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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章

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第104話 乖離する邂逅

 俺は目の前の【暴食】から視線を切り、辺りをざっと見回す。そうすると十数人のエルフが体に枯れた根を残して横たわっていた。


「間に合わなかったか....」


 彼ら彼女らはすでに華を全て枯らし、体力や魔力など根こそぎ奪われてしまったのだろう。俺は彼らに向けて目を瞑り、軽く黙祷を捧げる。


「覚醒した僕を前に随分と余裕だねぇ!!僕は新たな力を手に入れた!もう貴様の魔法など意味をなさない!むしろ僕の力となる!」

「...........」

「ちっ!いつまでも僕を無視するなぁぁ!!」


【暴食】は怒りの咆哮と共に地を走り、その自慢の脚を俺に向けて蹴りつける。その深緑色のオーラに染めた脚の一撃はもはや地をも裂けるほどの威力があろう。


 だが、俺はそれを軽く躱す。相変わらず受けてはいけないため受け流すことは難しいが、それでもここまで大振りであれば、いくら速度が乗ろうとも躱すことは難くない。


「いつまでも避けられると思うなよっ!?」


【暴食】は横薙ぎに振るう脚の遠心力を利用し、もう片方の脚でさらに回し蹴りを放つ。さらに蹴り上げ、踵落とし、膝蹴り、飛び蹴りなど両の脚を巧みに使って俺へ連撃を仕掛ける。


「はっ!避けるだけで精一杯なのかっ?!ホラホラもっと僕を楽しませてよっ!」


 俺は【暴食】の蹴りを避けつつ、少しずつ場所を移動する。それは奥に集めているであろうエルフたちから【暴食】を遠ざけるためだ。


「.......っと?」

「ハハッ!君の魂胆なんてバレてるんだよっ!どうせ逃げて時間を稼ぐつもりだったんだろっ?異界の勇者たちならまだしも貴様相手にそんなことさせないよっ!“剛断”!!」


 どうやら俺の目論見はバレていたらしく、俺は突然生えた樹に退路を防がれる。なるほど、さっき踵落としをした時に出来た地面のひび割れから“自然魔法”を使ったようだ。


 そうして逃げ場が無くなった俺を切り潰そうと大上段から脚を斧と見なして、力で以って敵を切り潰す武技“剛断”を放ってきた。








 ーーーーーーーーーーーーーーーーー








「この辺りでいいわ、下ろしてちょうだい」

「何?突然なんだ、俺の下から去る気か」

「えぇ、そうよ。あなたといるのも楽しかったけど、いつまでも遊んでられないもの」

「ふむ、そうか。........ならば、死ね」


 突如、ズバンッという空気を裂く音と共に金色の剣が振り下ろされた。私はそれを間一髪で躱し、馬車の外に出る。不運なことに今の一撃で馬車を引いていた馬と御者は殺されたようだ。芳醇な血の匂いが辺りに散らばる。


「もう、せっかちなんだから。せっかくの色男なんだから焦っちゃダメよ?余裕のない男に魅力なんか無いわ。ねぇ、イ(・)ン(・)グ(・)ラ(・)ス(・)王(・)国(・)近(・)衛(・)隊(・)隊(・)長(・)ギ(・)ル(・)ガ(・)・(・)ネ(・)ル(・)タ(・)ル(・)さ(・)ん(・)?(・)」

「.......ほう?なかなか愉快なことを言うではないか。気に入ったぞ?吸(・)血(・)鬼(・)の(・)女(・)傑(・)で(・)あ(・)る(・)三(・)血(・)聖(・)が(・)1(・)人(・)、コ(・)ル(・)キ(・)ス(・)・(・)ユ(・)グ(・)リ(・)ン(・)ト(・)ス(・)」

「うふふふふ」

「カカカカカ」


 どちらが先に動いたのか、気づけば互いの武器を交えていた。姿も気配も見えない何者かに剣を降らせるギルガ、自身も他者も関係なく目につく血液を自在に操る私。


 戦いは長くは続かなかった。それもそのはず。どちらも本気ではないからだ。それに反して辺りはいつの間にか開墾され、周りに生い茂っていた樹木は半径30メートルほどが綺麗に伐採されていた。


「私はあなたのこと、とても気に入ってるのよ?私の首を締めた時のあの顔!あぁ愛おしい!!劣等種たる男がちっぽけなプライドで女を虐げようとするあの姿!!あぁあの姿は愛すべきだわ!愛して(管理して)あげなくては罪というものだわっ!!」

「噂通り貴様らはやはり狂ってるな。女など玩具に過ぎん。男を崇拝し、讃えるためだけに存在する道具だ。飽きれば殺すし、歯向かえば殺す。はっ、男を管理だと?馬鹿馬鹿しい」

「あぁ、そんな顔をされてはまた濡れちゃうわ。でも、楽しい時間はすぐに終わってしまうのね。それじゃまたどこかで会いましょう?愛しい人」


 私は悦びで震える体を押さえてギルガの前から飛び退る。ギルガは私を目で追えているのに私を追う気配はない。


「そう、あなたはそれでいいのよ。いつか私があなたを管理してあげるから」


 私は久方ぶりに興奮して高鳴る心臓の心地よさを感じながら、森の中へと帰っていった。







 ーーーーーーーーーーーーーーー








「終わりだっ!【黒隻】ぃぃぃ!!!」


 バシュッという音と共に俺を塞いでいた樹ごと俺を断ち切った。【暴食】の脚は俺の急所をきちんと捉えて、その上で俺の体を両断する。


「ハッ!口程にも無かったねぇ!これならまだ異界の勇者の方が.....っ?!」


 勝ちを確信したはずの【暴食】が言葉に詰まる。何故ならたった今両断したはずの俺の体を霞と消えたからだ。煙のように消えた俺の体からは一切の血は流れず、どんどんと人間の形を崩していく。


「なっ...何がっ?!」

「タネは簡単だよ」

「ぐっ?!」


 俺は【暴食】の真横から武技“断脚”を放つ。しかし、俺が声をかけたからか、すんでのところで奴の脚に俺の攻撃が阻まれてしまった。


「くっ、一体何処に....?でも、馬鹿だね。せっかく姿を隠せたのなら剣で攻撃すれば良かったのに。あえて蹴ってくるなんて」


 奴の言葉通りだ。せっかく姿を隠し、さらに騙すこともできたのだ。万全を期すなら刀で攻撃すれば良かった。現に奴の言葉が終わる前に【暴食】に触れた場所から華が咲き始める。


「アハハッ!慢心しなければ僕に勝てたのにねぇ!!主従共々馬鹿だ.....な....、なん...だと??!!」


 またも勝利を確信したはずの【暴食】が大口を開いて驚いている。それもそのはずだろう。何しろ、俺の足に咲き始めた華がその端から枯れていくのだから。


(にしても、感情豊かだな....)


 本来、この【暴食】の持つスキル“吸塵華”はとても強力であり、凶悪なスキルだ。能動的、受動的問わず、スキル保持者に触れた有機物から体力、魔力を吸い取る華を咲かせるのだ。


 そしてその華は寄生した宿主の命を完全に枯らせるまで消えることは無く、無理に取ろうとすれば自己防衛で宿主に激痛を走らせる毒を打ち込む。


 そのため自分で引き抜くことは出来ず、しかし手を拱いていてはいずれ華は枯れ、自身の命が尽きる。こんな凶悪な能力に反して、発動条件は触れるだけという簡単さ。


 そんな強力で凶悪なスキルをメインで使う彼だからこそ、今の俺の状況がおかしいことにすぐ気づいたのだ。


 なぜなら俺から一切の体力、魔力を吸収していないのに、俺に咲いた華が枯れていくのだから。


「き、貴様、何を....した?」

「特に何も?あぁいや、何かしてはいるな。だが、そこまで正直に話すと思うか?」


 簡単に言えば自身に華が咲いた瞬間“熾天魔法”を使っているだけだ。それによって華を瞬間的に浄化しているだけなのだ。


 だが、だとしても今のところ、この“熾天魔法”しか対処法が無いというだけで充分警戒すべきだがな。


「お前は楽には殺さん。エルフを騙し、嘲笑った挙句、虐げた罪。何よりサニアを殺されかけた報いを受けてもらう」

「は...はぁっ?!ふざけるなよ!お前だって散々魔王殺しまくってるじゃないか!それに獣人はまだしもエルフは貴様に関係ないだろうがっ!」


 まるでおあいこだろ、とでも言わんばかりだ。まぁ、【暴食】の言うことにも一理ある。あるとは思うが、関係ない。サニアを傷つけた報いは何倍にも返すつもりだ。


「お前の技は完膚なきまでに叩き伏せる。何をしてもどんな策を練ろうともお前に勝ち目はないと証明してやる。....来いよ、もう騙し討ちしないでやるから」

「.....っ、馬鹿にしやがって!その傲慢!ぶっ潰してやる!!」


【暴食】は一層オーラを強くした上で地を蹴り、俺へと迫る。今度は脚に風を纏わせているようでさっきよりも切れ味が鋭くなっている。


 さらに四方八方から先の尖った枝が伸びて、俺を狙う。しかもそれは徐々に俺の退路を塞ぐように迫ってくる。


「これは流石に腕一本では防ぎきれないな...。なら」


 俺は“獄炎魔法”で迫る枝を片っ端から燃やしていく。だが、森へは燃え広がらないように枝だけを焼失させるように放つ。


「よそ見してんじゃねぇ!!オラァ!!」


 風に後押しされ一層勢いづいた【暴食】は自身の脚を一本の槍のように尖らせ強烈な突きを放ってくる。それを俺は“皇之眼”でインパクトの瞬間を見極め、奴が力を入れるその瞬間、上から奴の足を叩き落とす。


 シルフィのおかげで“皇之眼”も瞬間的にだけ開けるようになった。本当に瞬間的だが、それを含めてもシルフィと契約したおかげでさまざまな付加価値が付いてきたのはとても喜ばしい。


「グギャッ?!」


 運良く俺が踏み潰した場所は膝の側面だったようで、奴の右膝の皿が砕ける感触がした。しかし、そこでは止まらず俺はさらにもう片方の脚の皿も踏み潰した。


「ッッッッ!!!???」


 両膝の皿を踏み砕かれた【暴食】はもはや声も上げられない。しかも不運?なことに最初に踏みつけた右脚は威力が強すぎたせいか、膝からほとんど千切れかけていた。


「ア.....アァァ....」


 俺は触れている箇所から咲き始める華を消しつつ、グリグリと左脚に力を込める。


「や、やめ!やめろっ!ガァァァ!!」

「サニアやエルフが感じている痛みはこんなものじゃない。お前が咲かせる華はこの何倍もの激痛なんだ」


 決して俺に咲く華に痛みが無いわけではない。むしろ無理やり消す時に華も自己防衛から毒を打ち込んでくるため、激痛が走るのだ。


 しかもその毒は即効性な上、痛覚を鋭敏にし神経に直接干渉してくるため、身構えていてもキツい。鋭敏になった神経を無理やり千切られているような痛みなのだ。


 俺はトドメとばかりに脚に力を入れる。その瞬間骨を砕く感覚と肉を潰す感覚を一気に感じた。そしてその痛みに耐えきれなくなったのか、【暴食】が叫び声を上げながら気を失った。


「......何寝てんだよ」

「ガフッ?!」


 俺は気を失った【暴食】の鳩尾を踏みつける。そして、“大地魔法”で四肢を地面に縫いとめた。


「これでお前の強さである“吸塵華”を潰した。オーラも吸い取れる華が無くなってきて弱くもなった。後はその魔法を喰う力だ。....さぁ、存分に喰えよ。たらふくやるからさ」

「何を、何をする気だ....?」

「簡単さ。ほら、空を見ろよ。綺麗だろ?」

「な、なんだよ。アレ....?」


【暴食】が見上げた空には曇天よりも厚い積乱雲が浮かんでいる。その分厚い雲はバチバチと青白い雷を迸らせていた。


 俺はその雲へと指先を向ける。するとそれだけで雲を奔る雷は勢いを強くした。まるで雲の中に雷の龍を飼っているようだ。


「やめろ、やめてくれっ!謝る、謝るからさっ!お前の仲間にもエルフにもっ!」

「謝ったところで彼らは帰ってくるのか?お前の殺したエルフや村長さんは戻ってくるのか?!」


 この戦い中、ずっとサニアたちから“異種伝心”でここまでの経緯は聞いていた。...そして隔離したエルフたちの最期も。


 その全てが、奴の死を望んでいたそうだ。


 ならば俺に出来るのはその思いに応える事だけだ。


「悪かったよぉ...。もうしないから...。そ、そうだ!僕はもうお前に従う。いや、貴方様に従います!逆らいません!!貴方様の欲するもの全てを捧げます!!だからっ!」

「.....もう、黙れ」



 ーーーー白絶なる天雷轟(レランパゴ・グランデ)



 もはや音さえ存在しなかった。【暴食】へと絶えず降り注ぐ白き極光の本流。それは数秒ほど降り注いだ後、天へと帰るように消えていく。


「......ァ、ァ...」

「さすがだな、まだ生きてるか」


 俺は再度指を空へと向け、すっと振り下ろす。その瞬間またも天から極光が堕ちた。今度は一切の遠慮なく。もはやこの光の余波で周りの地面が少しガラス化している。


『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル: 脚刃一鉄 暴食 吸塵華 斧聖術 闘聖術 雷嵐魔法 自然魔法 頑丈 気纏 崩震破 剛断 重断 絶破 柔盾 覇墜 断脚 喰魔報尽を獲得しました』


「終わったか」


【暴食】を倒した証である経験値が入ってくる。まるで俺の体の隙間を縫うように。彼らはこれで少しは報われただろうか。


 叶うならば助けたかった。あの華を消すことができるのは俺だけであることは分かっていたのだから。しかし、俺がそっちに向かって仕舞えば【暴食】を倒す力を失っていた。


「くっ......」


 倒したことで安心したからか、体から力が抜けくず折れる。思っていた以上に力を使っていたようだ。咒力はすでに切れ、その足りない分を補おうと軀力さえも削れていた。


「ぐふっ?!」


 なんとか力の抜けた体を叱咤しようとしたが、俺は突然込み上げてくるものを抑えきれずに吐き出してしまう。それは粘度の高い血の塊だった。


「カイトくーん....カイトくん?!」

「主さま......?!」

「カイト!?」

「カイトさん?!」


 視界が揺れ朦朧とする意識の中、轟音を聞いて駆けつけたのかミユたちと無事だったエルフが見えた。


 ...しかし、俺が見えた景色はそれだけだった。


『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル: 脚刃一鉄 暴食 @-@,’dj skai wnxkc kfk& /¥,&;@ /@- @,¥;& :@j einを獲得しま...し、しましま...しししししし』

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