第102話 奮闘の行方は
少し空が白んできた森の中で、わずかに人の声がする。さらに木々や獣の匂いに紛れて様々な血の匂いもすることからすでに戦闘が始まってしまっているのだろう。
さらに狂獣と戦ってからここに来るまではそれなりにいた魔物は奥に進めば進むほど少なくなっていっていた。
だが、魔物が息を潜めているわけではなく、所々弾けたような死体があることから誰かに襲われたのだろう。魔物同士での戦いではこんな傷にはならないはずだ。
さらにその弾けた死体の側にほとんど血が残っていないのも気になる。もはや骨と皮の少しの肉くらいしか残っていないにもかかわらずなのだ。
「【暴食】はこんな殺し方をしながら進んでいたのか?それとも...」
どうやらこの先にある集落はエルフと呼ばれる者たちが住むらしい。そしてシルフィが言うには【暴食】は一直線にそこに向かっていったとのこと。だからシルフィは急げと言っていたのだ。
とにかく魔物の殺し方などどうでもいい。エルフがやっていようが、俺には関係ないからな。しかし、【暴食】によって襲われるかもしれない相手がエルフというのはいただけない。
彼女、ミアのいた集落かは分からないが、それでも彼女の同族なのだ。ならばなんとしてでも彼らを守らなくては。
「スピード上げるぞ!シルフィ!」
「あいあいさー!」
俺はシルフィに風の操作を任せて、全速力で森を駆け抜けることにした。
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「ふむ、この辺りが頃合いか。者共、引き上げるぞ」
「しゃーす!」
男の目の前には総数約20ほどのエルフの肢体が手足を縛られた状態で転がっていた。割合としては7割型が女性で、残りは男。
女性にはほとんど傷はないが、男の中には酷いものだと腕が無いものもいる。しかし、さらに悲惨なのはその男の後ろには滝のようと言わんばかりの屍山血河が築かれていた。
「あら?あまり殺しはしないのでは無かったの?」
「そのつもりだったが、少々興が乗ってな」
「お頭ぁ!生きてる女がいやしたぁ!こいつはどうしやすか?」
「.....汚いな、お前らにやる」
「マジですかい?!やったぞてめぇらぁ!」
今し方、お頭と男を呼んだその部下は拳を高く挙げ、後ろに並ぶ者たちへ吠える。それを聞いた者たちも負けじと雄叫びを上げていた。
そしてかろうじて息の合ったそのエルフの女性は砂糖に群がるアリのように男に囲まれた。何が起こるかは想像に難くなかった。
「...お前の子飼いはどうした?」
「それが、なかなか連絡が返ってこないのよ。もうそろそろ村の女たちを捕らえられているはずなのだけれど...っぐ?!」
「貴様、この俺を謀ろうとは見上げた根性だな。女の癖によくやる。今ならまだ許そう、真実を話せ」
男は突然、美女の首を掴み上げ至近距離から睨みつける。男は彼とそこまで身長の変わらないその女性を片手で持ち上げる。
対して女は声も上げられず、男の腕を掴んでもがくばかりだった。しかし、それは長く続かずすぐに手は首から離れた。女は急に開いた気管に驚き、咽せる。
「ほ、ほんとよ。ただ、倒された訳ではないから少し手間取っているだけだと思うの...。あなたに嘘なんか吐かないわ....」
「ふむ、そうか。...まぁよい、それなりの数は手に入った。お前はその子飼いを引き揚げさせろ」
「わ、わかったわ」
男はもうその美女には興味が無くなったと言わんばかりに女に背を向ける。そしてそのまま自らの馬車へと帰っていった。
「...この私をここまで乱暴に扱うなんて....。いいわぁ」
その女は顔を怒りに染めるのではなく、まるで初恋の相手に出会ったかのように恍惚とした笑顔を浮かべていた。
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俺がその場へとついた頃にはすでに日は朝と呼べるくらいに昇っていた。反して視界に映る景色はあまり気分の良いものではなかった。
ガヤガヤと騒ぎ立てる人間が複数名、両手で縄を引っ張っている。そしてその縄の先に繋がっているのは彼女の特徴と一致する耳を持った数人の男女だった。
「かいと!あのこたちをたすけてあげて!」
「あぁ、分かってる」
彼らはすでに気を失っているようで顔を地面に擦られながら引きずられていても意識を取り戻す気配は無かった。それにこんな状況を見て、無視できる訳もない。
俺は“完全偽装”と“同化”で気配を消しつつ、人間に近づく。
「ふっ!」
そして俺はもはや十八番と言っても差し支えないくらいにやってきた方法でまずは1人の首を落とす。殺されたその男は俺に切られるまで、いや切られても俺に気づくことはなかった。
「うおわっ!?な、なんっ...ぎゅぇ」
「な、何が!?おいっ...ぎゃっ?!」
さすがに隣で同僚が殺されれば気づかれるが、“鑑定”で見るまでもなく弱い。俺は返す刀で残り2人を斬って捨てた。
「おい、おーい。だめだ、完全に気を失ってるな」
それから俺は他にもエルフを連れ去ろうとしていたのを、片っ端から襲撃しエルフを救って行った。そうして総勢14人になった。
しかし、半数以上は意識を取り戻したものの、数人はよほどショックが大きいのか、それともきつくやられたのか一向に起きる気配は無かった。
「あ、あの、あなたも人間では?なぜ我々を...」
「それに、あなたは、あなた様は聖霊...様......?」
「へぇ、シルフィが分かるのか。さすがエルフってところなのかな。なんで助けたかって?...俺は昔エルフのある娘と一緒にいてさ。だからってわけじゃないけと、見捨てられるわけないからさ」
「し、信じられるわけないだろ?!人間は皆、俺たちをただの道具だとしか見ていない!そんな人間が俺たちを助ける?!どうせ何か対価を要求されるに決まっている!!」
「そ、そうだ!どうせ貴様もあいつらの仲間なんだろ?!俺たちを助けて気を持たせて、後で奴らに売るつもりなんだろうが!」
意識を取り戻した内の数人が口々に騒ぎ立てる。人間がエルフを攫うというのは日本にいた頃も良くあったし、実際に攫われていることも知っていた。
しかし、ここまで敵視されているとは思わなかった。けれど考えてみればそれも当然だろう。どうやらこの他にもまだ攫われた者たちがいるようだし、もはや他のエルフの匂いはほとんど感じられなかった。
そうして俺がどう弁明しようか悩んでいると、後ろで静かに佇んでいた1人のエルフが喚くエルフを押し除けて前に出てきた。
「失礼。あなたはミユ、という女性を知っていますか?」
「何?ミユもここに来たのか?!あぁ、当然だ。俺の仲間だからな」
「...やはり。では、他には魔族の女性や獣人の少女は?」
「キノやテミス、サニアか?あぁ、彼女たちも俺の仲間だ!知ってるのか?今どこにいる?」
「.....やはりそうでしたか。キノ、という女性は分かりませんが、他の2人の女性でしたら我らの窮地を救ってくださった方です。我ら3人は人間であるミユさんに助けられました。今彼女は他の者を連れて我らの村に向かっています」
その時にミユからもう1人、片腕片目の男性が来るかもしれない、と聞いていたらしい。どうやらそれは他の者も同様でようやく俺の姿に目が行ったのか、俺がその助けられた女性から聞いていた容姿と一致することに気づいたようだ。
「ま、まさか、お前が....?だって彼女は人間とは...」
「ですが、彼はその容姿に一致します。それに、我らが聖霊様と共にいらっしゃるということは奴らのような凡百の人間とは違うのでしょう」
「しかし....」
「いい加減にしろっ!我らは助けられた!それも2度も!奴らを追い攫われた仲間を取り返すことすら出来ず、挙句にさらに奪い去られる!あの男は化け物だ...。しかも醜態を晒して気を失っている間に同胞はもはや....くっ!!」
「すいません....隊長..」
隊長と呼ばれた人物の言葉に現実を突きつけられたようで、雰囲気が一気に沈む。確かに、彼らと同じようなエルフと思われる匂いは周囲にほとんどしない。するとしてもせいぜいがその地に残った残り香と濃い血の匂いだ。
そんな誰も言葉を発せないような状況は天をつん裂くような轟音に掻き消された。全員が一斉にその方向へ向く。声を上げたのは誰だったか。その方向は...。
「我らの村がっ?!」
「かいと!みんながあぶない!いそいで!」
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