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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章

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第109話 己の魂界

「何で....、何でこうなるんだよ!」


 俺は次第に硬くなり冷たくなっていくキノの体を抱きしめる。当然、未だ流れるキノの血液が俺の体を汚していくが、その血液が温かいことに理由もなく腹が立つ。


『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル: 隠陰殲忘 嫉妬 闘聖術 大地魔法 剛力 瞬動 軀力特自動回復 咒力特自動回復 崩拳 崩天 断脚を獲得しました』


 俺が最期へのきっかけを作ったのだから、スキルが俺の物になるのは当然だ。しかし、今はどんな声もどんな音も聞きたくなかった。


 今は冷たくなっていくキノを抱きしめることだけに集中したかった。命を救えなかった俺の情けなさも何もかも全てを分かった上で。


 けれど、この世の中は残酷だった。


「あがぁぁぁぁ!??」


 突如、俺の体が裂けてしまうのではないか、と思うほどの痛みが走った。それは一瞬で終わるものではなく、しかも波のように強弱があるわけでもなく、ただひたすら続いた。


「あ、あぐぁっ?!がぁぁ?!?!」

「カイトくん!?」

「......主さま!」

「カイトさん!」


 しかし、この痛みは記憶の片隅にあった。しかもつい先日。


 それは【暴食】を倒した直後の痛みと同じだった。しかし、あの時の痛みは俺がすぐに気を失ったからか、あまりよく覚えていないのだが、今回のものは桁が違った。


 視界がバチバチと白く発光して意識が遠くなり、気絶する寸前にまた、再度背骨が縦に引き裂かれるような痛みが走るせいで気絶することもできない。


 それでも意地でも俺はキノを抱きしめる左腕を離すことはしなかった。


『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル: 隠陰殲忘 嫉妬 闘聖術 大地魔法 剛力 瞬動 軀力特自動回復 咒力特自動回復 崩拳 崩天 断脚を獲得..........................出来ませんでした。

 原因究明...。.....判明。スキル:簒奪保持者有する魂界の規定容量を超えるため、獲得出来ません。よって、以下スキルを破棄いたします。スキル: 隠陰殲忘 嫉妬 闘聖術 大地魔法 剛力 瞬動 軀力特自動回復 咒力特自動回復 崩拳 崩天 断脚を破棄ーー』


「やめろぉぉぉ!!!」


 俺は雷光が走り回るように暴れる頭の中に微かに響いた信じられない文言に思わず叫ぶ。


「ふざけるなっ!それは...!それだけは...やめろっ!...これは、俺に残された...キノの最後の頼みなんだよっ!あぐぁぁっっ!!.....破棄なんざ...、させてたまるかっ!」


『.........スキル:簒奪保持者の意志により別方法模索中....。結果、現時点における魂界の既定容量を超えるため、別方法発見不可』


「うるせぇ!これだけは....っ!ダメなんだよ!!何としてでも奪え!どんな手を使ってでも!俺の体を壊してもいいからキノを取り込め!!」


 未だ体中に走り回る引き裂かれるような痛みに耐えながら、頭の中に響く残酷な声に歯向かう。....そうか、【暴食】のスキルが完全に奪えなかった原因がこれか。


 しかし、既定容量だか、魂界だかなんだか知らないが、そんなものでキノの想いを宙に溶かすわけにはいかない。それなら多少でも俺の体が壊れればいい。


『スキル:簒奪保持者による自壊申請受諾。承認審査中....。.........りました。.........の承認により自壊は不承。しかし、魂界の一部拡張であれば了承。受諾。

 以上により、スキル:簒奪の効果によるスキル:嫉妬 闘聖術 大地魔法 剛力 瞬動 軀力特自動回復 咒力特自動回復 崩拳 崩天 断脚を獲得しました』


「な、何だ?何が起こってる?!俺の頭の中で何をしている?!」


 俺の声にこの謎のアナウンスが応えたのか不可解なやりとりが聞こえた。それに合わせてなのか絶えず訪れていた体の痛みもまるで嘘だったかのように綺麗に消えた。


「それに、おいっ?!“隠陰殲忘”はどうした?!なぜ獲得していない?!」


 そう、急に痛みが消えたためかあの不可思議なアナウンスが嫌に耳に残った。そしてその中にはキノの代名詞とも呼べるあのスキルの名前が無かった。


『スキル:簒奪保持者は条件(世界に対する)未達成(憎しみ不足)により、スキル: 隠陰殲忘を獲得出来ません』


「.....は?」


 情報が多すぎて頭が整理出来ない。《世界に対する憎しみ不足?じゃあなんだ、それが足りないからそのスキルは獲得できないとでも?


『よって、該当スキルは現時点より適任者に付与されます』 


「待て!!ふざけるな!!何だそのふざけた条件は?!そもそもキノはその条件とやらに達するほど世界を憎んでたってのか?!」

『..............』

「答えろよっ!いや、そんなことはどうでもいい。....俺が世界を、この世界を憎んでいないとでも?」

『現時点では条件に達するほどの憎悪を確認できず』

「いいさ、じゃあ見せてやるよっ!!」


 .....なぜか、俺の言葉を聞いた頭の中の声は愚かな生物を弄び嘲るような、それでいて全てを包み込み癒すような慈愛に満ちた笑顔を浮かべた気がした。


「待ってカイトくん!?何するつもり?!そもそも誰と喋ってるの?!」



 誰かが俺の右肩を掴む。だか、今はそんなこと関係ない。


 俺は空に向けて、無い右腕を目一杯伸ばす。どうやら俺にもいよいよ幻覚が見えてきたのか、本来右腕があった場所に光をも飲み込むような漆黒の渦が現れ始める。


「俺の大事なものばかり奪っていくこの世界に抱く憎しみが他の誰にも負けてたまるかっ!!この憎しみは何にも劣らないっ!!これでもまだ、足りないとか抜かしやがるかっ!?」

『.......条件達成、スキル: 隠陰殲忘の獲得を許可いたします。........哀れなヒトよ』


「あづっ?!?!」


 頭の中の声がキノのスキルを獲得できたことを伝えた瞬間、今度は右腕に尋常ではないほどの熱を持ったため、謎のアナウンスが最後に何か言っていた気がしたがそれどころではなかった。


「あぁぁづぁぁ!!今度は....っ、なんだっ?!」


 俺は咄嗟に熱を持つ右腕を掴(・)ん(・)だ(・)。そしてなんとか冷やそうと右腕を“極氷魔法”を発動させる。


「かっ?!」


 その瞬間、右腕を起点に左腕とキノ、そして俺の頭に向けて昏いナニカが広がり飲み込んで、そこで俺の意識は途絶えた。

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