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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章

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第107話 『三血聖』コルキス・ユグリントス

「ねぇカイト、次どこ行くかもう決めてるの?」


 エルフの村を出てから数時間、俺たちはとりあえず東に向けて歩いていた。


「いや、特には決めてない。一応西から進んできているから東に進んでるけどな。ちなみにこの先には何があるんだ?」

「うーん、何あったっけなぁ。まぁちっちゃい国はいくつかあるけど...」

「じゃあとりあえず休息がてらそこに寄ろうか」

「おっけー!そしたら早速いっこー!」


 キノは飛び上がりながら先へ進んでいく。俺たちはそれを見ながら後をついて行く。この辺りの魔物はすでに俺たちの敵ではないし、さらにどうやら東に行くに連れて魔物のレベルもある程度下がってくるらしい。


 本当に強力な魔物が跋扈するのは西の特に氷山やその麓だそうだ。そこは地形や気候が厳しいせいか、生息する魔物はそこに適応するため強力になっていったらしい。


 反してこちらの東側は温暖な海が近く北に進めば、小国とはいえ人族の国が多数存在する。それもあってか魔物のレベルは特段高くない。


 まぁ魔物のレベルが高くないから近隣に小国が乱立しているのかもしれないが。






「あら、ようやく会えたわね。待ちくたびれたわ」


 それからまた数十分ほど見栄えの変わらぬ森の中を、時折襲い来る魔物を退けながら進んでいると突然どこからが声がかかった。


「誰だ?」


 聞き覚えのない声に俺たちは咄嗟に戦闘態勢を取る。俺は声のした方向へ目を向けるとそこには鮮血をそのまま被ったような真紅のドレスを着こなし、大木の枝に座る1人の女がこちらを見下ろしていた。


「うん、きちんとみんな揃ってるわね。良かったわぁ」

「俺は誰だと聞いたんだ。質問に答えろ」

「うふ、まず人に名前を尋ねるときは〜っていうの聞いたことないのかしら?」

「知らん人間に自ら名乗る気はない。お前は明らかに怪しいしな。だが、話しかけて来たのはそっちだろう?」


 女は俺の言葉に薄く微笑むだけで返しては来なかった。にしても不可解なのが、こいつが俺の探知に引っかからなかったことだ。今は目の前にいるからか匂いを感知できたが、声をかけられるまで全く気づかなかった。


 だが、目の前にいる以上、別に名乗る必要は無い。なぜなら“鑑定”すればいいのだから。


 俺は女が喋らないことをいいことに問答無用で“鑑定”を発動させる。




 名前:コルキス・ユグリントス

 種族:吸血鬼族

 Lv:873

 スキル:管理されているため見ることが出来ません。

 称号:管理されているため見ることが出来ません。





「吸血鬼(ヴァンパイア)だと?!」

「あらバレちゃったわ。私も随分と人気者になったのね」

「なんでここにあんたたちが....。まさか...」

「お初にお目にかかります、我が女王様の愛し女(いとしめ)よ。女王様があなたをお探しでしたよ?さぁ、共に女王様の元へ帰りましょう」

「やだよ!あいつのところになんて帰らないから!というか帰るって何?!キノはカイトのところが帰る場所なの!それに誰よあんた!」

「私の名はコルキス・ユグリントス。女王様より聖なる血を賜りし『三血聖』の名を戴いております。以後、お見知り置きを」

「は?『三血聖』?!ほんとにそんなもの作ってたなんて...」

「キノ、こいつら知ってるのか?」

「ううん、この女は知らない。けど、『三血聖』は聞いたことある」


 キノによると、まだキノが吸血鬼(ヴァンパイア)の国にいた頃、【色欲】から自らとキノを守る親衛隊を創りたいという話を聞いていたそうだ。


 それは【色欲】とキノに絶対服従する強力な部下であり、そしてその名がこの『三血聖』。女王自らが血を与え、そしてその血に呑まれることなく自身のものとし、新たな力を持つことでようやく入り口に立つ。


 さらにその力を洗練し、この2人に対する絶対的な忠誠心を持つ吸血鬼(ヴァンパイア)を創ろうとしていたというのだ。


 本来、吸血鬼(ヴァンパイア)にとって血とは食事であり、間食であり、娯楽であり、性欲の解放だった。そしてそれはあくまで吸血によって行われるもので、与えるなどは考えられてもいなかった。


 一応過去には血を与えることで隷属させることが出来る、などと言う世迷言が流行り、吸血鬼(ヴァンパイア)同士や他種族との間で行われたりしたらしいが、実際には他者の血を受け入れることで体に拒否反応が続出し隷属どころではなかった。


 だが、拒否反応が出て苦しむくらいならまだマシだが、それによって暴れ狂う者や最悪、血を受け取った瞬間死ぬ者などが町中で発生したそうだ。


 そのためそれからは血を与えること自体が禁忌とされ長らく封印、それはやがて吸血鬼(ヴァンパイア)の間でも風化し記憶から消えていた。


 そんな記憶から消えるほど昔の文献を引っ張り出して夢物語を語るどころか、実際にそれを行い、さらにはその結果の成功例が目の前にあるのだ。キノの驚きは当然のものだろう。


「私たちは数多の実験により生み出され、厳しい訓練を経てここまでの力を手にしました。それは一重に我らが女王様とあなたをお守りするため。そのためにはまず、この劣等種とハエどもを消さねばなりませんね」


 今までキノに向けて跪いていたコルキスという女は立ち上がりつつ、キノ以外の俺たちを睨みつける。そこには先ほどまでの軽薄な表情は無かった。


「はっ。キノも言ってたが、お前たちのところにキノをやるつもりなんてねぇよ。とっとと自分の国に尻尾巻いて逃げな。今なら見逃してやる」

「ふふっ。男の強がりって何故こうも愛しいのかしら。でも、ごめんなさいね。私には先約があるのよ、だからあなたは愛して(管理して)上げられないわ」

「そんなものこっちから願い下げだよ!」


 俺は刀を取り出しコルキスに斬りかかる。しかし、コルキスは俺の縦横無尽の斬撃をひらりひらりと躱していく。


「「はぁ!」」


 今度はミユとサニアも参戦する。


「可愛らしいわぁ、あなた達も。もっと磨けばあなた達はさらに輝くわよ!ほんとなら私が見てあげたいのだけれど、それはまた今度ね」


 そう呟くとコルキスは指をカリッと噛み流れ出た血を俺たちに向けて振りまいた。するとその血は途端に球体に変化し、さらにそこから手や足が生えてきた。


「こいつは?!」

「........あの時の赤い人間?!」


 出てきたのはのっぺりした顔を持ち、身長130センチほどの大きさの女性型の血人形が現れた。それを見たミユとサニアが同時に驚く。さらにキノとテミスも口を押さえている。


「奴を知っているのか?」

「あの血人形は【暴食】と共にいた者です。体を千切られても再生し、何も喋らずエルフを何人も攫って行きました.....」

「そうか」


 こいつもエルフを攫って行ったのか。でも、もともとエルフを攫っていったのは人間だったはず。いや、【暴食】といたと言うことはあいつの仲間なのか。


「あら、そうみたいね。そういやこの子がエルフの子供を持ってきた時にそんなことを聞いた気がするわ。でも、あなた達がここにいると言うことは...。そう、魔王様を倒してきたのね」

「何?お前は【暴食】と組んでいるわけではないのか?」

「私が女王様以外の魔王様に従うわけがないでしょう?たまたまよ、きっとこの子もその方がエルフを連れ帰るのに確実だと判断したんじゃないかしら。一応その場である程度の自己判断は出来る様にしているから」

「なら、貴様は何が目的でエルフを狙った?!」

「目的ねぇ、そんなもの特にないわ。暇だった時にたまたまエルフ狩りに行く人間共を見つけてね。それが面白そうだったから便乗しただけよ」

「ならやはりあの人間達の仲間ってわけか」

「だから仲間なわけないじゃないと何度言えば...。私が魂を捧げるのは女王様と愛し女(いとしめ)様のみよ。そこを間違えられるのは不愉快だわ」


 コルキスは言い終わると同時に腕を振り下ろす。その動きに合わせるように血人形が動き出した。動きは俊敏、血人形は両腕を刃の形に変え、俺たちに向けて突進してくる。


「くっ!」


 俺はなんとか血人形の大上段の一撃を防ぐ。さらにそこから流れるように繰り出される連撃を十合、二十合と斬り結んでいく。


「はぁっ!」


 そこにミユが俺との斬り結びの一瞬の間隙を縫って血人形の脇腹に一太刀加える。それは狙い違わず脇腹を斬り裂いた。しかし、逆再生でも見ているかのようにその傷口は見る間に塞がれ元に戻ってしまった。


「吹き飛ばせ!風よ!」

「ふっ!」


 だが、再生に力を割いたせいか若干動きが止まった血人形に向けてテミスが風の玉で血人形を吹き飛ばすことで俺との距離を作り、血人形が体勢を整える前にサニアがダウンバーストの要領で血人形の上から吹雪をようなものを降らせる。


「合わせます!」


 それは続けてテミスの助力によって勢いを増し、吹き付けられる端から血人形は凍りついていく。血人形も負けじと凍っていないところから血の腕を伸ばして逃れようとするが、範囲が広く逃げ切れていない。


「はあっ!」


 そうして血人形は瞬く間に凍ってしまった。そこへミユがトドメとばかりに【天劔】を振り下ろし破壊した。バリンッという硬質な音と共に血人形は一瞬で氷のカケラへと変じた。


「あらあら、こんなに簡単に攻略されてしまうなんて予想外だわ。こういう方法もあるのねぇ、勉強になったわ」

「ナメてるからそうなるんだよ。お前も血の量が無限にあるわけじゃねぇんだ。けどこっちは分担してる。それに魔力も回復できる。持久戦じゃこっちが有利だ」

「そうねぇ。確かに増血をするにも簡単じゃないわねぇ。でもーー」



 ーーそれはあなた達が生き延びられたらのお話でしょ?



 急な雰囲気の変化とその言葉の真意を確かめるより前に俺の背後に一つの気配が降り立った。今度は戦闘中もあってかはっきりと気配が認識できる。しかし、認識した敵の位置は俺の真後ろだ。このままじゃどうあっても攻撃を避けられない。


 その時、俺は唐突に背中に軽い衝撃を喰らい前に倒れ込む。なんとか敵の姿を確認しようと踏ん張りつつ後ろへ振り返ると、そこには迫る細く白い腕とそれを覆うように蠢く黒い影があった。

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