起こった。それは誰が言い出したのか、狼に相対しに行く彼を横目に、彼諸共この場を放棄しようと言い出したのだ。


 残酷である。卑劣である。しかし、悲しくもそれに異を唱える者は現れなかった。それは実の親でさえも。


 彼はすでに孤独だったのだ。同年代はもはや彼を相手にせず、実の親は彼の気味の悪さから出来るだけ関わろうとせず、村の長老は彼をただの研究材料としてしか見ていなかった。


 ただ、それを彼に悟られぬようにしていただけ。


 いつしか気づけば彼とフェンリルを残し、村の者はほとんどその場に残っていなかった。当然、異質ではあるが、天才である彼は周りの自身に対する評価など気づいていた。すでに誰もいないことなど気づいていた。


 だが、彼は絶望しない。むしろ喜色に塗れた顔で家にあった物干し竿を携えフェンリルへと相対す。


「強そうな魔物だね。でも、ボクに勝てるかい?」






 戦いは熾烈を極めていた。狼は自慢の脚でリヴェントを翻弄し、鋭い爪と牙で引き裂く。まだ齢10歳であるリヴェントは幼少という物理的な体のハンデもありながらも、その類稀なる格闘センスで致命傷は回避し続けるが、やはり細かい傷は増えていく。


 ここ数十合の打ち合いでまともにフェンリルの爪や牙を受ければ、その辺に転がっていた物干し竿など容易く細切れになることなど自明の理だろう。


 現に彼らの周りには残骸となった物干し竿がいくつか落ちている。


 だが、リヴェントの格闘センスは留まるところを知らない。彼は一瞬一瞬の戦いの中でひたすら成長していく。


 6本の足で俊敏に動き回り、高速の動きでリヴェントの視界から外れて死角から振られる爪を、もはや未来予知とでも言うかのような動きで体を一瞬屈伸させ躱す。


 そのまま振り向く遠心力も用いて竿をフェンリルの右頬に打ち付ける。だが、そんな遅い動きでは当たらないとでも言うようにフェンリルも向かってくる竿に噛みつき、逆にリヴェントを放り投げようとする。


 その意図を咄嗟に感知したのか、ためらいもなくリヴェントは竿から手を離し振り回される竿をジャンプして躱す。


 フェンリルは返しの一撃で逆側から再度咥えた竿を振り抜こうとするが、的がいない。


 それはそうだ。なぜならフェンリルの咥えた竿の上にリヴェントは立っていたのだから。








 そんな常人であれば見ることすら不可能なほど高度な戦いを逃げることも忘れ、眺めていたものがいた。


 ーーナハラだ。


 やがて彼らの戦いを見ていたナハラは何かに惹かれるようにリヴェントのステータスを見た。そこには見た本人でさえ信じられないものが写っていた。


 名前:リヴェント・フルウ

 種族:聖人族

 Lv:1

 ステータス:体力600000

  魔力600000

  攻撃600000

  防御600000

  俊敏600000

  知力600000

 スキル:修羅道Lv.- 棒聖術Lv.6 瞬破Lv.5 衝打Lv.6 怪力Lv.5 瞬動Lv.1

 称号:六道一者



「真なる、バケモノじゃ.....。こんなモノが存在して良いのか...?」






 かくしてリヴェントは両目を犠牲になんとフェンリルを滅殺した。その顔は返り血か、それとも自身の眼から流れ落ちる血か。そんな風に朱に染まっていながら、それさえも心地よいとばかりにさわやかな笑顔をしていた。


 そして、神獣を討滅した報酬と言わんばかりにフェンリルの死体から光がさんざめき、腹の中から一本の棒が生まれる。


 それの長さは物干し竿とほぼ同じくらいの長さをしている。また、棒の中心にはちょうど握りこめるような取っ手があり、そこから左右の先端に向けて逆向きに返しが無数に付いていた。


 そして握る位置を変えようとすれば自然と返しは折りたたまれ、手を離せばまた返しが現れる。


 その武器の名は【逆杖】狼牙棒。


 この日、この地よりさらに強化された異端が誕生した。

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