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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章

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第103話 目醒めた新たな力

「このままじゃ俺の仲間も君たちの仲間も危ない!俺をエルフの村に案内してくれ!」

「なっ...そ、それはいくらなんでも、人間を案内するなど...」

「助けてもらったことは感謝しているが、これは我らエルフの問題だ!これ以上立ち入られる必要はないっ!」

「言っただろ!俺の仲間もいるんだよ!それに村には戦えない人たちが多くいるんだろ?!なら戦力は多い方がいいだろうが!」


 それよりもこんなことで時間を費やしているのがもったいない。エルフは村を森の中に隠して見えづらくしているため、見つけるのに時間がかかるだろうと踏んでの提案だったが仕方ない。


 まぁ見えにくいと言っても完全に姿を隠している訳ではないから時間をかければこうして襲ってきた人間のように見つけられるらしいのだが。


「もういい、止められても俺は行く」

「待ってください、私が案内します。あなたであればいずれは見つけられるでしょうが、時間はかかるでしょう」

「隊長?!」

「あなたたちもいい加減認めるんだ。我らには圧倒的に力が足りない...。.....守りたいものも守れないくらいに。ここで我らは決断を下さねばならない。たとえ憎い人族であっても、その全てが悪ではないのだと、信じる決断を」

「隊長....」

「それに責められるべきは私であって彼ではない。私はすでに彼の仲間の1人である人族の女性を村へと案内している。私の部下を引き連れて。今は過去に類を見ないほど、我らの窮地だ。そんな時に掟によって我らが滅びては元も子もないだろう。....この事態が収束してからは存分に私を罰してくれていい。だから、今はどうか」


 そう言って隊長と呼ばれた男は未だ俺へと敵対心を拭いきれない仲間たちへ頭を下げた。これには流石に騒いでいた連中もたじろいだようで二の句を告げない。


「話はまとまったようだな。それじゃあすまないが、俺を村まで案内してくれ。それから2人1組になってまだ気を失っている奴らを背負ってくれ」

「なぜお前が我々に指示を出す?!」

「今はそんなことを言っている場合ではないと何度言えば分かるのだ!今この事態に我ら森嶺も人族も関係などないっ!.....申し訳ない、続けてくれ」

「くっ....」

「....いいのか?」

「あぁ、我々はどうすれば良い?」

「わかった。それじゃああんたとあんたの指名するエルフをもう2人、案内役に付けてくれ。後は交代しながら気を失っている者たちを守りつつ村に向かってくれ」

「承知した。聞いたな、それではさっそく取り掛かってくれ」


 エルフ達は信頼する隊長の言う言葉も理解は出来るが、心が納得いかない、という顔をありありと見せつけ、俺の指示にしぶしぶ従う。


 その後、隊長が連れてきた2人はどちらも若い男女だった。1人は吠える1人に合わせて俺への不満をたらふくぶつけてきた男。もう1人は大人しそうに片腕を抱えてそっぽを向いている女性だった。


「彼らはこの中でも腕の立つ者だ。少しは力になれるだろう」

「あぁ、それじゃあ行こうか」




 それからエルフの案内もあって、時間もかからず村に着くことは出来た。しかし、ここに来るまでにも戦闘音は響いていたので、ミユたちがどうなっているかがわからず、近づくにつれ不安が募っていた。


(あの時はどうかしていた...。俺がみんなを側から離れさせるなんて....)


 あまり自分の側から離れさせない、というのも過保護になりすぎて彼女たちを信用していないと思われるのも嫌だが、それでも離れている時の不安は過去が過去なため脳裏から消えなかった。


「門番は....当然誰もいないか。村に人の気配もしない。一体どこに....」


 隊長と呼ばれる人物はメルエトというらしい。メルエトは木で作られた門の周りにエルフがいないことを確認し、村へと入る。


 そこは全てが木で構成されていた。家も柵も全てが。そしてその中心あたりに大きく伸びる幹の太い木には少し見上げるところに窪みがある。


 しかし、メルエトの言うようにあたりにエルフの匂いは全くしない。代わりに村の左奥から微かにエルフの匂いがしたのと、その先から騒がしい音が時折聞こえてくる。


「向こうだ」


 俺はメルエトと目を見合わせてすぐにその奥へと向かった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーー








「くっ!はぁっ!」

「ふっ!」

「温いっ!!あの時の勢いはどうした、異界の勇者!!獣人の娘もただ弾丸を打つだけならつまらん!!貴様らはあの男がいなければ何も出来ないのかっ?!」

「うるさいっ!はぁぁぁ!!」


【暴食】の魔王の雰囲気が変化してから数時間、ひと時も休むことなく戦い続けている。もはや華が咲いたエルフのうち数人ほどしか息をしておらず、ほとんどを助けることが叶わなかった。


 どうやら人から人に移る類のものではないことが分かってからは、華に感染していないエルフに息のある者を運ばせ、戦地から遠ざける。それだけで進行は遅くなったが、それでも止められるものではなかった。


 それからうち達も全員【暴食】の魔王との戦端に参加して戦っている。さらにエルフたちも感染者を看病するものとうち達の戦いを援護するもので分かれてくれた。


 それでも深緑色のオーラを纏った【暴食】の魔王は揺るがず、時間をかけるほど【暴食】の力は増していった。


 そして1番の厄介な点、それは....。


「カァァッ!」

「くっ!」


 突然、【暴食】が大口を空けて何かを吐き出すように大声を上げる。その瞬間、鎌鼬のような風がうち達に向けて放たれる。


 それはうち達を纏めて切り裂くのではなく、それぞれが完全に受けに回らざるを得ない威力で放たれるため、【暴食】に反撃ができない。


 それは土煙を少し混えて視界を少し覆う。その隙間から氷の弾丸が飛んでくる。それをなんとか刀で防ぎ態勢を整える。


 前回、【強欲】のアジトで戦った時はしてこなかった攻撃だ。それはうち達を侮って使ってこなかったのか、それとも単純にそのスキルを持っていなかったのかは分からない。


 しかし、もしここまでの能力を発揮するほどの魔法の持ち主であるならば、カイトが忠告していたはずなのだ。彼のスキルを視たカイトは危険なスキルを教えてくれていた。


 それが鋼鉄をも切り裂く脚とサニアやエルフたちもやられたあの華を咲かせるスキル。それからスキルの詳細は分からないが、念頭に置いておくべきスキル“気纏”。


 だが、その中に口から魔法を吐くスキルは無かったのだ。しかもこの技の恐ろしいところはそこではない。奴はそれこそいきなりこの魔法を吐く力を使ってきたわけではなかった。






 それはエルフがうち達の援護で、【暴食】とうち達の距離が離れた瞬間だった。


 エルフたちが各々、最大威力だと思われる魔法を数多放ったのだ。それは風魔法だけに留まらず、土魔法、水魔法などさらにはその上位魔法と思われるものまで奴の姿が一切見えなくなるまで放った瞬間があった。



 ーー異変はすぐに起きた。



 何かに吸い込まれるように様々な魔法が消えていく。そうして現れたのは大口を空けて魔法を飲み込む【暴食】の姿だったのだ。


「魔法を食べてる.....?」


 何が起きているかはすぐに分かった。そしてそれによって齎されたことも。


 魔法を全て喰らった【暴食】はすぐに口を大きく膨らませ、吐き出すようにその各種様々な魔法を吐き出したのだ。


【暴食】はそれを薙ぎ払うように放つ。それによって木の上にいたエルフは大半が地に叩き落とされた。うち達も同じように吹き飛ばされた。


「うん、このスキルはいいね。【暴食】の名にピッタリじゃないか。これでアイツのア(・)レ(・)にも対抗できるな。よし、それだけ抱えればいいでしょ。君ももう行きな。逆にこれ以上いるなら君も消えてもらうけど?」

「..................」

「やめてぇぇぇ!!!」


 そうしてうち達が倒れている時に、【暴食】の傍らにいた赤い人形は4人の幼い女児を持ちこの場を離れてしまった。


 おそらく連れ去られた女児の親なのだろう。全身に華を咲かせながら体を引きずり、逃れたはずの森の奥から叫びながら出てきた。その心情は察するにあまりあった。






「はぁ..はぁ..はぁ...」

「くっ....」

「まだあったなんて....」


 そう、あの魔法を吐き出す力はあの最初の一撃で全てを吐き出したわけではなく、小出しにしてくるのだ。口で直接喰らわなければいけないというデメリットに気付いてからは、隙を見てサニアが弾丸を放ちダメージを蓄積しようとするが、あまり成果はない。


「休んでる暇なんてあるのっ?」

「くっ?!」


 もはやうちの天劔で奴の脚を斬り裂けないことなど今に始まったことではない。さらに鋼鉄をも切り裂く脚というのは比喩でも何でもなく、あの深緑色のオーラを纏った脚は人間から奪ってきた剣をたやすく切り裂いていった。


「ホラッ!」

「くぁっ!」


 うちは【暴食】の蹴りを受け止めきれず、吹き飛ばされてしまった。


「ミユッ!?」

「おっと」


 うちは突然ふんわりと優しい何かに受け止められる。おそらくまともに吹き飛んでいたらもう少し飛んでいただろう。そしてうちを軽く受け止めたその声はうち達の待っていた人物だった。


「カイトくん!」

「お待たせ、よく頑張ってくれたな。みんなもありがとな」

「カイト!」

「主さま.......!

「カイトさんっ」


 うち達は待ち望んだ人物が来たことで絶望的な状況に希望の光が差す。対して先ほどまで楽しそうに気色の笑みを浮かべていた【暴食】は苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔になっていた。


「黒隻....」

「随分と彼女たち相手に遊んでくれたみたいだな。それに....、まさか他のエルフは...」


 カイトは草むらから何かに向けて手を伸ばした状態で倒れ込む人型の華へと視線を向ける。


「うん。出来るだけこの場から離したんだけど、多分あの人の娘さんが赤い人間みたいなやつに連れ去られて.....」

「...そうか。そいつもエルフ攫いの仲間ってことか」

「あいつらと戦ったの?」

「あぁ、何人かは助けたけど全員は無理だった。それに、もうここからはだいぶ離れていると思う。....冷たいけど追うのは無理だ」

「......うん」

「とりあえずはこの人をこの場所から離して。あいつに近いとそれだけ進行が早くなる。華が枯れてないってことはまだ生きてるから」

「うん、分かった」


 カイトは受け止めたうちをおろし、【暴食】へと近づく。その間にテミスやキノ、サニアを軽く“神聖魔法”で回復させる。


「へぇ、僕と戦うってのに魔力を使うなんて余裕だね」

「..........」

「ちっ!」

「サニア、君が一番あれの辛さを知っているだろうから、すまないけどあの人や他の人を見てやってくれないか?この感じだと他にもいるんだろう?」

「........こくっ」

「カイトさん、奴は【強欲】のアジトで戦った時より力を上げています。新たな力も身につけているようで。気をつけてください」

「あぁ、確かにスキルが増えてるな。これは.....厄介だ」



 喰魔報尽  魔法を喰らいそのままの威力で相手に返す技。一度腹に収めることで吐き出す量を調節でき、さらに自身の魔力を加えることで威力を底上げすることもできる。

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