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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章

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第101話 再集結、再決戦

「どうすればっ....!」


 このままだと敵が何か分からないままやられてしまう。かと言って無闇に動けばわたしの周りにいるエルフたちも何者かに狙われてしまう。


 敵は何らかの方法で私たちを特定しているようで、次々と上がる悲鳴は止む気配がない。


「風よ、従え!!」


 その時、不意にどこかから声が聞こえ、それに合わせてまるでわたしの声が誰かに届いたかのごとく、唐突に土煙が一か所に収束し出した。


 それはこの広い範囲に広がっていた視界を覆う煙全てを対象にしており、どんどんと空中で丸くなっていく。それによって煙によって隠されていたエルフたちも見えてきたが、その姿は異様だった。


「これはっ....!?」

「何.......?!ミユ、知ってるの.......?!」

「これはサニアもなってたやつだよ!てことは....ここに【暴食】がいる!」

「あ、サニアさん!ミユさん!良かった、無事だったんですね!.....これはっ.....」

「テミスさん!キノも!」


 良いタイミングでテミス達が来てくれた。先ほどの風はテミスのおかげらしい。そこにはキノや彼女たちが助けたであろうエルフもいた。


 しかし、先ほどまで煙に覆われていた中にいたエルフは凄惨な姿で転がっていた。体中の至る所から毒々しい様々な色をした華が咲き、根を張られており、今も彼女たちは悲鳴をあげている。


 中には根だけを残して目を見開き動かなくなっている赤ん坊や母親もいた。そしてその中心には少し幼さが残る1人の男が立っていた。


「【暴食】の魔王.....!!」

「ありゃりゃ、思ったより早く消えちゃった。そういや風使いがまだいたんだったね、その娘と異界の勇者しか見えなかったから気づかなかったよ。でも、だいぶ味合わせて貰ったからもういいかなぁ」

「.....あ、あなた様は....我ら森嶺の民を、守って...下さるの...では..?」

「アハハッ!守る?何のこと?確かに庇護下には入れるとは言ったけど、守るなんて一言も言ってないよー!!アハハハハ!!」


 そう問いかけたエルフはまるで傑作の喜劇でも見たかのように腹を抱えて嗤う【暴食】を唖然とした顔で見上げる。今も華による痛みはあるはずなのに痛覚すら失ったように動かない。


「まぁ、君たちは僕の加護を受けることの意味は分かってなかったみたいだけどねぇ。てか、誰も知らないか!誰にも話してないし!アハ!にしても、ようやく僕にもツキが回ってきたよ!生命力の強いエルフをこの手で味わえる機会を君たちからくれたんだもん!...あ、無傷の何体かは君が持っていっていいよ。これだけ吸えれば僕は満足だからさ!」


 そう【暴食】が問いかける先にはいつのまにいたのか、先ほど村長と戦っていたはずの全身真っ赤の人間がいた。奴は【暴食】に言われるがまま、無傷で土に塗れている女性を抱え出す。


「やめ..てっ!その手を...離して!!」

「おー、しぶといね!でも、ね?僕がこうやって近づけば.....」

「ァァアア!!!」


【暴食】が華に侵されている女性に近づくごとに彼女の悲鳴も加速度的に増していく。【暴食】はそれを面白がるように近づいたり離れたりを繰り返した。


「やめなさい!!はぁぁ!」

「おっと」


 それを見かねたミユが刀を抜き【暴食】へと斬りかかる。しかし、その攻撃はあっさりと躱された。それでもミユはそのまま彼を追うように横薙ぎ、縦切り、袈裟、逆袈裟と息もつかせぬように追撃を見舞う。


「は!はぁ!...な、なんで?!」

「ほらほら、どうしたの?前の時より遅くなってるんじゃなーい?」

「くそっ!はぁぁぁ!!」


 しかし、その全てが紙一重で躱され、しかもその全てがギリギリではなく、まるで踊るかのように避けられるのだ。


「ふっ!」


 見ている場合じゃない。わたしも援護に回らなければ。幸い、わたし以外のキノとテミスも知っている人物だったのか【暴食】と呼ばれた男を警戒しつつエルフを守るため赤い人間と戦っている。


 一応、主さまと別れる前に自分がどうなったかや誰にやられたかなどは聞いていた。...それがこんなヒョロヒョロのやつだとは思わなかったけど。


 だからある程度能力や注意点なども聞いていたので、わたしは移動の妨げをしない程度の氷の鎧を張り、指から氷の爪を伸ばす。


 ミユだけに意識を向けさせないように所々で弾丸を放つ。この技は敵からの評価は『弱い』と、あまり良くないが、自分としては楽に撃てて燃費がいいので多用している。


 しかし、それにしても聞いていた以上に力を吸い取るこの華は厄介だった。自分はここまで酷かったとは聞いていなかった。


 酷い人など元の肌や顔が見えないほど華が大きく咲き、根が張っている。しかし、それを助けようにも助けられないのが現状だった。


 あれよりもっと少なかったわたしでさえ主さまが言うにはギリギリだったらしいのだ。いくつもの奇跡が重なってなんとか助けられたと言っていた。


 にしてもなぜ、村長と戦っていた赤い人間と【暴食】が手を組んでいるのに、エルフは奴が守ってくれるとかなんとか言っているのだろうか。


(まさか.....)


 あの村長に会った時のヘリブラに対する表情はすでに奴にエルフを頼んで安心していたからなのだろうか?


「あなた、村長をどうしたの.......?」


 わたしは気になって【暴食】にそう聞いた。村長が村の者を奴に託したにもかかわらず、村長が戦っていた人物と行動を共にしていることが不思議だったからだ。


 そしてわたしの言葉を聞いた【暴食】は答えることはせず、代わりと言わんばかりに口が裂けたのではないかと思うほど大きく嗤った。


「あなた、やっぱり村長を......」

「そんな....」


 わたしの言葉に応えるようにその口角は吊り上がっていく。運悪くそれなりに近くにいたヘリブラには聞こえてしまったのだろう。目を見開いて口を押さえている。


 わたしの近くにいたおかげで華の餌食にはならなかったため、テミス達とエルフの救出作業に従事していたのだ。そのためそれは次第に周りの者へも伝播していった。


 やがてそれは驚愕から落胆、そして怒りへと変わっていき、無事な者や比較的華が少ないエルフたちは痛みを塗りつぶすような怒号を上げ始めた。


「あなた様は.....いいえ、お前は!我らを愚弄したのか!我らを謀り、村長様を殺して裏切った罪は万死に値するぞ!」

「ふざけるな!裏切り者が!」

「そうだそうだ!」


 エルフたちは傷を負う者も無事なものも関係なく口々にそう叫ぶ。対して【暴食】は先ほどまでの楽しそうな様子は鳴りを潜め、失望したような表情をしていた。


「裏切り者って....、そもそもこんな風に僕に助けを求めた君たちがそれを言えるわけ?バカみたい仲間攫われて、それでも無駄なプライドにしがみついてきた結果がこれでしょうが。それで?本格的に自分たちが危うくなってから、当然のように他者を頼るとかどんだけナメてんの?」







 ーー僕ら魔王を侮りすぎだ。








(雰囲気が変わった.......)


 これまでのどこか飄々として掴みきれず、他者を見下したような態度ではなく、畏怖すべき魔王としての風格が如実となった。


 それはまるで押し潰されるかのように重圧となって周りに放たれたことで、威勢よく怒号を挙げていたエルフたちは皆一様に口をつぐみ、跪くことしかできなかった。


 それはわたし達も然り。さすがに跪きまではしなかったが、思わず口を閉じてしまうほどの重圧に一瞬、気圧されてしまったことも事実であった。


「ここからは罰の時間だ。弱くとも抗うその姿勢、他者に依らぬその精神性は見事だったが、ここまで来れば滑稽に過ぎる。その思い上がり諸共、貴様らをこの僕が葬り去ってくれよう」

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