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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章

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第105話 密かに語られる歴史

 俺は自らで作り上げた小(・)山(・)の上に座り森の彼方へ消えた姿に目を向ける。


(俺が敵を殺さずに逃すとは……)


 知らず、笑みが溢れる。今まで無造作に、ただ欲のままに使ってきた女が俺を恐れることなく、挙げ句、俺を管理する、とまで宣ったことに苛立ちと面白さが同時に溢れ出る。


 あの女は確かに強力だったが、魔王の側近とは俺に近づくほど力を持っているのかと感心した。今までは、魔族など数は少なく、力もそこまで強くない。人間よりはマシ程度にしか思っていなかった。


 俺は新しい知見を得たことの喜びを噛み締める。そして、次に会う時は必ず、全てを味わい尽くして殺してやると決心した。


 そも、この世でいう力にもいくつかある。その一つが我らの王だ。基本的にはそれぞれが所持しているステータスが影響してくる。そしてそれは自身のレベル次第で如何様にも鍛えられる。


 満遍なく鍛えてバランス型にするもよし。攻撃やスピードに極振りして育てるもよし。どれも自分の戦い方次第でステータスの成長は変わってくるし、逆にいえば、鍛え方を間違えれば自身の望まぬ方向へ成長することも珍しくない。


 だが、我らの王は少し違う。当然、彼も自身の力となるステータスやレベルを鍛えている。だが、それとは別にステータスに拠らない力も所持している。


 それが『道遁スキル』と呼ばれるものだ。


 これはとても希少で滅多に見られるスキルではないそうだ。いつの日か俺が王から直々に話を聞いたときは耳を疑った。


 誰もがありふれたスキルを自身の力量に沿って育て、やがて『超越』という一種の進化を経て固有のスキルを有する。その固有スキルには一切の系統樹というものが存在しない。


 いわゆる自分だけのスキルなのだ。


 それ以外はおおよそ系統化されており、その先も研究の結果、ほとんどは明らかにされている。そしてその系統は多岐に渡るのだ。


 ただ、一口に系統といってもそこまで細かく分岐しているわけではない。まず、基本的なものだと大半の者のメインスキルとなるのが『武術スキル』か『魔術スキル』となる。


 そこから自身の得意な分野を見つけ出し育てて行くのだが、王の話す『道遁スキル』は少し違った。なぜならこのスキルは固有スキルではないのにもかかわらずレベルは無く、系統はわずか4つしか確認出来ていなかったからだ。


 だが、それも決して正確なものではないそうで、過去の歴史の中で確認出来たものは4つだが、後一つ、幻の5つ目が存在すると言うのだ。


 ではその5つのスキルとは何か。まず1つ目は我らの王が有する“人間道”。このスキルを持つ者は種族名に『人』の文字を有する種族を無条件に従える。というよりは本能的に従ってしまうというスキル。


 その者の言うことに間違いはなく、言う通りにしなければならない、という感情を想起させる。そして疑いを持たなくなる。と言う凶悪なスキルである。


 だが当然、デメリットもある。従わせることに条件はないが、同じ『道遁スキル』を持つ者やその人物と深い縁を結ぶものには効果が無い。薄い、ではなく無いのだ。


 なんとも極端である。それに理論上は無制限だが、ヒトの身に余る人数を従えることはできない。要は脳の容量的な問題である。


 それ故に王は我ら近衛隊など、直接王に忠誠を誓う者にはスキルを使っていないし、彼自身に従いたくなるカリスマが存在する故、使われずとも裏切ろうなど考えたこともなかった。


 そして、2つ目の『道遁スキル』“餓鬼道”。これは詳細は判明していない、と言うよりも歴史の中で名前だけが伝わり、能力を解明出来たスキルはなかったようだ。


 それでもどういった者が使っていたかは伝わっている。それによるとこのスキルを持つ者は常に狂っており、魔物や人間などの区別なく喰らう獣のような存在であるようだ。


 次の『道遁スキル』は“畜生道”。これも能力の詳細は不明だが、予測は立てられたらしく、それによると魔物を支配する能力らしい。内容としては“人間道”の魔物版と言ったところか。


 続いて“修羅道”。これは予測すら立てられていない。だが、このスキルを持つ者は皆1人で数千、数万の軍勢を相手にできる能力を持っていたらしい。


 そして、最後が幻の『道遁スキル』“地獄道”。これは伝承でしか伝わっておらず、目撃例もないはずなのに何故か詳細な歴史が残っているらしい。


 それによるとこのスキルを持つ者は周りに災厄を齎す。さらに一度ソレが発動してしまえば、災厄は国を覆うほどだと言う。また、厄介なことにそのスキル所持者を殺してもその者の近くにいた者へ瞬間的に再発現し、いずれ全世界を端から災厄で覆う、とされているのだ。


 そのため、伝承の中では殺すのではなくスキル保持者を封印しようとした。しかし、それも完全ではなく災厄はやがてその封印をも侵し、壊されたと言う。


 そのため封印は上策ではなかった。だが、負の側面ばかりでも無いようで、この災厄はトリガーなるものが存在するらしい。それはスキル保持者が壊れかねないほどの絶望を抱くこと。


 逆にいえばそうなるまで刺激しなければ何の効果も発揮しないスキルとなる。


 これが現時点で分かっている『道遁スキル』の詳細だ。そして今、幻だと言われていた“地獄道”のスキルを有する者が現れたという。


 そのため王は伝承通りになることを危惧して苦肉の策に出た。


 ーーそれが我らがイングラス王国からの永久追放。


 単純な考えである。殺すのは下策、封印も上策ではない。であれば、なるべく刺激をしないように追放する、というわけだ。


 そして伝承ではこうも書かれてある。それは4つの『道遁スキル』保持者が真に協力することで、魔である“地獄道”を消すことが出来る、と。


 そのため王は血眼になって自身と同じ力を持つ者を探し、そして可能であれば俺たちのような者がいつかそのスキルを得られるように各地を奔走している、というわけなのだ。


 現状、それらのスキルを得られる条件は判明していない。しかし、今回まことしやかな噂でエルフが有効であるという情報を得た。今はそんな噂でも調べざるを得ないのだろう。そのため今回のエルフ鹵獲作戦が実行された。


「ギルガさーん、うぉーい!待ち合わせに来なくて何やってんですかぁぁ?」

「.....ルベド」

「クッサ!!よくそんなとこにいられますね!荷物はこれですか?にしても....おぉう大漁ですなぁ!想定より4、5体ほど多いじゃないですか!」

「ごちゃごちゃと宣ってないでさっさと持っていけ」

「心配しなくてもありがた〜く持っていきますとも!それにこんな死(・)体(・)の(・)山(・)の近くになんていられないっすから!もしかしてこれ、全部傭兵(コマ)だったやつですか?」

「ふん...」

「わぁーお、凄いことしますなぁ。ま、ワシはここでお暇しますんで!ではではっ!」


 そういって突然現れた小太りの商人は俺の持ってきた荷物を持って嵐のように俺の前から去っていった。


 そもそもエルフの体は捨てることが無い。


 生き物としては労働力としても娼婦としても使えるし、殺しても肉は貴族の高級料理に、骨は武器にも錬金術の一つとしても高性能だ。内臓なども錬金術に使えると言う。


 だが、今回は用途が違う。荒唐無稽だと俺も思うが、エルフの生き血が『道遁スキル』を後天的に得るための肉体作りとして有効だとか。


「ふぅ.....」


 俺は傭兵の死体で出来た山から飛び降り、奥からやってくる俺の部下の元へと向かっていった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーー








「くっ、かはっ!ごほっごぼっ!.......眩しっ...」

「カイトっ?!」

「カイトさん!」

「眩しくて見えない...けど、その声はミユとテミスか」

「そうだよ!気がついたんだね!」

「ここは.....?」

「ここはエルフの村長さんの家だよ。エルフの人たちがここを使ってってさ」

「あ、カイトさん。気がついたのですね、ちょうどよかった。今食事をお持ちしたところです。ずいぶん眠ってらっしゃいましたし、お腹も空いてるでしょう?」

「.....眠って?なぁ、俺はどれくらい眠ってたんだ?」

「えっと.....3日、かな」

「.....そうか。【暴食】は?倒せたんだよな?それにエルフの人たちはどうなった?!」

「【暴食】は死んだよ。死体はエルフの人たちに任せた。何人かは助かったよ、【暴食】が死んだことで華も消えたからね。でも......」

「...いくら隔離しても全員は無理だったか......」

「........」


 ミユのその沈んだ表情を見れば、それが肯定であることは想像に難くない。やはり助けきれなかった後悔が俺の中に浮かび上がってくる。


「心配しないでください、というのもおかしな話ですけど、我らはあなた方にとても感謝しています。あなた方がいなければ我らは全滅していた。

 魔王に勝てないどころか、人間相手にも全滅するところでした。それをあなた方が救ってくれた。これに感謝せずして誇りある森嶺の民を名乗れなどしません。本当にありがとうございました」


 食事を持ってきたエルフは俺やミユたちに対して深々と頭を下げた。それは俺たちがそんなことはない、といっても変わらず、自ら体を起こさせるまで続いた。


「カイトっ!起きたんだね!良かったぁぁ!」

「.......主さま、大丈夫?」

「あぁ、キノ、サニアありがとな。もう大丈夫だよ」


 それから少ししてエルフの手伝いをしていたキノとサニアが戻ってきた。その頃には俺も回復してきて体を起こすくらいならできた。


「にしてもなんで倒れたんだろう?魔力使いすぎたとかか?」


 俺は倒れた理由に心当たりがなかった。確かに魔力、今は咒力だが、これを使いすぎ軀力まで削っていたのだ。確かに倒れてもおかしくはないだろう。


 だが、咒力の使いすぎで軀力まで削ると言うのは以前にもあったはずだ。その時には倒れるまではしなかった。


「まぁいいじゃん!結果、無事だったんだしさ!今は少しでも体力回復させとこ?」

「そうだな。でも、あんまりエルフのところにお世話になるのも申し訳ないな...」

「それこそ心配しないでください。我らは木で生きています。森さえ有ればどこでも生活ができますし、キノさんやサニアさんも手伝ってくれています」


 最初は断っていたんですけどね、とはにかみながら俺に食事を持ってきてくれたエルフは笑う。彼女はヘリブラというらしく、特にサニアと仲が良かった。


「そうか、じゃあお言葉に甘えようかな。彼女たちは存分にこき使ってくれ」

「カイトくん、なにその言い方ぁ」

「あんまりここでサボってたら太るぞ?」

「なっ?!」


 ミユが顔を真っ赤にする。俺たちはそれを見て笑顔になる。ずっと張り詰めていたエルフにも次第に笑顔が戻っていく。そうして俺たちの間にはほのぼのとした雰囲気が流れていた。

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